24、仕方ないなぁ、いいよ
ナルリースが理由を話した。
なぜエルフの王国に行きたくないのかはどうしても話せないという。それはリーリアを巻き込んでしまうかもしれないからだとか。
理由は話せない事を前提として置いた上で話しを続けた。
たどたどしくも、ゆっくりしっかりとした声で。
その内容を要約すると……。
子供の頃、この町で彷徨っているところをディランに拾われたと。
そして冒険者として強くなったが、今は伸び悩んでいるらしい。
でもどうしても強くなりたい、そう願っている。
昨日リーリアに言われて、いろいろと決心がついたんだとか。
だから俺の元で修行をしたいらしい。リーリアの強さをみて私もと思ったとか。
この話をディランにしたら、それは絶対に強くなると太鼓判を押したらしい。
無事強くなった暁にはお礼として王国へ必ず案内するということだった。
「だからお願い! あなたのお父さんの弟子にしてほしいの」
もう一度そう言うと黙ってしまった。
リーリアの瞳をじっと見つめている。こちらの反応待ちだ。
なるほどな。とにかく強くなりたいという信念が窺えた。
別に異論はない。
誰にだってどうしても話したくないことはある。
それに俺の事情をしっているディランが進めたのだ。あいつは強引で大雑把だが頭はいい。ナルリースを鍛える事が俺達にとってプラスになるのだろう。
ナルリースというライバルが増えるのもリーリアにとってプラスになると思えた。
俺とリヴァイアサンだけでは実力が上すぎる。その点、ナルリースならお互い切磋琢磨して技を磨きあえるのではないだろうか。
ナルリースは俺の封印を解く上で必須ともいえる重要な人物である。
ならば俺は自分のできることをして信頼を勝ち取らなくてはいけないだろう。
それはつまりナルリースを鍛える事だ。
……俺の決心は決まった。あとはリーリアの気持ちだけだ。
『俺はいいと思うがリーリアはどうだ?』
『うーん』
リーリアは考えていた。
しばらく唸っていたが、
「うん、いいよ。だけど条件がある」
「……なにかしら?」
リーリアはいつになく真剣な声で、
「お父さんは取らないでね」
「え!?」
身構えていたナルリースは素っ頓狂な声を上げてしまう。
ジェラとシャーロットも驚いたがすぐにニヤリとし、
「リーリアのお父さんはかっこいいのぉ?」
ニヤニヤしながらそう聞くシャーロット。
「うん、すごくかっこいいから不安」
なるほど。もてる男はつらいな!
俺もニヤニヤしてしまう。
「それはそれは、うぶなナルリースは大変かもしれないにゃ」
「まじめな話なの! からかわないでよ!」
顔を真っ赤にしてうつむいてしまうナルリース。
やばい、素直に可愛いと思ってしまった。
うーむ、これは俺も気を確かにもっていないとダメだな!
「むー、本当にダメだからね?」
本気で心配している子が一人いた。
話合いが終わり皆で冒険者ギルドのフロアへ下りてくると、そこにはディランがいた。
ナルリースと目で会話すると、フッと笑いギルド長室へと戻っていった。
ギルドにきてからすぐに呼ばれたので、依頼の報告をしていなかった。なので受付へと向かう。
受付カウンターには元気な受付嬢がいた。
「達成ですよね? なんと13匹も倒したとか!」
「うん!」
「さすがですね! では確認しますので、少々お待ちくださね!」
裏に引っ込むこと数十秒。木の器みたいなものにお金を入れて持ってきた。
「えっと、一匹500ゴールドとなりますので、全部で6500ゴールドなんですが、木の修復もしてくれたみたいなので追加で1000ゴールド上乗せしまして、7500ゴールドのお渡しとなります!!」
「わあ!」
結構いい稼ぎになったな。
しかし木の修復は証拠がないが大丈夫なのだろうか?
気になったのでリーリアに聞いてもらった。
「木の修復は確認しなくていいの?」
「ええ! あなた方を信じますよ~……といいたい所ですが、あとでこちらで確認します。もし虚偽の報告でしたらギルドポイントとお金を没収させてもらう事になりますので気をつけてくださいね!」
「うん、わかった」
「ふふっ素直ですね……それでは次にギルドポイントですが、今回130ポイント入りますので、リーリアさんのランクがGからFになりました! おめでとうございます!」
「やったー!」
ずいぶんと早いな。
でもそれもそうか。もともとDランクの依頼だからそのぶんポイントも高いんだろう。
ディランに感謝しなくてはな。
午後はリーリアの買い物をするということになった。
服が欲しいとナルリース達に相談したら。この町の服屋を紹介された。
というか一緒についていくと言ってくれた。
大変助かる。
こういうのは女性の方がセンスがあるしな。
町の中央広場付近にある店に入ると、そこは可愛らしい服が並んでいた。
「さて、今日は可愛い着せ替え人形を手に入れたにゃあ」
「そうだねえ、僕もワクワクしてきたよぉ!」
「うふふ、そうね。いいもので可愛いのを選びましょ」
わきわきと手を動かし、リーリアにせまる。
『お父さん! なんかこわい!』
『まあ……観念する事だ』
『えー!』
三人はあれじゃこれじゃないと子供用の服をあさりまくる。
そして選んだ服を着させようと試着室に入るのだが……。
「あにゃ? リーリア……下着つけてないのかにゃ?」
「したぎってなに?」
「「「!!!!!!」」」
三人共固まってしまった。
そしてそれぞれに顔を見合わせて「うん」と頷くと、
「あれね、下着を最初に選びましょう」
「リーリアのお父さんを悪く言うつもりはないけどれも、これだけはないにゃ」
「そうだねぇ、ないねえ」
「?」
すまなかった。
でも島だからそんなのないんだ。それは分かって欲しい。
リーリアはそれがどういうものか説明を受ける。そうして理解した。
その過程で、
『お父さん』
『うん?』
『ここからは覗いちゃダメ!!!』
『え?』
ビジョンを切られるのだった。
ちょくちょくとセレアと接触し、ビジョンが発動されているかチェックする。
そうして1時間後、リーリアと繋がった。
『終わったか?』
『うん、終わったよ』
リーリアの視線から見える姿は可愛らしいワンピース姿となっていた。
『どうどう?』
『うむ、すごく可愛いぞ! 早く俺自身の目でみたいぞ』
『やったー! よかった!』
服を選んだ三人もうんうんと頷いていた。
「それじゃあ次は冒険者の服ね」
「次も選び甲斐があるにゃ」
「あはは~腕がなるねぇ」
……これは時間がかかりそうだ。
少し遅めの昼食を取りつつ、冒険者の服も選び終わる。
実用的で動きやすい物となった。
私服と合わせて3万ゴールドだったが、それでもほぼほぼリヴァイアサンの鱗を売ったお金が残っているので余裕だ。
「あとは何を買うのにゃ?」
「武器が欲しい! 昨日精霊が宿ってそうな剣を見つけたんだ」
「へえ! それはすごいねぇ~」
「それは買うべきだわ。そんな武器はなかなか見つからないわよ」
露店通りへと入り、目当ての露店へと向かう。
そこには昨日と同じように目的のバゼラードが置いてあった。
「お譲ちゃんまた来たのかい? ……って妖精の輪舞曲じゃないかい! へへっ! いらっしゃいませ」
すりすりとゴマをする。
Bランク冒険者は上客だろうし仕方ないが、客によって態度を変えるとはけしからんやつだ。
「目的の剣はどれかにゃ?」
「うん、これだよ」
バゼラードを手に取る。
「なるほど、確かに良い剣ね」
「うん、業物って感じがするよ~ジェラはどう思う~?」
ジェラはバゼラードを手に取り、隅々まで確認する。
「いいと思うにゃ。これは有名なドワーフ職人による剣だにゃ。打ち方に特徴があって刃に現われてるにゃ」
すごい。
どうやらジェラは武器に関して詳しいらしい。
「まあ、そもそもいい武器には精霊が宿るにゃ。つまり精霊が宿っている武器を選べば間違いはないのにゃ」
うん、素人にとってこれほど分かりやすい説明はない。
この武器は買う事にしよう。
「へへっお目が高いようで! 40万ゴールドとなります」
「40万かにゃ……あたしが見たところ35万って感じがするけどにゃあ」
「これはこれは……失礼ですが輸送料も掛かっておりますのでこの値段になっているのですよ」
「いやあ、ドワーフ王国はここから南だしにゃあ……大陸が離れている訳でもにゃいから頻繁にやりとりがあるし、そんなに掛からないはずだけどにゃあ」
「いやいや、ははは。これは敵いませんな。では38万でどうでしょう?」
「こちらとしても36までが限界かにゃあ?」
「……わかりました。37万です! これ以上は赤字になってしまいます!」
「おっけーにゃ。37万で買うにゃ」
商談が成立した。
俺とリーリアだけでは値切り交渉は無理だったから大変ありがたい。
3万の差は大きい。
リーリアは37万ゴールドを支払いバゼラードをゲットする。
ついでにジェラは鞘も要求してそれもおまけでつけてくれた。
さすがである。
「ありがとうジェラ!」
「なに、いいってことにゃ! あたしたちもリーリアのお父さんにお世話になるんだしにゃ」
え?
今なんて?
「え? ジェラもシャーロットもうちにくるの?」
「あれ? 言ってなかったかにゃ?」
「僕が一番弱いんだよ~修行しないと皆についていけないよぉ」
まじか。
若い女の子達が島に来る……だと!?
「えー……」
案の定リーリアは不満そうな顔になった。
「大丈夫にゃ。あたしは戦いたいだけにゃ」
「うーん、それならいいけど……」
ジェラの性格が分かってるのだろう。
それなら仕方ないかと納得する。
「僕はリーリアのお父さんに興味あるけどなぁ……カッコいいっていうし」
「シャーロットはきちゃダメ」
「えぇ~そんなぁ!」
このあとシャーロットが必死になって説得したが、リーリアは頷かず最終的には僕だけ一人ぼっちはいやぁ! と泣いてしまったので仕方なく来る事を認めるのだった。




