29、模擬戦大会1
昼食後、さっそく誰が一番強いか決定戦を行う事にした。
ルールは殺し以外はなんでもありの総当り戦。範囲は島全体。海もあり。
どちらかが参ったというか、決着がついた判断したら俺が止める。
戦う順番はじゃんけんで決めた。結果はこうだ。
1回戦 リーリアVSシャーロット
2回戦 ジェラVSナルリース
3回戦 ナルリースVSシャーロット
4回戦 リーリアVSジェラ
5回戦 ジェラVSシャーロット
6回戦 リーリアVSナルリース
連戦になる場合だけ15分の休憩を入れる。
最終的に同点のものがいた場合、前戦った結果で勝った方が優勝とする。
「うわぁ~、一回戦からリーちゃんとはきついよぉ」
「シャロ、覚悟」
二人は砂浜で向かい合うように構える。
リーリアは剣を、シャロは杖を。
俺は審判として近くで見守る。
「いいか二人とも」
「うん!」
「はぁ~い」
「ではっ! 開始!」
俺が手を振り下ろすのと同時にリーリアが一足でせまる。
しかしシャロも負けじと土壁をリーリアとの間に発動した。
「スラッシュ!」
気合を込めた技により土壁は綺麗に真っ二つに割れた。
「うぇぇん! こないでぇ!!」
リーリアの進む先に魔力の波動を感じた。
すぐそれに気付き横にジャンプしてそれる。
ドォン!!!
巨大な火柱が立つ。
シャロは必死にリーリアとの距離を開けようとするが、リーリアはその歩みを止めない。
次々と土壁や火壁、風壁で進行を防ごうとするが、その全てを楽々と切り抜ける。
「くぅ! これならどう! バースト!!!!」
新しく覚えた複合魔法を使い、眼前にまでせまっていたリーリアに放つ。
「うわわぁぁぁ!」
しかし目の前で放ったために自身が爆風で飛ばされてしまった。
「いっつ……」
その隙はほんの1秒くらいだっただろう。だが強者との戦いでその時間は致命的だ。
「そこまでだ!!」
俺は終了の合図をした。
シャロの首元にはリーリアの突きつけている剣があった。
「うわ~ん負けちゃったよぉ! リーちゃんは魔法も使ってないのにぃ!」
「一応使ってる。風盾」
風盾でバーストから身を守っていたのだ。だから突っ込んでこれた。
「でもシャロは接近されると弱いよね……魔法は強いけど」
「グサッ!」
その通りだ。シャロは接近されるとかなり弱い。
一応杖での護身術は使えるようだが、リーリア相手にはなんの役にもたたなかった。
「リーリア、接近作戦よかったぞ! シャロは慌てすぎだ! 自分の魔法に巻き込まれてたら意味無いぞ!」
「だってリーちゃんが速すぎるから……ううう」
シャロは俺と同じ魔法使いタイプだ。
俺だって接近戦の才能は殆ど無いといっていい。
だがそれを魔力で補ってカバーしているんだ。
もっと厳しく魔力操作鍛えてやねばならないな。
くっくっく、楽しみだ。
「ベーさんがすごく悪い顔してるよぉリーちゃん助けてぇ」
「ああなったお父さんはもう無理。シャロ頑張って」
「そんなぁ……」
おっといけない。どんな訓練してやろうか考えてしまった。
次の試合をしなければ。
「では次の試合をするぞ! ジェラ! ナルリース!」
「にゃはは! ナルリース! 手加減は無用にゃ!」
「こっちこそいらないわよ! 本気でいくわね!」
お互いに拳を突きつけると、砂浜で見合う。
「ではいくぞ、開始!!」
まず動いたのはジェラだ。
持ち前の速さを生かし接近戦に持ち込むべくナルリースにせまる。
ナルリースはそれを迎え撃つ形らしい。細剣を構えていた。
「にゃはは! あたしの斧を受けるつもりかにゃ!? それは悪手にゃ!」
「やってみなければわからないでしょ!」
ガキィン!
思い切り振り下ろした斧をレイピアで受けている。
「にゃにー!?」
折れるかと思いきやしっかりとレイピアは魔力で強化されていた。
だが、その衝撃でナルリースの体勢が崩れる……が、
「にゃはは! このまま叩き潰してや──」
「──ライトニング!!!」
「にぎゃああああああ!!!!!!」
ナルリースのレイピアが黄色く光る。その剣はビリビリと電撃を帯びていた。
なるほど、剣にライトニングで帯電させ、斧を通じて感電させたのか。
頭を使ったナルリースらしい戦法だ。
「終わりよっ! ──ウォーターボール!!」
できた隙を見逃さず、ジェラの腹に水球を叩き込んだ。
ジェラは吹き飛び、海面を切るように何度もバウンドすると海へと沈んだ。
うむ、これは決まったな。
リヴァイアサンがジェラをくわえてくるとポいッと浜辺へ投げた。俺は近づいてヒールをかけてやった。
「くそう、やられたにゃ……ライトニング使えることを失念していたにゃ」
「そうだな、慣れてる相手だからといって油断しすぎだ。本来なら相手がどんな魔法を使ってくるかなんてわからないのだからな。それを念頭に置いて戦うんだ」
「……わかったにゃあ」
ジェラはへこんでいた。多分勝てると思っていたのだろう。
ナルリースはそんなジェラの考えを読んでいた。
だからあえて斧を受け、その隙をついた。
これは見事な勝利といえるだろう。
「ナルリース、よくやったな」
「ありがとうございます! これもライトニングを教えてくれたベアルさんのおかげです」
「ああ……でも努力したのはナルリースだ。自分を誇るといい」
「はい!」
顔が高揚しているようで赤くなっている。
今までにない勝ち方をして嬉しいのだろう。
「さて、次はナルリースとシャロだが今までの戦いをふまえて各自戦い方を考えるように! では15分休憩!」
俺も休憩するために日陰にいき腰を下ろすとリーリアがやってきた。
「お父さん! みんなの戦い面白いね」
「ああ、やっぱり戦闘はいい。俺も強いやつと戦いたいぞ……お前達が少し羨ましいかな」
「そうなの?」
「やっぱり同じくらいの相手のほうが面白い。血湧き肉躍る戦いができるからな。そして自身の成長にも繋がる、リーリアも実感してるだろ?」
「うん、みんなと生活するようになってからすごく充実してる気がする! ……でもお父さんとの時間が減っちゃったのが寂しい」
そう言って腕に抱きついてくる。
俺はやさしく頭に手を置くと撫でてやった。
すると嬉しそうに抱きつく力が強くなった。
「だから私、優勝したらお父さんと一日いっぱい遊ぶんだ!」
「……それなら別に優勝しなくても遊ぶぞ?」
リーリアはううんと頭を振ると、
「優勝して勝ち取ったほうが嬉しさが倍増するもん!」
そうか。
それはいっぱい遊ばないとな!!
ナルリースとシャロは向かい合っている。三回戦の合図を待っているのだ。
「では……いくぞ! 開始!!」
…………。
開始したのだがお互いに動かない。
魔力を高め、体を覆い防御を固めている。
お互いに魔法が強力なために、もしくらった時に深刻なダメージを受けないようにしているのだ。
そんな時、ふとシャロと目が合うとニヤリと笑った。
なんだ? ずいぶんと余裕じゃないか。戦闘中に余所見とはな。
案の定ナルリースも眉をひそめてシャロを睨んでいた。
「あはは、ごめんねリース、ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「……なによ」
お互いに魔力は高めたままだ。なにかあればいつでも動ける状態になっている。
「リースってさぁ……ベーさんのこと好きなの?」
「なっ! 突然なにいってるのよ!!!」
「え~だってさあ、ベーさんと話してるときのリースはなんか乙女になってるんだよねえ……特に目がさぁ」
「えっ!?」
ナルリースは一度こちらを向くとすぐに顔を逸らした。顔から耳にかけて、分かりやすいほどに真っ赤になっている。
ああ、そんな反応ではシャロの思う壺に……。
「リースってさぁ本当にわかりやすいよね~」
「ち、違うわよ! 大体会って数ヶ月しか経ってないのにそんなすぐに好きになるなんてことないでしょ! ──ってベアルさん、これは嫌いって言ってる訳じゃなくて、あくまで恋愛感情の好きじゃないってことです! ていうかそれもちょっと違うのですけど! ベアルさんは普通に尊敬しているのでそれで好きな訳で! ええとだからつまり……ああ、もうなんだか訳がわからなくなったわ!」
「必死だねえぇ~」
あまりに必死すぎて可哀想になってきた。
だが俺は黙って見ている。
「そういえばね、前にベーさんがリースのことを可愛いって言ってたよ」
「──っ!?」
「僕たまにベーさんと大人の話するんだけど、三人の中ではリースが一番可愛いってさ~! よかったじゃん」
「大人の話ってなによっ! ってそれは本当な……んですか?」
チラッと俺を見る。
だがすぐに手を前に出してぶんぶんと振ると、
「あああ、違うんです! 別に気になるとかじゃなくて、そのことで勘違いとか変に意識とかしちゃうとあれですので────」
「そこまでだ!!」
「えっ?」
ナルリースはハッと気がつき後ろを振り向くと、巨大な石槍が突きつけられていた。
シャロはニシシと笑っている。
「あ…………シャロ……あなたねえ! そんな方法で卑怯じゃない!」
「え~、これは作戦だよぉ」
「だからってベアルさんのことを持ち出してそんな嘘をいうなんて……」
言葉がどんどん尻すぼみとなっていく。
ナルリースも分かっているのだ。違うことに必死になりすぎて警戒を怠りすぎていた。これが実戦なら死んでいるだろう。
「まあちょっと卑怯だったのは認めるけどねぇ……あ、でもこの話は本当だよぉ」
「もう嘘はいいわよ!」
「いや、本当の話だぞ?」
「えっ!!?」
実際にシャロとそんな話をした記憶がある。
確か酒を買ってきてもらって晩酌した時だったか。
シャロに「三人の中で誰が一番好み~?」って聞かれてナルリースと答えた。なので嘘ではない。
「あ……そ、そうなんですね。あ、ありがとうございます」
「いや……礼には及ばないぞ……」
なんだこのやり取り。
案の定、シャロは笑っていた。
「まあ……次の4回戦を始めようか」
「あ……そうですね。私どきます……」
奇妙な空気が残ってしまうのだった。




