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212、カオスの実体



 翌朝、ベッドにリーリアの姿はなかった。

 どこにいったのか探そうとしたがすぐに居場所が判明した。

 話し声が隣の部屋から聞こえたのだ。

 隣の部屋はナルリースとアナスタシアにあてがわれた部屋で、そこから3人の声がした。

 俺はベッドから降りて上着を着ると、その部屋へと向かった。


「おはよう」


 挨拶をしながらドアを開けると、3人の顔が一斉に俺へと向けられた。


「お父さんおはよう!」

「おはようございます」

「おはよう。遅かったなベアル!」


 雑談をしていたようで3人の間には穏やかな空気が漂っていた。

 

(もう謝ったようだな)


 さらに親密になっているのがひしひしと伝わった。

 リーリアが本音を言って謝ったからこそこの空気が生まれたのだ。

 この感じなら俺がわざわざ何かをいう必要もないだろう。


「……俺は飯を食ってからランドに会ってくるがお前たちはどうする?」


 3人は互いに目配せすると、リーリアが立ち上がり、「私たちも食べる! お父さんを待ってたんだよ!」と言った。

 どうやら2時間ほど前から話していたらしく既にお腹ペコペコらしい。

 早朝リーリアがベッドから抜け出したのにも気が付かなかったので俺も疲れていたのかもしれない……ていうか久しぶりにぐっすり寝た気がする。


 朝食の間、今日の予定について話をした。

 本来は今日のうちに国境の街エルガントに帰る予定だったが、いろいろな事があって遅れてしまっているので、予定を一日引き延ばすことにした。

 朝食の後はいったん解散した後、ランドに会いに行った。

 報酬の事や、今後の事などの相談を受け、案を出しながら話し合っていたら時間は正午となっていた。

 リーリア達と合流し、食事を済ませると、ようやく出立となったのだった。


「よし、行くぞ! しっかりとついてこいよ?」

「分かってる!」

「が、がんばります!」


 俺はリーリアを背中におぶると、フェニックスモードを展開し一気に飛び立った。


「わぁ速い!! それに風の抵抗もない」


 リーリアのはしゃぐ声がはっきりと聞こえる。

 風魔法で周囲を囲っているため、体にかかる負担を軽減してある。そのおかげで声もはっきりと届くのだ。


「どうだ? お父さんの背中は快適だろ?」

「うん! すごい!」


 隣で必死の形相で飛行しているアナスタシアがグギギと俺を睨む。

 アナスタシアはこのスピードについてくるだけでも必死で、風の抵抗を減らすなどといったことに神力を使うことなど到底無理なのだった。

 それはナルリースも同じ……いや、既に遅れが見え始めている。徐々に距離が離れてしまっているので、少しスピードを落とすことにした。


「す、すみません」

「いや、神力を使い始めてまだ二日しか経ってないんだ。すごい進歩だぞ」

「ありがとうございます」

「とりあえず力尽きてもいいから全力で行けるところまでいくぞ」

「わかりました! 頑張ります!」


 これも修行である。

 力尽きたら俺が運んでやればいい。

 今は限界を知ることと、力の扱いになれることだ。


 休憩を挟みつつも飛び続けること3時間。

 俺たちは魔獣区域の中央を縦に二分割するように流れているハービン川を横断した。

 以前リーリアと一緒に魔獣区域に来た時は、川のかなり手前ほどで引き返していた。この川を渡ったことがあるのはレヴィアだけだった。その時レヴィアは川を渡った先にはSランク魔獣が大量にいた証言した。

 

「お父さん……これはやばいかもね」

「ああ」


 眼下にはSランクの魔力量を遥かに超えている魔獣……いうなればSSランク魔獣が溢れかえっていた。


「なんだあいつらは……様子がおかしい」

「同じ種族なのに同士討ちしてませんか?」

「確かあれはケルベロスというやつか」


 極まれに現れるという犬魔獣の頂点に君臨するケルベロス。それが大量に発生し、さらには共食いもしていたのだ。

 普通は同じ種族では殺し合わないものなのだが、ケルベロスの様子はあきらかにおかしかった。症状としてはパイロの町を襲った犬魔獣がさらに凶悪になったようなかんじである。

 しばらく様子を見ていると最後に生き残ったケルベロスがさらに奥地へと走っていった。それはまるで操られているみたいに真っすぐで淀みのない歩行だった。


「あとを追ってみよう」


 高速で移動するケルベロスを俺たちは飛行して後を追う。

 その間にも眼下には争い合う魔獣の姿が、辺り一面にひしめき合っていた。

 勝利した魔獣がケルベロスの後を追うようにして一列になり駆けていく。

 竜の大穴に近づく頃には魔獣は長い行列をなしており、後ろを振り返ると遥か彼方後方までそれは続いていた。

 そして……ついに竜の大穴がある場所までたどり着く。


「こいつが……カオス……」


 竜の大穴はかなり巨大な穴だ。それこそ大都市であるフォレストエッジがまるまる入る大きさはある。

 その巨大な穴にすっぽりとはまっている何かがいた。

 それは透き通った水色の巨人で、上半身を穴から出して、今にも這い上がろうとしている状態であった。

 だけど特殊なバリアのようなものが竜の大穴と辺り一帯を覆っており、カオスが這い出ようとしているのを押さえつけている。

 あまりの規模の大きさに俺たちは驚愕していた。

 ……だが、体の大きさだけならここまでは驚かない。問題はカオスから感じる強大な魔力の量であった。


「こ……こんな存在に勝てるんですか……」


 ナルリースは全身を震わせていた。

 

「ぐ……なんという怖ろしい気配だ……見てるだけで飲み込まれそうだ」


 アナスタシアも額に汗を浮かばせながら、ゴクリと生唾を飲み込んだ。


「お父さん……」


 俺にしがみつくリーリアの手に力が入る。

 それは闘志からくるものではなく、単純に震えないように必死になって耐えているだけだった。

 

「こ、これが私たちの敵なの?」

「ああそうだ……これと戦うんだ」


 リーリアはカオスを凝視していた。

 いや、絶望というのだろうか。

 その瞳には脅えが見え始めていて、明らかに戦意を失っている。

 ……だが、それも仕方がないことだろう。

 カオスの魔力はSランクとかSSランクとかそういった次元にはない。

 カオスがその気になれば、俺たちの住んでいる世界など一瞬で消し去ることができる魔力を保持していたからだ。

 ……これは正真正銘の化物だ。


 そんなカオスを封印している膜に体当たりをかましている魔獣たちの姿があった。

 一列に並んだ魔獣は封印に体当たりをすると消滅し、また次の魔獣が体当たりをして消滅しを繰り返している。その魔獣の列の中にあのケルベロスの姿もあった。


「確かセレアが以前言っていたな……カオスがここら一帯の魔獣を操っており封印へ突撃させていると」

「うん、言ってた。 …………そっか、魔獣を強化してから封印へ突っ込ませることにより、封印を弱らせると同時に魔力も吸収してるんだね」

「ああ、それが正解だな」


 これほどの力を持った魔獣であれば、神力を使った特別な封印であろうとも、何かしらの影響を与えることができるかもしれない。

 滴る水も気の遠くなるような年月が経てば石に穴をあけることができるように、カオスも強力な魔獣を封印にぶつけて穴を開けようとしていたのだ。

 

「お父さん! このままじゃ封印がっ!」

「大丈夫だ! まだまだ封印は解けない。セレアが以前言った通りあと数か月はもつ」


 俺は封印の状態と魔獣の突撃速度を即座に計算した。

 ……なるほど、これは思ったよりも早そうだ。


「あと7か月だな」

「えっ……」

「あと7か月でカオスは復活する」



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