227、10階層
それから二日後。
俺たちはデカい鞄を背負って9階層の階層魔法陣の前まで来ていた。
この鞄の中には大量の食糧や魔力ポーションが入っている。
「確かに改めて見ると、一人で乗るには大きすぎるな」
この階の階層魔法陣は大きいこともさることながら、描かれている模様や文字がさらに複雑化されている。ちなみに描かれてる文字はこの世界の言語ではない。研究すればいずれ分かるようになるのかも知れないが、今は一旦置いておこう。
「リーリア、分かってるな?」
「うん! とにかく急いでナルリースかシャロに合流する」
「ああそうだ」
俺たちの大まかな作戦はこうだ。
まず、指輪の力を使ってナルリースとシャロの位置を特定し、優先的に向かう。
合流出来たら順次他の皆と合流する。
一人の時はなるべくモンスターと戦わず力を温存する。うろつくものは全力で逃げる。
全員そろったら、一体ずつうろつくものを倒す。
とまあ大まかに説明するとこんな感じだ。
何がともあれ一番弱いナルリースとシャロと合流。
いかに早く合流できるかがカギである。
「僕が弱いばっかりにごめんね~」
「私もよ……情けないわ」
シャロとナルリースが申し訳なさそうにしている。
「気にするな。むしろ10階層攻略を手伝ってくれて感謝する」
そもそも実力の足りていない二人を説得して連れてきたのは俺だ。もし何があっても俺の責任。断じて二人が弱いからではない。
リーリアも俺と同じ考えで早く攻略がしたかった。それは間近でカオスを見たものだけが感じた圧倒的な恐怖が忘れられないのだ。あの存在に近づくためには過酷な環境で修行をしなければならない。そのためには10階層攻略が必要不可欠だった。
同じくナルリースもそれが分かっているために危ないからと言って10階層攻略を反対できなかった。むしろこのまま攻略を長引かせることはデメリットでしかなく、後の祭りとなってしまう可能性が高いと考えていた。
「はい……私を……ううん、私たちをよろしくお願いします」
ナルリースはお腹を押さえながらそう言った。
──そう、ナルリースにも子供ができたのだ。
これでシャロに続いて二人目だ。
「ああ、お前とお腹の子は必ず守ってやるから」
「ベアルさん……」
がっしりと抱き合う俺とナルリース。
そんな俺達をじーっと見つめる視線があった。
「いや、僕とお腹の子も守ってほしいんだけど~」
「もちろんだ。シャロも必ず守る」
「えへへ~よろしくね」
「大丈夫! 私もいるから!」
リーリアがシャロのお腹を優しく触れてそう言った。
「心配するでない。我もすぐに合流してやる。だから少しの間逃げてればいいのだ」
「そうだにゃ。あたしがいくまで死ぬにゃよ」
「縁起が悪いわね……まあ、この世界より2倍は広いのよね? うろつくものにさえ出会わなければ大丈夫よ」
「そうだぞ! 普通のモンスターくらいなら何とかなるだろ!」
皆も心配はしているが悲観はしていない。
特にレヴィアとジェラは楽しみで仕方ないといった様子だ。
サリサとアナスタシアは緊張しているようだが。
「いやあぁ~レヴィアとジェラとサリサは頼もしいけど、僕に負けたアナスタシアが言っても説得力がないよぉ……」
「な、なんだと!!」
きゃきゃとふざけるように絡み合う二人。
まったくこいつらはほうっておくとすぐにじゃれ合うな。
「二人ともそこまでだ。10階層にいくぞ!」
「「はーい」」
「ッとその前に準備をすることにしよう──クイック!」
俺は全員にクイックの魔法をかけた。
これで皆の時間の流れが2倍速となる。
「おぉこれが噂のクイックか!」
「レヴィアには初めてかけるがお前ならすぐに対応できるだろう」
「うむ、まかせるのだ!」
準備を終え一人ずつ魔法陣の中に入っていく。
最後の一人……シャロが足を踏み入れた。
中に入って3秒経過後、視界が歪む。
─
「ここは……」
視界は真っ暗ではなかった。
辺り一面には満天の星空が。
足元には青と緑の美しい巨大な物体があった。
だがそれに乗れるという事はない。かといって自分が浮遊しているという実感もない。足は地面のようなものについている。少し歩いてみたが景色はまるで変わらない。距離感がおかしくなりそうな場所だ。
「ここが宇宙という所か……っとさっさと合流しなければ」
本来の目的を思い出し指輪に魔力を込める。
「……やはり広いな」
8つの色の気配が広大なマップの隅々まで散っていることがわかった。
一番近くにいるアナスタシアでさえ全力で飛んでも3時間はかかる。
「リーリアの位置は……」
ここからかなり遠い。
俺が全力でとばしても丸一日はかかるんではないだろうか。
……だがそれでいい。
近かったら分担効率が悪くなってしまうからな。
そして喜ばしいことにリーリアとシャロの距離はかなり近かった。シャロはリーリアにまかせてもいいだろう。
それに引き換えナルリースは微妙な位置にいる。
近い仲間はサリサとジェラだがそれでも半日はかかりそうだ。
これはすぐにでもナルリースの元へと向かった方がいい……のだが。
「ちっ──この気配は!!」
強力な気配が猛スピードで俺の元へとやってきていた。
そのスピードは俺のフェニックスモード改よりも速く、あっという間に俺の真上までそいつはやってきた。
──片翼の白い人型モンスター。
顔と思われる部分は大きく裂けた口だけが主張しており、体の部分は薄白く発光している。翼は妙にリアルでまるで天使の羽のように神々しかった。
そいつは俺を視認すると、大きく裂けた口角がさらに上がった。
「大当たりだ」
そいつの神力が爆発的に跳ね上がる。
体から溢れ出る神力だけで、鳥肌が立つほどすさまじい力だ。
これは全力で対応しないとやられる。俺はそう判断した。
「いい判断だ」
上から目線なのがムカつくが言い返す余裕がなかった。
全神経を集中させ、神力を全身の細胞一つ一つまで行き渡らせる。
すべてを強化させるまで数秒もかからなかったが、目の前の存在は終わった瞬間を見極めてこう言った。
「楽しい殺し合いができそうだ」




