229、神霊力
「では早速頼む。時間が無いからな」
「なんか教わる立場のくせに偉そうな奴だな」
「コツだけ教わったらすぐにでも仲間を集めたいんだよ」
「ああ、各地に散らばってるお前の仲間か」
「お前って言うな。俺の名前はベアルだ」
「……僕はミッシェル」
「そうか。ミッシェルは俺の仲間がどこにいるのかわかるのか?」
「わかるよ。一億年もここにいたんだよ? ここは僕の庭みたいなものさ」
ミッシェルはそう言うとエッヘンと腰に手を当てた。
「ならば俺に神力のコツを教え終わったら、向こうの果てにいるナルリースという仲間をここに連れてきて欲しい。あいつはここのモンスターもきついからな」
「……いや、なんで僕がそんなことをしなくちゃいけないんだよ」
「ミッシェルが3日って言ったんだぞ? 訓練しなくちゃいけないだろ」
「なんで偉そうなんだよ! ていうか神力のコツさえつかめば一瞬でそのナルリースっていうやつの所までいけるようになるから自分で行け。ていうかそれすらもできないなら才能ないから諦めな」
「ほう、そうなのか……ならばさっさとコツを教えろ」
「だからなんで偉そうなんだよ!」
ミッシェルは腰に手を当てて怒ってるような口調で話をしている。だがその口元はにやけているように見えた。
……なんだかこいつが可愛く思えてきた。
人ですらなく、さらには格上の相手なのにこんなことを思うのはとても不思議な気分だ。
「じゃあさっさと教えるけど……とりあえず形にして出して見せてあげる」
ミッシェルはそう言うと手の平に虹色の球を出して見せた。
「これが神力の真の力『神霊力』っていうんだ。それじゃまずは──」
「なるほど、できたぞ」
「え?」
俺は見様見まねで手のひらに同じようにして虹色の球を出した。
「え? えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?」
あまりに驚いたのか、ミッシェルは俺の出した『神霊力』を間近でジロジロを見出した。
「ほ、本当にできてる……なんで?」
「見て出来たんだが?」
「いやいやいや! そんな人いないだろ!」
「ここにいる」
「いやでも確かに……出来てるんだよなあ……」
まあ実際は見ただけでできたわけではない。
ミッシェルに攻撃をくらった時に、その未知の性質を分析していたのだ。それで実際に見せてもらって確信が持てた。ああ、俺の分析は合っていたと。
「この力は神の中でも選ばれた者しか使えない……んだけどなぁ……」
「じゃあ俺は選ばれた神の中の神ってわけだ」
「……なんか気に入らないな……僕だって使えるようになるまでかなりの敵や神を倒してきたのに……途中死にそうな思いも…………」
ミッシェルは放心してブツブツと何かを言っているようだが俺には時間が無い。
さっさとこの力を活用できるようにしなければ。
「とりあえず移動に使えるようにしてみるか……フェニックスモード!」
形や大きさが微妙に違う虹色の翼が背中に生えた。
不安定な制御だったが一応完成だ。
「よし……あとは移動しながら練習だな。じゃあいってくるわ」
「……え、あ……うん」
まだ放心しているミッシェルを放置して俺は飛びだった。
「くはっ!! これは速い!!!」
新たなフェニックスモード……レインボーフェニックスとでも名付けようか。
レインボーフェニックスはとんでもなく速かった。
さらにクイックを使っているということもあって、みるみるうちにナルリースの元へと近づいていた。
その時間、わずか5分。
まだ慣れてないのにこのスピードはもはや神の領域。
あまりに速すぎてナルリースのいる場所を通り過ぎてしまったほどだ。
「え、ええ? ベアルさん!? なんでここに!」
ナルリースも指輪の力を使っているから俺の位置は分かっていた。だからこそ混乱していた。
「話せば長く……ならんな。とりあえず戻ってる間に話そう」
「わかりました────きゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
あまりの速度に会話をする余裕はなかった。
ナルリースの絶叫だけがこだました。
「ただいま」
「ああ、おかえり」
「きゅうぅぅぅ」
背中でぐったりしているナルリース。
自身を神力で守っていたようだがあのスピードには耐えられなかったらしい。
「背中の子がナルリースって子?」
「そうだ。可愛いだろ?」
「よくわからないな」
「それもそうか。目がないんだもんな」
「いや? 姿形はわかってるよ? 可愛いっていう感覚がわからないだけ」
「そうなのか……もしかしてそれも神霊力の力なのか?」
「ううん、これは僕の特性……おや? その子の中に新しい命があるね?」
「そんなこともわかるのか」
「うん。どうやら女の子のようだね」
「おお! 女の子なのか! 絶対可愛いだろうなあ! 楽しみだ!」
「まあそれも僕に勝てたらだけどね?」
「俺が負けるとでも?」
「さっきボロ負けしたのもう忘れたの?」
……さて、そろそろミッシェルは無視して訓練をしよう。
ナルリースは気絶をしているので横にしてあげなければ。
俺は石のベッドを作り出した。
だがそこでふと良い考えが浮かんだ。
「もしかしたら神霊力なら……」
神力はどんな魔法でも創り出せた。
ならば神霊力は?
俺はベッドを想像して神霊力を練り上げる。
頭の中にベッドの形を思い浮かべ、それに合わせて神霊力も形作っていく。
……しかし。
「ダメだ」
失敗だ。
形作った神霊力はベッドそのものにならず、ただの神霊力としてそこに残った。
「そんな漠然としたものじゃダメだよ。もっと──」
見守っていたミッシェルが口を挟んできたが、俺はミッシェルの方を向き人差し指を口に添える。
「分かっている。次やろうと思ってた」
「……負けず嫌い」
ミッシェルは呆れた口調だったが、本当に次やろうと思ってたんだ……本当だぞ?
俺は神経を集中させ、ベッドの素材を想像する。
土台は木がいい。あとは布団だが羽毛でいいだろう。
それぞれの素材を決めて、まずはベッドの土台となる部分を神霊力で形作る。
すると、木の枠組みでできたベッドの土台が完成した。
よし、次は布団だ。
同じ要領で布団も難なく作り出すことができた。
「ふふ、やはりそうか。作る物の素材が分かってないとダメってことだな」
俺が宿で使っていた少し大きめのダブルベッドを再現した。
ナルリースをそこに寝かしつける。
「……もうそこまでできちゃうんだ」
ミッシェルはぼそりとそう言った。
「3日も与えてしまったことを後悔したか?」
「ふんっまさか! 僕なら一瞬で出来るし」
「ふふふ、そこで震えて待ってろ」
「……本当にベアルは偉そうだな」
そう言いながらもミッシェルは嬉しそうだった。
俺なら3日後には対等に戦えるとこれで確信したようだ。
俺も俺で格上の相手と戦うのは久しぶりで楽しくなってきた。
さあ、どんどん訓練しないとな。
─
数時間が経過した。時間的に夜といったところだろう。
途中ナルリースが起きて、ミッシェルを見て再び失神しそうになっていた。
経緯を説明をするとなんとか意識を保つことができたが、ミッシェルと会話をすることは不可能だった。それくらい格の違う相手で近寄っただけで震えが止まらなくなり呼吸ができなくなるのだとか。
仕方ないので遠く離れた場所から俺の訓練を見守ってくれていた。
ミッシェルは俺の近くで無駄にしゃべりながら修行の邪魔をしてきた。
まあ本人は邪魔をしているつもりはないのだろう。とにかく話す相手がいるのが楽しくて仕方ないようだ。
途中、何か面白いのを見つけたようでどこかに出かけたようだがすぐに戻ってきた。
俺の仲間には手を出さないことになっているので、心配はしていないのだが一応指輪の力で確かめて見ると、ミッシェルがいない間、止まっていたのはセレアだった。
何かの会話をしたようだが……まあセレアはうろつくものを知っていたし知り合いだとしてもおかしくはない。会話の内容は気にしないようにしよう。
今は修行の疲れを癒すためにナルリースと同じベッドで寝ている。
久しぶりにかなり疲れていた。それだけ神霊力が強力な力ということだろう。
……うん、まあ、疲れてはいるんだが寝る前の運動はした。そこは譲れないところだ。
こんな時にとナルリースは呆れていたが、いつもと違う環境だったので互いにいい刺激になったのは間違いない。
ちなみにミッシェルは俺達の行為に興味津々だったようでずっと見ていた。
ナルリースはすごい嫌そうだったけど、俺はすごくよかった。癖になりそうだ。
だが、寝て起きた後。
とても大変なことになっていたのだった。




