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192、喪失



「ジェラ!!?」

「あら雑魚が何ようかしらっと」


 オルトロスはジェラには目もくれず、リーリアを握りつぶすことを続行した。


「かち割るにゃああぁぁぁぁ!!!」


 ガキィン!


「ふふふ」

「────にゃ!?」


 ジェラの斧はオルトロスの頭部へと直撃した──が、粉々に粉砕されたのは斧の方だった。


「その程度の力でよくも立ち向かおうと思ったわね! その勇気に免じてこの子を握りつぶす所を見学させてあげるわ! うふふ、よーく見てなさい」

「やめろにゃあああぁぁぁぁ!!!」


 ジェラは何度も何度も拳で殴りつける。

 しかし渾身の力で殴っているのにもかかわらず、ダメージはおろか気をそらすことさえできなかった。


「ジェラ……に……げ……て……」

「リーリア!! 今助けるからにゃ!!!」


 リーリアも必死に抵抗するのがやっとだ。一瞬でも気を抜いたらつぶされてしまう。


「この子も頑張ってるけどもうそろそろかしらね? うふふ、どんな綺麗な血しぶきを見せてくれるのか楽しみだわ」

「リーリア!!! うにゃあああぁぁぁぁ!!!!」


 ジェラはなりふり構ってはいられないと判断し獣人化する。


「へえ~獣人化ねえ……だから? って感じよねーうふふ」


 オルトロスは笑っている。

 弱いものがどれだけパワーアップしようが所詮は弱きもの。まったく興味がないようだ。


「リーリアを放すにゃあああぁあぁぁぁぁ!!!!」


 ジェラはオルトロスに飛び掛かると顔面に張り付いた。

 そして角を引っ張ったり目を攻撃したり鼻をに手を突っ込んだり、やれることはなんでもやった。

 これにはさすがのオルトロスも嫌がり始めた。


「あたしの美しい顔になんてことするのよ! ああんもうっ! 鬱陶しいハエね!! そんなに殺してほしいなら先に殺してあげるわ!!!」


 リーリアを握りつぶすのを一旦やめ地面に乱暴に落とすと、ジェラを引きはがしにかかる。

 ジェラはこの瞬間を待っていた。

 捕まるその寸前に顔から飛び退ると全力の魔力を込めて、消滅の網をオルトロスの手から切り落とす。


「──ッ!」


 オルトロスは慌てて消滅の網を再構築しようとしたが、リーリアにとってその一瞬があればよかった。

 リーリアは消滅の網から逃れると、ジェラを背中におぶって全速力で飛んで逃げた。

 ジェラは魔力を使い切ってしまった反動かだらんとして動かない。


「ジェラありがとう!!!」

「……にゃはは……よかったにゃ」


 ジェラは力なく笑う。

 リーリアも笑おうとしたが、背後からの殺気で一瞬にして凍り付く。


「舐めたマネしてくれたわね……もう二人まとめて死になさい」


 真後ろから声がした。

 まずい。

 ジェラを背負っていることが不利となった。

 今からジェラを背中からおろす時間はない。かといって背負ったままでは対処ができない。

 どうすればいいのかリーリアは迷った。

 この一瞬の迷いが運命を分けることになった。

 先に行動したのはジェラだ。

 ジェラは最後の力を振り絞り、リーリアを蹴り飛ばした。


「えっ?」


 リーリアは訳が分からなかった。

 衝撃を受けたと思ったら自身が地面に叩きつけられていたのだ。

 そして背中が軽いことに気がつく。


「にぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 後方から声がした。

 それはとても悲しい声だった。

 リーリアはゆっくりと上を見上げた。


 ──そこにジェラはいなかった。


 いるのはニヤついているオルトロスのみ。

 

「あらあら、抵抗虚しく死んじゃったわね」


 オルトロスはそう言うとゆっくりと下降してくる。


「ジェラ……噓でしょ……ジェラ……」


 リーリアはそんなオルトロスに目もくれず、一点に虚空を見上げ続けた。


「あらら、そんなにあの獣人が死んでショックだったのかしら? さすがにもうちょっとやる気を出してくれないとつまらないわよ?」

「ジェラ……わ、私のせいで……」


 リーリアは激しい後悔の念に襲われていた。

 私ではダメだった。お父さんの元にいればこんなことにはならなかったのに。

 そもそもこんなに強いとは思ってなかった。

 見込みが完全に甘かった。

 リーリアはジェラを守れると慢心していた。

 

「ジェラ……うぅぅ……」


 リーリアは涙を抑えることができなかった。

 両目から溢れ出る涙が地面に染みを作る。


「あらら……完全に戦意喪失しちゃったみたいね。それじゃあもう一度捕えてあの男に見せつけてやろうかしらね」


 オルトロスが一歩足を踏み出した。

 地面をえぐるような足音とその言葉にリーリアの意識が覚醒する。

 今コイツに捕まってしまったらお父さんの足を引っ張ってしまう。それだけは絶対にしてはならない。

 リーリアは目を服の袖でこすると、赤くなった両目をオルトロスに向ける。

 今はお父さんの事を第一に考えることでジェラのことを考えないように意識した。

 考えてしまったらジェラとの思い出がフラッシュバックしてしまい戦えなくなってしまう。


「あら? やる気になったみたいね……ふふふ、いいわね! 楽しませてもらおうじゃない!」


 オルトロスがのっそのっそと歩き出す。

 一瞬で距離を詰めることが可能なはずなのにあえてゆっくりと歩いているのだ。

 リーリアは疑問に思いながらも警戒心を強める。

 だが次の瞬間、その意味が解った。


「おぉおぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 全速力で山を駆けのぼってくる者がいた。

 それはリーリアが待ち望んでいた者で、オルトロスが先ほどから警戒していた者だった。


「すまぬ! 底まで落とされて遅くなった!」


 レヴィアだ。

 オルトロスの強烈な一撃をくらっていたがピンピンとしている。

 

「む? ジェラはどうしたのだ?」


 レヴィアの言葉にリーリアはピクリと反応しただけで何も言い返せなかった。するとオルトロスが笑いながら、


「あたしが殺したわ。ふふ、とても美しい死だったわよ」

「な、なんだと!? 本当かリーリア!!? 」


 レヴィアの視線が辛くてリーリアは視線を落として頷いた。


「そんな馬鹿な!? ……くぅ我のせいなのか……」


 レヴィアの発言にリーリアは咄嗟に言葉を返す。


「違うよ! 私の──私のせいだよ!! 私が弱かったから……私が罠に捕まったせいでジェラは……ジェラは死んじゃったんだ!!」

「リ、リーリア……」


 リーリアの目に再び涙が浮かんだ。

 やはり悲しいものは悲しい。名前を出しただけで涙が止まらなくなる。


「はあ、もう友情ごっこは終わりでいいかしら? そんな下らない芝居を見せられるとこっちが白けちゃうのよね」                                                                             

 オルトロスはつまらなそうにそう言った。

 それにリーリアがピクリと反応する。

 

「友情ごっこ……芝居……?」

「リーリア?」


 リーリアは涙も拭かず、鋭い眼光でオルトロスを睨みつけた。


「私たちは友情ごっこなんてしてない!! それにジェラはもっと深い絆──家族としてずっと共にしてきた!! お前なんかが私たちを侮辱するな!」

「うふふふふ! 本当に痛々しいわね!! クソ雑魚を消してあげたんだからむしろ感謝してほしいのだけど」

「……もう一度言ってみろ」

「あら失礼! クソ雑魚じゃなくて何の役にもたたないクソ生ごみだったわね! あははははははは」

「ゆるさない!!!」


 リーリアはすべての魔力を解放してオルトロスに襲い掛かろうとした。

 しかしそんなリーリアをレヴィアが抱きつき必死に止めた。


「待て! 待つのだリーリア!!」

「放してレヴィア!! あいつを殺さないと!!」

「不用意に飛び込めばあいつの思う壺だぞ!!」

「──でもっ!!!」


 リーリアはがむしゃらに振り払おうとしたが、レヴィアもリーリアを行かせるわけにはいかないので必死にしがみついた。

 

「あはははは! 二人で抱き合って楽しそうね!! あたしも混ぜて頂戴よ!!!」

「ちぃ!!」


 オルトロスは高速スピードで二人の前へと移動してくる。

 さすがに二人で抱きあっていてはやられるので、レヴィアはリーリアを後ろへ弾き飛ばしオルトロスと対峙する。


「────ッ!?」


 レヴィアは拳を消滅の魔力で覆うとオルトロスの鉤爪を受け止めた。


「いい反応じゃないの!」

「ふんっ! おぬしが遅いだけではないのか?」

「あら、言ってくれるわね。あなたもあたしと同じ人魔獣よね? いえ、答えなくてもいいわあたしには分かるの。やはり人魔獣が世界の中心となるべきだわ」

「おぬしは人魔獣ですらない! 何故ならもう既に死んでいるからだ!」

「あたしならここにいるじゃないの!」

「おぬしはダンジョンが作った偽物だ!」

「五月蠅いわね! そんなのあたしは認めないわよ!」


 ギリギリと歯を食いしばりながらも押さえ続けるレヴィア。

 リーリアも今がチャンスと剣を構えるが、それを制止するようにレヴィアが叫んだ。


「リーリアはジェラを探すのだ!」



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