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225、リーリアの力



 セレアが魔法陣に魔力を流すと、光が立ち昇るように輝き4人を包み込んだ。

 幻想的な淡い光の粒が辺りを舞う。特に4人の体から光の粒が大量に放出されていた。魔法陣の中がまるで霧のようにぼんやりとした後、眩い光が辺り一面を照らした。

 光が収まる刹那、4人が立っていた場所には小さな苗が生えていた。その苗はグネグネとうねる様に急激に成長していった。

 あっという間に見上げるほどの大樹となり黄金色の葉っぱを大量につけたのだった。


「こ、これは圧巻だな」


 さすがの俺も他に言葉が見つからなかった。

 他の皆も同じだったのかもしれない。

 大樹から目を離せなかったので分からないが、他の皆の声は聞こえなかった。

 それほどまでに神秘的で圧倒的な現象だったからだ。


 それから数秒のだったのか、数分だったのかは分からない。

 枝からモコモコと何かができ始めていた。

 果物の木が実をつけるように、黄金の大樹は人をつけるのだ。

 人の形をしたものは次第にくっきりとその姿が分かるようになってきた。

 あれは……ナルリースだ!

 ナルリースが元の形をそのまま体現してり、枝に包まれるようにしてゆっくりと地面に下りてきた。

 地面に着地すると、するすると枝が剝がれていき、床に横たわったナルリースがそこに残された。

 俺はすぐに駆けよってナルリースを抱きかかえ、口元に耳を傾けた。

 ……うん、息をしている。ただ眠っているだけのようだ。


 その後、アナスタシアとレヴィアも同じようにして生まれ落ちた。

 3人を生み落とした大樹は役目を終えたとでも言うように、葉っぱが一気にドサっと落ちた。そして時間が巻き戻ったかのように木が縮んでいく。

 ある程度縮んだ後、また幻想的な淡い光の粒が辺りを舞った。それが霧のように濃くなったかと思ったら、強烈な光が爆発したかのように辺りに散った。


「リーリア!!」


 俺は魔方陣の中に入る。

 そこには横になって倒れているリーリアがいた。

 慌てて抱きかかえて息を確認する。すると3人と同じくスースーと緩やかな寝息が聞こえてきた。

 俺はホッと胸を撫でおろした。


「お父様、成功ですわ!」

「ああ、そうみたいだな」


 リーリアの中から凄まじい力を感じる。

 ていうかもしかしたら俺の力に匹敵するかもしれない。

 ……まあ、何がともあれ成功してよかった。


「よくやったなセレア」

「うふふ、お父様に褒められちゃった。頑張ったかいがありますわ」




 その後、裸だった4人を女性たちが服を着させていた。

 俺もやろうとしたのだが、こういうのは女たちがやるものだからと言われてしまったので大人しく従うことにした。

 それから数時間後、最初にリーリアが目を覚ました。


「ふわぁぁ……あれ、ここって……」

「おはようリーリア」

「~~~~っ! お、お父さん!?」


 リーリアが気持ちよく寝られるように抱きかかえるようにして体にすっぽりと納めていた。それにこうしていれば目が覚めたときにすぐ気づけるしな。

 目覚めた瞬間に俺の顔が目の前にあるものだから驚いたようだ。眼を丸くして固まってしまっている。


「ふふっ」


 可愛い表情が見れて思わず笑みがこぼれてしまった。

 するとリーリアがムッと頬を膨らませる。


「お父さんの変態! 女の子の寝顔を見るのはいけないんだよ!」

「へ、変態!?」

「うん! だから罰としてこのまましばらく抱っこしてなくちゃいけない刑ね」

「あ、ああわかったよ」


 どうやらとんでもない犯罪を犯していたようだ。

 刑が楽なもので助かった。

 しばらくおしゃべりしながらまったりと過ごしていたら、シャロが近づいてきた。


「やあやあ~邪魔してごめんね~。でも報告。ナルリース達が目覚めたよ~」


 3人は草むらの木陰で仲良く並んで寝させられていたのだが、見てみると3人とも起き上がっていた。


「ああ、了解だ。それじゃあ行こうかリーリア」

「まだ刑の時間は終わってないからこのまま抱っこしていって」

「罰だから仕方ないな」

「うん!」


 俺はリーリアをお姫様抱っこして立ち上がると皆の元へと歩いた。



 3人ともそれぞれ、能力が落ちてるとか、体に変化があるということは無いようだった。

 むしろ、肌が綺麗になったとか、ちょっとした傷が消えてるとか良いこと尽くしだったようで、他の女性たちから羨ましがられていた。

 ただレヴィアだけは何故か真面目な顔をしているのだった。


「どうしたレヴィア?」

「ん……ああ、ベアルか……いや、まあ大したことではないのだが……」

「そんな顔には見えないが?」

「そう見えてしまったか……なに、ただもうリヴァイアサンの体にはなれなくなったってだけのことだ」

「そうなのか!!?」

「うむ。どうやら完全に人の体として生まれた様だ。今までのように人魔獣としての力は失ったかもしれない」


 レヴィアが懸念していることは今の能力ではない。これから成長するにあたって魔獣だった時の頃の能力が失われていないか心配なのだ。特に爆食による能力の上昇と超再生能力などだ。


「それについては大丈夫ですよ」


 セレアが微笑みながらそう言った。


「能力が失われることはありません。確かにリヴァイアサンの体にはなれなくなってしまいました。それはそもそも人魔獣というものがこの世界の理にないものでしたから。でも安心してください。レヴィアが今までと同じように戦闘を行えるように、『スキル』としてあなたの中に残りました」

「スキル? 聞きなれない言葉だな。技や魔法とは違うのか?」


 剣技、斧技、拳技などなど武器に関する技はいっぱいある。その他にも鑑定など道具の魔法や俺の黒い炎など異世界の魔法はあるのだが……スキルというのは聞いたことがない。


「スキルとはこの世界でいう神の力とか特殊な力の事で、魔法とも違う特定の事に特化した能力のことをいいます。例えばレヴィアの『超再生』も他の世界ではスキルと呼ばれているのですわ」

「なるほど。この世界では滅多に見られない力だから名前が無かったが、他の世界では一般的にある能力なのだな?」

「さすがお父様。その通りです」


 この世界でスキルを持っているのは魔獣とほんのごく一部の人だけだ。だからこそその力に名前を付けようとする者がいなかった。魔獣が変な力を使えるのは魔獣だからという固定概念が名付けの邪魔をしていたわけだ。

 

「なるほどな……ふむ、なかなかに面白い」

「おいベアル! 我に分かるように説明しろ! つまりどういうことだ?」


 レヴィアが袖を引っ張って聞いてくる。

 頭の整理が追いつかなかったようだ。

 

「つまりリヴァイアサンになれないだけで、今まで通り力を発揮できるということだ」

「おお、そうか! それはよかったのだ!!」


 レヴィアはホッとした表情を見せた後、腕を組んでうんうんと頷いた。


「これで能力が下がったとか言われたらセレアを恨むところだった。我もまだまだ強くならねばならぬからな」

「そうだな。今回の儀式でリーリアとの間に随分と力の差ができてしまったしな」

「む……それは我も気になってはいた」


 皆の視線がリーリアへと移動する。

 実は皆も気になっていたのだ。


「私もすごく気になるよ」


 実は本人もよく分かっていなかった。すごい力を手に入れたのは分かったけど、実際に使ってみなくては何とも言えないのだ。

 ……ならば、と俺は一つ提案する。


「それならこれからお父さんと模擬戦でもしてみるか?」

「えっ! いいの!?」

「ああ、さすがに自分の実力も分からずに10階層に行くには無謀だからな」

「やったー! お父さん大好き!」


 そう言いながら早速剣を構えるリーリア。

 早く力を試したくてうずうずしていたのだ。


「まあ落ち着きなさい。まずは神力をちゃんと扱えるか試してみるんだ」

「うん分かった!」


 眼を閉じて神経を集中するリーリア。

 すると膨大な神力が濁流の如く体の中を巡っているのが分かった。

 リーリアは慌てることなく徐々に収めていき、濁流は細流へと変わっていった。

 

「大丈夫そうだな」

「うん! 魔力と同じようにやれそう!」


 早速リーリアは右手の九星剣へと神力を込める。

 九星剣は神力をみるみる吸収していき、内部から黄緑色光があふれ出す。その光は九星剣を覆うようにして膜を張る。その見た目はまるでセレアソードのようであった。


「すごい! これは殆どセレアソードだね!」

「なるほど……九星剣の本来の使い方がそれというわけだな」

「うん! しかもこれ……ほらお父さん見て!!」


 リーリアは込める神力に強弱をつけると、九星剣は長くなったり短くなったり、さらには曲げたりすることも可能なようだった。

 

「変幻自在だな」

「うん、ちょっと楽しい」


 傍から見ると簡単に操っているようにみえるが実際は物凄く難しい。かなり繊細な神力操作と込める神力の微妙な調整をしてようやくなしえている技なのだ。

 この中でそれをできるのは俺とリーリアだけだろう。

 子供のころから身に付けてきた魔力操作がここでようやく真の力を発揮したのだ。

 俺は一人で感慨に浸っていた。

 ……ちょっと涙がでてきたかも。


「ねえ……リーリア。宝石が……」


 何やら他の皆がざわざわとしている。

 俺は何事かともう一度じっくり九星剣の鍔部分を見てみた。

 すると鍔についている宝石が赤色に光っていた。


「赤だとっ!!?」

「え……噓でしょ!?」


 その輝きをみたレヴィアとサリサが声を上げる。


「確か前やった時、リーリアは青でしたよね?」

「べーさんが橙色だったっけ?」

「次の色が確か赤だったかにゃ?」


 3人娘が言うように九星剣は持ち主の力を量る能力がある。弱い順で無色、紫、藍、青、緑、黄、橙、赤、虹という順だ。

 宝石が赤く光ったということはリーリアの力はあの時の俺を超えていることになる。


「凄いじゃないかリーリア。ベアルを超えているぞ」


 アナスタシアが嬉しそうにはしゃいでいる。

 だが当の本人はあまり嬉しそうではなかった。


「……うーん、でもこれは実力で得たものじゃないし。それにまだまだお父さんには勝てる気がしないよ」

「ああ、そうだな。力が全てではない。それを今から教えてやろう」

「うん! よろしくお願いしますっ!」


 ……リーリアが力におごらないように言ったのだが。やはりリーリアは賢い子だった。力と技と戦略が全て組み合わさってようやく実力となるのだとしっかり分かっているのだ。

 さて……ここは父親として負けるわけにはいかないな。

 俺は初めて戦いというものに少しのプレッシャーを感じていた。

 この実力の相手ならワクワクするところなのだが……相手がリーリアとなるとさすがにドキドキする。

 負けるとは思ってはないがみっともない戦いは出来ない。

 俺の父親としてのプライドをかけた戦いが始まるのだった。



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