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236、分析


 

 まずはミッシェルの分析だ。

 あいつの攻撃は触れた瞬間に俺の腹部を消滅させた。

 衝撃で破壊したとかそういったレベルの話ではない。本当に消滅させたのだ。

 これは今の俺ではできない芸当だ。


(前々から思っていた。あいつは神霊力を操る能力が段違いに高い)


 例えばこの10階層全体を把握する力。

 ミッシェルは誰がどこで何をしているのか、はっきりと分かっている。

 俺の場合は全体に蜘蛛の巣を張っているようにしているのだが、誰がどこにいるまでしか分からない。細かい動きなどは見えていないのだ。

 ではミッシェルはどうやって全体を把握しているのか。


(感知できないほど細かい……まるで霧みたいなもの)


 10階層全体を神霊力の霧で覆うことで、人の息遣いや脈拍でさえも手に取るように分かってしまうのだ。

 しかもそれだけではない。


(神霊力の霧は俺達の体内まで侵入している)


 だからこそミッシェルにはナルリースに赤ちゃんがいることが分かっていたのだ。しかも性別まで細かくだ。

 今もアイツの力の一部を体中から感じている。普段は特に害はないのだが、あいつが攻撃に転じる時、それは怖ろしい力となった。

 攻撃された時を思い出す。

 ミッシェルが拳を振り上げた時、拳からはおぞましい程の神霊力を感じた。

 それをまともにくらってしまうのは死を意味するので俺は全力でガードした。

 結果、俺の腹部が最初から無かったかのように一瞬にして消滅したのだ。


(……この時、俺の内部にたまっていたミッシェルの神霊力が一斉に襲い掛かってきた。だからこそ腹部が細胞ごと消されてしまったのだ)


 しかしこの瞬間、自分の予想が正しかったことを知った。

 実は体内全体にあったミッシェルの神霊力をあの攻撃の瞬間すべて除去していた。腹部にだけ残してな。

 この結果によりミッシェルの攻撃方法が分かったのだ。


(ミッシェルの拳に集まっていた禍々しい神霊力はフェイク。本命は攻撃がヒットした瞬間に体内の神霊力を操り細胞ごと破壊するのが目的)


 単純なことだが物凄く高度な技術である。

 そもそも神霊力を霧状にして体の中にまで侵入することが難しいのだ。

 

(攻撃方法が分かっても同等の技術を身につけなければ勝てない……今日一日でなんとかなるのか?)


 俺はリーリアの顔を思い浮かべる。

 脳内に浮かんだ表情は笑顔でまるで女神のようであった。


(やるしかないな)


 俺は拳を握りしめた。

 



 ────実際に訓練を始めると意外と呆気ないものだった。


 意識をしたら簡単に霧状にできたのである。

 10階層全体に散布して見ると面白いほど仲間の動きが分かった。

 レヴィアとアナスタシアの二人組はここからかなり近い位置にいる。レヴィアが激しく動き回り、アナスタシアは盾でモンスターの攻撃をいなしている。かなり連携が上手くなっていて問題はなさそうだ。

 サリサとジェラの二人組はまだかなり遠い。今日中にここにたどり着くのは無理そうだ。こちらもモンスターと戦っているが全然問題はなさそうだな。

 リーリアは近くでモンスターと戦っている。ていうか圧倒的強さだ。一瞬にして細切れにしていた。ここのモンスターではもはや相手にならないようだ。本当なら一緒に訓練をしてやりたいのだが今は仕方がない。すまんなリーリア。

 セレアは最初の位置からまったく動いていない。ていうかまたミッシェルと話をしているようである。仲がいいなあいつら。


「べーさん鏡の前でポーズなんてとっちゃってなにしてるの~?」

「………………」


 シャロがやってきた。まあ近づいてきていたのは分かっていた。

 だが自分が変なポーズをしていることを失念していたのだ。


「訓練の一環だ。これから自分自身を作り出す」


 訓練は次の段階へと移行していた。

 ミッシェルがやっていた姿を変えるという技。

 これは最初はスキルだと思っていたが、ここにきて神霊力でできるんじゃないかと思ったのだ。

 どうせ作るならとカッコいいポーズをしていたのだがシャロに見られてしまった。

 返答に困ったが正直に話した。


「…………つまりもう一人のべーさんが生まれるってこと?」

「体だけな。生きてはいないから動かんぞ」

「へ~そうなんだぁ~……ほぉ~」


 何やら悪い顔をしている。


「お前には渡さないからな」

「え~」


 不服そうだが当然である。

 何をされるかたまったものではない。


「まあ、まだできるかどうかはわからんぞ」

「じゃあ見学してるよ~」


 床にちょこんと女の子座りをすると、期待した眼差しで俺を見ている。

 俺は深くため息をすると、集中し始めた。

 もちろん人の成分など知るはずもない。

 ……しるはずもないのだが、何故かできるきがしていた。

 それは何故か知っている知識。調合や時空魔法と同じ記憶の海に封印されているものの一部。

 そのわずかな一部分を少しだけ引き上げるだけの作業。

 俺はその感覚になれ始めていた。きっと俺には分からないことなど何もないのだという確信めいたものがあったのだ。

 必要なのはそこにたどり着くきっかけみたいなもの。それさえあれば不可能などないのだと。

 そして次の瞬間──もう一人の俺が誕生した。


「おぉぉ~べーさんだ! すっぽんぽんのべーさんが生まれたよ~」

「我ながらいい男だな」

「うんそうだね~でもやっぱり意識はないんだね?」

「作ったのはガワだけだ。魂は宿っていないからな」

「ふ~ん……ところでこのべーさんどうするの?」

「消す」

「ええええぇぇぇ~もったいないよ~」

「これはただの練習だからな」

「僕は一家に一台べーさん欲しいよ~」

「あってどうするんだ?」

「それは~……内緒だよ~」


 ニヤニヤとした笑いをして目を細めているシャロ。

 こいつに渡すととんでもないことになりそうだな。


「絶対却下だ」

「嘘嘘! 嘘だよ~! 本当はべーさんと一緒に寝られない時に抱き枕として使いたいんだ~」

「なるほど。断固として却下だ」

「え~いけずぅ~」


 シャロはおよよと泣き崩れ落ちるようにして作り出した俺に抱きついた。

 俺は容赦することなくそいつを消した。

 

「うげっ」


 掴まっていたものが消えたものだから顔面から地面に叩きつけられたシャロ。


「ひどいよべーさん~! 僕たちの子が泣いちゃうよ~」


 起き上がりながらお腹をさする。


「そうだな……女の子だから優しくしてあげないとな」

「へ? わかるの~?」


 今の俺はミッシェルと同じようにすべてが分かっていた。

 

「ああ、その子供は女の子だ。楽しみだな」

「そっか~……」


 何故かシャロのテンションが下がっていた。


「女の子はダメなのか?」

「ダメってわけじゃないけど~……男の子だったら一生養ってもらえると思っただけ~。さすがに女の子じゃそうはいかないでしょ~?」


 しょうもない理由だった。

 俺は深くため息をつく。


「お前は俺の嫁だぞ。苦労をさせるつもりはない」

「わ~さすがべーさん」


 ふっちゃけ今の俺は何でも作り出せる。

 金に困る未来など全くないのである。

 ……まあ元々金には困ってないけどな。


「さて、まだまだ精度が未熟だから訓練を再開するぞ」

「うんわかった~僕は家の中でまったりしてようかな」

「ああ、そうするといい」


 シャロが家の方に振り返ると、家の扉の前にミッシェルがいた。いつの間にか帰ってきていたのである。


「あれ? なんか懐かしい感じがするね」


 ミッシェルは歩きながらシャロへと近づいた。


「……あら、ミッシェルじゃない。こんなところにまだいたのね」


 シャロの声が急に色めいたものへと変わった。

 これは……。


「ああ、君はシャーリか。なるほど、その子と融合しているんだね」

「ええそうよ」

「普段は表にでてこないんだ?」

「私はリーリアに嫌われているもの。それにお父様との約束もあるから」


 シャーリは以前俺を誘惑したことによりリーリアに嫌われている。だから普段はまったく外にでないようにしていたのだ。


「融合してるにしてはその子は弱いね。なんで?」

「そうね……簡単に言ってしまえばやる気かしらね」

「ふうん」


 そもそもシャロはあの世界では最強の一角である。

 ただ、それ以上に敵や俺達が強すぎるだけなのだ。

 それにもともとシャロは戦いが好きではない。生活する上で才能があった魔法に頼るのはごく自然のことなのだ。それが一番効率がいいのだから。

 でも今は生活には困っていない。

 そしてお腹には子供がいる。

 無理をしたくないというのも自然の事なのだ。


「まあいいや。せっかくだしもっと話を──」

「──嫌よ。私はリーリアに嫌われてるって言ったでしょ? 面倒なことになるとお父様に迷惑をかけてしまいますから」

「君は相変わらずお父様だけか」

「そうよ。何か悪い?」

「はあ、じゃあ別にいいや。ベアル調子はどうだい?」


 ミッシェルは既にシャーリに興味を失ったのか、シャロの横を通り過ぎ俺へと向かってきた。

 シャロは一瞬ビクンと体がはねたかと思うと、後ろを振り返らずにぎこちない足取りで家へと向かっていった。

 どうやらシャロに意識が戻ったのはいいがミッシェルが怖くて振り返れなかったようである。


「ああ、お前を殺す力を着々と身につけているぞ」

「それは楽しみだね」

「期待しててくれ」


 その後、明日殺し合うミッシェルに見守られながら訓練を続けるのであった。

 ミッシェルはその間、永遠にしゃべり続けていた。さすがに五月蠅かった。


 


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