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194、レヴィアのピンチ



 ジェラはリーリアの膝枕で心地よさそうに寝ている 

 あんな怪我を負っていたのだから疲労は相当のものだろう。

 リーリアは愛おしいものを触るようにして頭を撫でた。

  

「レヴィアはまだ戦ってる……私も行かないといけないけどもう少しだけ」

 

 数分前から魔力探知をして様子を窺っているが決着はついていない。

 だけどリーリアの心は落ち着いていた。

 それはレヴィアならば勝てるだろうと信じているからだ。

 

「……にゃ……ふにゃあぁぁぁ」

「ジェラ起きたの?」

「よく寝たにゃ」

「まだ5分しか経ってないよ?」

「そうにゃんか? もう体はずいぶんと楽になったにゃ」


 そう言うと体をむくりと起き上がらせ首や腕を軽く回す。


「どこも痛くにゃいし、むしろ絶好調だにゃ! ……まあ素っ裸だけどにゃ」


 装備は消滅してしまった。

 だがそんなことはジェラにとってはどうでもいいことだった。


「今ならあいつと戦える気がするにゃ」

「本当? また死んじゃったら嫌だよ」

「今度は大丈夫にゃ。本当にゃ」

「……それは銀髪になったのが関係あるの?」

「にゃ!!? それは本当かにゃ?」


 ジェラは自身の髪を引っ張り数本抜いてみた。

 銀髪をまじまじとみたジェラは驚きの顔から喜びの顔へと変化していく。


「にゃっはー!! これは獣人の大英雄ギンガバル様と同じ髪の色にゃ!! もしかしてあたしも英雄になれるのかもにゃ!?」

「獣人にとって髪の毛の色って関係あるの?」


 リーリアがそう聞くとジェラはコクコクと激しく頷いた。


「そうだにゃ! 銀髪は英雄の証と言い伝えられているにゃ! 銀髪になった獣人は神の力を宿すと言われてるにゃよ」

「神の力……それってもしかして……」


 ジェラも同じことを考えていたのか頷いた。


「「神力!」」


 リーリアとジェラは手を取り合って喜び合った。

 

「すごい! すごいよジェラ! それが進化ってやつなんだよね?」

「それはよくわからないにゃ~。本来は何かしらの属性を持った進化をするはずなんだけどにゃ」

「それって例えば雷とか?」

「そうにゃ。あたしもてっきり雷属性に進化すると思ってたんだけどにゃ……」

「雷属性に進化したわけじゃないんだ?」


 ジェラは拳に力を込めてみる。

 するとバチバチと拳に電撃が走った。


「あっ! 雷だね」

「にゃ! できたにゃ! ……もしかして」


 一旦電撃を静めて、もう一度拳に力を込める。

 すると今度は氷の塊が手の平に現れた。


「えっ! ジェラって水魔法使えないよね!?」

「……ビックリだにゃ」


 ジェラでさえも驚いている。

 その後の実験で、火、土、風とすべて使用できることがわかった。


「にゃはは! すごいにゃ! でもなんでこんなことになったにゃ? 全く覚えてないんにゃけど……」

「あっ……それはね──」


 リーリアはベアルからもらった薬を飲ませた事を話した。


「にゃっはー! さすがはダンナにゃ! でもごめんにゃ……そんな大事なものをあたしに使ってしまって……」


 リーリアはううんと首を振る。


「お父さんはきっとジェラのために薬をくれたんだと思う」

「それはどうしてわかるにゃ?」

「お父さんはね、この階層にきてからずっとジェラのことを気にかけていたんだよ?」

「そうだったにゃか!?」

「うん」


 リーリアは父の些細な言葉使いの変化や視線で何を考えているのかがなんとなくわかるようになっていた。

 そしてこの9階層でジェラを何としても強くするという意思が伝わっていたのだ。

 だからこそジェラがオルトロス退治に志願したときに連れて行かないといけないと思ったのだ。

 まあ、こんなひどいことになるとは思っても見なかったのだが。


「にゃ~……ダンナのおかげで進化できたんにゃから本当に感謝しないといけないにゃ」

「うん!」

「よーし、じゃあダンナのためにも仕事をしないといけないにゃ」

「仕事?」

「もちろんオルトロス退治だにゃ!」



 ─



「んぐぐぅぅ!!」

「こしゃくねぇぇぇ!!!」


 レヴィアとオルトロスは一進一退の戦いを繰り広げていた。

 人とドラゴンの特性上、拳による打撃は人のほうが速いが基本ダメージは小さい。それに加えドラゴンの皮膚は鱗でおおわれているためダメージを吸収してしまう。

 しかしオルトロスの巨大な手から繰り出す攻撃は破壊力と衝撃が強く、受け止めるとその反動で動きが大きく制限されてしまう。

 そのためにヒットアンドウェイ戦法を取るのだが、それでは決定打となるダメージを与えられない。さらにレヴィアの必殺である消滅の魔力はオルトロスの消滅の魔力で相殺されるため、与えるダメージは基本的な打撃のみとなる。

 ダメージが蓄積されればいいのだが、レヴィアは超再生能力、オルトロスは核を壊さなければ無限に再生するため戦闘は自然と長引くのだ。

 

「前の時はあたしのほうが強かったのに今は互角だなんてね!」

「我はずっと戦い続けることで研鑽を重ねてきたからな! おぬしのように突発で強くなったものなど敵ではないわ!」

「なによそれ!」


 実際レヴィアはオルトロスの動きがしっかりととらえられるようになっていた。

 最初は残像のようにしか見えなかったものが今でははっきりと見えている。

 

「ふははは、我は成長し続ける! あと一時間も戦えばおぬしを殺せるだろう」

「それはあたしだって同じよ!」


 レヴィアはオルトロスの攻撃を避けると、もう何度目か分からないパンチを胴体に直撃させる。だが当然の如くウロコに阻まれ大した衝撃は与えられない。

 

「何度もしつこいわね! 無駄だっていってるでしょ! あなたも懲りない人ね!」


 オルトロスの手が伸びるが寸前で避けて距離をとる。

 この行動を何度も何度も繰り返しているのだ。

 

「はぁぁぁ! もうちょこまかと! いい加減うざくなってきたわ!」

「ふふふ! 頭に血が上っていては勝てるものも勝てぬぞ?」

「五月蠅いわね! あんたのせいでしょうが!」


 ──レヴィアにはオルトロスを倒す算段がついていた。

 

 その作戦とは、一つ目はリーリアが戻ってくる時間を稼ぐこと。

 リーリアの九星剣であればオルトロスを斬ることができるし、単純にリーリアの戦力は大きい。

 二つ目はレヴィア自身が強くなること。

 現状でもオルトロスと渡り合っているが、もしかしたら奥の手があるのかもしれない。そうなったときに渡り合える実力が必須だからだ。


 ではどうやって強くなるのか?

 それは偶然が重なって発見したことだった。

 最初の攻防でレヴィアが尾根から投げ出され底まで落とされた時、手にはオルトロスの鱗が握られていた。

 レヴィアは悔しくて、八つ当たりするかのように鱗を口に入れ嚙み砕き飲み込んだのだ。

 すると、不思議なことに魔力が上がった。

 本来ダンジョンのモンスターは消滅するために食べても魔力は上がらないのだがオルトロスは違った。どうやら一般のモンスターとは違った特殊な存在のようだった。

 その時、今回の作戦が思い浮かんだ。


 ──その名もヒットアンドもぐもぐ大作戦である。


 攻撃とみせかけて鱗を剥ぎ取り食べることで徐々に強くなって、同時に時間も稼げるという一石二鳥の作戦だ。

 実際やってみると案外気付かれずにできた。鱗をはぎ取ってもすぐに再生するのでオルトロスとしてもただ攻撃してるだけにしか感じてないのだ。


 レヴィアは何度も何度もそれを繰り返した。

 するとさすがのオルトロスも変だと気付き始めた。


「あなたっ!! さっきから何かしてるわね!! あなたの魔力量が少しずつ増えてる気がするわ!」

「気のせいだ! さあ、また行くぞ!」

「気のせいなんかじゃないわよ!!!」


 オルトロスは上空に飛び、一旦距離をとった。

 さすがにレヴィアも上空では不利になるので追うのはやめた。


「……やはりおかしいわ……やっぱり魔力が上がってる……あなたまさか……」

「臆病者! 上空に逃げるのか!?」


 レヴィアにとってオルトロスが冷静になるのは都合が悪い。

 現状ではまだまだオルトロスの方が魔力量が多いため作戦を繰り返し行いたかった。


「ははん、そうか。あなたも人魔獣だったわね……」


 オルトロスが何か納得したように頷いた。

 まずい感づかれたかとレヴィアの頬に汗が伝う。


「ふふ、やはり人魔獣は最高じゃない。戦闘中に人の体を食べて強くなるんだからね!」


 バレた。これでもうさっきまでの作戦は使えない。

 いや──むしろ。


「あなたも超再生能力を持ってるんだったわね! だったらあたしもあなたの一部を頂いちゃおうかしら!」

「ちい!」


 オルトロスが上空で羽ばたくと無数の見えない刃がレヴィアを襲った。

 

「くっ!」


 リヴァイアサンのころの嗅覚や振動を察知する能力で紙一重でかわしていたのだが、次々にくる刃をすべて避けきることはできない。

 魔力ガードは極限まで高めているのだが、一撃の威力が強すぎるためジリ貧になっていった。

 やばい……なんとか近づかないと!

 そう考えたレヴィアは一か八かの賭けにでる。

 

「はあああぁぁぁぁ!!!」


 前方方向に魔力ガードを集中し跳躍。オルトロスへと迫った。

 ──だが。

 オルトロスはまだ本気を出していなかったのだ。

 レヴィアめがけてさらに倍の数の刃を放ってきた。


「くうぅぅぅぅぅ!!! いったぁぁぁ!!」


 ガードしていた両腕が見えない刃によって切り落とされ地面に落ちる。

 すかさずオルトロスは尻尾でレヴィアをはたき落とすと、地面に落ちた両腕を拾った。


「うふふふ! いただきまーす」


 レヴィアの両腕をぺろりと丸のみした。

 すると──


「あなたの魔力は濃厚でジューシーだわ!! ああ美味しい!!」


 オルトロスの魔力が急激に上昇する。


「そんな……そこまで上昇するなんて……」

「うふふふ! これが人魔獣として完成されたあたしとあなたの差よ」


 この上昇率を目の当たりにするとレヴィアがコソコソと鱗を食べて集めた魔力など微々たるものだ。


「……さすがに打つ手なしか……」


 この状況を打破できるほどの力はもうない。

 たった今、明確な実力差がでてしまったのだ。


 どうしよう……逃げるか?

 いや、今リーリアの元へ向かわれたら殺されてしまうかもしれない。

 ならば……。


 レヴィアは覚悟した。

 このまま時間を稼いで死ぬことを。



 ──その時だった。


「にゃああぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 銀髪の獣人化した女が高速で谷を駆けあがっていた。

 リーリアを背中に乗せていたからかろうじてジェラだということがわかった。

 ……それにしても。


 なんという魔力量だろう。

 一体ジェラに何が起こったかこの時レヴィアはさっぱりわからなかった。


「にゃああ!! 到着にゃ!!」

「ありがとうジェラ!!」


 ぴょんと地面に降り立つのはすがすがしい顔をしたリーリアだった。


 


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