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205、エルサリオスの処遇

 


「久しぶりだなエルサリオス」

「お前はベアル!? 一体何が──ってなんだこのスライムは!」


 スライムはもう一度エルサリオスに寄生しようと足に絡みつく。エルサリオスは気持ち悪そうに足で踏みつける。


「気持ち悪いスライムだ! ってなんだここは!?」


 エルサリオスは神の箱を不思議そうにそっと手をついた。


「俺が作り出した神の箱だ……お前も得意だろ?」

「な、なんだと!? ベアル! 貴様は伝説の神力を使えるというのか!?」

「ああ、まあな」


 大きく目を見開き後ずさりをするエルサリオス。

 どうやらかなりショックを受けているようだ。

 その証拠に足に絡みついているスライムを完全に忘れていたようで、足が引っかかってこけていた。

 ちなみにスライムは俺が神の糸で縛り上げて操作していた。エルサリオスを転ばせたのはちょっとした悪戯である。


「ぐっ! く、くそっ! ──本当になんなんだこのスライムは!!! 忌々しい!! おいベアル!! いいからここから出せ! これは王の命令だぞ!!」


 本当にどうしようもないやつだ。

 この状況においてもまだ自分が偉いと思ってやがる。


「王? ははは、お前はここがどこだか知ってるのか?」

「ここだと!? ……ま、まさか!」


 エルサリオスは改めて周りを見渡した。するとどんどん顔色が悪くなる。


「ここはエルフ城のあった場所!? な、なぜこんな悲惨なことになっているんだ!」


 俺は簡単に説明をする。エルサリオスがスライムに体を乗っ取られたこと。そのせいでエルフの国が滅びたこと。それを俺が時空魔法で救ってやったこと。

 最初は信じられないような顔をして聞いていたのだが、足元にいる謎のスライムと実際に朽ち果てた城を目の当たりにしては言葉が出ないようだった。

 それでも、「嘘だ……嘘だ」と話を否定してきたので実際に時空魔法をエルサリオスにかけてやった。するとついに俺の話を真実だと認めたのだった。


「わ、私がこの国を……なんということだ……」


 すっかり意気消沈してしまったようで項垂れている。


「今やお前はただの惨めな王のなれ果てだ」

「く、くそ……ん? お、お前は!!?」


 エルサリオスが俺を指差す。いや、俺の後ろにいたナルリースを指差していた。

 

「アルリル!? アルリルじゃないか!! 探したんだぞ? 今までどこにいってたんだ?」


 アルリルといえばナルリースの母である。どうやらナルリースと似ているようで見間違えていた。

 これにはナルリースも戸惑った。


「何を言ってるの? ……私はアルリルの娘のナルリース……母と魔族の間に生まれた子供よ」

「な、なんだと!!?」


 エルサリオスは驚いていた。

 俺はその表情が嘘かどうか注視してみたが、どうやら本当に知らなかったようだ。

 エルサリオスはよろめきながら大げさに頭を抱える。


「なんと愚劣な女だ……エルフの高潔な血を下等な魔族と混ぜてしまうとは愚の骨頂……昔からバカだとは思っていたがこれほどまでとは……頭が痛い」


 どうやら考え方はスライムと融合していた時と同じのようだ。腐った考えのクズエルフ。こいつと話し合うのはやはりバカげている。

 ナルリースも苛立ちがつのったようで、俺の腕を掴む手は震えていた。


「うるさい! お前なんかが母のことを悪く言うな!!!」


 よっぽどムカついたのだろう。普段丁寧な言葉遣いのナルリースでもこれだ。

 エルサリオスはナルリースのことを見ると、いやらしく口角を吊り上げる。


「本当にアルリルにそっくりだな……くくく、『セレアの種』もお前の中にあるんだろう? ならば私の妻となり共にエルフの国を再建しようではないか」

「だれがお前なんかと!! それに私はもうこの人と結婚してるんだから!」


 ナルリースはそう言うと俺の腕をギュッと掴むと体をよせた。

 それを見たエルサリオスは信じられないと目を見開き俺を睨んだ。


「またもや下等な魔族だと……本当に愚かな親子だ」

「愚かなのはお前のほうよ! その箱から出る力もないくせに!」

「ぐっ……言わせておけば……」


 事実、神の箱から逃れるすべはない。


「そういうことだエルサリオス。今のお前は王でもなければ英雄でもない。スライムに体を乗っ取られ、それを俺に助けられ、箱から逃げることもできない非力で脆弱なエルフなんだよ」

「う、うるさい! おいっナルリース、私を助けるんだ! そうすればお前と母親の罪を許してやるぞ!!」


 ナルリースは俺に抱きつきながらあっかんべーをする。

 その行動にエルサリオスのこめかみに青筋が浮かんだ。


「ゆるさん……ゆるさんぞ! 私にこんなことをすれば竜王が黙っていまい。ふははは! いいのか? あの竜王を敵に回して!!」


 こいつは本当に小者だな。

 こんなやつに封印されていたかと思うと泣けてくる。


「竜王は死んだぞ?」

「……は?」

「竜王はもういない。そのスライムと同等の存在に体を乗っ取られて死んだ」

「そ、そんな……あの竜王が……」


 かなりショックだったらしい。

 今までの勢いはなく、ただただ肩を落として絶望に打ちひしがれていた。

 でもそんなことは俺には関係ない。エルサリオスの知ってる情報をさっさと聞き出してしまおう。

 

「スライムの本体を倒すために神力が必要だ。だからナルリースが神力を手に入れるためにはどうすればいいかを知りたいんだ。お前なら知ってるだろエルサリオス」

「知っている……だが……それを貴様に教えるメリットがどこにある?」

「ここにある」

「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ!!!!」


 俺はエルサリオスに黒い炎を叩きつけた。

 エルサリオスの精神を黒い炎が焼き尽くす。


「た、たすけてぐれえぇぇぇぇぇぇぇ!!!! わかった! 話す、話すからやめてくれええええええ!!!」

「……お前…………早すぎるだろ」


 5秒ももたずにエルサリオスは神力の習得方法を教えた。

 あまりにあっけなさ過ぎて拍子抜けてしまった。

 ……いや、別に情報を聞けたからいいんだよ?

 でもな? ……もっと抵抗してくれてもさ?

 じゃないとほら……いたぶれないじゃないか。

 ナルリースも本当に呆れた顔をしている。それどころか嫌悪感満載の表情だ。


 エルサリオスの話によると神力はエルフ城で大切に保管されている魔石から力をもらって発動させるとか。魔石は地下に安置されていて、俺がいた島を覆った結界も迷いの森が迷ったりするのもこの魔石の力だ。だから魔石がないとエルサリオスは神力を使えないとか。

 魔石は1万年前にカオスを封印したアイナノアが作ったものらしくて、魔石にアイナノアの力が封印されているらしい。

 しかし……となると。


「そういえばケツァルから魔石を手に入れたよな?」

「はい……かなり小さくなってしまいましたが」

「あれで神力が使える……? いや、しかし……それだけではすぐに魔石は力を失ってしまうのではないか?」


 小さくなってしまった魔石の力を借りて神力を行使したとしてもいずれその力は無くなってしまうのでは?

 それでは根本的な解決にはならない。

 ナルリースもそれを感じてか表情が暗くなった。


「おい、エルサリオス。永続的に神力を使えるようにはならないのか?」

「それは──ひいぃぃぃぃ! その黒い炎をしまってくださいいぃぃぃ!!」


 右手に黒い炎を宿し脅す。

 効果があり過ぎてこっちがビビるくらいだ。


「アイナノアは魔石に細工をしたらしく、神力を得るにはなんらかの条件が必要だとか! 私が力を得ようとしたところエラーという表示が魔石に浮かび上がりました!! でも少し力を借りるくらいならできるので、あなた様を封印した次第であります!!」


 ペコペコと卑屈な表情を浮かべてそう言った。

 まあそんなエルサリオスはどうでもいいとして……その条件はエルサリオスも分からないようだ。こうなったら直接確かめるしかないな。


「魔石はフォレストエッジの借家に置きっぱなしだったな?」

「はい、旅には使わないということで荷物置き場として借りてるんでしたね」

「ならばさっさとフォレストエッジにいくか。試してみないとな」

「はいっ!」


 俺はナルリースの肩を抱きフェニックスモードへと移行する。

 飛び立とうとした時、不意に声をかけられた。


「ちょ、ちょっと待ってください!! この箱は解除してくれないのですか?」


 エルサリオスの悲痛な叫びがエルフ城跡に響き渡る。

 俺はナルリースの表情を窺うと、視線は鋭く睨んでいた。

 ……まあ、母親を殺したのはスライムと融合したエルサリオスとはいえ、さっきの言動から察するに今のエルサリオスでも同じことをしただろう。

 そもそもスライムに自我はなく、エルサリオスの思考がベースとなっているので母を殺したと言っても過言ではない。

 で、あれば、当然許すという選択肢はない。

 あとは殺すか、永遠に閉じ込めるかの二択だ。


「どうする?」


 俺のその言葉は殺すか? というニュアンスが含まれている。

 ナルリースはしばらく黙ってエルサリオスを見続けた後、首を振った。


「また利用価値があるかもしれません……その時までこのままでいいです」

「わかった」


 その言葉に頷くと、俺はフォレストエッジへと向かって飛び立った。

 後ろから、「解除しろおぉぉぉぉぉ!」という叫び声が聞こえたが無視をした。



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