28、複合魔法
数日後、シャロに変化があった。
「ねえねえ~べーさん、バーストできたよー」
ベーさんというのは俺のことらしい。
違う呼び方にしろと言った所、「ベアちゃん」「ベアルっち」「ベアベア」などわけの分からん呼び方が多かったので、べーさんで手を打った。ていうか面倒くさくなった。
「お、本当か? 見せてみろ」
「おっけ~いっくよー! ────バースト!」
すぐ近くの砂山がボンと破裂する。
うむ、確かにできているようだ。
「すごいぞ、こんなに早くできるようになるとは思わなかった」
「えへへ~すごいでしょ! ほめてほめて~」
こちらに頭を突き出し、撫でてくださいと言わんばかりにゴリゴリと肩に頭を擦り付ける。
……。
ぺし!
その額にデコピンをした。
「ったー! なんでぇ僕頑張ったのにぃ」
「……なんとなくだ」
「ぶーぶー! リーちゃんと態度違うぞ~」
リーちゃんというのはリーリアの事だ。
まあ何となくシャロは甘やかしたくはないのだ。
「それよりどうだ? 複合魔法を使えた気分は」
「ぶー……そうだねぇ、できるまでは難しかったけど、一回できてしまえば後はバーストって発声するだけでできるんだねぇ。これは不思議だけど便利だねー」
「ああ、精霊も学習するんだ。だから一度できるようになれば、後は精霊が調整をしてくれるから発動できる」
「へえ~そうだったんだね~。じゃあ褒めて~?」
「それはもういいから」
「ぶー」
シャロはふざけているように見えるが、実は意外と真面目だ。
一人で練習しているところを何度も見ている。
だが努力しているところを誰にも見せない。そして普段はふざける。
この島に来た理由も他の二人に実力で劣っているからという。
だがそんな事は無い。むしろ才能はあるし普通に強い。
まあ、ちょっと厳しくすると逃げる癖はあるんだが……それも今思うと計算だったんじゃないかって思うこともある。
逃げ出した次の日を休みにしたら、こぞって三人とも爆睡していた。
誰かが疲れていて言い出せなく、それを見たシャロがかわりに行動をした。
そんな優しい心を持った子なんじゃないかと思うようになった。
──さて、同じく複合魔法を練習していたナルリースだが……。
とても苦戦していた。
「もうわからないわ……どっちが強くてどっちが弱くすればいいの……」
なんだかすごく落ち込んでしまっていた。
複合魔法は本当に微妙な魔力の加減が難しい。
これはセンスが大事になってくる。
「苦戦しているようだな」
「あ、ベアルさん……私は才能がないんです。本当にごめんなさいダメな弟子ですよね」
とっても卑屈になってしまっていた。
うーむ、どうしたらいいのか。
「一回やってみてくれ」
「あ……はい……」
氷槍と風槍を発動させた。そしてゆっくりと重ねて……消えた。
ちらっとこちらを見るナルリース。だがすぐに下を向いてシュンとしてしまう。
なるほどな。
「もう一度やってみてくれ」
「……はい」
氷槍と風槍を重ねようとしたところで俺はナルリースの腕を掴む。
「!?!?!?」
ビックリした様子で俺の顔を見るが、顔が近い事に気がついたのか頬を染めてまた下を向いてしまった。
そんな態度をされるとこちらもドキドキとしてしまうのだが……。
俺は冷静を保ちつつ、
「いいか? 風槍を強めるんだ……そう、そうだ。あとは消える瞬間に魔力を高めろ」
戸惑いながらもナルリースは言われたとおりに実行した。
すると────
ビリッ!
ライトニングが完成した。
「えっ!? できた! できました!!!」
「ああ、よくやった。あとは放つだけだ」
砂に向かってライトニングを放つ。
小さな雷は地面へと吸い込まれて消えていった。
「すごいです! 消える瞬間にできていたんですね」
「そうだ……詳しく教えなくてすまなかった」
「いえ、私がもっと注視すべきでした……私の視野が狭かったんです」
数日、自習をさせて分かった事はナルリースはとっても素直だってこと。
言われた通り、ひたすらに調整だけをしていた。
だが複合魔法は自分で創意工夫しないとならない。
実はナルリースとシャロには同じように教えた。
だができたのはシャロだった。
もちろんできた方がいいのは確かだが、それが全てと言うつもりは無い。
練習した努力は裏切らない。
魔力操作が上手くなったりと無駄はないのだ。
今回はできなかったが、次回はきっと大丈夫だろう。
そんなナルリースにもいいところはたくさんある。
しっかりしているように見えるナルリースだが意外とドジっ子だったりする。
たまに砂の上でこけているのを見かけていた。
それにからかい甲斐もある。反応がいちいち可愛いのだ。
あれ? 俺、いいところって言ったよな?
うん……ナルリースのいいところは皆から愛されることかな!
「あの……すみません、そろそろ腕を……」
「あ、ああすまん」
そんな事を考えていたら、腕をずっと握ったままだった。
ナルリースの耳は真っ赤になっている。
こういう所なのだ。
こんな反応をされてはもっとからかいたくなってしまう。
だがあぶない、こんな場面をジェラやシャロに見られたら俺までヒューヒュー言われてしまう。
もちろんリーリアに見られるのが一番不味い。とっても不機嫌になる。
ふう、誰もいなくて良かった。
さて、ジェラの方は……相変わらずだった。
「リヴァイアサン! 勝負にゃ!」
「ふっ、暇つぶしに付き合ってやる」
誰彼かまわず勝負を仕掛けては腕を磨いていた。
技を使いまくり、斧の精霊を鍛える。
それに実戦経験も大事だ。
自分より強い者と戦うことはいいことだ。
人と戦うときは俺、魔獣ならリヴァイアサン。
こんなにいい勝負相手は中々いない。
町に戻れば戦士型のディランもいる。どうやらディランとはたまに模擬戦をしてボロボロに叩きのめされていたとか。
ジェラの強い理由が分かる。
強さに一途なのだ。
強者と戦い成長する事が唯一の楽しみ。
そのためならばどんな事でもする。
リヴァイアサンとの勝負も最初は断られていた。
あまりに実力差があるためにリヴァイアサンが気乗りしなかったのだ。
だがジェラは諦めなかった。
毎日会話をして徐々に仲良くなっていった。
もう肩を組みマブダチかと思うほどのノリになると、ようやく勝負をすることができた。
これはジェラの努力の賜物だろう。
「にぎゃああああああ!!!」
どうやらコテンパンにやられたようだ。
リーリアは剣の精霊が進化していた。
まだ上級にまでなっていないのだが使える技が増えている。
この進化の速度を見る限り、剣の才能があることは確かだし、予想が当たっていて成長スピードもグンと上がっていたに違いない。
剣の型は教えているが初級程度のものだ。
今度町に行ったときにディランに教えてもらうのもいいと思った。
戦士で接近戦のスペシャリストだしな。
だが当の本人はあまりやる気ではないようだ。
剣を習うということは町にしばらく滞在すること。
ということは俺としばらく離れる事になるからだ。
それが辛いとか……可愛いやつめ。
まあ焦る事はないだろう。
魔法を極めてからでも遅くは無い。8才だから体もまだできてないしな。
今は魔力を高め、残り3大精霊を上級にしよう。
それまで剣は基礎だけをしっかりとな。
──数ヶ月たった。
修行の日々が続いている。
毎日同じように繰り返し特訓していたために気の緩みが見て取れるようになった。
まあそれは仕方ないのかもしれない。
強くなるという目的では漠然としすぎている。
その強さの象徴である俺やリヴァイアサンも桁が違うために目標としては程遠い。
ならばである。
この4人で模擬戦という名のガチ強さランキングを決めようと思ったのだ。
そうすることでお互いを改めてライバル視して、切磋琢磨していくことだろう。
その旨を4人に伝えたところ、まずジェラが騒ぎ出した。
「にゃはは! それはいいにゃ! そろそろ特訓の成果を見せたいと思っていたところにゃ!!」
「うん、私も実戦で剣技を試して見たいと思ってた」
やはりというか勝負が好きなジェラはのってきた。リーリアもやる気まんまんだ。
「えぇ~僕がどうせビリだよ~、それにご褒美とかないとやる気がおきないよぉ」
相変わらずのシャロだ。
うーんご褒美ねえ……。
「またシャロは……私もいいと思います。今の実力を試して見たいです」
どうやら大方やる気があるようだ。
あとはシャロか……まあ無理やりやらせてもいいんだが、どうせなら皆の本気を見たいし……はて、どうしたものか。
「おぉ~ベーさんが悩んでるぅ~ってことはー、ご褒美があるのかなぁ? ご褒美くれるっていうならベーさんを一日自由にできるっていうのはどう?」
なるほど、俺を自由にか……何をする気なんだこいつは。
「それはいいにゃあ! 自由にできるってことはずっとバトルもできるってことにゃ!」
「お父さんは私のだからダメ!」
「ベアルさんを一日……え、なにしてもいいんですか?」
なにやら盛り上がってしまった。
まあ、やる気に繋がるならいいか。
「いいだろう。優勝したものには俺を一日自由にする権利をやろう」
 




