33、4年後の現状
日々はあっという間に過ぎてゆく。
リーリアは12歳となった。
既に大人となっている俺や三人娘の姿はそこまで変わらないが、リーリアの変化は著しかった。
まず身長が伸びた。
三人娘の中でシャロが一番小さいのだが、もう少しでシャロを抜くほどまで成長した。
なので焦ったシャロは魚の骨まで食べるようになっていた。まあもう成長期はとうに過ぎているので遅いけどな。
見た目も可愛いから美少女へと変化してきていた。
まだ子供の体型であるが、しっかりと成長するところは成長してきていた。
それに焦ったのか今度はナルリースが魚の骨を食べ始めた。まあもう成長期は──以下略。
次に強さはどうなったかというと、リーリアはすでにリヴァイアサンを倒せるほどまでに成長した。
ついこの間、リヴァイアサンと対決をして行動不能にまで追い込んだのだ。
それに焦ったのかリヴァイアサンは、
「ふむ、ここは居心地がよすぎた。しかし我も強くならなくてはいけなくなったようだ。少し修行の旅へと赴いて来よう」
そう言っていなくなってしまった。
リーリアは寂しそうにしていたが、あいつにもプライドがあるのだろう。
ジェラとは相変わらずに武器の腕をお互いに高めあっている。
とっくに中級は超えているので、そろそろしっかりとした師に教えてもらいたいところだ。
都合のいいことにフォレストエッジのギルド長ディランは武器マスターである。
リーリアには島の基礎訓練に参加しなくても大丈夫だから町でディランに教わってもいいのだぞと伝えているのだが、今はみんなと訓練したいということで島にいるのだった。
まあその意思は尊重しようと思う。
それに毎日ジェラと研鑽しあっていて、独自の技術を極めている気がしている。
恐るべき才能である。
もちろん学んだ方が早く上級に到達できるのだが、島で訓練することのメリットもでかい。それは町の食べ物より島の食べ物の方が魔力量が上がる。同じ強さの仲間がいる。あとは俺がいることだ。
総合して考えて、ステータスはどちらが多く上がるかというと島のほうに軍配が上がる。もちろん剣だけを上達させたいのならディランに学んだ方がいいだろう。
それはジェラも同様の考えみたいで、魔力も上げたいし、魔法の訓練もしたいし、リーリアと毎日手合わせをしたい……という理由で島で切磋琢磨し頑張っていた。
ちなみにリーリアの冒険者ランクはDとなった。
実力からすると低すぎるのだが、冒険者ランクはポイント制であるため、たまにしか依頼を受けないリーリアにとっては上げづらいのだ。
それでもかなり優遇してもらっていて、割のいい仕事を回してもらっていた。
ギルド長ディランにとっても有能な冒険者が低ランクでくすぶっていては困るということだろう。
妖精の輪舞曲の三人娘は2年ほど前に冒険者ランクAとなっていた。
個々にギルドの戦闘試験があるのだが、それを突破できたようだ。
その時にディランからは、「そろそろ戻ってきてもいいんじゃぞ?」なんて言ってたが、ナルリースは、
「Aランクは最強の冒険者だと昔は思っていました……でも私はベアルさんの実力を知ってしまいました。もはやランクで分けられる実力など無意味であるという事も知りました。だから私はAランクというただの区分けに縛られる事なく、もっと自分の実力を高めたいと思っています」
そういって戻ることを拒否したという。
ジェラとシャロも同様のようだ。
それだけ島の環境は強くなるのに適していた。
ちなみに町へはウインドの魔法で空を飛び行き来していた。
魔力が高くなった今なら余裕だろう……と思っていたが途中でシャロが海に落ちたらしい。相変わらずひやひやさせるやつだ。
ジェラは風魔法を使えないので基本はお留守番だ。まあその間は俺と地獄の特訓なんだけどな。でもジェラは喜んでいた。
あとは精霊セレアについてだ。
セレアも成長をしていてリーリアと同様、いや……どちらかというと美人よりに育っていた。リーリアが可愛い路線、セレアは美人路線だ。
金髪であるために大きくなったらナルリースのような美人になるだろう。
これはリーリアには内緒なんだが、やたらと俺にくっつくようになった。
周りに人がいない時や、昼寝している時。特にリーリアが町に繰り出した時はすごく熱心にくっついている。
最近は特にビジョンを使うこともないので、ただ単にくっついているのだ。
うーむ、12歳の容姿なのだからそろそろべったりとくっつかれるのも困ってしまうのだが……まあ仕方ない。
この子ももうしっかりとした家族である。
常に近くで見守っているし、食事中も隣にいる事も多い。
会話はできないがジェスチャーなどである程度、意思疎通もできるのだ。
そんな子を無下に扱う事ができようか?
いや! できない!
心に正当な理由を作り、もう少し大きくなったらしっかりと言おうと問題を先延ばしにしているのであった。
ちなみに三人娘にはセレアのことは、初めて島にきて少し経ったころに話してある。
それはそうだ。リーリアが誰もいない空虚で一人、会話しているのだから説明しないわけにはいかなかった。変な子に思われたら心外だしな。
未だにセレアのことは謎であるが、大事な仲間として一緒に暮らしているのであった。
皆、それぞれの思惑の中。日々の生活は続いている。
数ヶ月に一度、町にいって調味料を補充したり、冒険者の依頼をしてランクを上げたり、情報収集などを行ったりしていた。
少し前に聞いた話ではどうも魔獣が活発になっているという噂が流れているようだった。
詳しく話を聞くと、どうやら北の前線の町パイロがおされ気味らしい。それだけ魔獣が増えているんだとか。
うーん、ちょっと不味くなってきているか?
まだまだ時間はあると思っていたが、どうやら魔獣の動きは予想の範疇を超えているようだ。
ディランに話を聞いたのだが、パイロの町は持ちこたえているらしい。それでも魔獣が増えているのは本当で、どうやらエルフの森から湧き出ているとか。
パイロの町はエルフの森は管轄外であり、そこを管理しているのはエルフ王国だ。
大丈夫なのかと尋ねた、すると、「ふっ心配するな! パイロの町には強い冒険者が多いし、この町にはわしがおる」と息巻いていた。
まあ、仮に森からリヴァイアサンと同等の魔獣がでたとしてもディランがいればなんとかなるだろう……町の被害は別としてな。
そもそも森を経由してこれる魔獣なんて僅かなはずなんだが……。
通称"迷いの森"と呼ばれるそこは、呼ばれるなりの理由がある。大抵の魔獣は迷って彷徨い、朽ち果てるだろう。
しかし、それにもかかわらず湧き出てくるということは迷いの森は魔獣であふれかえっているということだ。
そして問題になるのがエルフ王国が現在どうなっているかだ。
ディランの話では連絡が途絶えているらしい。
今までは定期的にエルフの商人や旅人などを通じて情報を得ていたのだが、ここ数ヶ月はまったく来ていないという。
その数ヶ月前の情報では、もうめちゃくちゃだといっていた。統制はとれていないし、森の管理もままならない状態であるという。
国王がもう兎にも角にもおかしくなっているとか。
そこでギルドはエルフの冒険者を募って様子を見てくる依頼を出したのだが……肝心のエルフが全員拒否した。
そもそもエルフ王国における冒険者とは、無法者、ならず者といった感じの立ち位置であり、冒険者の立場は低い。
エルフの中でも好奇心のある物や変わり者などが国で生活するのが嫌になり、森を出て冒険者となる。
せっかく自由になったのにわざわざ国に戻ってトラブルに巻き込まれたいなんて思うやつはいないのである。
そう……特別な理由がないかぎりは……。
なので現在、エルフ王国に関しては何も情報がない。
お手上げ状態なのだ。
正直ディランには世話になってるし、昔の誼みがあるので協力をしてやりたいが俺にはどうすることもできない。
そして俺はリーリアや三人娘に強制するつもりもない。
だけれどもそのフォレストエッジやエルフの森の状態を聞いてみんなは黙っていられなかったようだ。
「あたしたちも加勢するにゃ!」
「そうだねぇ……あの町がなくなると困っちゃう~」
「私もまだエルフ王国に行く決心はありませんが……町を守るくらいならできそうです」
「うん! 美味しい焼き菓子を守らなきゃね!」
リーリアだけちょっと守る対象があれだが志は同じだ。
町を守りたい。
方針は決定したのである。
───だがそんなある日、事件は起こった。




