185、アナスタシアと……
帰還魔法陣と階層魔法陣を見つけた俺たちは、ひとまず街へと帰還した。
神のポーションで魔力を全快できるとはいえ肉体的な疲れは癒せない。急ぎたい事情もあるが休憩は大事だ。
宿で豪勢な夕食に舌鼓を打ちつつ、8階層の話題で盛り上がっている。
女の話はとても長い。そこまで話すことはないため、明日は休みだということだけ伝えると一足先に部屋へと向かった。
ドアを閉めると早速ベッドに寝転がる。
日の光でしっかりと干された布団は気持ちがいい。
目を瞑ってしまえばいつでも寝られそうだ。
…………
………………
……………………
ガチャ。
部屋に誰かが入ってきた。
どうやら俺は寝ていたらしい。
「おい……寝てしまったのか?」
この声はアナスタシアか。
「おーい…………うーん、覚悟してきた私がバカみたいじゃないか……」
「……しかし寝てると可愛いものだな」
プニ。
「ふふふ、今ならなんでもやりほうだいじゃないか」
どうやら俺にいたずらをしているようだ。
頬に指の感触がある。
よし、せっかくだからこのまま寝たふりをして驚かせてやろう。
「全然起きないな…………えいっ!」
頬を両手で挟まれているようだ。
「た、たこさん……ふふふ、変な顔」
……どうやらこれ以上は調子にのらせてしまうようだ。
お灸をすえてやらねばなるまい。
俺はアナスタシアの両腕を掴んで目を見開いた。
「なっ! お、起きていたのか!?」
「起きないとでも思ったか?」
「それは──あっ!」
両腕を思い切り引っ張るとアナスタシアはバランスを崩し、ベッドに横たわってる俺の上に体を乗せる形となった。
顔が近くなり、アナスタシアの吐息が首筋にかかる。
「ベ、ベアル! ちょっとまって!」
「なんだ?」
「ま、まだ心の準備が……」
「覚悟はしてきたって言ってたよな?」
「き、聞いてたのか!?」
そのまま強引に体を掴むと、体をひねるようにしてアナスタシアをベッドに叩きつけた。これで形勢逆転で、俺が上となった。
「ま、待って!」
「まだ何かあるのか?」
「は、恥ずかしい……あ、灯りを」
部屋は魔具でできた光が灯っている。そういえば消さないで寝ていたな。
──しかし。
「ダメだ」
「な、なんで!」
「お前の可愛い顔と綺麗な体が見れないじゃないか」
「~~~~ッ!」
アナスタシアの顔は既に真っ赤となっている。
この表情が見れなくなるのもつまらないからな。
「……そういえばアナスタシア……お前髪を伸ばしているようだがどうしてだ?」
出会った頃は短かった髪が肩まで伸びている。
頭を撫でるように髪を触る。
「ん……そ、それは……」
視線を交えることに耐えられなくなったのか横を向く。
もじもじと言いにくそうにしながらも、聞こえるか聞こえないかの声で呟くようにこう言った。
「だって……好きな人には可愛く見られたいから……」
──可愛すぎて反則だ。
俺は思い切りアナスタシアを押さえつけた。
「お前はこれから何をされるか分かっていてそれを言ってるのか?」
「えっ……それはどういう?」
「二度とそんなことが言えないようにお仕置きするって言ってんだよ」
「なっ、なんでそうなるんだ!?」
「いいから覚悟しろよ」
さあ、始めようか。
──この日はとても楽しい夜となった。
次の日、相変わらず徹夜で朝食の席に座る。
他の仲間がそろう中、当然のようにアナスタシアの席は誰もいない。
だが誰もそれを気にしなかった。むしろ料理が運ばれないので最初からキャンセル済みのようだ。
「それでベアル……ちゃんと手加減してあげたの?」
そう切り出してきたのはサリサだ。
「いや、全力を出した。今日はもう無理だな」
「……はあ」
諦めともとれるため息をもらすとそれ以上は何も言ってこなかった。
他の皆もコーヒーを飲んだり、うきうきしながら朝食を待っていたりで、関心を示すものは誰もいなかった。
もう皆、慣れたものである。
「ところでダンナ。今日は予定はあるのかにゃ?」
「いや、今日は何もないぞ」
「ならあたしともデートして欲しいにゃあ」
「そうだな。そうするか」
「やったにゃー!」
ジェラとも妻になったし、こういう時間も増やしていかないといけないというのを改めて思った。
「はあ~嫁が全員になってしまったのだ……こうなるとベアルと接する機会が少なくなるな」
レヴィアがため息をつきながらそう言った。
「順番は決めないといけないわね……以前から決まってた順にアナスタシア、ジェラの順番で加えればいいわよね?」
「それで問題ないです」
俺の意見をはさむことなく決まっていく。
まあ、それが穏便に済むのであれば何も言うことが無い。むしろ理解があって助かるくらいだ。
「じゃあ時間ももったいないから朝食後から付き合ってもらおうかにゃ? ダンナもそれでいいにゃ?」
「ああ、大丈夫だ」




