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218、レヴィアvsナルリース


「ではレヴィアとナルリースの試合を始める」


 アナスタシアがそう言って両者の間に立つ。

 審判は次の試合の者がやることになっていた。いなくてもいいのだが開始の合図があった方が引き締まるというものだ。

 

「ふふふ、ナルリースよ。少しは強くなったのか?」


 挑発するような笑いを向けながらそう言うレヴィア。

 ナルリースは目を細めると何も言わずに構えた。


「ふむ……ちょっとは面白くなるかもしれぬな」


 レヴィアも真面目な顔になると、場の空気が一変する。

 俺の啜る茶の音が響き渡るほどに静寂な様相を呈している。

 アナスタシアの腕を上げるとガチャリと音が鳴った。


「第二試合────始め!」


 腕を振り下ろすと同時に二人は無音のままその場から消えた。

 俺は空を見上げる。もちろん観客の皆も空を見上げた。

 開幕一番ナルリースは空中戦を選んだ。その動きを見たレヴィアも瞬時に空へと飛びだった。

 ナルリースは人一番、空で戦うのを練習していた。というのもナルリースも宝具を手に入れていたからだ。

 その武器の名は、『玉風の弓』という。

 相手との距離を取り、優位から攻撃するという王道の立ち回りなのだが、これがはまった。前衛がいればより強いのだが一人でも十分。その証拠が──


「ぐうぅぅぅぅぅ!! なんという暴風だ!」


 ナルリースの放つ矢は風を纏いレヴィアに襲い掛かる。

 矢を躱して前進しようとしても強烈な風で大きく後ろに飛ばされる。

 それが寸分の狂いなく連射されるものだから、レヴィアは全く近づけずに手をこまねいていた。


「やっかいなのだ!!」


 吐き捨てるようにそう言うと、レヴィアは消滅の魔力球を前方に展開した。

 しかし──


「なっ! ぐっぅぅ!!」


 消滅の魔力球は吹き飛ばされて散り散りになり、真っすぐ向かってきた矢がレヴィアの右足を貫通する。貫通したところが暴風により大きく穴が開くと、ちぎれた右足が勢いよく地面に向かって吹き飛ばされた。

 だがそんなことではナルリースは手を緩めない。

 動きの止まったレヴィアに向かって極大な矢を作り出し放とうとしていた。

 直撃したら全身が粉々になってしまうだろう。


「ふははは! その意気やよし!!」


 不利な状態になりながらもレヴィアは笑った。

 むろんまともにくらってやる義理などはない。

 レヴィアとしても準備運動が終わったところなのだ。


「ふんっ!!!」


 レヴィアは自身の拳と拳を打ち付ける。拳には宝具、『水龍の小手』が装着されていた。


「我もただただ魔獣と戦っていたわけではないのだ!! いでよウンディーネ!!」

「はいはいーい! みんなーお久しぶりー! ディーネちゃん参上だよ~! って、ぎゃあああああああああ!!!!!」


 召喚された瞬間、ナルリースの放った極大の矢が突き刺さる。

 完全に盾にされた悲しき存在であった。

 

「ナイス盾なのだ!」

「痛い痛い! 酷いよレヴィちゃん!!」

「別に平気だろう?」

「気分の問題なのプンプン!」


 文句を言いながらもまるで攻撃が効いていないディーネ。矢はディーネの体の中に吸収され跡形もなく消えてしまった。


「な、なんなの!!」


 これにはナルリースも驚き戸惑っている。


「あ、ナルリースちゃん驚いてる! やったね!」

「うむ、大成功だな」


 レヴィアが魔獣区域で強化したもの。それは召喚精霊であるディーネであった。

 それも偶然の産物らしく、寝てる時間がもったいないからという理由でウンディーネを召喚しておいて魔力を与え続けて魔獣を狩ってもらっていたらしい。

 すると……ヤバいくらいに進化してしまったとか。

 それだけでなく一か月間常に行動を共にしていたおかげで仲良くなり、コンビネーションも上手くなった。

 俺がレヴィアを迎えに行ったときもこのサプライズを受けてビックリしたものだ。まあ、返り討ちにしてやったけどな。


「ふふふ、でもこれで驚いてもらっても困るのだが」

「えぇぇぇ! もしかしてあれも見せちゃうの!?」

「この戦いの目的は全力を出すということだからな」

「なるほど! そういうことなら!!」


 レヴィアとディーネの不穏な会話を聞いて、眉間に皺を寄せるナルリース。


「何をする気なの?」

「ふはは! それは見てのお楽しみなのだ! いくぞディーネ!」

「おっけ~!」


 レヴィアが差し出した右手をディーネが掴む。と、その時。

 ディーネの体が光り輝き、レヴィアの右手に光が収束するような形で消えてしまった。

 本当に一瞬の出来事で何が起こったのかよく分からない。だが、レヴィアの魔力や神力が増えていることで普通じゃないことが起ったのは分かった。


「えっ……一体何が!?」

「いくぞ! 構えるのだナルリース!」

「──ッ!?」


 ナルリースは何かに駆られるように玉風の弓を構えると、刹那、無数の矢を放った。一瞬にしてそれはレヴィアの眼前へと迫る。

 ──しかし。

 

「ゴッドウォーターウォール」


 神々しく光る水の壁はすべての矢を飲み込んだ。

 水の中で矢は溶けるようにかき消えていく。


「な、そ、それは!!」

「驚いてる暇などないぞ」

「──ッ!?」


 ナルリースは弓を再び構えるが既に遅かった。

 一瞬にしてナルリースの頭上へと移動したレヴィアは、足を勢いよく振り下ろす。


 ガキィィィン!


 しかしその足は硬い何かに阻止される。


「神力ガードか」

「そうよ! 私の最後の砦よ!」


 弓を上空に向けて勢いよく連射する。

 レヴィアは手から水を発射し、その反動で矢を躱す。

 手から足から水を出し、まるで地上にいるかの如く自在に移動する。矢を躱しながら一定の距離を取った。


「ならばガードことぶち破るのみ」

「やれるものならやってごらんなさい!」


 ナルリースは神力ガードに絶対の自信があった。

 妖精女王アイナノアから受け継いだこの力は守ることに関しては実力以上の力を発揮することができたのだ。

 事実、ナルリースの神力ガードは仲間たちの間では一番強固であった。


「いくのだ!」


 それは刹那の出来事。

 強烈な水圧から生み出される特攻はまるで弾丸。神力ガードにレヴィアの拳がぶち当たる。

 

「砕け散れえぇぇぇぇぇ!!!!」

「ぐっぅぅぅぅぅ!!!」


 このままでは危ういと感じたナルリースもここは防御を選択する。神力ガードを維持するために神力を必死になって送り込んだ。

 レヴィアも負けるわけにはいかなかった。体から膨大な水を発射し続け、さらに加速していく。拳からも信じられないほどの神力を放出し続ける。

 神力の残量勝負になるかと思われたが、思ったより早くその結果は訪れた。

 レヴィアの拳がメリメリと埋まっていき神力ガードを貫通した。


「打ち破ったのだ!」

「噓でしょ!?」


 音もなく崩れ落ちる神力ガードを見て、ナルリースの戦意はすっかりなくなってしまった。


「これはベアルさんを封印していたものと同等のものなのよ?」

「ほう、そうだったのか! つまり私は当時のベアルより強いってことだな! ふははは! 勝ったのだ!!」


 何故かすごく嬉しそうに勝ち誇っているレヴィア。

 言葉をなくしてしまうナルリース。

 なんだか無性に腹が立っている俺。

 ……あとでもう一度分からせてやる必要があるな。


「勝者レヴィア! ……でいいんだよな?」


 アナスタシアが思い出したかのようにそう言った。


「ええ、完敗よ」 

「いや、ナルリースもすごく強くなってて驚いたぞ」

「レヴィアは予想をはるかに超えて強くなっていたわね」

「ふはは! 大幅に戦力アップしたぞ」

「結局ディーネとのあれはなんだったの?」

「ああ、あれは『簡易融合』というものだ」

「か……簡易?」


 レヴィアの説明によると、完全に融合するのではなく、一時的に融合することにより強力な力を得るという技らしい。

 もともと水系統のレヴィアと水精霊であるディーネが融合することによって相乗効果が生まれ、水魔法やその力を数段階強化でき、神の魔法も使えるようになった。

 簡易融合は数分で限界を迎え、しばらくは簡易融合できないらしい。主にディーネの消耗が激しいようだ。

 そんな説明をしていたら。


「はああぁぁぁぁ!!! もう限界!!!」


 レヴィアの中からディーネが飛び出してきた。


「おぉすまん。解くの忘れてたぞ」

「忘れてたぞ! じゃ、なぁぁぁい!!! もう疲れたから帰る! プンプン!!」


 そう言って消えてしまった。

 簡易融合は数分間しかもたないようだ。


「まあリーリアと戦うころにはまた使えるだろう。安心していいぞリーリア」

「うん、楽しみ!」


 互いに視線を合わせるとバチバチと既に戦闘モードだ。

 そんな二人を横目に見ながらアナスタシアは準備運動を始めていた。


「さて、次は私たちだなシャロ!」

「うーん……ずっと見てたいなぁ~」


 対称的に俺の横でお茶の啜りながらやる気のないシャロがいた。

 


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