187、9階層
「さあ! やって見せろ!」
8階層中心にある小島で俺は上空にエクスプロージョンを打ち上げる。
威力もかなり高いが、今回の目的は音にある。
「……さすがリーリアだな」
東にいるリヴァイアサンの反応が即座に消える。担当はリーリアだ。
「レヴィアもやったか」
その2秒後に北西にいるリヴァイアサンの反応が消えた。
「あとは南西にいるやつだが……」
リーリアが倒してから9秒が経過しようとした瞬間、やっと反応が消える。
「ギリギリだったがやったか」
南西の担当はその他の皆である。
時間がかかったのは強力な範囲魔法を使えないのが要因だろう。
だがこれで階層魔法陣が出現したはずだ。
「しかし皆成長したな」
封印された島に3人娘を連れてきた時の事を想い出す。リヴァイアサンと対峙して驚いていたあの頃はこんな風に戦うことになるとは夢にも思わなかっただろう。
俺がそんな感慨にふけっていると皆が戻ってきた。
「お父さんやったよ!」
「くうぅぅー! リーリアに負けたのだ!」
リーリアが抱きついてきて、その横でレヴィアが悔しがっている。
「はあ……リーリアとレヴィアはやっぱり格が違うわね……まあ、こっちもこっちで頑張ったから遅くなったのは許してよね」
サリサがそう言いながら近づいてくる。
「お前たちはどうやって倒したんだ?」
俺は倒し方の指示まではしていない。
それぞれの方法に任せていたのだ。
「私たちは魔力の糸による投網作戦をできる者がいないでしょう? かといって私も鞭で釣り上げられないし……だから細かく切り刻むことにしたのよ、アナスタシアがね」
「ほう」
「そうよねアナスタシア?」
何故かサリサの後ろに隠れているアナスタシアがちらりと顔を覗かせるとコクリと頷いた。
「……ベアル、あなたこの子になにをしたのよ……」
「いや、いたって普通の事だが」
「はぁ……あなたの言う普通はまったく普通じゃないのよ?」
「そうなのか?」
「そうなの!」
あの日からアナスタシアは俺を避けるようになった。
いや、正確にいえば恥ずかしくて近寄れないようだ。
近寄ろうとすると、顔を真っ赤にして逃げ出してしまうのだ。
「まあ、アナスタシアが輪切りに切って上空に放り投げたのを私たちが燃やしていったのよ。だから時間がかかったけどアナスタシアが頑張ったのだから誉めてあげて頂戴」
「そうだったのか。すごいじゃないかアナスタシア!」
「ふふ……そ、そうだろう?」
いつも通りの自信家な回答だったが、何故か挙動不審に目を泳がせて、声も震えている。
俺が一歩近づこうとすると歩調を合わせてアナスタシアも一歩後ずさった。
「ふふふっ自業自得ね。しばらくは仕方がないんじゃないかしら?」
「まいったな」
「おーいベアル! 9階層にいかないのか?」
レヴィアが意気揚々と階層魔法陣の方へと進みだしていた。どうやら早くいきたくて仕方がないらしい。
「そうだな、そろそろ出発しようか」
「そうね……アナスタシアも行くわよ?」
「わ、わかった」
「ほら、手をつないでやろう」
俺が手を差し伸べると、アナスタシアはものすごい勢いで首をぶんぶんと振った。
「……だそうよ?」
「…………さすがに反省しよう」
「はーやーくー! すーるーのーだー!!」
待ちきれなくなったレヴィアが戻ってきて、差し出した俺の手を掴んで引っ張った。
「わかったよ! 皆、出発だ!」
こうして階層魔法陣へと入っていくのだった。
─
俺が最初に9階層へと転送した。
刹那、俺は雷に打たれた。
「ぐっ!?」
魔力ガードを張っていたおかげでダメージはなかったが、並みの人であったら黒焦げになっていただろう。
周りを見渡すと雷雲の中にいるようで雷鳴が轟き、縦横無尽に雷が走っていた。その中の一発が俺に当たったようだ。
いつまた打たれるとも限らないので、俺は神力ガードを転送場を囲うように張り巡らせた。すると神力ガードを避けるように雷が縦断する。
その7秒後、リーリアが転送してきた。
「わっ! 何これすごい!」
「雷雲の中だ。ここから一歩でも出れば雷に打たれるぞ」
「それはやだな……ていうかここってどんな場所なの?」
薄暗い雷雲の中なので視界も悪く、ここがどういった場所なのかもまるでわからない。
ただこの状況で分かることもある。
「雷による音の反響が少しいつもと違うな……それに雷雲の中ということも加味して高い所っていうのは分かるな」
「山とか?」
「その可能性はある」
会話している間も次々と転送されてくる。
この状況に対する反応は皆、「雷がすごい」である。
そして最後のセレアが転送されてくると、一旦作戦会議をすることにした。
この階層の厄介なところは3つ。
一つはこの雷で、十歩歩けば雷に打たれるような状況なので魔力ガードでは魔力の消費が激しくなってしまうのだ。
二つ目はこの視界で、仲間ともはぐれやすいし、モンスターとの戦いでも不利になってしまうこと。
そして三つ目は……この場所だ。ここは山の稜線のような場所で、すぐ横は断崖絶壁で道幅は一人分。それが長距離に渡って続いているようだ。
どうしてわかったのかと言うと俺が魔力の糸をひたすら伸ばして道を探ったからだ。
ちなみに飛行もしてみたが、どこまでいっても雷雲は続いていた。どうやらこの階層すべてが雷雲に包まれているようだ。
それを踏まえて作戦会議を行った結果、結局並んで歩いて進もうという結論に至った。
飛行して進むことも考えたが、結局雷に打たれるし、個々で飛んでいてははぐれやすいし、団体で飛んでも空のモンスターが出てきたら不利になる。そもそもジェラは飛ぶことができないのでお荷物になると本人自身が反対したのだ。
ならば通常通り稜線を歩いていこうというシンプルな決断となった。
もし途中で魔力が尽きても神のポーションがあるというのも決定打である。
先頭はレヴィアが担当することになった。理由は本人がやりたがっていたからだ。
どうもリーリアとの競争に負けたのが悔しいらしい。リーリアは余裕の笑みで先頭を譲っていた。
「ではいくぞ! 皆はぐれないようにするのだ!」
綺麗に輝く青い髪をなびかせながらずんずんと歩き出す。そして神力ガードの外にでた瞬間。
「うぐぅ!」
雷に打たれた。
一歩後退して神力ガードの中に戻るレヴィア。
「おいベアル……この雷やばいぞ」
「だから言ったろ? 並みの人では黒焦げになると」
「そういうレベルではない! 魔法のサンダーを連発している中を歩くようなものだと言っているのだ!」
「「「「「「えっ!?」」」」」」
レヴィアの発言に驚きを隠せない皆。
「質問~つまりどういうことなの~?」
「う……そ、それはわからないのだが」
シャロの質問にレヴィアは拗ねた顔をする。
仕方ないので代わりに俺が答えてやった。
「これは自然現象で起こる雷ではない……ということは誰かが意図的に起こしているものだ。つまり、この現象を起こしているモンスターがここのボスということだ」




