186、ジェラと……の特訓
朝食後、ジェラと一緒にきたのはダンジョンだった。
どうしてもとの一点張りでジェラが決めたのだった。
「にゃああぁ!!!」
最初から全力全開の攻撃。
魔力を出し惜しみせずに後先考えない戦い方だった。
出てくるモンスターを一撃で葬っては次のフロアにすぐに移動する。
最短距離で速攻でモンスターを倒し、4階層までたどり着いた。
「さて……ダンナ。あたしが何をしたいのかはもうわかってるにゃよね?」
「そうだな」
意図は既に分かっていた。
それはジェラにとっての課題である魔素の強化だ。
「ダンナにはつまらないかもしれにゃいけど……あたしに特訓をしてほしいにゃ……でないとあたしもう……」
ジェラにとっては4階層にたどり着くだけでぎりぎりだった。
ここまでやってこれたのは、ひとえにジェラの類い稀なる戦闘センスのおかげなのだ。
「ダンナももうわかってるにゃよね? あたしが足手まといににゃってるってこと」
特に痛感したのが8階層だったのだろう。あの時ジェラにできたことは近寄ってきた魚モンスターを倒すことだけ。それも素手でだ。
斧は水中では防御にしか使えずにむしろ邪魔になっていたし、唯一使える火魔法も役に立たない。
それに同じように役に立たないと思われていたアナスタシアは凄まじい活躍を見せていた。
これで焦らない者がいたらそれは向上心のないやつか、既に成長を諦めているやつだけだろう。
「シャロはいつの間にか強くなってるし、ナルリースだってまだまだ底が見えないにゃ……ならあたしはもうダンナに頼るしか道がないのにゃ」
三人娘の中で一番余裕のあったジェラがここまで追い詰められているのは初めてみる。
今までもそういう発言をすることはあったが、冗談交じりでふざけた感じが出ていたのに対し、今回は本気である。
「わかった。ジェラがそう望むのであればそうしよう。これからお前との一日はすべて特訓に使おう」
「やった!! 感謝するにゃ!!」
正直ジェラを戦線離脱させることも考えていた。
ジェラは嫌がるだろうが、このままではカオスとの戦いで確実に死んでしまうからだ。
だが、ジェラは戦いたいという意思を示した。
ならばギリギリまでその望みを叶えてやろうと思ったのだ。
「俺の特訓は厳しいぞ?」
「にゃはは! それは十分承知してるにゃ! ていうか内容も知ってるしにゃ」
「ほう、そうなのか?」
「皆からどういったことをしているとかめっちゃ詳しく聞いてるにゃよ? ダンナがどんなことが好きかなんて把握済みだにゃ」
「そ、そうなのか」
どうやら俺がいないときにあれやこれやと暴露されているらしい。
…………何を言われているのか不安になってくるな。
「にゃはは! そんなしかめっ面しなくても大丈夫にゃよ。概ね好評だからにゃ! しっかり楽しませてるダンナも偉いにゃ」
「それならばよかった」
文句が出てたらどうしようかと思った。
「ジェラの課題は魔素の強化だ。ここは効率を重視していこうとおもうが……魔力ポーションは持ってきてるだろうな?」
「もちろんだにゃ」
そういって数本の魔力ポーションを取り出して見せるジェラ。なるほど、しっかり準備は済ませてるというわけか。
「じゃあ時間ももったいないし早速始めるとするか」
「よろしくお願いしますにゃ」
そういって装備を脱ぎだすジェラ。
引き締まった体に豊満な胸。あとはなんといっても獣人の特徴である可愛い耳と尻尾がとても魅力的である。
だが、背中やお腹などに無数の傷があった。これは戦闘でできた傷ではないようだ。
「あまりじっくりと見ないで欲しいにゃ……綺麗な体でもにゃいからにゃ」
「いや、俺は愛おしいと思うぞ」
「……ありがとうにゃ」
過去のことはどうしようもない。
ならば今の彼女を愛するだけである。
─
「ダンナ……今日はありがとうにゃ! とっても充実したにゃ」
俺はもうヘトヘトだった。
特訓してはモンスターと戦い、神のポーションで魔力回復を繰り返した。
常に全力をだして戦っていたので4階層を巡っていただけでも効率は段違いでよかった。
だが……さすがに疲れた。
俺は徹夜をしてるので正直眠たかったのだが……ジェラが寝かせてくれなかったのである。
ジェラは経験者であるためかなり上手かった。
眠くなるたびにいろいろなテクニックを繰り出しては俺を本気にさせた。
俺も負けるわけにはいかないと頑張ったために寝てる暇などなかったのだ。
「今日は俺の負けだな」
「にゃはは! でも噂通りダンナもすごかったにゃ……徹夜とは思えないくらい全然衰えなかったしにゃ」
「俺にもプライドはあるからな」
「にゃはは」
ここ最近苦しそうな表情が多かったジェラに本物の笑顔が戻った気がする。
「……正直にいうと少し半信半疑だったにゃ。ナルリースはもともと素質はあったし、シャロは融合したから強くなったからにゃ。でも今日の特訓で魔力が増えてることが実感できて本当に…………」
そこまでいってジェラの目から涙があふれ出した。
俺はジェラの肩を抱き寄せて頭を撫でる。
「お前はよく頑張ってたよ……偉かったな」
「ダンニャ……にゃああぁぁぁ!!」
にゃあにゃあと泣きだすジェラ。
俺は黙って抱き寄せると、よしよしと頭を撫で続けた。
しばらくそうした後、ジェラの顔が離れる。
「……ありがとうにゃ……あたしも髪伸ばそうかにゃ……」
「急にどうした?」
「ちょっと前なんにゃけど、ダンナは髪は長い方が好きなんじゃないか論争が起きたにゃ」
「……なんだそれは」
初耳である。
「ダンナは女の子の頭を撫でたり髪を触ったりするのが好きにゃよね? エッチのときもやたらと髪をいじってくるしにゃ」
「そういわれるとそうかもしれないな……」
「だから長い方が好きという結論がでて、あたしたちの中では髪を伸ばすのが流行となってるにゃ」
「そうだったのか……それでジェラも伸ばそうと考えたわけか」
「あたしは長いのは鬱陶しくて好きじゃにゃいんだけどにゃ」
俺のことを想って伸ばそうとしてくれているのか……なんていい女なのだろう。
確かに長髪の方が好きといえば好きだがこだわりがあるわけではない。似合ってれば何でもいいと思っている。
「お前はそのくらいが一番似合ってると思うぞ」
「ほ、本当かにゃ!? にゃははそれは嬉しいにゃ」
尻尾を振りながら抱きついてくるジェラ。
ぴょこぴょこと動く耳も可愛い。
「それでダンナ……今夜なんにゃけど……」
「……お前まさか……」
「そのまさかにゃ! 次は7日後だし、今のうちにもっと魔素を強化しておきたいにゃ……ダメかにゃ?」
耳を垂れて上目遣いは卑怯である。
こんなお願いをされては断ることはできない。
「……ちょっと帰りに精力剤を買って帰るか」
「にゃはは! それならもう持ってるにゃよ!」
「本当に準備万端だな!!!」
こうして俺は二徹することとなった。
当然次の日も休みとなったのである。




