221、レヴィアvsジェラ
次戦のシャロvsジェラはあっさりと決着がついた。
ユグドラシルを発動し、持久戦に持ち込もうとしたシャロだったが、ジェラの宝具『雷星アックス』による一撃でユグドラシルは伐採され、勝算を失ったシャロはすぐに降参して試合終了となった。
これによって決勝戦はレヴィアvsジェラに決まった。
俺は決勝に残るのはこの二人だと分かっていた。
レヴィアは言わずもがな俺たちのパーティーでは最強の実力の持ち主だ。
しかし、実はこの一か月で一番成長したのはジェラだ……いや、進化したことにより得た莫大な魔力と神力を自在に操れるようになったと言った方が正しいか。
「レヴィアと戦えるのをずっと楽しみにしてたにゃ」
「随分と言うようになったな……しかしなるほど、実力に裏付けされた自信というわけなのだな」
「にゃはは! まあにゃ!」
「ふんっ、いいだろう。相手にとって不足はない。全力で戦ってやるぞ!」
それ以降、二人の間に言葉はない。
ジェラは深く腰を落とし雷星アックスを構える。
レヴィアは腕を組み仁王立ちだ。
「では、二人とも準備はいいか?」
決勝戦は俺が審判をすることにした。
激しい戦いが予想されるのでいざとなったら止められるようにだ。
二人は返事をすることもなく互いを睨みつけている。目の前の相手に集中している証拠だ。
俺は手を上げる。
「決勝戦──始めっ!」
開始と同時に巨大な水の壁がジェラを囲んだ。これはゴッドウォーターウォールだ。既にレヴィアは簡易融合をしている。
しかし、その水壁の中央から水しぶきが起こり、ジェラが飛び出してきた。
レヴィアは次々に神水球を放つが、ジェラはすべてを雷星アックスで打ち消していた。
雷星アックス全体に分厚い神力のオーラでコーティングされており、並みの神魔法ではビクともしない。
レヴィアの眼前まで迫ったジェラが雷星アックスを振るう。
頭上すぐまで迫ったそれをとっさの判断でバックステップで躱すレヴィア。
だが──
「ゴッドサンダー!!!」
躱されることを予期してジェラは雷星アックスに魔法を放つ。
避雷針のように雷を吸収したが、その電撃は近くにいたものすべてを襲った。
レヴィアもジェラも……もちろん俺も。
不意をつかれたレヴィアは一瞬にして感電してしまう。もともと水とは相性が悪い。時間にしては回復まで一秒もなかったがジェラにとっては長い時間だ。
「────ゥ!!」
「神の一撃にゃああぁぁぁぁ!!!!」
神の雷を宿らせた斧で横なぎに一閃。
レヴィアの胴体が真っ二つに分断された。
「にゃっ!? やり過ぎたにゃ!!?」
あまりにあっさりとした決着だったので驚きを隠せないジェラ。しかし次の瞬間、レヴィアの体は水となって崩れ落ちた。
そこに姿もなければ血の一滴も落ちていない。水で濡れた地面と分断されたレヴィアの服が散乱してるだけだった。
「にゃにゃ!?!?」
突然の出来事に混乱するジェラ。
しかしすぐに野生の感というのだろうか。上に向かって斧を突き出した。
ガキィィィィン!
突き出した斧に巨大な氷槍が当たる。氷槍はバラバラに砕け散った。
「さすがの反応だジェラ!」
レヴィアは上空にいた。素っ裸である。咄嗟に身代わりとして水で作った自分の分身に服を着せたのだ。
素っ裸なことは何も気にせずに、巨大な氷槍を次々とジェラに向かって投げつける。
ジェラは斧を振るい、その氷槍をすべて叩き割るが、反撃する暇も与えずにレヴィアは高速で氷槍を投げ続けていた。
このままだと神力を使い続けているレヴィアが不利かと思われたが──
「にゃ、こ、これ!! ゴッドアイスランスじゃにゃい! ただのアイスランスじゃにゃいか!!」
いつの間にかただの魔力で生成された氷槍で攻撃していた。
ジェラはそうとも知らずに神力を消費し続けて対応していたのだ。
「ふははは! やっと気づいたか! お主の神力が相当あると思ってな! 削らせてもらったぞ!!」
「ぐぬぬぬ! やるにゃ!!」
ジェラはフェニックスモードを発動し、魔力ガードを前面に展開して突破を試みる。
だが、それを分かっていたレヴィアは神氷槍で対抗する。
もう後戻りのできないジェラは斧を振るって破壊しながら突破する。
しかし、レヴィアもフェニックスモードを発動しているため、距離は一向に縮まらない。ペースは完全にレヴィアが掴んでいた。
「にゃあああぁぁ! こうなったらもう奥の手にゃあぁぁぁ!!!」
追いかけるのを止めて、地面に下り立った。そして無造作に服を脱ぎ始める。
「む、獣人化か! やらせんぞ!!」
わざわざ変身を待つ必要はない。生きるために無防備なものを狙うのは当然のことだ。
というのも実はレヴィアも焦っているのだ。実力に差があるならじっと待つのも一興だろう。でもそんな余裕はない。余裕がないからこそ慎重に戦っているのだ。もちろんこの好機を逃すすべはない。
拳に渾身の神力をまとわせ、最高速まで加速し一直線にジェラの元へと距離を詰める。
それは一瞬のこと。ジェラは服をすべて脱ぎ終わったところだ。
これは服が破れるのを嫌ったジェラのミスである。今なら致命的なダメージを与えられる。レヴィアは勝利を確信した。
「──えっ?」
レヴィアは顔面に殴り掛かったつもりだった。
ジェラの頬を思い切りぶん殴って気絶させるつもりだったのだ。
しかし、当たった場所は腹の部分だった。しかも何故が毛がもっさもっさとしているし、その硬い毛がレヴィアの拳を弾き返した。
次の瞬間、レヴィアの腹に強烈な一撃が入った。
体をくの字に曲げて、苦悶の表情を浮かべながら宙に舞う。
薄らぐ視線の先には獣人化したジェラが立っていた。
そう、ジェラは瞬時に獣人化できるようになっていたのだ。
「かはっ──」
思いのほかダメージは大きく、頭から足の先までピクリとも動かすことが出来なかった。吐血をしてようやく呼吸を思い出した。この間、時間にして一秒もなかっただろう。しかしこの時間は勝負の決定打となるには十分だった。
目にも止まらぬスピードでレヴィアにせまるジェラ。
動けないでいるレヴィアの頭を掴むと、急降下して地面に叩きつけた。
神力ガードで守っているとはいえ、凄まじい衝撃によって体にダメージを受けるレヴィア。口からさらに大量の血が吐き出された。
クレーターの中心でジェラに組み敷きられているレヴィア。ここからは一方的なマウント攻撃が始まる。
凄まじいスピードで殴りつけるジェラに防戦一方のレヴィア。
殴りつけるたびに地面がめくれ上がりクレーターが大きくなっていく。
レヴィアも神力はオルトロスなどから吸収しているため膨大にある方だが、基本的に防御しているだけでは減るのは早い。
防御しながら神水魔法で反撃するのだが、ジェラの毛一本一本に神力が浸透しているため一瞬にしてかき消えてしまった。
もはや人魔獣より凶悪な存在となったジェラを止められるものは俺しかいない。
俺はジェラの腕を掴んだ。
レヴィアの意識はたった今、失われたのだった。
「ジェラ、お前が優勝だ」




