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25、おかえり

 


 次の日、ディランに挨拶を済ませ町を出た。

 ディランはナルリース達に「できるだけ早く修行を終えてくれると助かるのぅ」とチラチラこちらを見ながら言って来た。

 なるほどなるほど。

 これはスパルタにしてもいいって事だな! 言質げんちはとった、あとは好きなように実行させてもらおう。


 街道を歩いているリーリアの背負う袋はパンパンである。限界まで買い込み無理やり詰め込んだ。

 実は詰め込めなかったものもあるのだが、ナルリースが「いいわよ、持ってあげる」と言ってくれたのでお言葉に甘えた。

 町を出るときに食いダメだといって両手いっぱいに焼き菓子を買っていた。

 現在も「うまぁー!」といいながら道を歩いている。


 ちなみに行き先はまだ告げていない。

 これはリーリアのいたずら心で、俺が行き先は言わなくていいのかとたずねたところ、ビックリする顔が見たいとか。

 確かにビックリするだろうな……リヴァイアサンとか封印とかいろいろな意味で。

 

 街道を歩くその足取りは軽い。

 それは町での楽しい思い出や友達の存在、そして封印を解ける可能性があるという未来の希望がある。

 こんなに良い事が重なっていいのかと思うほど、順調な旅路だった。

 しばらく島での生活に戻るが、今までのようにいられるのか……いやいられないだろうな。

 新たに生活に加わる三人の存在がどんな変化を起こすのか。俺はそれが楽しみだった。


「そういえば冒険者ギルドの方は大丈夫なの? みんなが抜けたら大変になるんじゃ?」


 リーリアは心配し、隣を歩いていたシャーロットにそう尋ねた。

 うむ、もっともな話だ。

 妖精の輪舞曲フェアリーロンドはBランク冒険者。ギルドの主力であり、こう難易度の依頼は彼女達でないとこなせないだろう。

 そんな心配をするリーリアに、


「大丈夫大丈夫。もともとフォレストエッジは安全な町で有名だからねぇ~。めったにBランクが受ける依頼なんてないんだよぉ。だから僕達も他の町に依頼を受けにいったりしてたんだよぉ」


 手をひらひらとさせ、明るくのん気な声。

 

「まあ、もしにゃにかあってもCランク冒険者もいるしにゃあ。それにギルド長がいるから例え伝説の魔獣がでたとしても大丈夫だにゃ」

「そうね、まあ伝説の魔獣なんてそうそう現われるものじゃないわ」


 ……いやあ、それが現われちゃうんだけどな。


 そんなことは露知らず、あははと楽しそうな面々。

 話していたらあっという間に最初の砂浜へと到着した。


 リーリアは魔力探知を広げる。

 するとそれに反応してリヴァイアサンは近づいてきた。


 ザバーーーン!!!!


 水しぶきとともに現われる巨体。

 

 一瞬の静寂、そして──


「きゃああああああああああ!!!! いやあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「にぎゃああああ! リヴァイアサンだにゃあああ!!!!!!!!!」

「助けてぇぇぇ! 僕は美味しくないですぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

 響き渡る悲鳴。

 ナルリースは脅え、ジェラは何とか斧を構える。シャーロットにいたっては頭を抱えてうずくまっていた。


 そんな中、リーリアはリヴァイアサンへと近づいた。


「あ、あぶにゃいにゃあ!!! 食べられるにゃ!!!」


 ジェラが止めようとするが、リーリアはどこ吹く風でリヴァイアサンに話しかけた。


「ただいまリヴァちゃん! またよろしくね!」

「うむ、よかろう。ていうか後ろの輩はなんだ? すごく騒がしいんだが」

「私の友達だよ! 島に一緒にいくことになったの!」

「なるほど、理由はわからぬが後でゆっくり聞くとしよう。さあいくぞ」


 ぽかーん


 二人のやり取りが理解できずにあっけに取られる三人。

 リーリアはリヴァイアサンに乗りながら、後ろを振り返りニッコリする。


「えへへ、ごめんなさい驚かして」


 ドッキリ大成功だ。




 リヴァイアサンの背中で未だに落ち着かない三人

 すっかりだまされる形となったが、怒るよりも信じられなさの方が勝っているようだ。

 物珍しくリヴァイアサンとリーリアの会話を聞いていた。

 リーリアは町で起きた事や妖精の輪舞曲フェアリーロンドとの出会いなど、楽しそうに語っている。

 それをまたリヴァイアサンも相槌を打ちながら、質問したり笑ったりと表情豊かにしている。


「そういえば、ギルドに持ってきたリヴァイアサンの鱗ってそういうことだったのね……」

 

 そんな様子を見ていたナルリースがぽつりとそう呟く。

 これならば綺麗な状態で持ち込めたのは納得だ。

 他の二人も頷いた。


「お父さんって人がますます興味深くなったねぇ」

「こらシャロ! あまり興味を持つと今度は海に放り出されるにゃよ」

「う、それは嫌だよぉ」

「でも本当にどんな人なのかしら。ディランさんがお勧めする人だから強い事はわかるのだけれど」

「謎にゃ……でもとりあえず戦いたいにゃ」

「相変わらずだねえ。ギルド長とどっちが強いのかなぁ」


 ぴくん


 リーリアの耳がその言葉を捉える。

 

「お父さんは世界最強なんだよ!」


 目をキラキラとさせ熱く語り始める。

 リヴァイアサンと戦ったことは隠す事でもない。それを三人に身振り手振り、自身が見たことも合わせて語った。


 その話を聞いた三人も目を輝かせることになった……。



 リヴァイアサンの旅はもうすぐ終わりだ。

 俺はビジョンを終え、皆を迎える準備だ。


 セレアの頭を撫で、「ビジョンおつかれさま」というと、魔力探知で深海のカニを探した。

 このカニは魔力も高いが非常に美味い。リーリアの大好物でもある。

 深海なので物凄く大変なのだが、それだけの成果を出してくれた。

 俺がカニを捕まえるだけでそれに報いる事ができるとは思えないが、できる精一杯をしよう……こんな事しかできないけどな。

 

 カニを魔法で調理していたら、リヴァイアサンの気配を察知した。

 どうやら到着するようだ。

 セレアと一緒に浜辺へと向かう。

 

 浜辺にはすでに皆が到着していた。

 ゆっくりと皆の下へ向かう途中、ふと考える。


 リーリアの父親として恥ずかしくない言動をしないといけない。

 そしてかなり期待されているから強いってアピールした方がいいのか?

 ディランと知り合いだってことで、基準値が上がっているかもしれん。


 ここはちょっと演出をするか……。





 ■ナルリース視点■





 私達はリヴァイアサンの背中に揺られ、小さな島にたどり着いた。

 こんな島あったのね……。

 位置的には人間大陸の北に位置するかな? ここらへんは船の航路から外れているために私も知らなかったのだ。

 それにあまりにも何も無い。もし見つけたとしても寄ろうと思うことは無いのかも知れない。

 

 島に到着して、恐る恐るリヴァイアサンの背中から降り、お礼を言うとリーリアが案内してくれるといった。

 どうやら小屋があるようでそこに荷物を置こうという。

 

 いよいよリーリアのお父さんと対面となる。

 いったいどんな人なんだろう。

 リーリアの許可はもらったけど、私達を受け入れてくれるのだろうか?

 不安と期待が揺れ動く。

 ドキドキと心臓の音が聞こえる。

 胸を押さえ鼓動が落ち着くのをまとうとするが、他の二人は能天気に騒いでいる。

 はぁ……私だけこんなに心配しても仕方ないわね。

 もう歩き出している皆に遅れないように一歩踏み出そうとした時、それは起こった。


 ドゴオォォォォォォ!!!!


 強大な魔力が島全体を襲う。

 そして魔力の中心部には巨大な火の鳥が現われたのだ。


「あああ……あれはいったい!?」


 そう思ったのも束の間、次々と巨大な鳥が生まれる。

 水、風、土。そして最初に生まれた火。

 4属性の巨大な鳥が空を踊るように舞う。それはまるで演舞のようだった。

 

 ゆっくりと舞いながら近づいてくる巨大な鳥たち。

 私達はその演舞に視線が釘付けになる。

 そして気がつく。これは魔法だ。

 しかもこんな魔法は聞いた事がない。

 強大な魔力を秘めているのがわかる。ひしひしと体に伝わるのだ。

 一つの鳥に襲われただけでも私達では手も足もでないだろう。

 それが4つ。

 

 4つの鳥は複雑に絡み合うが消えることがない。それほどまでに緻密で繊細な動きをしていた。

 それと同時に感じてしまう。

 ああ、リーリアの言う事は本当のことだったんだと。

 魔力もさることながら、魔力操作の技術も次元が違った。

 こんな繊細な動きを同時に4つ。しかも膨大な魔力を放出し続けている。それをずっと維持し続けているのはハッキリ言って異常だ。

 ギルド長のディランでも無理だろう。

 まあ戦士型というのもあるが、それでもまだ強さの感覚がわかる。

 だが……これはもうわからない。

 いったい何年努力をし続けたらここまでの領域にいけるのか。

 まったく感覚が掴めないのだ。


 呆然と眺めている私達の前にその人は現われた。

 服装はぼろぼろだが、背は高く、目鼻の整った顔立ち。髪は漆黒のように黒く、だけど怖さを感じない優雅な笑み。

 それを見たリーリアが走って飛びついた。

 

「お父さん! ただいま!!」

「ははっ! おかえり、リーリア」


 ああ、この人がそうなんだ……。

 その優しい笑みに私は魅せられてしまった。





 ■視点終了■





 俺は得意の魔力操作でひそかに練習していた鳥の演舞を披露した。

 ふふ、なかなか上手くいったぞ。

 驚いている三人を見て俺は満足した。


「お父さん! ただいま!!」

「ははっ! おかえり、リーリア」


 飛びついてくるリーリアを抱きかかえながら、


「ようこそ、封印された島へ」


 そう挨拶をした。


 

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