213、覚悟
それから俺たちは、一列に並んでいる魔獣をすべて排除することにした。時間稼ぎとしては殆ど意味のない足掻きだが、何もしないよりはマシだという判断である。
魔獣はSSランクということもあり手ごわかったが、俺はもちろんリーリアもアナスタシアも一人で倒せるので問題はなかった。ナルリースにはまだ荷が重かったので、俺が瀕死の状態に持っていき、そのトドメをナルリースにさせた。
しばらく魔獣を倒していたのだが、引っ切り無しにやってくるため、リーリアもアナスタシアも途中で魔力が尽きてしまった。
最後に俺が消滅の魔力砲を放ち、列の最後方まで消し去ってこの戦いは終了とした。
帰りはフォレストエッジでディランに報告し、借家で一泊してから国境の街エルガントへと帰った。
そして同日の夜に宿屋で報告会をした。
俺はありのままを話した。変に誇張せずに事実だけを淡々と。
パイロの町の出来事までは皆も少し茶化しながら聞いていたのだが、カオスの話をした時には無言になってしまった。
特に現場にいたリーリアとアナスタシアとナルリースがカオスの力について語ったのが凄くリアルで、現状では到底勝てないというのが分かってしまったからだ。
「とにかく今の目標はダンジョンの攻略だ。明日からもダンジョンに通いを続けるぞ! 攻略を成し遂げる頃には俺達もそれなりに強くなっているだろう」
そう、それなりである。
決してカオスを倒せるほど強くなるわけではない。
だがまだ7か月あるというのが小さな希望としてあることは事実だ。
希望があるかぎり俺たちは諦めるわけにはいかない。
ダンジョン10階層の攻略目標は1か月後とした。
それを基準として、今までと同じく自主練が主な訓練メニューではあるが、その人にあった細かい調整は入れるつもりだ。
「レヴィア、お前には他の場所に行ってもらいたいのだが」
「奇遇だな。我もお主に進言しようと思っていたことがあるぞ」
その内容は同じだった。
レヴィアには魔獣区域へと行ってもらう。
もちろん、カオスに突撃しているSSランク魔獣を倒してもらうためにな。
少しでもカオスの復活が伸びるなら、やっておくに越したことはないからな。
さらにレヴィアであれば魔獣を喰らうことによってさらに魔力が増える。ダンジョンに出現するモンスターは喰らうことができないのでレヴィアにとっては少し効率が悪いのだ。これ以上の適任はいないだろう。
その日はそれで解散となった。
翌日からそれぞれの訓練のためにダンジョンへと通う毎日が続く。
レヴィアは俺がフェニックスモード改で高速で送った。ちなみにフェニックスモード改というのは魔獣区域からの帰還時に思いついたもので、赤い翼を青い翼に変えてさらに火力を出したものである。
あまりの速さに空の旅になれていないレヴィアは悲鳴を上げていた。俺はとても嬉しくなりさらにスピードを上げたら顔を殴られた。もちろんそんなものは効かないので限界までスピードを上げてやった。
中央大陸につくころにはレヴィアの機嫌は最悪となっていたので、仕方ないのでフォレストエッジにより借家で休憩することにした。機嫌が悪い時には愛してやるのが一番なのである。
すっかり機嫌のよくなったレヴィアと共にカオスの元へと到着する。
皆と同じような反応をしたあと、レヴィアは「よし!」と気合を入れ直し、さっそく魔獣退治を開始することになった。
レヴィアは疲れを知らぬようで、俺と同じくらいの殲滅スピードで倒し続けていた。俺と違うのは時折、心臓や他の重要な部分を生のまま喰らっており、自身の魔力を回復させながら戦っている所だ。
服は血でべとべととなっており、もはや洗っても落ちないレベルとなっている。
だが妙に楽しそうで、これこそが本来のレヴィアなのだと改めて思い知らされることになった。
とはいえ、魔力が回復すると言ってもさすがに一日中戦い続けるのは無理だ。
時折休憩しながら無理なく一か月を過ごせと言い渡した。
数時間一緒に過ごした後、俺は帰ることになったのだが、その時のレヴィアの顔はとても悲しそうな顔をしていた。
後ろ髪をひかれる思いだったが、他の奴の面倒も見てやらねばならん。
最後に血でべとべとの唇にキスをしてから俺はその場を去った。一か月後に迎えに来るから成長を楽しみにしていると言い残して。
国境の街エルガントに帰ってくるとサリサが宿の入り口で仁王立ちして待ち構えていた。
どうしたのかと聞いたら、「そろそろ帰ってくるだろうと思って待ってたわ」と言って、俺の手を掴むと強引に宿に一室に連れていかれた。
そのままベッドへと行き隣り合うように一緒に腰を下ろした。
「皆はどうした?」
「まだダンジョンから帰ってきてないわ」
「そうか……で、話はなんだ?」
俺がそう言うと、何を思ったのかサリサは俺を押し倒した。
「私も強くなりたいの」
「…………」
見上げる先にあったものは、追い詰められ今にも消えてしまいそうな女の顔だった。
「戦争が近いのか?」
「……ええ」
北と南に分断されたデルパシロ王国の宿命みたいなものである。
いつ頃からなのか互いに領地を主張し合い、それを巡って力で解決しようとしているのがこの戦いだ。
負けた側は10年間は敗者として受け入れなくてはならなく、ここ国境の街エルガントも明け渡さなくてはならない。さらには非凡な穀物地帯も奪われてしまうのだ。
それでも北のデルパシロ王国は輸入によって支えられてきたが、南デルパシロ王国はそうはいかない。
南の海は荒れていてさらには海の魔獣も強い。
リヴァイアサンも出現しやすいということで恐れられている海なのだ。
まあ、リヴァイアサンはもういないのだが、強い魔獣がたくさんいることには変わらない。好き好んで南の海で生計を立てようとするやつはいないのだ。
だから絶対に戦争に負けるわけにはいかなかった。
「サリサの願いはなんだ?」
「……え?」
「お前が望むならなんでも叶えてやる」
「ベアル……」
サリサの眼に涙が浮かぶ。
だが次の瞬間、嬉しそうな表情とは正反対の言葉がサリサから発せられた。
「私を殺してほしいの」




