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20、ごめんなさい

 


 ギルド長室から飛び出し階段を駆け下り3人の待つテーブルの前へとたどり着いた。 


「あらら~リーリアちゃん、急いでどうしたのぉ?」


 一番最初に気がついたシャーロットが元気いっぱいで今にも飛び上がりそうなリーリアにそうたずねる。

 

「えっとね! ナルリースに個人依頼があるの! エルフの国にいきたいんだ」


 目を輝かせてそう言うリーリアだったが、ナルリースは困った顔をしてしまった。他の二人も気まずそうな雰囲気だ。

 

「リーリア……ごめんなさいね。私は今、国に帰れないのよ」

「えっ、そうなの?」

「ええ、いろいろあってね」

「そうなんだ……」


 それ以上何も言えなくなってしまった。

 拒否とも無視とも違うが、もうこれ以上いうことは何もないといった感じでリーリアの視線を見ようとはしなかった。

 ジェラは複雑な表情をしていたがゆっくりと立ち上がる。

 小声で「シャロちょっとでてくる」といい、リーリアの肩を優しく掴むと冒険者ギルドの外へと出た。


「すまんにゃ、これはナルリースにとってかなりデリケートな問題なのにゃ」

「そうだったんだ……ごめんなさい」

「いや、リーリアは知らなかったのだから仕方ないにゃ。とりあえずさっきの話はナルリースの前ではしないでほしいにゃ」

「わかった」


 国で何かあったのか……。

 でもそうすると道案内を頼める人物に心当たりがなくなる。


「でも……私どうしてもエルフの王に会わないといけなくて……」

「ううーん、他にもエルフはいるんにゃけど、今のエルフの森は魔獣でいっぱいだにゃ。Bランク以上の冒険者じゃないと危険だにゃ」


 そうなると、やはりナルリースに頼むしかなくなる。しかしそのナルリースが別の問題で国に帰る事ができないと。

 これはつんでいるのではないだろうか。


「しかしなんでそんなに会いたいのにゃ?」

「えっとそれは……」


 ジェラ達には俺の封印のことを言っていない。なのでリーリアは何といっていいのかわからなかった。

 その沈黙を拒否と受け取ったのか、


「……まあ、言えない事は誰にでもあるにゃ。ナルリースにもあるようににゃ」


 正直に伝えてしまうか?

 俺が封印されていてリーリアが頑張ってそれを解こうとしてくれていると。

 ジェラなら助けになってくれるかもしれない。

 ……だがその反面。封印された魔王なんて不気味すぎはしないだろうか。

 まず俺だったらどこの誰かも知れない者の封印を解く手伝いをしようとは思わない。

 解いたとたん殺されるなんてことは十分に考えられる事だ。

 そう思うとやはり封印の事を伝えるのは早計だろう。


 それならば封印を解くのを諦めるか?

 リーリアと一緒に普通に生活する分には俺達に問題はないように思える。

 だが近い将来、この港がなくなるようなことがあれば……困る。

 このエルフ領が魔獣に占領されてしまったら、買い物ができない。


 ──それにリーリアは友達ができた。

 これからはこの町に頻繁に来る事は確定事項だ。実際にリーリアも気に入っている。

 その人たちがもし危機に陥ったとき、リーリアはきっと助けにいくだろう。

 そして俺はそのリーリアを力ずくで止める事になる。

 死なせるわけにはいかないからな。

 町が蹂躙されようが、最悪ジェラ達が死のうが俺には関係ないのだ。

 俺にはリーリアが全てなのだから。

 でもきっとリーリアは悲しがる。そして俺もそんなリーリアを見ていられなくなる。

 つまり最悪な未来しかない。


 ならば封印を解くのを諦めるわけにはいかない。

 ジェラ達に頼らずとも精一杯頑張って見ようと思う。

 結果、封印が解けなかったとしても頑張った結果だ。悔いは残るが後悔はしない。


 ジェラ達には違う提案をしておこう。


『リーリア、もし俺達に何かできることがあるならば協力するとジェラに伝えてくれないか?』

『! いいの? お父さん!』

『ああ、俺もそうしたいんだ』

『ありがとう!』


 ナルリースがエルフ王国にいけるようになればそれが一番いい。


 リーリアは私にできることがあれば協力するとジェラに伝えた。

 ジェラは笑ってリーリアの頭を撫でてくれた。


「そうにゃ、冒険者ギルドの横にギルドが経営してる宿があるにゃ、冒険者となった今にゃら格安で泊まれるにゃ」

「本当!? 泊まる! 宿って初めてだからワクワクする!」

「にゃはは! そんないいところでもにゃいけど、まあ寝るにはいい場所にゃ」


 そういってリーリアを先導し宿へと入る。

 中に入ると見たことのある女性がいた。


「あ! さっきはすごいスカッとしましたよ! あの大男、私大嫌いだったんです!」


 良く見たら冒険者ギルドの受付嬢だった。笑顔でズバッとそう言ってのける。

 制服が変わっており、ひらひらのエプロン姿が可愛らしい。

 

「うん、当然の結果」


 ぎゅっと拳を握り、しゅっしゅとパンチの真似事をする。


「あたしもスカッとしたにゃ。見事な一撃だったにゃ」

「本当ですよねー! あ、もしかして泊まりですよね? ていうかここにきたんだからもしかしなくても泊まりですね! 一泊300ゴールドです! 格安でしょ?」


 良くしゃべる受付嬢だ。これが普段の顔なんだろう。

 しかし本当に安いな。一食分より安いではないか。

 

 リーリアはごそごそと先ほどもらった皮袋から銀貨を3枚取り出した。


「はいっ! ぴったり300ゴールドですね! 部屋は205です。二階にあがって部屋のプレートを確認して入ってくださいね! あとは鍵をしっかり閉めること! 外出時にはお金とか装備とか高いものは絶対に持ち歩いてください! もしなにか問題が起こってもこちらでは対処できませんので!」


 業務的な言葉を述べるとキーを渡してくれた。205のプレートがついていた。


「うん、わかった。あとジェラもありがとう!」

「いいにゃいいにゃ、ゆっくりするにゃ。さっきのことはしっかりとナルリースに伝えるから安心するにゃ」

「うん!!!」


 その場でジェラと別れた。

 横にある扉に入って行ったのでもしかしたら冒険者ギルドとこの宿はつながっているのかもしれない。さっき外にでたのは話をするためだろう。


 ぎしぎしときしむ階段を上がり、205のプレートがある部屋へと入る。

 小さい部屋だった。本当に寝るためだけに作られた部屋だ。


 ぼすっ


 入ってすぐ横にある、ぼろいベッドにうつぶせになって倒れた。

 

『おとうさん、私、ナルリース傷つけちゃったのかな?』

『……大丈夫、ナルリースだって分かっているさ』

『でも、すごく暗い顔してた……』

『そうだな。何かあったのかも知れない』

『私、嫌われちゃったかな』

『いや、それだけはないぞ』


 ぐすっ


 しばらくすすり泣く声がきこえた。

 せっかく友達ができたと思ったのにこんなことになってしまった。

 こんな時に何もしてあげられない自分が非常にもどかしかった。


 数十分後。

 むくりと起き出した。


『……お父さん買い物しよう』

『もう大丈夫なのか?』

『泣いたらすっきりした!』

『そうか、ならいくか』

『うん!!!』



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