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19、ディラン



 リーリアはギルド長室に移動した。

 ディランは俺の事を聞きたいと言ってきた。

 妖精の輪舞曲フェアリーロンドの面々には下で待ってもらっている。

 多分デリケートな話になるからだ。



 ギルド登録はというともちろん合格だ。Gランクからのスタートである。

 ランクについて軽く説明を受けたところ、GからSまであり、依頼を受けて達成すると報酬とギルドポイントをもらえる。

 依頼によって報酬もポイントも異なるが、ランクが上がっていけばそれも増える。難易度も高くなるけどな。

 ちなみに依頼を受けるとき、パーティーだと代表者のランクが達していれば受けられる。もちろん報酬やポイントは折半となるが、ランクが二つ差がある者にはポイントは与えないようになっていた。

 そのあとも細かい説明はあったが、大体知ってる事だったので割愛する。


 登録してる間は誰も文句もちょっかいもだしてこず、すんなりと登録できた。

 まあ、ギルド長のディランと親しげに俺のことを話すリーリアに文句を言える勇者はいないだろう。

 それに馬鹿の大男も未だに白目を向いて倒れている。あいつがDランクというのだからギルドのランク制度にも疑問が残る。だがそんなDランクを一発で黙らせたのだから実力としては申し分ないのだ。


 冒険者カードを渡されたリーリアはとても嬉しそうにしていた。

 本当はお金がかかるんだがディランが払ってくれた。

 一人の冒険者に優遇していいのかとリーリアに尋ねさせたが、「ほっほっほ、こんな子供にそんなみみっちいこという恥知らずな冒険者はおらんよ」とのこと。いや、大男のこと忘れてない?


 黒いかまいたちの報酬も無事に受け取った。3万ゴールドだ。

 お金を持つのは初めてだと言ったら、お金を細かいのにしてくれた。大銀貨25枚に銀貨40枚、大銅貨10枚だ。おまけで小さい皮の袋もつけてくれた。


 Bランクの依頼としては安いかもしれないが、場所も近いし街道ということもあって、すんなり終わりそうなのが魅力だったらしい。

 リーリアが3万ゴールドってどのくらいの価値なの? と質問していたが、ナルリースが「そうねえ、大体贅沢しなければ一食500ゴールドくらいよ」と言っていたから結構な大金だ。




 そして今、ギルド長のディランと向き合って座っている。

 受付嬢がお茶を持ってきてくれたので、それを一口飲む。

 リーリアは初めて飲むお茶に感動して、「これも買って帰る!」と意気込んでいた。

 ディランはそんなリーリアの様子を目を細めてニコニコしていた。


「そろそろ話を聞いてもいいかの?」

「あっ、うんどうぞ」


 こほんと咳払いを一つ。


「リーリアよ、もしかしてじゃが、先ほどからベアルと話しておるのではないか?」


 いきなり核心を突いた質問だ。


「えっと、何でそう思ったの?」

「たまに視線がどことでもない方を向いておる。そしてその時にわずか……本当にわずかだが魔力が流れているんじゃ」

「…………そうだったんだ」


 これには俺も驚いた。リーリアがビジョンを使っているときに癖があったらしい。

 さすがはディランといったところか。


『リーリア、こいつは信用できるから正直に話そう』

『……お父さんがそう言うならわかった』


 そこからはすべてを包み隠さず話した。

 俺が島に封印されていることも含めて全部だ。

 時間にして一時間程度で全てを話し終わった。


「そうだったのか……なんともベアルらしいと言えばベアルらしいが、なんとも間抜けな話じゃ、あの時みんなベアルから離れていなければこんな事にはならなかったのかもしれないのじゃが」


 すっかり冷めてしまったお茶をズズズと啜る。

 そして渋い顔をするとお茶を置いてしまった。


「しかし封印か……なぜ殺されなかったんじゃ?」

『わからない。俺も殺されると思っていたんだが、何故か封印されていたんだ』

「殺されると思っていたけど、何故封印されたのかわからないみたい」

「なるほどのう……封印はエルフの王か……ううむ。まあ生きておったのは僥倖ぎょうこうか」

『まあな、おかげでリーリアにも出会えた』

「えへへ」

「なんか嬉しそうじゃのう……しかし、ベアルには是非とも頼みたい案件があったのじゃが」

『ほう、なんだ?』

「なに?」

「エルフの領地の北に魔獣が湧いて出る土地があることは知っとるじゃろ?」

「うん、私もお父さんに教わったよ」


 中央大陸の中心部。エルフ領から川を挟んだ北側。魔獣が大量に発生する魔獣領がある。

 そこはこの世界の種族は誰も住む事ができない。正確に言うと人は入れるが強力な魔獣と戦い続けることになるため、生きていくには自衛手段が必須となる。

 ベアルやディランのような強者なら可能だろうが、リーリアが一撃で倒した程度の冒険者では淘汰されてしまうだろう。

 そんな土地だからこそ誰も住もうとは思わなかった。

 

「魔獣領の北はドラゴンの住む山脈で守られとる。そしてわし達が住む南のエルフ領は大河が守っていたのじゃが……」


 ディランはそこでお茶を飲もうとしたが、冷たいことを思い出しお茶のおかわりを頼む。

 リーリアは大人しく話の続きを待っていた。


「……んで、なんじゃったか。そうそう大河が守っていたのじゃが、最近こちら側に魔獣が大量に流れてきておる」

『なんだと!? 原因はわかってるのか?』

「!? 原因はわかってるの?」

「……原因はわからん」

『調査はしてないのか?』

「調査は?」

「うむ……実は調査をしようとしてAランク冒険者パーティーを送り込んだのじゃが……」


 ディランはそこでがくりと肩を落とす。

 嫌な予感しかしない。


「1年間音沙汰がないのじゃ」


 Aランクといえば実質ギルドでの最高ランクといっても過言ではない。

 そのパーティーの音沙汰が無い……多分、全滅だろう。Aランクのパーティーが全滅したとなっては調査なんてできないと言っているようなものだ。

 だが凶暴化している魔獣をこのまま指をくわえて見ている事は愚かな事だ。

 原因を突き止め対処しなければ、最悪の場合エルフ領が地図上から消えることになるのだ。

 

『ん? ていうかエルフの王は何をしているんだ?』

「エルフの王は? だって」

「うむ……エルフの王は原因不明の病に伏せておる。代わりの者が治めているがエルフ王国は現在それどころではないようだ」

『ち……そんな事になっているとはな』

「…………」


 エルフはその魔力と精霊との相性の良さで、魔術に関しては他の追随を許さない。

 大河のおかげである程度魔獣の侵略は抑えられる。だがそれを越えてくるものは少なからずいた。

 なので大河を挟んでエルフ達は防衛をし、魔獣を撃破している。

 それでも大河を渡りきる魔獣もいたが、エルフの森という絶対的なアドバンテージの地形では魔獣もひとたまりも無い。追い込まれて倒されるのだ。

 

 しかし今はそれが間に合っていないという。

 エルフの森から魔獣があふれ出てしまって、今は冒険者の需要が高まっているのだ。


「じゃがまだ時間に余裕はある。エルフの王国とも連絡は取れているし、北の前線の町でも魔獣を抑えられているしのう。じゃからまだ安心していいぞ」

「そっかぁ……」


 ほっとするリーリア。

 だが解決する手段がないことは事実で、解決を先延ばしにしているだけだ。

 Aランクを倒せる相手となると伝説の魔獣以上の存在がいるといってもいい。

 倒せなくても逃げる事は可能だったはずだ。それができなかったとなると相当な数だったか、伝説級以上の魔獣がいたかどちらかだろう。


 ああ、クソ! 

 

『そんな面白そうな事に参加できないなんて!!』


 つい本音が漏れる。


「お父さんが残念がってる」

「ふぉっふぉっふぉ! ベアルならそういうと思っていたぞ。ていうかわしだって現場に赴きたいのじゃ。お前さんなら絶対に行くというじゃろうと思っておった」

「うん、お父さんなら絶対に解決してくれるよ」


 その言葉を聞き、にやりとするディラン。


「となればじゃ。リーリア、お主は封印を解く方法を探るために動くのもいいかもしれんぞ」

「えっ! 封印解けるの?」

『まじか!!!』


 なんとも頼もしい!

 ディランよ! 友よ!

 未だにセンスのない服きてんじゃねえよって思ってすまん。


「お父さんも驚いてる」

「ほっほっほ、そうかそうか。まあベアルは戦闘以外はからっきしじゃからのう」

『うっせえじじい』

「うっせえじじいって言ってる』

「がっはっはっは! ベアルならば言いそうじゃ! なつかしいのう」


 リーリアさん、何も全て翻訳しなくても。

 

『封印を解く方法知ってるのか?』

「封印を解く方法知ってるの?」

「そうじゃな、方法は知らんが、その方法を知ってる人物がどこにいるかはわかる」

「どこ?」

「エルフの王じゃ」


 確かに。俺を封印したのはエルフの王だ。

 それはそうだ。だが……エルフの国は森の中にある。

 エルフの森は別名"迷いの森"だ。エルフ以外は国へはいけない。

 ……いや、まてよ!


『ナルリースか』

「ナルリース?」

「うむ、あやつはエルフの国の出身じゃ。ナルリースに個人依頼を出せば受けてく────」

「そっか! わかった! ありがとう!! ディランおじいちゃん!」

「お、おじ!?」


 リーリアはギルド長室から飛び出して行った。


「ふぉふぉふぉ、ディランおじいちゃんか…………悪くはないのう……だが話は最後まで聞いて欲しいものじゃ……」


 


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