232、なんの協力なのか
「俺の協力だと?」
「そう、その為にも修行を頑張ってもらわないとね」
「お前と戦う必要がなくなったってことでいいのか?」
「いや、戦うよ? それはそれで楽しみにしてるから」
「いいのか? 俺はお前を殺してしまうぞ」
「うん、できるものならね?」
いまいち会話が噛み合ってない。
殺してしまうのにここから出るとはどういうことだ?
「要領を得ないな」
「今は分からなくてもいいよ。結局はベアルが強くならなければ意味がないしね」
「ほう……」
つまり俺が神霊力をどれだけ極められるかにかかってるということか。
「そもそもミッシェルに協力しないかもしれないぞ」
「ふふふ、ベアルは僕に協力してくれるよ」
「何故そんなことが言い切れる?」
「それは試合の日までのお楽しみだよ」
「……ちっ! もったいぶるな」
こういう答えは好きではない。
だが今の俺は弱者である。俺も弱者に対してこういう態度はとっていた。
ならば今はこの状態を受け入れるしかない。
それに正直、俺としてはミッシェルに協力していいと思っている。
さすがに一億年もここに閉じ込められているというのは同情するし、性格も嫌いじゃない。むしろ面白い奴だと思う。
「いいだろう。今はお望み通り強くなってやろうじゃないか」
「ふふふ、頼もしいね」
満足そうに腕を組み頷くミッシェル。
心なしか顔がゆらゆらと軽快に揺れている。
楽しそうにしているのがありありと伝わる。
その様子を見たらどうしても聞きたいことができてしまった。
「……お前は本当に恋や性行為に興味があるだけなのか? それだけにしては執着しすぎな気がするが」
そういうとミッシェルの動きが止まった。
目のない顔でゆっくりと俺の顔に近づけてきた。
「うーん実は僕もよくわからないんだ。でもベアルの顔を見てるとどうしてか恋が知りたいし、人の心も欲しい。不思議だよね」
「謎だな」
結局わからんということか。
まあ、どっちでもいいが、人の心を知ったミッシェルがどうなるのかはちょっと興味があるな。
「よし、切り替えて修行を再開するとするか。今度はナルリースに手伝ってもらおうと思う」
「私でよければよろこんでお手伝いします!」
「じゃあ服を全部脱いで立ってくれ。服を作りたいんだ」
俺の言葉にナルリースは笑顔のまま固まった。
「……えっと? なんていいましたか?」
「服を作りたいんだ」
「その前です」
「全裸で立ってくれ」
「なんでですかーーーー!!!」
思わず大声で叫ぶナルリース。
うん、素晴らしいツッコミだ。
「話を聞いてただろ? 物づくりの練習として服を製作しようと思ってるんだ。だから全裸で立てといっている」
「全裸である必要がないじゃないですかっ! 普通に服を作ってくれれば着替えますから」
「いや、いちいち脱いで着てを繰り返したら時間がかかるだろ? お前の体に直接着させてやる」
「うぅ……」
「時間がないんだ。早くしてくれ」
「で、でも……」
ちらちらとミッシェルの様子を窺う。
「あ、僕に構わずどうぞ」
「そこにいられると嫌なんです!!!」
おっ? ナルリースがとうとうはっきりと嫌といったな。
ミッシェルの存在にも慣れてきたようだ。
「ん~でも僕はアドバイスとかできるから君より有用だと思うけど? あー、なんなら僕がナルリースの姿で裸で立ってようか?」
「あ~、まあそれでもいい──」
「──待ってください!!」
俺の言葉を遮ってナルリースが叫ぶ。
既に顔は真っ赤だ。
「わかりましたっ! わかりましたから!! ミッシェルさんは私の姿をしないでください!! 私がベアルさんの練習に付き合いますから!」
どうやらナルリースは観念したようだ。
恥ずかしそうにしているナルリースは本当に可愛い。
だからこそナルリースに付き合って欲しかった。
ミッシェルが変身した姿だと俺のやる気は1割にも満たなかっただろう。
「よーし! さっそく練習を開始しようか!」
「なんでそんなに嬉しそうなんですかっ!!」
ナルリースの抗議の声も虚しく、練習が開始されたのだった。




