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204、新たな魔法



 エルサリオスはそう言うと即座に体を水分化し、地面にべちゃっとくっついた。


「ではさらばだっ! 私はお前から逃れて強くなってみせる」


 地面に潜り込もうと必死に体を揺らすエルサリオス。

 だがいくら頑張っても土に溶け込むことはない。


「な、なぜだ!? ど、どうして!!」

「逃げられるとでも思っているのか?」

「なんだと!!?」

「お前もよく知ってる結界だ」

「なっ! なぜお前がそれを使える!!?」


 俺は事前に神力ガードを応用した神の箱を作り出していた。

 エルサリオスがどんなに逃げようと神力や魔力を込めようが神の箱を突破することはできない。


「お前も俺を閉じ込めただろ? だから仕返ししようと思ってここにきたのさ」

「く、くそ……そんなことのために!?」

「お前も神力を持っているのなら突破して見せたらどうだ?」


 くっくっくと笑う。

 情報を聞き出すためにあえて挑発をした。

 素直に聞くこともできるが、こちらの不利となる状況になるかもしれない。

 なるべく情報は出さずしてエルサリオスから引き出したいのだ。


「……ぐぐ、今の私にはこの結界を突破できるほどの力はない」

「なんだ……がっかりだな」


 エルサリオスはスライム状からエルフの姿へと戻った。

 俺が作った神の箱の中で諦めたように下を向いて座っている。

 そして一つため息をつくと、顔を上げて意外なことを言い出した。


「お前たちがここに来た目的は他でもない。ナルリースにこの力を渡せというのだろう?」


 俺は驚いた。ナルリースも同じように驚いている。

 どうやら俺たちの目的が分かっていたようだ。


「分かってるなら話が早い。神力を渡してもらおうか」

「条件がある」

「なんだ?」

「……私を見逃せ」


 ニヤリと口角を上げるエルサリオス。

 だがそれに反発したのはナルリースだ。


「ちょ、ちょっと待ってください! 私はこいつを許すことはできません!! こいつを逃がすくらいなら神力なんていらない!!」


 今にも飛び掛かりそうな勢いだ。

 もちろんナルリースの気持ちもわかる。親を殺されているのだ。許せるはずがない。


「お前を逃がすことはできないな」

「なら渡すことはできないな」

「……また黒い炎をお前に植え付けるといったら?」

「あの苦痛にはなれた。やられたらまた冬眠モードに移行するだけだ。それにお前はカオスに挑むつもりだろう? ふふふ、その時はお前は生きてはいまい。ならばいつかは黒い炎も消えるということ……ならば私は力を渡すことはない。このまま閉じ込めるというのならそれもいいだろう」

 

 エルサリオスは一貫として意見を曲げなかった。

 なるほど……こいつは中々頭がいいようだ。

 ナルリースも悔しそうに歯を食いしばっている。


「さあどうするんだ? 私を逃がすのか? それともこのまま閉じ込めるのか!? さあさあどっちにするんだ!」


 自分が有利だと思ったのだろう。笑みを浮かべて余裕な表情だ。

 それを見たナルリースが悔しそうに唇をかんだ。


「私は力はいりません! もうベアルさんと一緒にダンジョンを攻略できなくなってもいいです……私はあなたの子供さえ産めればそれで……それで幸せになれますから……」


 ナルリースは俺に抱きつき懇願してきた。

 じわりと服が染みる。顔を埋めている部分が涙で濡れているのだ。

 俺はそれをみて決意した。


「いや、ナルリースには俺と一緒の道を歩んでほしい。一緒にダンジョンを攻略し、カオスとも一緒に戦って欲しいんだ」

「べ、ベアルさん……で、でも」


 ナルリースの肩を掴みゆっくりと顔を起き上がらせる。

 涙で濡れた頬を優しく拭ってやった。


「俺に良い考えがある。だから泣くな」

「……ぐすっ…………わかりました……」


 涙を浮かべながらも目一杯の笑顔を見せてくれた。

 ナルリースをそのまま後ろに下がらせると、エルサリオスと再び向き合った。


「今からをお前を分離させる」

「は? 何を言ってるんだ?」

「ど、どういうことですか? ベアルさん」


 エルサリオスだけでなくナルリースまで疑問を投げかけてきた。

 

「ああ、そうだなナルリースには説明しておこう」


 どうせエルサリオスは逃げることはできない。時間はたっぷりあるのだ。


「麒麟と戦った時、この世のものではない女がいたって話をしただろ?」

「はい……不思議な力で麒麟を武器に戻したとか」

「ああ、最初は訳が分からなかったんだが、あの力がなんなのか思い出してきたんだ」

「えっ!? そうなんですか!!?」


 なぜ忘れていたのかは分からない。

 ただ女が麒麟にかけた魔法・・を見た瞬間から、頭の中にあった開かずの扉が開かれたのだ。


「あれは時空魔法だ」

「じ……え? ジクウマホウとはなんなのですか?」


 ナルリースが混乱するもの最もだ。

 この世界に時空なんて言葉は存在しない。

 

「そうだな……高次元の世界……例えるなら精霊とかが存在する世界の魔法とでもいっておけばいいか」

「は、はあ……」


 どうやら頭の処理が追いついてないようだ。

 首を傾げてきょとんと俺を見上げている。


「簡単にいうなら時間を操る魔法だ」

「えっ……そ、そんなものが存在するんですか!!」


 この世界には基本的な火、水、風、土の四大属性が主だ。それに派生して、木や氷、雷などが存在する。基本的に自然界にあるものだけだ。

 

「実際に体感してみたほうが速いだろう──『クイック』」


 俺はナルリースにクイックの魔法をかける。


「──────!!?」

「ふふ、早口すぎて何をいってるのかわからんぞ」


 これはかけた対称を世界の理から隔離し、時間の流れを速くする魔法である。

 ナルリース視点では俺が物凄くゆっくり喋って動いてるように見えるだろう。

 

「試しに動いてみたらどうだ」


 そう言い終わる前に、ナルリースが消えた。

 いや、全力で移動したのだ。すでに遥か遠にその姿があった。

 そして次の瞬間には元の位置に戻ってきていた。


「───────!!」

「何言ってるかわからんから元に戻すぞ」


 俺はクイックの魔法を解除する。


「──凄い! 凄いですよベアルさん!!」


 手を胸元で交差させ興奮したようすで息巻くナルリース。今にもぴょんぴょんと飛び上がりそうな勢いだ。

 

「そ、そんな魔法が存在しているのか……」


 一部始終を見ていたエルサリオスも驚愕の表情だ。


「ああ、驚いたか?」

「驚いた……だがそれがなんだというんだ? ただ単に速くなっただけではないか」

「くっくっく、時空魔法がただ速くなる魔法しかないと思っているのか?」

「なにっ!? もしや……」

「そうだ。時空魔法には時を戻す魔法も存在してるんだよ」 

「そ、そんなことが……」


 エルフの王だった頃ならばまだ話をしやすいだろう。高飛車で傲慢なやつだが助けてやれば言うことを聞くかもしれない。いや、言うことを聞かせる。

 

「ではいくぞ?」

「ま、まて────」

「──『リターン』」

「やめろおおぉぉぉぉぉぉ!!!」


 エルサリオスの体が変化していく。

 グネグネと体の中から何かが蠢き、暴れまわるかの如くボコボコと体が隆起する。

 もがくように首を掻きむしり、嗚咽するかのように咳き込むと、目をカッと見開いた。そして──


「おえええぇぇぇぇぇ!!!」


 口からスライム状の何かが飛び出した。

 


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