30、模擬戦大会2
続いて4回戦。
いつに無く真剣な面持ちで斧を構えるジェラ。
リーリアも静かに剣を構えている。
そんな時、ジェラを後押しするように追い風となる。リーリアにとっては向かい風だ。
砂が舞う。
「では4回戦……始め!」
「にゃあああ!」
俺の合図を聞き、ジェラが斧を振り下ろす。
砂が大量に巻き上あがり、それが強烈な追い風によって砂嵐となりリーリアを襲う。
風盾を発動して砂から身を守る。
ジェラがどこからくるのか分からず動けないので集中して警戒をしていた。
「!!!」
上だ!
思いっきり体重を乗せた一撃がリーリアを襲う。
ドカァン!!
それを間一髪避けるが、なんとジェラは斧を捨てリーリアに飛び掛った。
「なっ!」
リーリアの腕を掴み、そのまま地面へと押し倒す。
そして……
マウントをとり殴る殴る殴る殴る。
リーリアはなすすべもなく殴られる。
……だがその目はまだ生きていた。
「参ったっていうにゃ!!!」
「くっ……」
その時、何かを察知してジェラが飛びのいた。
さっきまでマウントを取っていた場所を斧が通り過ぎる。
「あぶにゃい。得意の魔力の糸で斧を動かしたってわけにゃ」
「……うん、ちょっと焦りすぎて察知されちゃったけど」
「にゃはは、殴られてる間にそれができるだけでもすごいにゃ」
「ジェラすごい力強いんだもん痛いよ」
「それがあたしの強みにゃ」
ジェラの魔力を込めたパンチは軽く岩をも砕く。
魔力操作で強化してなければ今頃リーリアの頭はなくなっていただろう。
その証拠にリーリアの魔力はかなり低下している。ガードするのにかなり魔力を消費したに違いない。
「でもすごく楽しいよ! みんな本当にいろいろな戦い方を見せてくれて面白い!」
「にゃは! それはあたしも同じにゃ! この島にきてから充実してるにゃ……まあご飯は不味いけどにゃ」
「あはは」
そんな会話のさなかにちゃっかりと斧を拾っていたジェラがいた。
話が一区切りついたところで静寂が訪れた。
二人とも第二ラウンドの開始といったところか。
先ほどまで春一番かというほどに吹いていた風もいつの間にかやんでいる。
「いくよ?」
「いつでもいいにゃよ」
スッとリーリアが消える。
次の瞬間。
ガキン!
鉄と鉄がぶつかり合う音が聞こえ二人が交差する。
それを二度三度。
素早い動きでジェラの周りを動き回る。
ジェラも負けじと、迷い無くある一点へと飛び込むと斧を振り下ろす。
ガギィン!
動き回るリーリアをしっかりと捉え、その動きを止めた。
グググッ。
そのまま力と力の押し合いになる。
「くうぅぅぅ」
「にゃはは! 力ではあたしに分があるにゃ!」
ずぶずぶとリーリアの足が砂に埋まっていく。
「何で魔法を使わないにゃ! なめてるのかにゃ」
「うぅ……違うよ! ジェラ相手になめたまねなんてできないよ」
「ならなぜ魔法で攻撃してこないにゃ」
「──それはっ!!」
倒れそうになる体を歯を食いしばりながら踏ん張り、
「パワースラッシュ!!!」
スラッシュの3倍パワーがある剣技を使いジェラを弾く。
華麗に着地すると斧を一旦肩に担ぐ。
「正直武器だけならあたしのほうに分があるにゃ。リーリアはまだ技を覚えて間もないし剣の扱いも初級並みにゃ」
ジェラの言うとおりだ。
そもそも俺は剣の扱いは初級までしか教えてもらっていない。才能が無かったからな。
だから当然リーリアにも初級までしか教えられない。
この世界の強さの基準は魔力が一番、次に精霊、最後が技術だ。
技術というのは魔力操作だったり武器技量だったりする。
リーリアは武器技量が初級までしか使えないのだ。
武器といってもさまざまな種類がある。剣や斧といったようにな。
ではどうやって初級から中級に上がるのかというと……教わるしかない。
世界には武器マスターと呼ばれる人物がいる。その人たちに弟子入りして学ぶのだ。
ジェラは斧を中級まで扱えるようだった。
だから単純に武器だけでは勝てないのだ。
「うん! だから私はジェラから学ぼうと思ってる!」
「……ほう、にゃるほどにゃ……つまりこの戦いは負けてもいいと?」
「技術も見て学んで、なおかつジェラにも勝つ!!!」
「そんにゃに武器の世界はあまくないにゃ!」
二人は同時に飛び出す。
一陣の風が如く、剣と斧が交差する。
速さを生かして何度も武器を重ねそして離れる。それを繰り返しながら突破口を探すリーリアだが、そんな単純な攻撃に体勢が崩れるわけも無く何度も弾き返すジェラ。
「単純単純単純にゃ! 欠伸がでてきちゃうにゃ!」
次第にスピードが落ちていく。リーリアの顔に疲労が見えた。
すると動きが雑になってくる。
これは好機とジェラが反撃する。
流れるような斧捌き、今度はリーリアが防戦一方となる。
「にゃはは! 楽しいにゃ! リーリアは防御がうまいにゃ!」
「くぅぅぅ!」
連続攻撃の中にフェイントや力の強弱を駆使して変化自在な攻撃を繰り返すジェラだったが、それでもなおリーリアは致命傷を受けることなくくらいつく。
カンッ! ガンッ! カンッ!
防ぐ防ぐ防ぐ。
きわどい攻撃も間一髪防ぎきる。
「……にゃんで、当たらないにゃ!!!」
だんだん焦るジェラ。
すでに武器には火魔法がのっている。
そして、既に技も駆使していた。
だが、致命傷が入らない。
全てリーリアの剣で防ぎきっていた。
傍から見れば完全にジェラが押している。
リーリアの表情を見れば分かる、かなり必死だ。
しかしジェラからして見ればまったく攻撃が通らないのだ。押されているのは自分の方だと思うだろう。
実際にジェラもそう思ったのだろう。攻撃をやめて距離を取ってしまった。
「リーリア……恐ろしい子にゃ……なんという才能、そして強くなろうという決意がすごいにゃ」
「……うん、私はお父さんに近づかなければいけないから」
「なるほどにゃ」
リーリアの手足は震えていた。
もう限界だったのだろう。
ひよらなければジェラが勝っていた。しかしそのことにジェラは気がついていない。
その瞳にはリーリアが大きく見えているようだ。
リーリアは今のうちにと手をグーパーと開き痺れをとっている。
「あたしも魔法をもっと頑張ろうかにゃ……リーリアを見ていたらそう思えてきたにゃ」
「うん、ジェラならきっと火以外も精霊と契約できるとおもうよ……土とか!」
「にゃはは! 一通りやったんだけどにゃー。でもなんかできそうな気がしてきたにゃ! やってみようかにゃ」
「うん!」
この間にすっかりと痺れが取れたようで剣をしっかりと握り返していた。
「痺れはとれたかにゃ?」
「あ、気がついてたの?」
「さっきにゃ……少し冷静になったら分かったにゃ、あたしは勝ちを逃したんだってにゃ」
「じゃあなんで攻撃してこなかったの?」
「自分への戒めにゃ」
「……うん?」
「まあ気にするにゃ。ではいくにゃ!」
そのあと数十分に渡り二人は戦っていた。
そして先に魔力が尽きたのはジェラだった。
魔力が尽きればもう終わりである。降参したのだった。
二人は地面に倒れ空を見ていた。
空を見るその顔は、空のように晴れ晴れとしているのだった。
5回戦。
ジェラとシャロの戦いだが、ジェラが魔力が無くて戦えなかったのでシャロの不戦勝とした。
「いやぁ~ジェラに勝つのは初めてな気がするけど複雑だよ~」
なんていいつつもジェラに対して「僕の勝ちだからね~この一勝は一生ものだよ~」なんてからかっていた。
それに対してジェラは「元気になったらぼこるにゃ」と言っていた。仲がよろしそうで何より。
不戦勝となってしまったのでリーリアの連戦となってしまうため15分休憩をとった。
日陰で水を飲んで休んでいたらシャロがニヤニヤしながらやってきた。
「ベーさん今がチャンスだよ」
「何がチャンスなんだ?」
またまたぁと猫魔獣のように手をくいくいさせると俺の耳元に顔を近づけ、
「ナルリースとエッチするなら今晩だよぉ~今めっちゃ意識してるはずだからさ~」
ブーッ!
思わず口に含んでいた水を吹き出す。
「お、お前はいきなり何をいってるんだ」
「あはは! ベーさんも照れる事があるんだねぇ」
「からかうなよ」
「え~でも本当にいけると思うんだけどなぁ……ほら」
そう言って指を指す方向には、呆然と空を見ながら独り言を呟いているナルリースがいた。
「リーちゃんとジェラが戦ってる最中もずっとあんな感じだったよ、僕が目の前で手を振っても気がつかなかったしね~」
完全に意識しちゃってるとシャロは言う。
「だがあれは半分嘘だぞ、さっきは嘘ではなかったからああ答えたが、詳しく話すとお前達三人の中なら誰が可愛いって話だっただろ」
シャロはニシシと笑う。
「別にいいじゃん。もうベーさんはリースのことが好きってことにしちゃえばさ~、嘘も真実を言わなければ本当のことになるんだよぉ」
「んな調子のいいことを……だがそれも楽しいかもな」
「やっぱりベーさんはわかってるなぁ」
ナルリースには可哀想だが、実際に可愛いとは思っている。だから撤回するのもどうかと思うし、なにより悩む姿も大変に可愛らしい。
ナルリースはそのいじりがいのあるところが大変に素晴らしいと思っている。
……だがそれとこれとは別だ。
正直な話、300年もご無沙汰であるからそういう欲求が無い訳ではない。
しかし俺はリーリアに救われた。
そのリーリアを悲しませることはしたくない。
今、愛情を注ぐべきなのはリーリアしかいないのだ。
そんなことを話していたらリーリアがやってきた。
「二人でなんの話してるの?」
「やあリーちゃん、リースの話をしてたんだよ~」
「えー、そうなの?」
ナルリースという言葉を聞いたリーリアは何ともいえない渋い顔をして俺に問いかける。
「……お父さんナルリースのこと好きなの?」
直球である。
うーん、好きだといえば好きだが恋愛かというとまた別の話だ。
それをどう説明したものか……。
「そうだな、リーリアは好きという感情に色々あるのはわかるか?」
「うーん……お父さんは大好き! ジェラは好き!」
どうやら強弱で分けられているようだ。
まあ、まだ8才だしそんなものだろう。
「え~リーちゃん僕は~?」
「普通」
「そんなー」
トホホと大げさに肩を下げるシャロだが大して気にしていなそうだ。
二人はそんな些細な事で機嫌をうかがうような仲ではなくなっている。
「はは、そうだな……リーリアの基準でいくと、リーリアの事は大好きで、ナルリースが好きってところかな」
「やった! お父さん大好き!!」
そう言って俺の顔面に飛び込んでくるリーリアは相変わらずお日様の匂いがした。
俺がリーリアとじゃれあってると、横からクイクイと服を引っ張られた。
「ねえねえベーさん、僕のことは?」
「普通」
「なんでぇ~!」
あははと笑い声が砂浜に響いた。
最終戦。
リーリアとナルリースが向かい合っている。
「では始めるぞ! 準備はいいか?」
「うん!」
「はい! 大丈夫です」
お互いに見つめあったままそう答える。気合は十分だ。
「では──開始!」
「フレア!」
「トルネード!」
開始の合図と共にまずはけん制の上級魔法だ。
お互いこんな魔法ではダメージを与えられないと思っているために、けん制として使う。ちょっと派手すぎるが目くらましにはなる。
爆炎と竜巻が混ざり合い熱風があたりを覆う。
俺は樹木に被害が及ばないように魔力バリアで防いだ。
熱風竜巻が収まるとその場に二人はいない。
一人は上に飛んでいた。これはナルリースだ。
「そこにいるのは分かってるわ! 絶対零度!」
海水が白くなっていく。
──だが!
パリン!
表面を覆う氷はすぐに割れた。
そしてそこからリーリアが飛び出しナルリースへとせまる。
「そんな魔法っ!」
ガギィン!
剣と剣が重なる。
じりじりと空中でのつばぜり合いが続く。
ナルリースとリーリアの顔が近くなる。
「お父さんは私の事が一番だって言ってた」
「……それはそうでしょう。私も自分が一番だって言うほど図々しくもないわよ!」
「そうなの? ナルリースはお父さんの一番になりたいって思ってるんじゃないの?」
「そんなことは思ってないわ! ……ただちょっと素敵だなって思っただけよ」
「……そっか、お父さんは素敵だからそれは仕方ない事だね」
「ふふっ、そうよ──っ!」
剣を弾いて水球を発動するナルリース。
だがリーリアはそれを剣でいとも簡単に切り捨てる。
「……ふぅ」
深呼吸をして落ち着くリーリア。その様子をじっと見つめるナルリース。
……この場を支配していた緊張がとけた瞬間だった。
「よし! ここからは戦闘に集中するね」
「のぞむところよ!」
ナルリースは風槍を数本発動して放つが、全てリーリアの寸前で止まってしまった。
「うそ!? 魔力の糸で全部止めたの!!?」
「はっ!」
風槍をかき消すと、手から水球を連射した。
「──っ!」
瞬きする暇もないほどの速度と連射。
ナルリースは空中を飛びながら何とか回避する。
そうしている間にリーリアとナルリースの間にはかなりの距離が開いていた。
「いくよ? しっかり防いでね!」
「なっ!」
リーリアの魔力はとてつもないほどに高まっている。
水球を連射しながら、平行して上級魔法の準備もしていたのだ。
こうなるとナルリースはガードをするしかない、そのために魔力を集中した。
「インフェルノ!」
火魔法最上級魔法インフェルノ。
その炎は相手に付きまとい燃え尽きるまで消えない。
ナルリースは魔力ガードをしながら水中へとダイブした。
しかし、その炎は消えることはなく逆に海の水がみるみる蒸発していく。
その間もナルリースの魔力は衰えていった。
そして打開策もないまま……。
俺は試合を止めた。




