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207、きちゃった


 一旦借家に戻り支度をしていると突然、玄関のドアがノックされた。

 俺とナルリースの間に緊張が走る。

 そもそもこの借家のことも知っているのは限られた人しか知らない。

 俺達のパーティー以外ではディラン、ケルヴィ、プリマくらいだろうか。

 もしかしたらディランが何か伝え忘れたのかも知れないが……。


 ……いや、この気配はもしや。


 俺は警戒を解いて玄関へと向かう。ナルリースは心配そうに玄関を見つめていた。

 ……うん、やはりそうだ。

 ドア越しに伝わる気配が愛する者と一致したのである。

 俺はためらうことなくドアを開けた。


「えへへ、きちゃった♪」


 その愛くるしい笑顔はまさに女神と呼べるだろう。


「リーリア……どこでそんな言葉を覚えたんだ?」

「こう言う風にいうとお父さんが興奮するってシャロが言ってた」

「よし、帰ったらシャロにデコピンをかましてやろう」


 教育に悪い言葉を覚えさせる嫁にはお仕置きが必要だ。

 

「しかしどうやってここまで来たんだ?」

「うん、それはね……愛の力だよ?」

「そ、そうか……それは嬉しいが……」


 なんとなくドアから顔を乗り出して左右を見て見ると、かなり離れた場所で白金の甲冑の女が倒れていた。

 ……なるほどな。


「アナスタシアに連れてきてもらったのか」

「うん、さすがに私じゃ夜通し飛んでもたどり着けないからお姉ちゃんに頑張ってもらった」


 アナスタシアなら元祖フェニックスモードの使用者でもあるので一晩あればここまでこれるだろう。ただ、全力で飛ばし過ぎて力尽きたみたいだが。


「しかしどうしたんだ? 明日の夜には帰る予定だったんだぞ?」


 そう、今回の旅の日程は三日間予定だ。だからリーリアも修行を続けた方がいいだろうと思い、リーリアもそれに納得したから国境の町エルガントに残ったのだ。

 

「そうだったんだけど……昨日ビジョンで会話してたとき、なんか嫌な予感がしたの」

「嫌な予感?」

「こんな感覚初めてだったんだけど……一瞬、お父さんが帰ってこないんじゃないかって思っちゃって。そうしたら居ても立っても居られなくなったの」

「俺がか……?」


 俺がリーリアの元に帰らないなんてことは絶対にない。たとえ手足が無くなったとしても這いずり回りながら帰るだろう。それくらいありえないことなのだ。

 あれこれ考えていると、いつの間にか復活していたアナスタシアがリーリアの隣に並んでいた。


「リーリアはお前の事が心配だったんだ。その気持ちを察してやってくれ」

「……うん。その時に近くにいないのは嫌だもん」


 リーリアとアナスタシアは真面目な表情で俺を見つめている。

 

「そうか……心配してくれてありがとうなリーリア」


 リーリアの頭を優しく撫でる。するとえへへと嬉しそうに目を細めた。


「アナスタシアも大変だったろ。少し休むか?」

「いや、これから出かけるのだろう? さすがに神力は空だが法力はあるから戦える」

「そうか……ならば出かけようか」

「そういえばどこにいくんだ?」

「まずは北の前線の町パイロだ」



 ─



 カオスの封印されている場所は北のパイロから魔獣区域を通り北西に行った場所にある、【竜の大穴】と呼ばれる場所だ。

 そこは竜王のブレスによってできたと言われており、穴を覗いても底が見えないほどとても深い大穴だった。

 ただ実際は違うようで、妖精女王アイナノアがカオスを封印するときにできた大穴だと以前セレアから聞いた。

 もし復活が近いのならばその大穴を覗けばカオスの姿が見えるとのことだ。


 今回の目的はカオスの復活時期と実力を知ることだ。それは実際に見てみれば一目瞭然だとセレアは言う。

 その結果によって今後の方針を固めようと思っていたのだ。


 まずはパイロの町へと進路を進めることにした。町にはケルヴィとプリマがいるから近況を聞きやすいし、何より久しぶりに会いたいと思ったからだ。

 しかし、パーティーが4人となったことで少しだけ問題が起きた。

 それは俺が誰を運んで飛ぶかということだ。

 まずリーリアがその座をアナスタシアに譲ったのだ。「私を運ぶのに頑張ってくれたからお父さんの席は譲る」と言った。

 だがアナスタシアも顔を真っ赤にしながら、「いやいや! 自分で飛べるぞ」と遠慮をした。しかしこれはあからさまな嘘だ。神力などこれっぽっちも回復してない。

 ナルリースは神力の練習も兼ねて自分で飛んでもらうことにした。そう言った時のナルリースの顔が少し寂しそうだったのは見なかったことにする。

 リーリアとアナスタシアの遠慮合戦は数分間続いたが、いい加減面倒くさくなってきたので俺が両脇に抱えて二人を運ぶことにした。するとリーリアは楽しそうに、アナスタシアは顔を真っ赤にして黙ってしまった。

 

 さて、それでは出発と言って飛びだとうとしたのだがここでもまた問題が起きた。

 ナルリースがフェニックスモードを扱うことができなかったのだ。

 そこで俺とアナスタシアが先生をすることにした。ナルリースはもちろんリーリアも今後の参考にすると一緒になって真剣に聞いていた。

 相変わらず不器用ではあったがフェニックスモードのやり方と神力の扱い方を何度も丁寧に根気よく教えた結果、数時間でかなりの上達をみせ、スピードも俺ほどとはいかないが凄く速くなった。

 おかげで勉強も含め3時間ほどでパイロへと着いた。馬車では三日ほどかかるので相変わらずフェニックスモードの実用性は抜群である。

 パイロの町の手前で着地すると、突然、例の鐘の音が聞こえてきた。


 カーン、カーン、カーン、カーン……


 4回……これはSランクが出たという合図だ。

 しかし、今回はこれだけでは終わらなかった。

 さらに一呼吸空けると。


 カーン、カーン、カーン、カーン……


 もう一度鐘が4回なった。

 さらに──


 カーン、カーン、カーン、カーン……カーン、カーン、カーン、カーン……カーン、カーン、カーン、カーン……カーン、カーン、カーン、カーン……カーン、カーン、カーン、カーン……カーン、カーン、カーン、カーン……カーン、カーン、カーン、カーン……カーン、カーン、カーン、カーン──

 

 計10回。

 Sランクの魔獣を知らせる鐘が鳴り響くのだった。


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