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237、条件


 その日の夜。

 俺はリーリアと仲良く寝ていたのだが、何者かが玄関を叩いている音で目が覚めた。

 まあ、10階層全体を把握している身としては誰が叩いているのかはわかっているんだけどな。

 俺は玄関をガードしていた神霊力を解くと、すぐに疲れ切った顔をしたレヴィアが駆け込んできた。


「おいさっさと開けないか! 引っ切り無しにモンスターが現れて大変だったのだぞ! アナスタシアなんて玄関でぶっ倒れておるわ!」

「……ほう、ずいぶんと強くなったなレヴィア。神力が格段に上がってるぞ」

「そ、そうか? 実は我もそう思ってたのだ! 今ならリーリアともいい勝負ができるきがするぞ!」

「それは無理だな」

「うぐ…………ってかそうじゃなくてだな! ここでなにを悠長なことをしておる! 探索はどうしたのだ? そもそもこの家はなんなのだ!?」


 まあ、そうなるよな。

 仕方ないので説明するためにいったん体を起こした。眠そうにしていたリーリアも一緒に起きる。


「む……リーリアその可愛いパジャマはなんだ? そんなの持ってたか?」


 レヴィアがそう言うとリーリアはにへらと笑う。


「お父さんがくれたんだよ」

「む……」


 レヴィアの視線が俺の視線と交差する。

 口がへの字に結んでいて、我も欲しいと目が語っていた。


「ふむ、丁度いいから説明を兼ねてお前とアナスタシアにもパジャマを作ってやろう」

「……作るとはどういうことだ?」

「一度に説明したいからアナスタシアも連れてきてくれ」

「うむわかった」


 レヴィアは玄関からアナスタシアを引きずりながら連れてくるとポイっと捨てるようにベッドの下へと投げた。


「うぎゅ」


 変なうめき声をあげたがアナスタシアはピクリとも動かない。


「……お姉ちゃん大丈夫?」


 あまりに動かないものだからリーリアは心配になって声をかける。

 するとアナスタシアは勢いよく立ち上がった。


「リーリアァァァァアアアア! 会いたかったぞおぉぉぉぉ!!!!」


 抱きつこうとしたがリーリアは両手でアナスタシアの顔を押さえた。


「お姉ちゃん、ちょっと臭うから先にお風呂入って」

「リーリアァァァ……ぐすん」


 アナスタシアは力なくまたベッドの下で転がった。


「おい、アナスタシア! 話が進まぬではないか!」

「レヴィアも汚いから先にお風呂入って」

「……うぐぐ」


 リーリアは不服そうにしているレヴィアと倒れているアナスタシアの首根っこを掴むと風呂場へと引っ張っていく。そして数分の後、リーリアが一人で戻ってくる。

 

「ふわぁぁぁ……私は先に寝るね……」


 そう言ってベッドに潜り込むと一瞬にして眠りについた。 

 俺は待ってる時間が暇だったので二人分パジャマ作った。リーリアを起こさないように魔力の糸で風呂場まで運ぶ。

 しばらくすると可愛いパジャマを身に着けた二人が俺の元へと戻ってきた。


「お、おまたせ」

「なかなか肌触りの良いパジャマだな!」


 恥ずかしそうなアナスタシアとパジャマを触りながらご満悦のレヴィアが対照的な反応を示す。


「なかなか似合ってるじゃないか」


 ちなみに皆一貫して同じデザインのパジャマにしてある。違うのは色だけだ。


「こ、こんなフリフリの可愛いパジャマなんてきたことないから戸惑う」

「そうか? いつも着てるのはシースルーであっちの方が恥ずかし──」

「──バ、バカッ!」


 慌てて俺の口を塞ぐアナスタシア。

 

「……どういうことだアナスタシア。我々の前ではそんなパジャマを着たことがないのではないか? まさかおぬし……ベアルの前でだけそんな破廉恥なパジャマを身に着けているのか!」

「うぐ……」


 何も言い返せないアナスタシア。

 その様子をみて図星だと確信したレヴィアはハァと大きくため息をして俺を睨みつける。


「おぬしもそっちのほうが好みなのか?」

「いや、人による。レヴィアは普通でいい」

「む……我には何も望んでないというのか?」

「そういうわけではないが……お前はどちらかというと友情の大きい。信頼できるパートナーといったところだ」


 レヴィアの頬が膨らむ。

 どうやら俺の説明には納得いかない様子だ。

 俺はその一連の動作に関心を抱いた。

 リヴァイアサンになれる頃のレヴィアだったらここまで嫉妬はしなかったはずだ。子供さえなせればそれでいいと。それが人として完成に近づくにつれて新しい一面が出始めているのだ。

 この時、俺の興味はレヴィアだけとなってしまった。


「レヴィア……お前を抱きたい」

「はあ!? なななな! なんでそうなるのだ! ていうか話がまだであろう!!?」

「今すぐに抱きたくなった」

「お、お前は──」


 俺はレヴィアの背後から抱き寄せた。


「──!?!? いつの間に移動したのだ!?」


 レヴィアの動揺も虚しく、俺はレヴィアを抱き寄せたまま他の部屋へと転移した。ここは誰も使ってない部屋である。

 

「ここはどこだ!? アナスタシアとリーリアは!?」

「空間転移した。時空魔法の最上位だな」

「……くうかんてんい?」

「ああ、俺とお前の空間をこの部屋のものと交換しただけだ」

「そんな魔法いつ──って服を脱がそうとするでないっ!」

「気にするな」

「気にするわっ!」


 訳も分からぬまま焦ってる姿が大変可愛レヴィアであった。




 ──一方、空間転移後のリーリアとアナスタシアは……


「はぁ、結局なんだったんだ? しかし……」


 アナスタシアの眼下には可愛い妹が気持ちよさそうに寝ている。

 導かれるようにしてベッドの中に潜り込んだ。


「はぁはぁ……リーリアぁ……」


 傍から見るとかなり気持ち悪いが、デレデレとだらしない顔をしてリーリアの顔に頬ずりをする。


「…………お姉ちゃん気持ち悪いよ」

「う……起こしてしまったか?」

「うっすらと起きてたから大丈夫。何が起こったのかも分かってるよ」

「そうか。なんかよく分からんがベアルがレヴィアに突然欲情したんだがリーリアは分かるのか?」

「うん。レヴィア可愛かった」

「そうなのか?」

「そうだよ」

「そうなのか……」


 そう言いながらもアナスタシアはリーリアに抱きつきながら頬ずりを止めない。

 リーリアはハァとため息をつきながらも満更でもなかった。


「ねえお姉ちゃん」

「ん、なんだ」

「お父さん……いなくならないよね?」

「うん? どういうことだ?」


 リーリアは不安に思っていることをアナスタシアに打ち明ける。


「存在がどんどん大きくなってってもう私じゃ追いつけないの……このままだとすごく遠い所に行っちゃう気がして怖いよ」

「そうだな……リーリアが不安になるのも仕方ない。ベアルの強さは尋常ではない。人の領域はとっくに超えてる。 ……だけどこれだけはわかるぞ」


 アナスタシアはリーリアの髪を優しく撫でる。


「ベアルは誰よりもリーリアを愛している。だから離れていくことは絶対にないぞ」

「本当?」

「ああ」

「本当に本当?」

「本当に本当だ」


 リーリアはアナスタシアの胸に顔を埋め、ギュッと抱きついた。

 アナスタシアはそんなリーリアの髪を優しく撫で続けていた。


 ─


 翌日、疲れ果てているレヴィアと妙につやつやしているアナスタシアが家の廊下で対面した。


「おぬし……昨日あんなに死んだ顔をしていたのに今日はやけにご機嫌ではないか」

「ああ、素晴らしい夜だった。レヴィア、昨日はありがとう。レヴィアのほうはどうだった?」


 レヴィアは顔を真っ赤にし、憤慨した様子で地団駄を踏んだ。


「あいつはっ! 何もわからぬ我を弄び辱めたのだ! この屈辱は絶対に晴らしてやるぞ!」

「そうか……分かるぞ。私もいつもそうやって遊ばれてるからな。でもそれが癖になってしまったのだろう?」

「え?」

「……え?」


 二人はきょとんとした表情で廊下で立ちすくんだ。


 ─


 俺はとても晴れやかな気持ちだった。

 これならば今日の戦いは全力で臨めるだろう。

 思い切り背伸びをして体を伸ばし、シャワーでも浴びようと立ち上がったところで声を出す。


「ミッシェルいるんだろ?」

「……さすがベアルだね」


 部屋に取り付けられていたテーブルが突然ぐにゃりと変形すると、ミッシェルの形となって現れた。


「バレないとでも思ったのか?」

「思わなかったけどずっと無視されてたから」

「昨日はレヴィアだけを見ていたからな」

「……それはなんか複雑な気分だね」


 こいつは昨夜、突然現れたかと思ったら一瞬にしてテーブルと入れ替わり俺たちの行為をじっと見続けていたのだ。

 一体何を考えているのかわからないが、敵意は無かったので無視した。


「眺めてて楽しかったか?」

「うん、あの子が元魔獣だなんて信じられないほどにはね」


 なるほど。ミッシェルの目標である『恋』、その恋を知った魔獣として興味があったという事か。


「見た感想は?」

「僕も早くああなりたいなって思ったよ」


 心なしかミッシェルの表情が嬉しそうである。


「それに今のベアルの強さなら合格だしね」

「例の協力ってやつか」

「うん」


 まあぶっちゃけ察しはついている。

 だがそれを行うかどうかは条件次第だ。


「俺はお前を殺す力を手に入れたし、お前の体も瞬時に作れるようになった。さてミッシェル……お前は俺に何をくれるんだ?」

「……へえ、相変わらず察しがいいね」

「何度もヒントをもらってるからな。これで分からなかったらただのバカだ」

「あひゃひゃひゃ!! それもそうか!」

「笑ってないで交換条件を言え。俺がお前を殺して復活させたら何をしてくれるんだ?」

「ああ、それはね……」


 ミッシェルはそこで言葉を区切ると、少しだけもったいぶって続きを言った。


「たとえ星が壊れてもベアルの大事な人たちは守ってあげるよ」

「…………」


 こいつは俺が大事にしているものがなんなのかよくわかっている。

 偶然なのか助言によるものなのかはわからない。

 でもその条件はとても魅力的なものだった。


「いいだろう」

「じゃあこれで心置きなく戦えるね」

 


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