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34、緊急事態


 

「あいつらは頑張っているかな」


 すっかりだらけてしまっている俺がいた。

 腕にしがみついている精霊セレアと共に海辺で寝そべっていた。


 皆はギルドで依頼を受け、魔獣退治にいそしんでいることだろう。

 訓練する相手もいない、そしてリーリアの心配をする事もない。

 リーリアは強くなった……あのリヴァイアサンに勝つほどに。

 俺が教えられる事もなくなってきた。


「ふぅ……」


 静かになった島で俺は呆けていた。

 何をする事もなく一人……いやセレアがいるけどな。

 なぜ俺にはセレアの声が聞こえないのだろう。そんな事をボーっと考えていると、


『お父さん! シャロが! シャロが!!』


 突然、焦ったリーリアの声が聞こえてきた。

 ……これはビジョンの魔法か!


「どうした?」

『あ! お父さん! よかったセレアと一緒にいたんだね』

「ああ、天気がいいから寝転んでいた」

『そっか……一緒にいたんだ……ま、まあそんなことよりシャロが捕まってしまったみたい!」

「なんだと!?」


 そんなばかな!?

 あいつだって冒険者ランクAなんだぞ?

 そう簡単に捕まるようなやつではない。


『そのことで今から話し合いをするからお父さんも参加して!』

「なるほどな……よし、視界を共有してくれ」

『うん』


 俺の意識はリーリアへと移る。




 ────目の前に見えるのはディラン、ナルリース、ジェラだ。皆でテーブルを囲っていた。

 ここは……ギルド長室か。


「お父さんも呼んだよ」

「そうか……ではジェラよ、状況を説明してくれるかの」


 ディランがそう言うとジェラは黙って頷いた。


「……わかったにゃ、あたしとシャロの二人で迷いの森の魔獣退治をしていたにゃ。依頼ランクBの迷いの森の魔獣をできるだけ多く討伐しろというやつにゃ」

「ああ、あの依頼か。最近は迷いの森の魔獣が強いからランクB以上ではないと危険になってしまったんじゃ……ていうか二人だったのか?」

「あたし達は二手に分かれて魔獣を掃討しようと考えたにゃ。あたしとシャロ、リースとリーリアというコンビでより多くの魔獣を倒そうとしたにゃ」


 こいつらの強さなら二手に分かれてもBランク程度の魔獣なら問題あるまい。

 それもしっかりと前衛のジェラとリーリア、後衛のシャロとナルリースは分けてある。

 

「なるほどのう……効率を求めたのじゃな。んで何があったのか話して見なさい」

「にゃ……それで昔ナルリースに案内してもらった事のある、迷いの森奥地にある大池へと進んでいったにゃ。大池の周りには魔獣も集まるからにゃ」


 なるほどな。

 水場には何かと生物は集まってくる。

 待ってるだけでもくるならこれほど効率的な所はない。

 俺が考えをめぐらせている間もジェラの話は続く。


「大池にたどり着いたとき、そこには人の姿をしたおぞましい何かが立っていたにゃ。とてつもない魔力を保持している化け物だったにゃ……」


 ジェラの顔は青ざめている。

 思い出しただけでもそうなるのだから、実際に見た時は気が気でなかったのかもしれない。


「ベアルのダンナの魔力を間近で見てきたからにゃ、何となく実力はわかったにゃ。あたしたちでは歯が立たない……だから木の陰で気配を断ち様子をうかがっていたにゃ」

「待つんじゃ……そんな化け物がこの近くにいるということなのかの?」

「うーんそうだにゃあ……1時間ほど歩いた所にある大池にゃ」

「そんな近くに!? むう……す、すまんのう、話を続けてくれ」


 そんなやつがまだこの世界にいたのか……気になるな。


「そいつの周りには魔獣がたくさんいたにゃ。そして聞き取れなかったけど何か話していたにゃ……しばらくすると魔獣はちりじりとなって去っていったにゃ……あたし達は怪しいと思い、そのまま見張り続けていたんだにゃ」

「魔獣と会話じゃと……ふむ……」

「そしてここからが大事なポイントにゃ落ち着いて聞いて欲しいにゃ」

「なによ……もったいつけて」

「……その人の姿をした化け物を見たときからずっと気になっていたんだけどにゃ。……しばらく考えてたけどやっと思い出したにゃ。雰囲気は全然違ってたけど、あれは消息不明になったAランクパーティー"ホークアイ"のリーダーだにゃ! 間違いないにゃ!」

「なんじゃと!!?」


 がたんと音を立ててイスが倒れた。

 ディランは驚愕の表情をたたえ立ち上がる。


「そんな……ばかなことが……ホーク…………」


 ディランのこんな顔ははじめて見る。

 ホークというのがホークアイのリーダーなのだろうか?

 しかしいったいどういうことだ? なぜAランク冒険者がそんなところで何をしているのだ?

 

 部屋に沈黙が訪れた。

 あまりの空気にジェラも話の続きをためらうほどに。


「あ……すまんの、続きを頼む」


 先ほどから情報量がすごい。

 次から次へと予想の範疇を超えた事が話される。

 ディランも思考が追いつかないのだろう。


「……わかったにゃ。その後、そいつ……ホークは何もせずにその場で立っていたにゃ。一時間ほどそうしていたかにゃ? しばらくするとどこかに去っていったんだけど、とてもじゃないけど追う気にはなれなかったにゃ」

「それが正解じゃろう。よくわからない強い相手に無謀に立ち向かうのは正しい行動とはいえないからの」

「にゃ、それであたし達は引き返す事にしたにゃ。このことをギルド長に話さなければならないと思ったにゃ……しかし、話はまだ終わらないにゃ」


 ジェラの表情が暗くなる。

 

「突然あたし達の前に謎のアサシン部隊が現われたにゃ」

「なんじゃと!? どういうことじゃ!!!」

「わからないにゃ! 本当に突然現われたにゃ。なんとか初手の奇襲を防ぐと、反撃を開始したにゃ。でも相手は森を利用して四方八方から攻撃してきたにゃ。姿も見えないし森の中ではこちらが不利だから、シャロが派手な魔法で目くらましをして逃げようとしたんだけどにゃ……その時にシャロがしくじって捕らえられたにゃ。二人とも捕まる訳にはいかなかったから必死で逃げて、やっと森からでてこれたにゃ」


 むしろ良く頑張ったというべきか。

 アサシン部隊相手に良く逃げ切れたものだ。特訓の成果がでたと喜んでいいことなのか。シャロは……まったくあいつらしいが、捕らえられてしまったのか……殺されなかっただけラッキーだと思うことにしよう。


「そうか、大変だったのじゃな……。しかしシャロは捕まったのか。いったい何のために……」

「……わからないにゃ」


 再び沈黙が訪れる。

 うむ、ちょっとややこしいな。

 とりあえず整理しよう。


 冒険者の依頼をこなすために森に入った。

 そしたら森の奥に死んだと思っていたAランクパーティーのリーダーがいた。

 様子がおかしく魔獣と話をしていたり、魔力がやばいことになっていた。

 一時間ほどつっ立っていたがどこかに去った。

 そうしたらアサシンに襲われた。

 シャロは捕まったがジェラは逃げ切った。

 多分生きているだろう。


 こんな感じか。

 なるほど、よくわからん。


 皆が黙っているとリーリアがボソッとこんな事をいった。


「分かっているのはアサシンの狙いがシャロかジェラってこと?」


 確かにそこが引っかかる。

 なぜアサシン部隊はシャロとジェラを狙うんだ?

 狙ってなんの得があるんだ?

 そもそもなんで逃げ切れた?

 シャロを捕らえたのだから、人質にするなりしてジェラも捕らえられたはずだ。

 となると……ジェラは逃がしたかった?

 情報を伝える為に?

 それとも……他になにか目的があるのか?

 うーむ、なにかもやっとするな。


 ……ちょっと突っ込んで聞いて見るか。


『リーリア。ジェラは何か話していないことがありそうだ……揺さぶりたいのだが』

『うん、私もそう思ってた。やってみるね』


 さすがリーリアだ。話が早い。

 

「ねえジェラ。アサシンは何人いたの?」

「わからないにゃ、数名はいたと思うけどにゃ」

「ふーん、ジェラはそんな数名のアサシンにも勝てないと」

「あ? なにがいいたいにゃ!」

「がっかりしたの」

「……言わせておけば!」

「だってそうでしょう! シャロを取り返そうとしないなんて!」

「したに決まってるにゃ!!!」

「じゃあなんで!」

「そんなの! シャロにナイフを突きつけられて人質にされたら攻撃できないにゃ!!」

「やっぱり……」

「え?」


 ジェラは言った、「人質にされた」と。

 これはつまりそういう場面があったということだ。

 先ほどのジェラの話とは違ってくる。


「ジェラ? どういうことよ」


 ナルリースの疑問も最もだ。


「え? なにがにゃ?」

「さっきは必死で逃げたといったわよね?」

「あ……」

「でも人質としてナイフを突きつけられた場面があった」

「うっ」

「ということはアサシンと話をしたのよね?」

「…………」

「のうジェラよ。もう正直に言ったらどうじゃ?」

「えーとそのぉ……」


 ジェラが言葉につまり黙り込む。

 目が泳いでいる。必死に考えているのだろう。


「ジェラ! 話して!」

「……わかったにゃ……あたしには隠し事は無理だにゃ」


 長い深呼吸。

 凛々しく燃えるような瞳が今はかげって見えた。


「シャロが捕まったとき、こんな事を言われたにゃ……こいつを返して欲しければナルリースを連れてこいと……連れてこなければ殺すと」

「──なっ!!!」


 ナルリースが言葉にならない声をあげ震えていた。


 目的はナルリースだったのか!

 ということは……アサシン部隊はエルフ王国の手の者だろう。

 つまりエルサリオスにばれていたのだ。母親アルリルに子供がいるということが。その子供がナルリースだってことが。


「ごめんにゃ、あたしはどうすればよかったか分からなかったにゃ……シャロも見捨てられないけどリースも連れて行くなんてできないにゃ。頭がこんがらがってもうわかんなくなってしまったにゃ! すまんにゃ!」


 ゴツンとテーブルに頭を強く押し当てる。

 コップが揺れ倒れるが、それを気にする物は誰もいなかった。

 

「ううん、ジェラ。話してくれて嬉しいわ……シャロは見捨てられない。だから私がいくしかないわね」


 決心したようにナルリースが立ち上がる。

 ダメだ! そんなことをしたら何をされるか分かったもんじゃない。

 もちろん皆もそう思ったようで、


「リース落ち着いて!」

「ナルリース。落ち着くのじゃ」

「そう言うと思ったからいいたくなかったにゃ」


 なんとかナルリースをなだめ座らせる。

 しかしどうすればいいのだろう。

 シャロは見捨てられない。もちろんナルリースも。

 ──ならば、選択肢はない。

 

『リーリア……俺はお前に父親として最低な事を言う』

『うん、大丈夫だよお父さん。私も今そう思ってたから』

『そうか……いいのか?』

『もちろん! 私は友達を見捨てるような最低じゃないよ!』

『……俺はお前を誇りに思うよ』

『えへへ、お父さんに褒められちゃった』



 娘を死地に送る。本当に最低である。

 もちろん俺にとって一番大事なのはリーリアである。

 そんなリーリアを勝ち目の低い戦いに行かせるなんて本当は嫌だ。

 しかしだからって「じゃあ、あとは皆でよろしく」とかいって去ることなんてできる訳がないし、そんなことはリーリア自身が許さないだろう。


 それに……リーリアなら大丈夫なんじゃないか……そう感じている俺がいた。

 理由なんてない。

 ただ俺がリーリアを信じているだけだ。



「助けに行こう!」


 リーリアは立ち上がり元気よく発声した。

 沈んでいた皆の顔がリーリアに集まる。


「大丈夫、私達は強くなったよ! 一人では無理でも皆と一緒ならきっと助けられる! だからきっと大丈夫!」


 凛とした声がギルド長室に響き渡る。

 すると死んだ魚のような目をしていたジェラも、パチンと顔を叩き、


「そうだにゃ! 迷うなんてあたしらしくないにゃ! ナルリースも守りながらシャロも救い出す! それがあたしにゃ!」


 ジェラの発言を聞いたナルリースは、ふふっと笑い、


「ジェラに守ってもらわなくたって自分の身は守れるわよ! それよりやっとエルサリオスのやつをぶん殴れると思うとワクワクしてくるわ」


 皆の瞳に光が燈る。

 そうだ。

 お前達は強い! だから自信をもて!


 そんな様子をみていたディランも、


「ふぉふぉふぉ! よくぞ言った!! いやぁ、若いってすばらしいのう。どれ……わしも机仕事ばかりで体が鈍って来た所だったからのう。ちょいと運動がてら一緒にいくとするかの」


 自慢の筋肉をググっと見せて豪快に笑う。

 この発言には皆も驚いたようで、


「えっ! 一緒にきてくれるんですか?」

「これは百人力だにゃ!」

「わーい! おじいちゃん大好き!」


 期待の目をディランは一身に受ける。

 すると嬉しいのか筋肉をぴくぴくさせてポージングをとって見せた。


 くそう、俺だって封印さえなければ……。

 そんなディランが羨ましかった。


「じゃあシャロ奪還作戦を考えよう!」

「「「おー!」」」



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