183、やっかいなモンスター
「では俺がおびき出してこよう」
談笑している間に残りのモンスターをどうやって倒すのか決めた。
小型モンスターとサメモンスターを壊滅させたので、残っているとしたらボス級のモンスターだろう。既に魔力探知により3体のモンスターがいることを把握している。
それをおびき出して一匹ずつ戦おうってわけだ。
なのでまずは東に向かって一体を連れてくることにした。
俺は風魔法で空中を飛行する。
モンスターの丁度上空あたりで海へと飛び込んだ。
すると、視界の先には驚愕のモンスターが鎮座していた。
「こいつは!!」
そこにいたのは巨大な体躯の海龍だった。
見慣れているので間違いない……こいつはリヴァイアサンだ。
俺は悩んだ。
こいつを連れて行っていいのだろうかと。
倒すことに躊躇してしまうのではないか?
……いや、それはないか。
頭を振り浮かんだ考えを否定する。
そもそもレヴィアなら、「リヴァイアサンは自分だけでいい」と言いながら、嬉々として倒そうとするに違いない。
ダンジョンのモンスターは生という概念がない。感情が無いおもちゃのような存在であることは皆も分かっているので何の問題もないはずだ。
……あとはこいつの強さだけだが。
…………見た感じ最初に出会った時のレヴィアと何ら変わりのないように思える。
ならば十分通用するだろう。
石槍をリヴァイアサンに向かって放つ。
巨大な体の一点を貫き、針のような穴をあけた。
リヴァイアサンは海中を振動させるような咆哮を放つと、ギラリとこちらを睨みつけた。
「ふははは! こっちにこい!!」
俺は海中から海面にでると滑るようにして海を渡る。
続いて巨大な水柱が立ちリヴァイアサンが顔をだすと、怒涛の勢いで迫ってきた。
さすがと言うべきかリヴァイアサンの泳ぐ速度は尋常ではないスピードで、あっという間に俺の背中へと追いついた。
そのままの勢いでリヴァイアサンは噛みつこうとしたが空を切る。
俺がさらにスピードを上げたのだ。
「さすがに泳ぎでは敵わないが、海面なら別だ」
追いつかないと思ったのか、それとも一定距離離れたからか、リヴァイアサンは水球を放ってきた。
俺はそれを難なく躱すと後ろを振り返る。
リヴァイアサンは少しの間じっと様子を見るようにして、止まったかと思ったら海へと帰っていった。
「……どういうことだ?」
魔力探知でリヴァイアサンを探ると、一番最初の位置に戻っていることが分かった。
「距離を取り過ぎたか? ……ちい、もう一度やってみるか」
俺は引き返し同じようにリヴァイアサンを挑発する。
そしてギリギリの距離で噛みつき攻撃を躱しながら移動していたら、リヴァイアサンはまた同じ位置で止まると海へと引き返していった。
「……くそ、そういうことか」
どうやら自分の狩猟範囲内でしか戦わないタイプのモンスターのようだ。
これは島で戦われたらリヴァイアサンにとって非常に不利になるため、こういう対策をしているのだろう。
「一旦島に戻るか」
すぐに島に引き返すと、装備を整えている女性たちの姿が目に入った。
「あれ? ベアルさんどうしたんですか?」
いち早く俺に気がついたナルリースが駆けつけるとそう尋ねてきた。
「ああ、ちょっと面倒なことになってな……引き連れてくるのは無理そうなんだ」
「えっそうなんですか?」
何度も説明するのは面倒なので、皆と合流してから事情を話した。
「ほう……なるほど、リヴァイアサンか……ふん! ならば我が粉々に砕いてやろう!」
やはり一番やる気があったのはレヴィアだった。
「姿形が似てるのはやりにくくないのか?」
「ふんっ! 所詮はダンジョンのモンスター! 心も持たない空虚な存在など同族とも思わん!」
「そうか、まあ、俺もボコボコにするのはやりなれているから大丈夫だが」
「うっ……やられた想い出が……お、おぬしはもっと遠慮しろ!!」
レヴィアが悔しそうに地団駄を踏んでいたので、俺は優しく頭を撫でてやった。
「……そんなもので懐柔されると思うな……」
レヴィアの口元は緩んでいた。
単純な奴である。
「さて、そういう訳だから全員でいくぞ! 相手は強力だが今のお前たちなら大丈夫だ」
目の前にはリヴァイアサンが静かに鎮座している。
相変わらずこちらから手を出さなければ動かないので、準備はゆっくりと勧められる。
「リヴァイアサンは超再生能力を持っている。一撃で仕留めなければ倒せない」
「どうすればいいでしょうか?」
「ナルリースは何が有効だと思っている?」
「ええっと……そうですね…………土でしょうか?」
海中の戦いは難しい。
火魔法は効果がなくなるし、水魔法はそもそもの耐性がある。
風魔法も威力を出すにはかなりの魔力を使うことになる。
ならば土魔法なのだが……
「土魔法ではリヴァイアサンに効果的なダメージを与えられない」
石槍で串刺しにしてもすぐに傷が癒えてしまう。
だからといって圧死させるにもリヴァイアサンの巨体をつぶせるほどのストーンウォールは無茶がある。
「だから友好的な戦い方は──」
俺は上を指さした。
「海面ですか?」
「そうだ。先ほども海面までならついてきた。だから海面まで誘ってから一気に叩く」
「わかりました!」
皆で上空へと上がった。
風魔法が使えないジェラはリーリアが背負っている。
「それでどうやっておびき出すんですか?」
ナルリースが俺の服の袖を控えめに掴みながら言った。
俺はニヤリとする。
「魚はやっぱり釣りだな」
「釣り……ですか!?」
「ああ、まあ見てろ」
俺は空中に大量の石槍を作り出す。
「さて──ではいくぞ!」
上空から海中へ大量の石槍が突き刺さっていく。
その勢いは弱まることなく、全てがリヴァイアサンへと突き刺さった。
刹那、巨大な体躯が揺れ、海面を揺らすほどの咆哮が聞こえる。
リヴァイアサンが動き出したのだ。
「くるぞ!」
リヴァイアサンは一瞬にして海面へと顔をだすと上空にいる俺達を睨みつけた。
「きたわ!!」
「でも顔しかださないにゃ!」
「これじゃ魔法を打てないよ~」
リヴァイアサンは様子を窺うようにこちらを見続けていた。
「だから釣りをするんだろ?」
俺の手には大量の魔力の糸が絡んでいる。
先ほど放った石槍に魔力の糸をつなげていたのだ。
「釣りというより捕縛かも?」
「……リーリア、細かいことはいいんだ」
図星を突かれたのでさっさと釣り上げるとしよう。
俺は糸を思いっきり手繰り寄せた。
すると顔だけ出していたリヴァイアサンは、まるで巨大な島が浮上するかの如く海面へと引きずり出された。
「すご──」
「──きますよ!!」
リヴァイアサンも抵抗を見せるように上空にいる俺達へと向けてブレスを放ってきた。
「私に任せろ! ホーリーシールド!!」
アナスタシアがそう言うと盾を中心にして青白いオーラが広がっていった。
凄まじい勢いで飛んでくるのブレスだったが、青白いオーラに触れると同時にすべてかき消えた。
「よくやったアナスタシア! ではいくぞ!!」
思いっきり腕を振り上げる。
海面にとどまっていたリヴァイアサンは、魔力の糸に引っ張られ、ポーンと上空へと投げ飛ばされた。
「サイクロン!」
「ファイアーランス!」
「インフェルノ!」
俺の合図と共に皆の魔法がリヴァイアサンへと降り注ぐ。
風と炎が融合して巨大な炎の竜巻がリヴァイアサンを包み焦がしていく。
「エクスプロージョン!!」
「フレアバースト!!」
「スーパーノヴァ!」
さらにそこに過剰ともいえる上級魔法が叩きつけられた。これはナルリースとサリサとリーリアの魔法だ。
爆発が収まると、そこには魚の焼けるような焦げ臭さと少しの灰だけが空を漂っていた。
「楽勝だったな」
あっという間だった。
まあそれもそうだろう。
既にリーリアだけでも倒せるような相手だったのだ。
皆でかかれば容易いことは分かっていた。
「まああたしたちにかかればこんなもんにゃ」
「ジェラはファイアーランスしかしてないじゃん」
「うるさいにゃ!!」
シャロとジェラがわちゃわちゃと騒ぎだす。
だが二人とも嬉しそうである。
「それじゃあ次ですね!」
「……いや待て」
移動しようとしていたナルリースの腕を掴みその場に留まらせた。
「どうしたんですかベアルさん?」
俺の不可解な顔に気付いたナルリースは心配そうに顔を覗き込んできた。
…………魔力探知に新たな反応が生まれた。
それは先ほどリヴァイアサンがいた場所であった。
これはまさか!?
俺は再び海へと飛び込んだ。
──な、なんだと!?
「リヴァイアサンが復活している!!?」




