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211、本当の理由


 宴は夜遅くまで続いた。

 ナルリースとアナスタシアは疲れていたので早々に引き上げてランドが用意してくれた宿で寝てしまった。

 俺はしばらく飲んでいたがリーリアが眠たそうだったので宿に戻ることにした。

 主役が抜けてしまうということでケルヴィや他の冒険者から残念がられたが仕方がない。せっかく俺の元へと駆けつけてくれたリーリアを優先したいからな。

 酒場の皆にすまんなと一言謝ると、既にうとうとしていたリーリアを抱っこして酒場を出た。

 用意してくれた宿は前泊った時と同じ酒場の目の前にある宿だった。

 数歩歩いて宿に入ろうと思った時、リーリアが目を覚ました。


「……お父さん」

「起きたのかリーリア?」

「うん」


 目覚めたが俺の腕から降りる気はないようだ。

 そのまま気持ちよさそうに抱っこされたままである。


「ごめんね、まだ飲んでいたかったでしょ?」

「いや、そんなことはないぞ」

「そう?」

「ああ」


 近距離でじーっと見つめられる。

 

「……嘘」

「バレたか」


 正直に言うともうちょっと飲んでいたかった。

 やはりリーリアにはバレてしまうな。


「でも俺はリーリアと一緒に寝ることを選んだ。それが一番大事だからな」


 リーリアはまたじーっと見つめる。


「……それは本当」

「ああ」

「お父さん大好き!」


 俺の首に手を伸ばすとギュッと抱きついてきた。


「ははっ、リーリアが喜んでくれるのが何よりだ」

「すごく喜んでる。だからもうちょっとこのままがいい」

「そうか……ならば散歩でもするか」

「うん!」


 俺たちは宿に入らずにパイロの町を練り歩いた。

 すっかり目の冴えたリーリアは無邪気にはしゃいでいたが、町の酔っぱらいに、「お姫様がいるぜ」と指摘されると恥ずかしそうにしていた。

 俺が、「実際にお姫様だ。なんか文句あるのか」と睨みつけると、酔っぱらいは引きつった笑いをして逃げていった。

 

「お父さん恥ずかしくなってきたから下ろして」

「ふふっ、頑張れ」

「なー! お父さーん!!」

「ふははは」


 小一時間ほど歩き宿の前でようやくリーリアを下す。

 その頃にはすっかりと慣れてしまっていて少し残念そうにしていた。

 宿に入り、早速寝ようとしたのだがリーリアが、「一緒にお風呂に入ろ」というので風呂は面倒くさかったが入ることにした。

 一緒に入るのは恥ずかしくないのかと聞いたら、「さっきの方が恥ずかしかったからお風呂くらいなんでもないよ。それにお父さんだし」と言っていた。

 うーむ、そういうものなのか。

 ちょっと前までは一緒に風呂に入ろうと言っても断られていたのだが……娘というものは難しいものだ。


 風呂から出ていた俺は窓際で夜風に当たっていた。

 

「お父さん~いいお湯だったね」


 可愛いパジャマに身を包みながら、ぽかぽかの体で俺にギュッと抱きついてくる。ふわっとリーリアの髪が舞い、石鹸の香りが鼻腔をくすぐる。

 

「ああ、やはり大きい風呂というのはいいものだな」

「うん! お父さんもやっとお風呂の良さがわかったんだね」

「まあな……っていうか今日は随分と甘えん坊じゃないか」


 お風呂を一緒に入ったのもそうだが、今も俺にくっついている。


「うん……」


 何か思うことがあるのか、それ以降黙ってしまった。


「何か言いたいことがあるなら聞くぞ?」

「…………」


 リーリアは何も言わない。

 まあ、言いたくないことを無理に聞こうとも思わないが……。

 

「そろそろ寝──」

「──私って悪い子なのかもしれない」


 寝ようかと口に出そうとしたときにリーリアがぽつりとそう言った。

 リーリアが悪い子?

 一体何の話だ?


「それはどういうことだ?」

「……お父さんとね……こうやってのんびりする機会が減っちゃったのが寂しい」

「……ああ、そうだな」


 話の要領を得ないがこういった時はじっくり話を聞くべきだ。女の子の話は結論を急いではいけない。

 俺は相槌を打ちながらリーリアの話に耳を傾けていた。


「昔は二人きりだったよね」

「そうだな無人島で二人きりで生活していたな」

「それが今はお嫁さんが6人もいて」

「あ、ああ……すごい増えたよな」


 ちょっとした圧を感じながらも返事をしていく。


「実はね……私、ちょっと嫉妬しちゃったんだ」

「嫉妬? 誰にだ?」

「……ナルリース」

「どうしてだ?」


 少し沈黙したあと、ギュッとする手に少し力が入った。


「三日間もお父さんを独占するなんてズルいって思っちゃった。最近は私もお父さんとゆっくりできてないのにって……」

「ああ……そうか」

「だから追いかけてきた本当の理由は、私もお父さんと一緒にいたかったからなのの……嘘ついてごめんなさい」


 そういうことだったのか。

 一緒にいたかった。ただそれだけ……いや、それは十分な理由なのではないだろうか。むしろ俺が嫁たちにかまけてリーリアとの時間を十分にとっていなかったのが原因だ。


「ごめんな……寂しい思いをさせたか?」


 俺がそう言うと首をふるふると振った。


「皆がいるから寂しいってことはないの……ただ、急にお父さんに会いたいって思っちゃったらいてもたってもいられなくなって……」

「リーリアが来てくれて俺はすごく嬉しかったぞ」

「本当?」

「ああ、こうやって二人で一緒に寝る機会が増えてとっても幸せだ」

「えへへ、そっかぁ」


 リーリアは笑顔になり、顔を俺の胸にぐりぐりとこすりつける。

 笑顔になったところに水を差すのも気が引けるのだが、これだけは父として言わなくてはならなかった。


「でも明日になったらアナスタシアに謝ろうな?」


 嘘をついてフォレストエッジまで全力で飛ばさせてしまったのだ。このまま黙っているのはリーリアも辛いだろう。


「……うん、お姉ちゃんに酷いことしちゃった……許してくれるかな?」

「許してくれるさ。あいつはいい奴だしな」

「うん」

「さあ、ここで話してても冷えるしそろそろ寝ようか」

「わかった」


 部屋にベッドは二つ設置してあったが、自然と意識せずに同じベッドで寝ることとなった。


「ねえお父さん」

「ん?」

「正直いうとね……ここまでお嫁さんが増えるとは思わなかった」

「ぐ……」


 嫁が6人になるなんて普通は思わない。

 俺も思わなかった。


「でもね……毎日は楽しいの……ただ……お父さんと話す時間が減っちゃったのが……寂しいの……」


 リーリアは重たくなった瞼に必死にあらがいながらそう言い終わった後、力尽きたかのように、すうすうと寝息が聞こえてきた。

 俺はリーリアの寝顔を見つめ続けながら、手を伸ばして頭を撫でるのだった。


「俺は父親としてはまだまだだな……」


 成長しよう。

 そう心に誓うのだった。


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