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224、集結の儀


「うろつくものだと……ここにきてそんなものが現れるとは……どうすればいいのだ」

「あたしも強くなったつもりだったけどにゃあ……救いはダンナよりは弱いってことかにゃ? いにゃいにゃ、そもそもダンナまで実力の差が遠すぎて分からないにゃあ……」


 さすがのレヴィアとジェラもショックを隠しきれていないようだ。

 他の皆は既に言葉すら出せなくなっていた。それほどまでに非現実的で理解不能なことなのだ。

 

「ねえお父さん、セレア。もう方法はあれしか残ってないんじゃない?」


 リーリアだけは力強い眼を向けている。

 諦めなど知らない。むしろ自身気に笑っている。

 どうやら俺と同じことを思っているようだ。

 さすが俺の娘である。


「そうだな……ついに【セレアの種】を集結させる時が来たのかもしれないな」

「うん!」

「ま、待ってください! いきなりそんなことを言われても!」


 セレアが焦って俺達を引き留める。

 

「セレアの気持ちもわかるぞ。【セレアの種】は言わばおまえの歴史だ。1万年もの間代々引き継ぎ育ててきた大事な大事なものだ。だから慎重に行いたいと思うのは当然のことだ…………だけど俺は今こそがその時だと思っているぞ」


 リーリアもうんと頷く。


「セレアが今まで頑張ってきたのは知ってるよ。この世界を見守り続けて守ってきたことも……でも同時に分かってもいるでしょ? このままではカオスどころか10階層も攻略できないって」

「そ、それはそうなのですが……で、でも計画ではカオスを倒す直前と……」

「セレア……」


 俺は再びセレアを引き寄せて抱きしめてやる。


「あっ……」

「大丈夫だ……俺がゆるそう」

「お父様……」


 俺はしばらくの間、何も言わずにセレアを抱きしめ続けた。





「分かりました。【セレアの種】を集結させてしまいましょう」


 セレアは決断をした。それはとても辛い決断だっただろう。

 なんせ1万年前からの計画である。この決断が失敗だったとしたら世界が終わるのである。


「ただし、これは不完全な集結となります。まずお父様の【セレアの種】はなくなってしまいました。ナルリースとアナスタシア、そしてレヴィアの【セレアの種】はありますが、理論値まで魔力がたまっていません」


 酷い状態だ。そもそも俺が結界を破壊するために種を解放してしまったのが最初の問題なのだ。まあ、後悔はしてないんだけどな。


「なので【セレアの種】を集結させたとしても……カオスを倒せるほどの力は得られないでしょう……でも!!」


 セレアはキリっと前を向いて宣言する。


「わたくしはお父様を、リーリアを……そして皆さんを信じることにします! 絶対にカオスを倒してくれると」

「ああ、まかせろ」

「うん! 絶対に倒すよ!」


 俺とリーリアは力強く頷いた。


「ふははは! 我ももっと強くなって必ず力になってやるぞ!」

「あたしもカオスとやるのが楽しみだにゃ!」


 レヴィアとジェラもやる気満々だ。


「南の魔王の名に恥じぬ戦いをしてあげるわ」

「私は勇者だからな! 悪を倒すのは当然だ!!」


 サリサとアナスタシアも気合は十分だ。


「私は邪魔をしないように頑張ります……」

「僕は元気な赤ちゃんを産むね~」


 ナルリースは弱気に。シャロは他の目的を頑張るようだ。


 さすがにその日は遅いからという理由で儀式は翌日に行うことになった。

 場所はどこでもいいようだが、何があるか分からないのでいつも通りダンジョンの5階層で行うことにした。



 ─



「では、【セレアの種】集結の儀を行いますので、リーリアを中心に3人はここに立ってください」


 床に描かれた魔法陣の中でリーリア、ナルリース、アナスタシア、レヴィアの4人は特定の位置についた。


「この魔法陣はセレアの種に直接働きかける術式が描かれています。わたくしが魔力を流すとあなたたちの中に眠っている種が発芽します」

「……一つ質問があるのだが」

 

 アナスタシアが赤い顔をしながら挙手をした。


「なんでしょうか?」

「……なんでこんな薄い服を着させられているんだ? これではまるで奴隷のようではないか」


 4人の恰好は薄い白のワンピース一枚だけというシンプルな姿だ。

 服の生地が良い物なので奴隷というよりは生贄だろうか。

 まあ、そう思われても仕方ないくらいに質素な姿なのだ。


「コホン! それを今から説明します。まず、ここにいる全員に忠告しなくてはいけないことがあります。種が発芽するとリーリアを軸として4人は一本の巨大な大樹となります。姿形が変わりますが慌てないでください」

「大樹になるだと!?」

「か、体がなくなるの?」

「痛くないのかな?」


 ざわざわとする儀式の当事者。

 すぐにセレアが説明を再開する。


「巨大な一本の大樹となり、やがてナルリース、アナスタシア、レヴィアは実となって生まれ変わります」

「実って……」

「それは大丈夫なのか?」

「記憶とかは残るんですよね?」


 不安がる3人。

 それは当然だ。

 今説明された内容では不安しかないからな。


「安心してください。記憶と能力は全く同じです。むしろ良いことの方が多いですよ? 肌は若返るし古傷は消えます。ご要望があれば体の一部を少し変えることもできますよ」


 この言葉に誰よりも反応した者がいた。


「そ、それって胸を大きくすることも可能ですか!?」


 ナルリースだった。


「ええ、もちろんです」

「じゃ、じゃあ少し大きく──」

「却下だ」


 そんな二人の会話に口を挟むものがいた。むろん俺である。


「べ、ベアルさんなんでですか!?」

「お前はそのままでいい……いや、そのままがいいんだ」

「でもベアルさんは大きい方が好きですよね?」

「そんなことはない!」


 俺はどんな大きさでも愛せる男である。

 むしろいろいろなサイズがあった方が素晴らしいと思っている。

 それをナルリースに力説した。

 

「ナルリース……小さいお前を愛したいのだ」

「ううぅ……わ、わかりましたよぉ」


 少し泣いているが理解してもらえてよかった。

 俺はホッと胸を撫でおろした。


「くだらない会話は終わったか?」


 冷めた目でこちらを見ているのはレヴィアだ。

 確かにどうでもいいと思われても仕方のないことだが、俺とナルリースにとっては大事な話だったのだ。そこは分かってほしい。


「そういうレヴィアは変えたいところはないのか?」

「我はベアルが愛してくれるのならどんな形でもいい。今のままでもいいのだろう?」

「ああ、お前もそのままでいいよ」

「ならば大丈夫だ」


 さっさとやるぞと魔法陣の上でドカッとあぐらをかいた。

 視線の先でアナスタシアと目が合う。


「アナスタシアは──」

「私は変えて欲しい!! 髪の毛の色をリーリアと同じに!!」

「それは却下だ」

「何故!?」

「お前は金髪が似合うじゃないか」

「でも金髪は3人いるし被ってるぞ!」


 現状、アナスタシアとナルリースとセレアの髪の色が金である。

 しかし、金といっても若干の違いがあった。

 アナスタシアははっきりとした金髪で、ナルリースが薄く透き通った金。そしてセレアは黄緑色っぽい金なのである。見た目でハッキリと違いが分かるためにそこまで被っているかと言われれば微妙なラインだ。


「だからといってリーリアと同じ色にしようとするんじゃない。お前は父親譲りの金、リーリアは母親譲りの白に近い紫色でいいじゃないか」

「うぐぐぐ……私は父様よりもリーリアと同じがいいのに」

「とにかく却下だ。さてセレア、続きを頼む」

「うふふ、わかりましたわ」


 落胆しているナルリースとアナスタシアを放置して話の続きをすることになった。

 

「とはいっても話は殆ど終わりです。実となって3人が生まれ落ちた後、リーリアの中に大樹が還っていきます」

「なるほど、そして力が手に入るというわけか」

「はい」


 よく考えられた技法だ。

 やり方などをいろいろと考察したいところだが、まあ実際に見るのが一番早そうだ。


「ではそろそろ始めようか。リーリアは大丈夫か?」


 俺に話をふられてリーリアは嬉しそうに頷いた。


「うん大丈夫! むしろ楽しみでワクワクしてる!」

「ふむ、そうか……ちょっとこっちにおいで」

「うん?」


 ちょこちょこと不思議な顔をしながら近寄ってくる。

 俺は中腰になり間近まで来たリーリアをギュッと抱きしめた。


「お、お父さん? どうしたの?」


 トクトクと安定した心臓の鼓動を感じる。


「ちょっと緊張しているようだが、本当に大丈夫なようだな」

「そ、それはお父さんが急に抱きつくから……でもありがと!」


 リーリアの腕の力がギュッと強くなる。

 数十秒間抱擁したあとゆっくりと名残惜し気に離れる。


「よし、セレア……頼む」

「わかりました! それでは皆さん行きますよ!!」


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