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222、セレアだって


「にゃはは~勝ったにゃ!」

「わ、我がジェラに負けるとは……」


 レヴィアはすぐに意識を取り戻したが、負けたことが分かると両手を地面につけて項垂れていた。


「いい戦いだったぞ」

「ダンナー!」


 ぴょいんとジャンプして俺に抱きついてくるジェラ。

 何故かまだ服を着ていないので、とても柔らかい感覚がダイレクトに伝わる。


「凄かったにゃ? 凄かったにゃ?」

「ああ、強かったぞ! しっかりと力を使えていたな」

「ダンナが昼も夜もいろいろと教えてくれたおかげにゃ!」

「よ、夜もだと……」


 ゆらりと亡霊のように立ち上がるレヴィア。その眼には生気が宿っていない。


「我は一人で永遠と魔獣を倒していたというのにお主はそんなうらやましいことをして強くなったというのか……」

「そうにゃ! ダンナは夜に教えるのが最高に上手にゃ!」

「おい、その言い方は語弊があるぞ!」

「でも本当にゃ! 休む暇も与えてくれなかったにゃよね?」

「それはそうなんだが……」

「ぐぬぬぬぬ!!! ベアルお前だけはゆるさん!!!」


 ……その後、散々レヴィアに殴られた。結構痛かった。

 ちなみに三位決定戦はやらなかった。

 シャロがリーリアには勝てないと辞退したからだ。

 一位ジェラ、二位レヴィア、三位リーリアという結果で、誰が一番強いのか選手権は終了となった。

 景品である俺を自由にしていい権利は日にちをずらしながら少しずつ実行されていくようだ。

 翌日は休暇としているのだが、優勝者であるジェラが早速権利を行使するようだ。俺の意見は完全に無視である……まあ、予定なんてないんだけどな。


 ──同日の夕食後。


 俺は皆に話しがあると言って宿の一室に集まってもらった。


「皆に渡しておきたいものがあるんだ」


 用意していた『神のエリクサー』を皆に一つずつ配っていった。


「お父さんこれってもしかして!!」

「ああ、神のエリクサーだ」

「あたしが死にかけていた時に飲ませてもらったあれかにゃ!!?」

「そうだ」

「「「「「「「おぉぉぉ!」」」」」」」


 皆同時に感嘆の声を上げる。

 ジェラが飲んで復活したというのは周知の事実だ。神のエリクサーがどれだけ凄い物なのかというのは皆が分かっていた。


「人数分しか用意できなかった。いざという時に使ってくれ」


 神のエリクサーは血液を大量に使用するから作れる数が限られる。さすがの俺も次の日は休まざるを得なくなるほど体力を消耗するのだ。

 苦労を知っている皆は喜んではいるものの、同時に複雑な顔もしている。


「うーん、もったいなくて使えないわね」

「お前たちの命より価値のある物なんてこの世にはない。また作ることはできるから危ない時は気にせず使ってくれ」

「そ、そう? じゃあその時はありがたく使わせてもらうわね」


 サリサはそう言って、胸の谷間に小瓶を押し込んだ。

 いや、そこにしまうのかよ! ……まあいいんだけど。

 他の者もバッグやポーチなどにしまっていたが、ナルリースだけは恨めしそうにサリサを見つめていた。

 

「皆に渡したいものがある。まずはお前たちに」


 俺は片手に納まるほどの小さな箱を4つ用意していた。

 それをアナスタシア、シャロ、ジェラ、セレアに渡した。


「開けて見てくれ」


 4人は同時に小箱を開けた。

 すると皆、嬉しそうに顔をほころばせる。


「わーい! 僕もこれほしかったんだ~」

「ダンナ! ありがとうにゃ!」

「わ、私にもくれるのか……う、嬉しい……」

「お父様! 感激です!!」


 4人の左手薬指にそれぞれ色の違う指輪がはめられていく。

 アナスタシアには赤色、シャロには水色、ジェラには黄色、セレアには黄緑色の宝石がついた指輪をプレゼントした。


「そうしたら指輪に少しだけ魔力を流してみてくれないか? アナスタシアは法力でいい」


 4人は言われた通り魔力や法力を流す。すると──


「おぉぉ! 皆の位置が分かる!」


 そう、これはリーリアや妻たちに渡した指輪と全く同じものだ。

 俺がドワーフ王国に行って、この指輪の制作者を探しだし、頼み込んで作ってもらった。気難しい性格だったが酒を持っていき、一晩飲み明かしたら仲良くなったのだ。


「お父さん私たちの指輪も預けてたよね?」

「ああ、ちゃんとあるぞ」


 預かってた結婚指輪を元の持ち主に帰す。

 リーリアも妻たちも同じように左手薬指につけた。


「リーリアはそこの指にはめなくてもいいんだぞ?」

「む……いいの! 私もここにはめたいの!」

「そ、そうか?」

「うん!」


 皆とおそろいの場所がいいのだろう。

 角度を変えて嬉しそうに眺めるリーリア。白い宝石がキラリと輝く。


「皆の指輪に自動呼吸と寒さ無効のエンチャントを付けてもらった。これで10階層を委細構わず戦えるはずだ」

「やったぁ!!」


 エンチャントもオーダーメイドということもあってかなりの大枚をはたいた。

 大金が必要になるということは分かっていたので、俺は予めダンジョンを高速巡回していた。9階層までを一日で数十回周り、アクセサリーを集めては売るを繰り返して稼いだ。その額なんと1億ゴールドを超える。

 これから攻略する10階層の難易度を考えればこれくらいは当然のことだ。準備をしすぎて困ることはない。

 それに10階層はランダム転送なので、すぐに合流できたほうがいい。となると指輪の効果は必須となる。特にシャロは火力が全くないのですぐに駆け付けてやらねばならないだろう。


「わたくしにも作ってくれたのは意外でした。モンスターに狙われませんし、リーリアの位置は分かりますので」


 そう言いながらもセレアは嬉しそうに指輪を眺めていた。


「一人だけ仲間はずれにはできないだろ? お前だって俺の家族だからな」

「お父様っ! 嬉しいです!」


 勢いよく俺にダイブして抱きついてくる。

 俺はセレアの頭を撫でてやった。


「僕も嬉しい~」

「ど、どうしたシャロ」


 いつものふざけた感じではなく、素直に抱きついてくるシャロ。

 二人に挟まれる感じになっている。

 

(…………セレア。あの事をいいなさい)

(────ッ!)


 俺にじゃれつくような仕草のまま、セレアにそっと近づき耳元でそう呟いた。

 ……こいつはシャロではない。内に潜んでいるはずのシャーリが表に出てきていた。

 俺は突然シャーリに変わったことに驚いたが、表情には出さないようにした。当然、リーリアに気付かれない為である。

 シャーリは引き続き耳打ちを続ける。


(お姉さま……突然現れてどうしたのですか?)

(察しの悪い子ね……あなたはお父様に嫌われたくないから言わないのでしょうけど、後々恨まれるよりはましだと思わないのかしら?)

(……もしかして10階層の話ですか?)

(はぁそうよ……さっきから言ってるでしょう? 今のままでは危険なことがあるから言わないと不味いって言ってるのよ)

(…………それならお姉さまから言ってください)

(私はリーリアに嫌われてるもの。お父様だってとっても焦ってる顔をしているでしょう? 私はもうこの子の中に戻るから)

(ちょっとお姉さま! 無責任ですわ!)

(ふふん。覚悟を決めなさいよ)

(待ってお姉──)


「──あれ、僕寝ちゃってた? ってべーさんどしたの?」

「お前から抱きついてきたんだぞ」

「そうだったっけ? ん~役得~」


 そのまま顔をスリスリと腕にこすりつけてきた。

 中々に可愛らしいのでシャロはほっとくとして…………さて。

 俺はセレアの顔をじっと見つめる。

 セレアは普段は見せないような苦笑いをして、「うぅぅ」とか「そ、そのぅ」とか煮え切らない声を上げていた。

 あまりに悩んでいるので、セレアの肩に手を置いてグッと体を抱き寄せた。


「おっお父様!?」


 マントで隠すようにして体を密着させると、少しだけかがんで耳元で呟いた。


(教えてくれセレア)

(お……お父様……)


 抱き寄せてセレアの体は少し震えていた。


 …………何となくだが分かってきたことがある。

 セレアは星の精霊で特別な存在である。

 だがその本質は父親を慕う一人の女の子なんだ。

 俺の顔をちらちらと窺っては、笑ったり怒ったり、怖がったりからかったり、様々なコミュニケーションを取ってくれる。その感情に表裏はない。

 だが、真実に迫る情報は頑なに拒まれてきた。

 多分だが言う事を禁止にされているわけではない。その証拠に姉であるシャーリは口が軽くペラペラを俺に喋っているからである。

 では何故セレアは秘密と言って誤魔化してきたのか。

 ……それはきっと俺に嫌われることを最も怖れているからだ。

 セレアは臆病な子だ。

 余計なことを言って後で俺にガッカリされたり、嫌われたりするのが耐えられないんだ。

 ……なら俺はどうすればいいのか。

 俺にとってセレアもまた、他の者と同様に守るべき対象だ。

 最近はそのことをより実感するようになった。

 セレアに対する特別な温かい気持ち。これは記憶の海に埋まっている記憶の断片がそうさせているのかもしれない。

 

 だから──


(俺はセレアも愛しているよ。だから絶対に嫌いになったり失望したりしない。皆で笑ってダンジョンを攻略するためにも教えて欲しい……ダメか?)

(うぅ……う……おと……ぅ……ま……)


 セレアは耐えきれずむせび泣く。

 マントの中でしばらくの間、肩を震わせて泣いていた。

 俺は肩を抱いて頭を撫で続けていた。

 その間、誰も一言も発しなかった。きっと分かっていたのだろう。

 俺の腕に抱きついていたシャロもちょっと気まずそうに目線を伏せていた。



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