216、誰が一番強いのか選手権
それから一か月の時が過ぎた。
俺たちは互いに切磋琢磨し合い順調に強くなった。
レヴィアも魔獣区域から帰還させ、10階層攻略の最終準備段階に突入することになったのだ。
「本日は誰が一番強いのか決めようと思っている」
俺の唐突な発表に皆の顔は点となっている。
「そんなこと言っても……一番強いのはベアルじゃないかしら?」
サリサがそう言うと一同はうんうんと頷いた。
「俺抜きでやってもらいたい」
「私たちだけで? でもそれに意味はあるのかしら?」
「それをこれから説明しよう」
この一か月で皆は成長した。
それぞれダンジョンに通い、時には俺が指導しながら効率よく神力を鍛え、魔素を強化していった。さらに、個人の長所を活かした技や魔法を俺が助言して伸ばしていった結果、個々の特色が一段と濃い物へとなった。
「一か月前とは戦い方が全く変わっている。だから今もてる全力を皆の前で出し切ってほしいんだ。それを見ることによって、今後の連携をより精度の高い物へと昇華させていきたいと思っている」
俺の提案に反論する者はいなかった。
それどころか互いを意識して、興奮しているものまでいる。
皆、自分以外の戦闘能力がどれほどか気になってはいるのだ。
こうして、『誰が一番強いか選手権』を決める戦いが始まろうとしていた。
────SSS級ダンジョン5階層。
モンスターを一掃して俺達しかいなくなったこの場所で模擬戦を行うことにした。
総当たり戦だと大変なのでトーナメント形式で。
7名いるので1人はシードとなる。
公平を期すためにくじ引きで決めることにした。
──結果。
第一試合、サリサVSリーリア
第二試合 レヴィアVSナルリース
第三試合 シャロVSアナスタシア
シード席 ジェラ
という感じに決まった。
「にゃんだーバトル回数が減ってつまんないにゃあ」
「それでいいじゃない……私なんて初戦レヴィアで次はサリサかリーリアなのよ?」
「ほう……ナルリースよ。我に勝つつもりなのか? 随分と自信を付けたものだな」
「僕は早めに負けて観戦側にまわるよ~」
「おいシャロ! 真面目に私と戦え! 訓練にならないだろ!」
「最初にリーリアとやれるなんて……ふふ、一か月前の借りを返せるわね?」
「うん、今回は実力でサリサをねじ伏せるから」
思い思いに会話をする面々。
既にバチバチと熱い視線を交わす者たちもいる。
俺とセレアは床にシートを引いて持ってきたお茶をすすりながらまったりしていた。
「しかし羨ましいな」
「うふふ、お父様も戦いたかったですか?」
「まあな」
「仕方ありませんよ。お父様はもはや次元が違うのですから」
そう、俺もまた成長していた。
神力も増していき、時空魔法も極めてきている。
もはや俺VS全員だったとしても楽に勝つことができてしまう。
実際、レヴィアを魔獣区域に迎えに行った時も、出会ったと同時に模擬戦を申し込まれたが一瞬にして戦闘不能にしてしまったのだ。
レヴィアは物凄く悔しそうにして、「我の一か月は一体なんだったのだ」と、かなり落ち込んでいた。
『誰が一番強いか選手権』で自信を取り戻せればいいのだが。
「まあ俺は10階層のボスに期待をすることにしよう」
「うふふ、そうですね。私も楽しみです」
「うん? なぜセレアが楽しみなんだ?」
「それは内緒ですわ」
「またそれか」
もう慣れたものである。
まったりと会話していたのだが……試合が一向に始まらない。
なにやら皆で輪になって集まり、ひそひそと話し合いをしているようだ。
「さて……じゃあそういうことでいいのだな?」
「ええもちろん。順位に応じてベアルを何日好きにしていいか決まるのよね?」
「お父さんは誰にも渡さないよ!」
……なにやら勝手に俺が優勝賞品にされていた。
聞き耳を立てているとどうやら1位が5日間俺を好きにしていい権利が与えられて、2位は3日、3位は1日ということらしい。
だからトーナメントではあるが3位決定戦までは行うようだ。
……まあ、それでやる気が上がって本気が出せるのであれば問題はないだろう。
娘と妻しかいないのだから無茶なことは言われない……と信じたい。
「ふふふ、我は何せ一か月も会ってなかったのだからな! 絶対に1位を取ってベアルを好きに扱ってやるのだ」
レヴィアはそう言って拳を前に出して強く握る。
……何をされるのだろう。嫌な予感しかしない。
「私は戦争も近いし……そうね、最後のラストスパートをかけさせてもらおうかしら。ふふ、楽しみね」
何故か吹っ切れているサリサはそう言うと妖艶に笑う。
うーむ、何故かすごく魅力的に聞こえる。うん、それもいいな。
「毎日お父さんとデートする! 美味しい物食べてお洋服を見て……うーん楽しみ!」
リーリアの願いは平和である。
お父さんもそれがいいぞ。
「僕は勝てそうにないけどぉ……もし3位になれたらべーさんに女装させたいかも~」
シャロはそう言ってニシシと笑う。
よし、絶対にシャロは勝つな。むしろ勝ちそうだったら邪魔してやる。
「あたしはそうだにゃあ……レヴィアが行った魔獣区域でダンナと二人で逃避行したいにゃあ。昼間は一緒に戦って、夜は濃密に過ごすにゃ。きっと愛がさらに深まることだにゃ」
ジェラはうんうんと満足そうに頷いている。
戦闘大好きな獣人族っぽい答えだ。まあ悪くない提案だ。
「私はベアルさんとデートしたいです! 二人で手をつないで歩いて……お買い物して……綺麗な景色の場所でお食事をして……素敵な夜を過ごすんです」
ナルリースはそう言いながらうっとりとしている。
とてもナルリースらしい考えだ。もしそうなったら頑張ってやることにするか。
「わ、私は別に何もいらないぞ! でもまあ……好きにしていいというのなら……あ、あれをお願いしたい……」
アナスタシアはそう言って赤面する。
他の皆は頭の上に?を浮かべているが、俺には分かった。
この一か月で夜の生活で一番変わったのはアナスタシアだった。
最初は嫌がっていたのだが、これはお仕置きだと言って、過激なことも回数を重ねるうちに自ら求めるようになった。他の皆が嫌がるようなことを喜ぶようになってしまったのだ。
これは完全に俺のせいである。責任をもたなくてはいけない。
「お父様……あまり変なことをしてはダメですよ?」
「……反応が面白くてついな……今では反省している」
「ではやめるのですか?」
「やめん」
「はぁ……だと思いました」
反省はしているけどやめない。だって面白いのだから。
俺は欲望に忠実な男なのだ。
そんなことを話していたらリーリアとサリサが向かい合って構えていた。
いつの間にか他の皆は俺の周りに集まってきていた。
レヴィアは審判として二人の間に立っていた。
どうやらもう始まるようである。
「では一回戦──始め!」
「最初から全力でいくよ!」
リーリアは九星剣を左手に持った。
そして空いた右手には何かをつまんで持っていた。
「リーリアはいきなりアレをやるつもりですね」
「特訓で習得したアレだな」
俺とセレアは実況と解説のように喋りながら見守っている。
「アレって何を持ってるの?」
「わたくしの髪の毛ですね」
誰かの呟きにセレアが答える。
そう……リーリアがこの一か月で習得したもの……それは。
「セレアソード!」
リーリアの右手に黄緑色に光り輝く剣が現れた。
本来セレアソードはセレア本体がいなければ発動できない。だが以前俺がセレアの髪の毛でビジョンを使ったように、リーリアはそれをセレアソードに応用したのだ。
もちろんこれは真のセレアソードではないが、十分な威力がある。
右手にセレアソード、左手に九星剣の二刀流。これが進化した新たなリーリアの姿だった。
「それじゃ私も本気でいかせてもらうわ」
サリサは鋭利な鱗が連なってできている赤色の鞭を構えた。
この鞭は6階層で条件を満たした時に現れる青い宝箱からでた、フレアドラゴンという名のガーディアンを倒して手に入れたものだ。
名前はフレアドラゴンの鞭。宝具である。
「それ熱いんだよね」
「ふふ、大抵のモンスターは一瞬で燃え尽きちゃうのだけど」
ひと振るいするだけで灼熱の炎が相手を襲う。
さらには炎の加速によって鞭の威力が怖ろしく跳ね上がる。
鞭と炎の愛称は抜群で、宝具の中では最高峰の威力である。
リーリアはこれを知っているから二刀流にした。鞭に剣一本ではさすがに相性が悪いからだ。
「それじゃいくよ!」
「望むところよ!」




