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215、説教


「なにこれ?」


 部屋の空気が一変する。

 リーリアの顔は険しく、視線の先には真っ赤に染まったベッド。

 そこに寝転んでいる俺と真っ裸でベッドに腰を掛けているサリサ。

 ……確かにはたから見れば怖ろしい現場だ。


「お父さん倒れてるの?」

「いや、まあ力尽きているといえば力尽きてはいるが、決して外傷があるわけではないぞ」

「ふーん……じゃあなんで血まみれなの?」

「これには訳があるのよ。えっとね──」


 同じく血まみれのサリサが説明しようとした。


「──待って……お父さんも怪我してないならそこに座って」

「はい」


 俺は大人しくサリサの横に腰を掛ける。

 ちらりとリーリアの顔を見たが、かなり怖ろしい顔をしている。


 「で、何があったの?」


 俺とサリサは手振り身振りをしながら、ぎこちなくも笑いのようなものを交えながら、なるべく明るく説明をしようとした。

 しかしそれがリーリアの反感を買った。


「真面目に説明して」

「「はい」」


 サリサは俺に話した内容と同じものを真面目に語っていく。

 話の最後にどうしても皆に後れを取りたくなかった、神力が欲しかったということを語り。そして。


「あなたのお父さんに愛する者を殺すという罪を背負わせてごめんなさい」


 そう言って深く頭を下げた。

 リーリアは黙って話を聞いていた。

 涙ぐんでいるのは複雑な感情が押し寄せているのかもしれない。

 そのままゆっくりと俺を見る。


 俺は──何と言うべきだろう。


 サリサを殺した理由はいろいろあった。

 サリサが今のままではカオスどころか北の魔王にも勝てない事。

 一人だけ神力がないことによる疎外感を感じる事。

 シャーリからもらったキノコの力によるものでしか子供ができない事。

 断ったことによる夫婦の亀裂が生まれる事。

 考えればいくらでもでてくる。

 だが今言うべきことはそんなことではない。


「俺はサリサを愛している。だからこそこれしかないと思った」


 リーリアの視線から逃げずに、素直な気持ちを伝えた。

 俺の眼をじっと見つめてからリーリアは、「はぁ」とため息をつく。


「わかった。言いたいことは山ほどあるけど、仲が悪くなったんじゃなければそれでいいよ」

「そうか……それじゃ──」

「──でもねお父さん。最後に一つだけ言わせて」


 リーリアは近寄ってくると俺の肩を掴んだ。


「本当に考えたの? 本当にそれでいいって思ったの? 私のお父さんならもっと違う方法を思いついたんじゃないの?」


 間近で見つめ合うリーリアの眼は俺の全てを見透かしているようだ。

 そう……俺はサリサの言ったことをそのまま受け入れただけだ。

 俺の考えはそこにない。言うなれば同情してしまったというべきか。

 他の方法、今は思いつかないが、もしかしたら見つかるかもしれない。

 だがその考えを放棄した。今現状のサリサとの関係を優先したからだ。


「リーリア……」


 俺は何も言えなかった。

 リーリアはそんな俺の頭に手を伸ばすとギュッと抱きしめてくれた。


「ごめんねお父さん。意地悪いっちゃったね。でも私は今回みたいなことはもう二度としないで欲しいの。だから心を強く持って頑張ろうね」

「…………ああ」


 温かい胸に抱かれて俺は声を殺して涙を流した。

 しばらくそのまま抱かれた後、そっと離される。

 

「それじゃお父さん。私はサリサさんと話があるから部屋から出て」

「え?」

「いいから出て行って」

「お、おう」


 リーリアの声からは感情が消えている。

 俺は急いで服を着ると、部屋から出ようとした。


「べ、ベアル! ちょっと!!?」


 サリサの悲痛な声が後ろから聞こえてくる。

 俺はそっと振り返る。

 そこには凍った笑顔を浮かべて手をふるリーリアと青ざめているサリサがいた。


「すまんサリサ……今ちょっとだけ思考したが、ここは部屋を出る一択だ」

「もっと考えてよ!!」


 そう叫ぶサリサを放置して俺は部屋を出た。

 数時間後に部屋から出てきたサリサは、「リーリアには絶対に逆らわないようにするわ」と言い残してふらふらと自分の部屋へと向かっていった。

 その後に出てきたリーリアは、「サリサと濃密でいい時間を過ごせたよ」と満足げだった。

 リーリアちゃん、サリサさんと呼び合っていた仲だったのでどうやら打ち明けられようだ。印象がかなり変わってしまったのはご愛敬だろう。

 しかしこれでサリサもリーリアには頭が上がらなくなってしまった。これで俺たちのパーティーのトップはリーリアとなったのだった。



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