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209、超ド級の破壊力


 皆を外壁の上へと上がらせる。

 どうせなら見通しのいい場所で見学してもらいたいからな。

 外壁に上がる間、ケルヴィを慕っているCランク冒険者は不安そうにしていた。

 まあ、突然現れたやつに開戦の一撃を任せるなんて普通はしない。ケルヴィが俺を信用しているからこそ成しえる事なのだ。

 なればこそ、この一撃は衝撃的なものにしなければならない。見る者を圧倒し、文句などを言わせない究極の勝利を。


 俺は空中に上がり目下の平原を見渡す。

 姿が目視できるほどの距離に10体のSランク魔獣は近づいてきていた。

 そして気付いた……あの魔獣は……。


「お父さん」

「ん? どうしたリーリア」


 俺の隣にリーリアがやってきた。


「あの魔獣ってこの辺りにたくさんいた犬魔獣だよね?」

「そうみたいだな」


 リーリアも同じことを思っていたようだ。

 以前、魔獣区域を旅した時、食事をしていたら必ずと言っていいほど現れた面倒くさい魔獣であった。

 はっきりいってかなり弱い魔獣でSランクになれるほど力を付けられるとは到底思えない。


「どうしてあんなに強くなったのかな? それに強くなった個体はあいつらだけ?」

「わからない……だが明らかに異常事態だ。もしかしたらカオスが何らかの影響を与えているかもな」


 それに以前レヴィアから竜の大穴付近でSランク魔獣がかなりの数が集まっていると聞いた。カオスが復活と関係があるというのなら、その範囲が拡大していてもおかしくはない。

 

「しかもなんか変じゃない?」


 リーリアが言う通り、犬魔獣は様子がおかしかった。目は真っ赤に充血しており、口からはだらしなく涎が垂れている。疲れをしらないのか、何かに追われてるかのように全速力でこちらへと向かっているのだ。


「まともじゃないな」

「うん……だけどすごい魔力……体から溢れ出てるのがわかるね」


 逆立った毛から湯気のように魔力が放出され続けている。


「あれは魔力暴走というやつだな。犬魔獣にはあの魔力がコントロールできないのだろう」

「それで気が狂っちゃったの?」

「ああ」


 滅多に起こる事例ではないが、たまに魔素以上の魔力を貯め込んでしまう人がいるという。そうなった場合、気が狂ったり、暴れたりして体が勝手に魔力を放出しようとするのだとか。


「まあ、さっさとやってしまうか」


 どちらにせよSランクくらいの脅威があることは間違いない。

 殺すという選択肢以外はない。

 そんな時、リーリアが俺の服をちょいちょいと引っ張った。

   

「ねえお父さん……隣で見てたいんだけどダメ?」


 上目づかいで不安そうに見てくるリーリア。

 ……そんな可愛くお願いされたら断ることなんてできない。

 むしろ近くでお父さんのカッコいい姿を見て欲しい。その可愛い口でお父さん超カッコいいって言って欲しい。

 そんなことを考えていたら物凄くやる気がわいてきた。


「もちろんだ。リーリアが隣にいてくれるだけでお父さんはいつもの100倍頑張れるぞ」

「やったぁ! ありがとうお父さん!」


 リーリアのキラキラとした瞳がまぶしい。

 これはもう期待に応えるしかない。

 ……よし、超カッコよくド派手に決めてやろう。


「ではいくぞ──神の壁!」


 眼前に広がる平地を横断するように巨大な光の壁が天高くそびえた。

 それは神秘的な透明感に七色の光をまとわせているので誰もがあっと驚くような存在感を放っていた。

 想定通り、俺の後方……つまり外壁の上から悲鳴のようなざわめきが聞こえてきた。

 

「な、なんだあれは? あんな魔法きいたことないぞ!」

「神々しい……あれは奇跡なの?」

「あああ、この世の終わりじゃー!!」

「きゃー! ベアルさまーー!!!」


 どうやらインパクトは絶大のようだ。

 ふふっ、まだまだここからだぞ。


 犬魔獣は恐れを知らぬようで、次々と神の壁に激突していく。

 もちろんそれだけで消滅させるようなことはしない。

 何度も何度も飛び掛かるように神の壁に突撃してくる犬魔獣を見ながら、俺は小さな神の箱を10個作った。

 それに少し工夫を凝らして箱から檻へと形を変えた。

 俺はその檻を一斉に犬魔獣に向かって放った。すると檻は犬魔獣に覆いかぶさり10体すべてを捕らえたのだった。


 犬魔獣は檻の中で激しく暴れまわるが、神の檻はビクともしなかった。それどころか暴れまわる犬魔獣の体に傷が刻まれていく。

 俺は10個の檻すべてをゆっくりと空高く舞い上げていく。そしてできるだけ檻を遠ざけると円を描くようにして空中に配置した。


 リーリアはその様子を食い入るように見つめていた。いや、リーリアだけではない。この場にいる全員が固唾をのんで空を見上げている。


「さて……仕上げと行くぞ──」


 ゆっくりと魔力を練り上げ、観客にも分かるように右手と左手、同時にスーパーノヴァを発動させる。

 すると観客の視線は俺へと移り、「おぉぉぉ!」と驚きと感嘆が混じったような声が聞こえてくる。


(ふふ、まだまだこれからだ)


 その二つを近づけていき──融合させた。

 ハイパーノヴァの完成である。

 俺はさらに同じことを繰り返してもう一つのハイパーノヴァを作り出す。

 

(そしてこれを──)


 融合──ウルトラノヴァの完成だ。


 俺の行いに対し、なんかしら反応があるかと思ったが観客からは何の反応もなかった。

 どうしたのかと後ろを振り返ったら、一同口を開けてぽかーんとした表情をしている。


「お父さん……もはや凄すぎて皆はそれが何なのか分かってないよ」


 リーリアがそっと教えてくれた。

 ううむ……まあいいか。最後に綺麗な花火を打ち上げて終わりとしよう。


「ではいくぞ──ウルトラノヴァ!!」


 俺はウルトラノヴァを10体の魔獣の元へとぶん投げた。

 一応観客を配慮して、投げたと同時に神の壁を空中に張った。ウルトラノヴァの衝撃波で死んでしまっては元も子もないからな。


 そして檻の円の中心で──ウルトラノヴァが煌めいた。


 ─

 ──

 ───

 ────

 ──────ドガアアアアァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!!!



 世界が白く染め上げられる。

 真っ白な世界に鼓膜を突き破るような凄まじい爆音。

 まるで地面が崩壊するような強烈な衝撃波。

 人々はもはやそこに立っているのか存在しているのかも分からないほど、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚、すべてを失ったような感覚を味わった。

 何が起こってるのか理解できずにただただ時間だけが過ぎていく。

 それはほんの数秒だけであったが、長時間のように感じた人が殆どで、死とはこういうことかというのを身をもって味わってしまったのだ。

 実際はベアルの神の壁によって人々は無事なのだが、人々精神は崩壊していた。

 それほどまでにこの魔法はこの世のものとは思えないほどの破壊力があり、理解の範疇を超える者であったのだ。

 そのためベアルの仲間以外の人々はしばらくの間放心状態が続いた。

 皆、白目を向けて口はポカーンと開いたままになっており、誰一人として動かなかった。

 その中でもケルヴィがいち早く正気を取り戻した。


「────ッは!? い、いったい何があったんだ……確かベアルが……ってなんだこりゃ!!!」


 目の覚ましたケルヴィの眼前には信じられない光景が映し出されていた。


「う、海になってんじゃねーか!!?」


 パイロの北側、外壁より少し先は見渡す限りの海へと変わっていた。

 大地は跡形もなく消えており、渦を巻くように海水がなだれ込んでいる。

 

「……うむ、まあまあの威力だったな」

「いやいやいや! まあまあってレベルじゃねーよ!」

「これでも本気ではないんだがな」

「おいおいおい! これで本気じゃないとか正気の沙汰じゃねえ! 俺でさえあまりの衝撃で放心して動けなかったんだぞ! っていうかこれやりすぎじゃねーのか!?」

「……これには深い訳があってだな」

「どんな訳があればこんなことになるんだ!」


 俺とケルヴィがそんな言い合いをしていると、続々と人々が意識を覚醒させた。

 それはもう阿鼻叫喚の騒ぎだった。

 そりゃそうだな。目の前が海になってるんだから。

 むしろパイロの町がちょっとした孤島みたくなっている。一応道は残っているのでフォレストエッジまでは歩いて帰れるけどな。

 正直ちょっとやり過ぎた感はあるがこれには理由がある。このままでは悪者にされるかもしれないので説明することにした。


「皆聞いてくれ!」


 俺が大きな声でそういうと一同ビクッと反応して押し黙った。

 ……うん、どうやら恐怖でこの場を支配してしまっているようだ。このままでは非常にまずい。


「……魔獣区域とパイロの町は分断された。これでSランク魔獣の脅威から解放され、眠れぬ夜を過ごすことはなくなったのだ! Sランクといえども陸の魔獣は海は渡ってはこない。現状では海の魔獣にそこまで強いものはいないため、しばらくの間はこれでやり過ごせるだろう! 皆はこの町で安全に暮らせるのだ!!」


 俺が高らかにそう言い終わると、辺り一同シーンと静まり返った。

 そして一拍間を置いてから、互いに目を見合わせると、「確かに」とか「これなら逃げないでいいわよね」など、肯定的な意見がちらほらと呟かれ始めた。

 それは次第に大きな声へと発展し、歓喜と勝利の雄たけびへと変わっていく。

 

「うおぉぉぉぉぉ!!!! パイロの町は救われたぞ!!!」

「魔獣の脅威は去ったんだわ!!!」

「どうせ魔獣区域なんていかねえしな!!!」

「ベアル様バンザーイ!!! パイロの町バンザーイ!!!」

「ベアル様かっこいいいいぃぃぃ!!!」


 俺を讃える声が鳴りやまない。

 そんな中、リーリアが抱きついてきた。


「お父さん! すごい! かっこよかったよ!!」

「ああ、ありがとうなリーリア。お前にそう言ってもらえるのが何より嬉しいよ」

「えへへ! お父さん大好き!!」


 顔を胸板にぐりぐりとこすりつけるリーリア。

 そんなリーリアを優しく抱きしめながら、ゆっくりと外壁の上へと着地しすると、一同にもみくちゃにされた。

 目の前が海になった事実よりもSランク魔獣の脅威から解放されたことが心から嬉しかったのだ。それにパイロの町は冒険者の家族も住んでいる者が多い。なればこそ助かったことへの感謝の気持ちがより一層大きくなっているのだ。


「ベアル様バンザーイ!」

「パイロの町バンザーイ!」


 胴上げされる俺。

 それを笑顔で見つめるリーリア。


 うむ、こういうのも悪くないな。



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