196、進化について
一方、ベアル達は──
リーリア達が行って、すぐにナルリースが口を開いた。
「ジェラは大丈夫なんでしょうか? あの二人とはレベルの差があり過ぎると思うのですけど……」
ジェラのことを心配するのは分かる。
進化一歩手前まで来たとはいえ、パーティー内では最弱だ。普通に考えたら死にに行くようなものと考えてしまうだろう。
俺はナルリースを落ち着かせるために頭を撫でる。
「大丈夫、必ず無事に帰ってくる。その時は見違えるほど強くなっているはずだ」
「……なんでそんなことがわかるのですか?」
「それは──」
──相手がオルトロスなら必ず進化できると思ったからだ。
ではどうして進化できると思ったのか……それは消滅の魔力というものの正体が解り始めていたからだ。
消滅の魔力とは一見固有技のように思えるが、実は作り出すことができるのではないかと思っている。
以前俺は魔力球を極限まで濃縮したものが消滅の魔力だと思っていたのだが、実際にどれだけ濃縮しても消滅の魔力ができることはなかった。
可能性を求めていろいろ試してみたが失敗を繰り返し、結局作り出すことはできなかったのだ。
……だが今は神力がある。
これによって実験の幅が広がり試してみたいことが出来た。
「──リーリア達の相手はオルトロスなんだ」
「えっ? それってベアルさんたちが辛くも倒したという!!? それじゃジェラには荷が重いのではないですか?」
「いや、だからこそ……進化したいのであればオルトロスと戦うことが近道なんだ」
「そ、それはどういった理由で……」
「レヴィアの消滅の魔力が元は誰のものか知ってるか?」
「元は竜王ニーズヘッグのものですよね?」
「ああ、それをオルトロスが体をのっとり消滅の魔力を手に入れた……そしてそれを喰らったレヴィアに引き継がれた……」
俺の話に皆の頭上には?マークが浮かぶ。
だから何が言いたいのって顔だ。
「アナスタシア……お前は何故、神力を使えるようになった?」
突然話をふられたアナスタシアは驚いたが、少し考えた後にこういった。
「フェニックスと融合したからだ」
「ああ、正解だ。ではそのフェニックスと同等の存在である竜王もまた神力を使えたと思わないか?」
「あっ! なるほど!」
「つまり消滅の魔力とは──」
俺は神力球と魔力球を同サイズで作り出すと、それを一気に合体させた。するとそこには消滅の魔力球が完成していた。
「これが消滅の魔力の正体だ」
「「「「「おおぉぉぉぉぉ!!」」」」」
一同に歓声が上がる。
歴史的瞬間に立ち会ったような激しい拍手喝采である。
「すごいじゃないベアル!」
「べーさんすご~!」
「ベアルさん素敵です!」
「な、なかなかやるじゃないか」
「お父様さすがですわ!」
皆に褒められ俺としても顔がにやけてしまう。
わからないものがわかった時ほど気持ちいいものはない。
「……んで、それが何故ジェラが強くなることに関連しているんだ?」
アナスタシアの言葉に俺はずっこけそうになり、危うく消滅の魔力を落としそうになった。
「……獣人族は特性があればあらゆる属性に進化できる。つまり神力に対する特性があれば──」
「神力タイプになることができるってわけか!!」
アナスタシアは、「すごい! すごいじゃないか!」と目を輝かせて驚き喜んでいた。だが、突然ピタッと何かを思いついたかのように止まった。
「それならばわざわざオルトロスに挑むという危険を冒さずとも、ベアルが神力を与えてやればよかったんじゃないか?」
確かにアナスタシアの言う通りだ。
でもそれではジェラは神力を手に入れられなかった。
「俺は既に与えていた……お前にも与えただろ?」
「~~~~~~ッ!」
アナスタシアは急激に顔が真っ赤となりその場に固まった。
あの時のことを思いだしたのだろう。
魚のように口をパクパクと動かすとそのまま、「変態!」と叫びサリサの後ろへと隠れた。
「ベアル……あなた……」
「今のは話の流れだ……ワザとじゃない」
サリサがよしよしとアナスタシアを頭を撫でている。
俺は本当にいじめる気などなかった。
説明をしていただけだ……。
……いや、ちょっとだけいたずら心はあったかもしれない。
うん、あったな。
「まあ、そういうわけで神力は与えていたが進化には至らなかった。多分他の条件があるのだろう」
「他の条件ですか?」
隠れたアナスタシアの代わりにナルリースが相槌を打つ。
「ああ、それはジェラが言っていた勇猛果敢って部分が条件なんだと思う」
「あっ! 獣人族の英雄の話ですね!」
獣人族の英雄ギンガバルは勇猛果敢だったと言っていた。
オルトロスは言うなれば格上の敵だ。それに立ち向かうなんて無謀だと言えるが、言い換えれば何物にも恐れず立ち向かう勇気のあるものだと言える。
それが獣人族の進化にとって大事なことだったのだ。
「ジェラが進化したとき……正直、どこまで強くなるか想像がつかないな」
「そ、そんなにですか……すごい……」
ナルリースは笑顔だったが、一瞬暗い顔をしたのを俺は見逃さなかった。
いろいろと複雑な思いはあるだろう。
今まで自分と同じくらいだと思っていたシャロとジェラが一足先に抜け出してしまった。
嬉しさももちろんあるだろうが寂しさと焦りがあるのは仕方ないことだ。
今は笑顔で、「ジェラが強くなれば攻略も楽になりますね」なんて言っている。
そのしおらしい態度に俺はナルリースがとても愛おしく思えた。
自然と肩を抱き寄せ、その唇に顔が引き寄せられていく。
だが直前に誰かが俺からナルリースを引きはがした。
「おい!! 今はそんなことしてる場合ではないのだろう!! っていうか昨晩は、わ……私にあんなことをしておいてもう次の女かっ! この万年発情期男が!!」
アナスタシアが怒っていた。
さっきまでは俺を避けていたというのに、ちょっとナルリースといちゃついただけでこれである。
これはこれで可愛いのだが……今からこれではこいつは苦労するかもしれない。
自分のことを棚に上げアナスタシアの心配をした。
まあ、俺は一人の妻だけに愛を注ぐことは無理なのでアナスタシアに折れてもらうしかない。
サリサに視線を送るが、そっぽを向いていたため、完全にスルーを決め込むようだ。
「ねえねえ~僕も頭を撫でてよ~! ああ、別にキスでもいいけど~」
シャロはむしろ面白がって火に油を注ごうとしている。
俺の体に抱きつくと、そこそこのサイズの胸を押し付ける。
「シャロは素直で可愛いな。そんな素直なお前の願いは聞いてあげないとな」
「え~やった~」
かがみこんで唇に軽くキスをした。
「べーさん大好き~」
「ああ、俺もだぞ」
「お、お前らぁぁぁぁぁああああ!!!」
アナスタシアの怒りの臨界点を突破したようだ。
神力オーラ全開で剣を構えていた。
「あ、やば──べーさんあとはよろしくぅ~」
それを見たシャロは一目散に逃げていった。
他の皆もいつの間にか離れている。
「もう許さない。わ、わたしにあんなことやこんなことをしておいて……それなのに他の女にも……もちろん皆が正妻だってことは分かっている──分かっているんだが! この怒りをぶつけないと気が済まないのだ!!!」
つまり理性と気持ちがごちゃごちゃになったので俺で発散したいということか。
「わかった……だが、もう少し待ってくれないか?」
「何をいまさら!!」
俺がすっと指さした方向には一人の男がいた。
「あいつが待ってる」
「はっ!? あいつは誰だ!? それにいつの間に!! 気配がわからなかったぞ!!」
「あいつはケツァルだな」
「!?!?」
アナスタシアだけじゃなく他の皆も驚いていた。
「カカカッ! 久しぶりダナァ!! ずいぶんと楽しそうじゃねえか!!!」




