233、セレアとミッシェル
二人の会話です。
「懐かしいですねミッシェル」
セレアは目の前に突然現れた存在に対して全く驚くことなく、むしろ友達のような感覚で接した。
「やっぱりセレアか」
ミッシェルもまた同じように接する。
「何万年ぶりだっけ?」
「私が自分の星を持つ前ですので50万年ほどでしょうか」
「ふーんそっか……あれ? 今ってこの場所はどこに繋がってるの?」
「私のダンジョンです」
「じゃあここにやってきたのは君の所の人なんだ」
「ちょっと違う子もいますけど。ふふふ、みんな可愛いでしょ?」
「それはよくわからないな……てか一人だけ明らかに違うのいるよね」
「まあそれは……いろいろ事情があるんですよ」
「へえ、どんな?」
セレアはこれまでの経緯を説明した。
「ふーん。大変だね」
「相変わらず他人事ですね」
「他人事だからね。まあ、そのおかげで今は楽しめてるから感謝しようかな」
「それも相変わらずですね。それを見越しての幽閉だったんでしょうけど……ちゃーんと反省はしたんでしょうね?」
「もちろんだよ。もう神殺しなんてしないよ。他に面白そうなことを見つけたしね」
「あなたが戦闘以外にですか? それは興味がありますね」
「うん、僕は恋がしてみたいんだ」
セレアは一瞬言葉の意味を理解できなかった。
「えっと……コイって……なんのコイですか? 私の知らない世界の言葉でしょうか?」
「え? 恋は恋だよ。恋愛ってやつ。僕はベアルと恋愛してみたいんだ」
「え…………ええぇぇぇぇぇええ!!! あなたがお父様と恋をしたいっていうんですかーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
「うん、だからそういって──あがががが」
セレアは今までに出したことのないような声で叫んだ。あまりに驚きすぎてミッシェルの肩をグラグラと思いっきり揺らしたのだった。
しばらく揺らした後、その言葉をようやく脳に伝達できたセレアはミッシェルの肩から手を離すのだった。
「……こほん、取り乱しました。それで……どうして恋したいって思ったんですか?」
「昨晩ベアルとナルリースが性行為をしてるところを見たんだけど何だか不思議な気持ちになってね。僕もしてみたいって思ったんだ。でも恋と性行為はイコールみたいでね。僕は人になることはできるんだけど、恋ってものが今一わからなくてね」
「な、なるほど」
「うん──って話きいてる?」
「正直言いますが、驚きすぎてあまり頭に入ってません」
「そんなに意外な事なの?」
セレアはロボットのようにコクコクと頷いた。
「そっか……まあそれはいいや。で、どうやったら恋が手に入れられるか知ってる?」
「は、はあ……そうですねぇ」
セレナは可愛く首を傾げてうーんうーんと唸る。
そもそもミッシェルは生殖器官を持っていない。
寿命という概念がない、まるで神のような生物なので必要がないのだ。
恋などという不確かなものを必要としないからこそ、一番理解できないものなのである。
そんな生物に恋というものを教えるという事は、セレアにはカオスを倒すことよりも難しいことに思えるのだった。
でも……いや……もしかしたら方法がないわけでもない。
同じく不確かな存在であるカオス。
そこから生まれた魔獣。
……レヴィア。
セレアは閃いたのだった。
「その顔は方法を思いついたようだね」
「はい。先ほど話したカオスという存在。これは生物そのものの形式を変えるものかもしれません」
「へえ」
「私の星にもともといた動物。これがカオスによって魔獣に変えられてしまったんですよ」
「どういった方法で?」
「カオスは私の星に根を張りました。その水分を吸い上げた植物を食べた動物が魔獣へと変異したのです」
「寄生生物とは違うんだね。まるまる変異させてしまうなんてどんな能力なんだろう」
「本当に恐ろしい能力ですよ。そのせいで私の世界のバランスは完全に崩壊してしまったんですから」
「でも人は大丈夫だったんだ」
「ええ……最近まではですけど」
「ああ、例のレヴィアってリヴァイアサンか」
「ええ、ついには魔獣が人を喰らって人に変異することになってしまいました」
そこまで聞いたミッシェルはさすがに気付いた。
「なるほどね。じゃあ僕はカオス体を食べてその力を手に入れてから人を喰らえばいいってわけね」
「そういうことになりますね」
「人を喰らうことに反対はしないんだ?」
「反対しても無駄でしょう? やけになって星を破壊されるよりはマシです」
「昔はそんなこともしたけど、今はしないよ」
「本当ですかね……まあ、今話したこともここから出られればの話ですけど」
そもそもミッシェルはここから出られないから一億年もいたわけだ。
既に全ての方法を試しているだろうし、今更出られるとも思えない。
「ああ、それなんだけど……きっと僕が死ぬことが10階層のゴールなんだよね?」
「ええ、そうだと思いますけど」
「なら大丈夫じゃないかな」
「どういうことです?」
セレアもミッシェルの全てを知ってるわけではない。
何か方法があるのだろうか。
「僕の種族は死ぬと魂が体を求めて自分の星に戻る仕組みになってるんだ。でもその道のりは物凄く長くてね。体を手に入れて戻ってくる頃には数千年後になっちゃってるんじゃないかな。さすがにそれは勘弁だからね。だから魂が戻らないようにベアルに僕とそっくりの体を作ってもらおうと思ってる」
「そ、そんな仕組みになっていたんですか」
衝撃の事実だ。
「そんな重大な事実を軽々と言ってしまって大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫だよ。僕の地元じゃ有名なことだしね」
「そうなんですね……っていうかさらっと流しちゃいましたけど、お父様に頼むのですか?」
「うん、ベアルならできるでしょ。この体だってそうだし、なんといっても──」
「──あっ!!! それ以上はダメです!」
セレアの小さい手ではまったくサイズが違うのだが、必死にミッシェルの口を塞いだ。
ミッシェルのセレアの意図が分かったので大人しく黙ることにした。
セレアは軽く睨みながらその手を離した。
「変なことを言わないでください。もし言ってたらどんなお仕置きを受けたかわかりませんよ?」
「うん、そうかもね。あのお方が何もしないなんてありえないもんね」
「そうですよ。 ……まあお父様ならできるというのは同意です。ですがお父様が納得して手を貸してくれるでしょうか?」
「それなら大丈夫だよ。秘策があるんだ」
「それは何でしょうか?」
セレアが首を傾げる。
ミッシェルは口を思い切り釣り上げた。
「交換条件だよ」




