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180、海中戦開始



「では準備はいいか?」


 島の周りに陣形を組む。

 5階層と同じように俺の近くには3人娘を配置してある。

 反対側にはリーリア、アナスタシア、サリサ、レヴィアの順で並んでいる。もし何かあればすぐにフォローできる配置だ。

 戦闘が長引くことが予想されるので休憩は交代制だ。むろん俺は休むつもりなどないが。


 さて、まずは先制攻撃。

 数百本の石槍ストーンランスを発動し狙いを定める。

 皆も各々の遠距離攻撃を準備した。


「いくぞ! 攻撃開始だ!!」

 

 数百本の石槍ストーンランスを前方の魚モンスターに放つ。

 水の抵抗など関係なしに勢いよく飛んでいく石槍はすべて命中し魚の体を貫いた。

 同じように皆の攻撃も次々とモンスターに命中し絶命した。


 ──その瞬間。


 周りを優雅に泳いでいた大群の魚たちが一斉にこちらを向いた。

 魚なので表情の変化はわからないが、魔力を集め出したので臨戦態勢に入ったということがわかった。


「くるぞ!」


 魚たちも魔法を放ったかのような超スピードで突っ込んできた。

 鋭い歯をカチカチとならして噛みつこうとしてくる。


「私が邪魔をするわ! メイルシュトローム!!」


 ナルリースは海中に大渦を作り、大群の魚モンスターを渦の中心に引き込んでいく。


「シャロ! 今よ!」

「ほいさ~! トルネード!」


 大渦に重なる様にして巨大な竜巻が現れた。

 するとみるみるうちに魚モンスターは海から上空へ放り出され粉々に切り刻まれていった。


「やった~!」

「ゆだんするにゃ!」


 ジェラが斧を盾のように構えてシャロの前へ出る。

 トルネードから逃れた魚モンスターが突っ込んできたのを斧でガードする。

 強烈な体当たりだったがジェラは難無く受け止めると、瞬時に両手でエラを掴み引きちぎった。

 エラを引きちぎられた魚はビチビチとその場で暴れ、大量の血を流すとついには動かなくなった。


「にゃはは! 近づいてきた魚はあたしに任せるにゃ! すべて引きちぎってやるにゃ!!」


 勝利宣言を上げている間も魚モンスターは突っ込んでくが、それらを器用に斧で受け止め、時には受け流しながらも着実に仕留めていった。

 

 うむ、相変わらず見事な連携である。

 俺は石槍ストーンランスを連射しながらそれを見届けると、後方の方にも目をやった。


「ふははは! そんなものか!!」


 レヴィアは仲間の輪から少し前に出て、集まってきた魚たちを消滅の魔力によって仕留めていた。

 それを見ていた魚群は途中から動きを変え、クネクネと泳ぎ、レヴィアの背後に回ると一斉に襲い掛かかった。


「無駄だよ」


 魚群は何かに絡めとられたかのように動けなくなり、その場でジタバタを動き回る。

 リーリアがレヴィアの後方に漁師の網のような罠を魔力の糸で作っていたのだ。

 

「ライトニング」


 バチンと一瞬なにかがはじけ飛んだかのような音がなり、魚モンスターはすべて痺れて動かなくなった。


「これが一網打尽ってやつだね」 

「さすがリーリア! 我の後ろは任せたぞ!」

「うん!」


 どうやらあちらも心配はないようだ。

 魚モンスターの強さはAランクの下ってとこだろう。

 海中での戦いと言うことで若干弱くなっているのかもしれない。

 だが数という面では今までで一番多いだろうから油断はできない。


「まだまだくるから気を抜くなよ!」

「「「「「「「おー!」」」」」」」




 しばらく小型の魚モンスターを倒していると大きな魚モンスターも現れ始めた。

 形的にはサメのようであり鋭い歯とナイフのようなヒレをもっていた。

 

「はあはあ……ここにきてこんなモンスターが!!」

「さすがにきついにゃ~」


 既に1000匹以上の魚モンスター倒しているナルリースとジェラには疲労が見え始めていた。


「ナルリース、ジェラ先に休憩をしてきていいぞ」

「え……でも……」

「シャロはどうにゃ?」


 二人はシャロに視線を投げる。

  

「うわ~僕も休憩したくなってきたかも~」

「お前は後でだ」

「えぇ~!」


 シャロは少し余裕がありそうだった。

 なので休憩はもう少し後にさせることにする。


「いいからいけ。しっかりと魔力回復ポーションを飲んで休憩してこい」

「は、はい。わかりました」

「じゃあお先ににゃ~」


 二人は海面に上昇していくと、島に上がっていく。

 俺はその様子を見ながらサメモンスターを串刺しにしていた。

 シャロも石槍を放ち、同じように串刺しにする。


「シャロお前……強くなったな?」

「あはは~わかる? シャーリとの融合のせいかな……なんか体の調子がいいんだよね~」


 昔のシャロでは考えられないくらいの魔力量である。

 単純に魔素が大きくなったというだけでは説明ができないほどに増大している。

 俺もそうするように、シャーリの神力を魔力に変換し魔法を使っているのだろう。


「これなら最後まで持ちそうだな?」

「えぇぇ! 僕も休憩したいよぉ!」

「カオスに一発くらわせてやるんだろ?」

「うわーん! あの時変なこと言わなきゃよかったー」


 俺達は次々とくるサメモンスターを処理していった。

 途中さぼりがちになるシャロに鞭をいれつつ倒していると、アナスタシアがやってきた。

 

「ベアル! シャロ! 他の二人は休憩か?」

「ああ、そうだ。何かあったのか?」

「いや、リーリアとレヴィアだけでも余裕なのにサリサも水中戦闘になれ始めたから手持無沙汰となったんだ」

「なるほどな」


 確かにあの二人ならこの状況でもまだまだ余裕だろう。

 それに加えてサリサが本来の力を発揮できるようになったのなら敵の取り合いとなってしまうのは想像に難しくない。

 

「でもこっちだってべーさんがいるから余裕だって分かってるでしょ~? あれれ~アーちゃんは何しに来たのかな~」

「べ、別にベアルに会いに来たんではないからな!! 誰も休憩にいってないようなら変わってやろうと思ってただけだ! へ、変な詮索はするな!」

「へえ~そうなんだ~じゃあ僕変わってもらおうかな?」

「シャ、シャロがいなくなったらベアルと二人だけになってしまうだろ!! そ、そんなのダメだ!」

「えーなんでダメなの~?」

「そ、それは…………ええい! ダメなものはダメなんだ!」


 アナスタシアの表情には焦りが見えていた。

 シャロもからかいがいのあるのだろう。ニヤニヤしていて面白そうだ。


「おい……いいからお前らも戦え……さっきから俺一人でここの奴らを相手にしているんだが」


 二人がじゃれている間もモンスターはひっきりなしにやってくる。

 シャロが会話に夢中になるものだから俺の負担が半端ない。

 まあそれでも余裕なんだけどな。


「えー僕ほんとうに疲れてるんだよ~。だからアーちゃん頑張ってね~」

「えっ! あっ! おい!!!」


 シャロはそう言い、すたこらさっさと海面に上がっていった。

 一人残されたアナスタシアは手を伸ばしたまま固まっている。


「ったくシャロのやつ……おい、アナスタシア」

「な、なんだ?」


 アナスタシアは振り向いたのだが視線は下を向いてもじもじとしていた。


「とりあえず戦ってくれるか?」

「えっ……あ、ああ!!」

 

 はっとしたアナスタシアは顔をバチバチと叩くと、剣を構えた。

 水中では巨大な盾は邪魔になるため島に置いてきてある。

 

「剣だけで戦えるのか?」

「……ちょっと厳しいが近寄ってきたモンスターなら倒せる」

「そうか、ならフォローしてやるからちょっと前にでてみろ」

「ま、前にか!?」

「ああ、戦いやすいようにしてやる」

「だ、だが……ちょっと……」

「なんだ? 俺の事が信用できないのか?」

「いや、そうじゃないんだ! で、でも……」


 またもじもじとしだした。

 ……まさか。


「お前……まだ下着姿が恥ずかしいのか?」

「~~~~ッ!!」


 どうやら図星らしい。

 俺は思わず、「はぁ」とため息がでた。


「た、ため息……わ、私はやっぱりダメな女なんだ……うぅ」


 そして何故か泣きそうになっているアナスタシア。

 そういえばこいつは泣き虫だったな。

 ……仕方ない。

 俺は攻撃の手を緩めることなくアナスタシアに近寄った。

 すると、びくっと体を硬直させたまま微塵も動かなくなった。

 俺はアナスタシアの顔に自身の顔を近づけてこう言った。


「お前は勇者だろ?」

「────ッ!」

「俺の知ってる勇者はこういう時でも真面目で愚直に敵と戦ってたぞ」

「わ、私も!!」


 さっきまで泣きそうになっていた顔がキリっとした真面目な表情に変わっていった。


「そうだ! 私は歴代最強の勇者だ! 下着姿がなんだというんだ! 全ての手モンスターを倒してやる!!」


 自分を鼓舞するように吼えるとサメに斬りかかっていった。

 だが、サメにとってその動きはあまりに遅い。

 瞬時にして後ろに回り込むと、その華奢な体に噛みつこうとした。

 しかし、その歯がアナスタシアに届くことはなく、ダメージを負ったのはサメの方だった。

 歯はボロボロに砕け、辺りに血が漂う。

 アナスタシアの周りには薄いベールのようなオーラがあった。

 神力ガードである。

 サメは狂ったように暴れ、ナイフのようなヒレでアナスタシアに体当たりをする。

 しかし結果は同じ。

 ヒレは砕かれ、根元からちぎれ、泳ぐことすらままならなくなったサメは海深く沈んでいった。


 アナスタシアの剣からは炎がついたような陽炎がある。

 次々と襲い掛かるサメを剣の一振りで真っ二つにする。

 それを避けようとしたサメも剣から伸びる陽炎によって両断される。

 フェニックスモードとなったアナスタシアはつま先から剣の先まで神力オーラを張り巡らせ近づいたものすべてを切り倒していった。

 こうなったアナスタシアを傷をつけられるものなどこの階に存在するはずがなかった。


「フォローする必要はないようだな」

「いや……あまり長くは使えないんだ」


 周りにモンスターがいなくなった瞬間、アナスタシアはフェニックスモードを解き、普通状態に戻った。


「危険な時だけ発動しようと思ってる」

「なるほどな」


 必要な時に必要な分を使用する。とても経済的であるように思えるのだが……。


「それじゃ今度はあそこの大群に突っ込んでくるんだ」

「おい……私の話は聞いてたのか!?」

「もちろんだ」

「絶対聞いてないだろっ!」

「いや、今の戦い方でお前がフェニックスモードを使いこなせていないことがわかったんだ」

「な、なんだと!? どういうことだ?」


 そもそもフェニックスモードとはなんなのか?

 これが疑問だ。

 アナスタシアは聖痕モードという勇者特有の必殺技がある。

 これは自身の腹に傷をつけることで発動し、存在的な法力を爆発的に高める代わりにしばらく法力が使えなくなるという諸刃の技だ。

 発動するのにある一点に傷をつけるというのが条件となっていることからモードというのは理解できる。


 ではフェニックスモードとは何か。

 これは融合したフェニックスの力──神力を使うということだ。

 実はこれ、モードといっているがただ単純に神力を使っているだけに過ぎないのだ。

 実際に同じようにシャーリと融合したシャロはそんな切り替えなどせずに神力を使っている。

 アナスタシアは神力をうまく使えていないため、フェニックスの意識を表面に少し出すことで神力を発動しているのだ。

 俺はこのことをアナスタシアに説明する。


「そ、そういうことだったのか」


 目からウロコだったようで、「なるほど」と何度も呟いていた。


「だからフェニックスモードは常に神力を発動させているから効率が悪い。本当の意味で『必要な時に必要なだけ』使えるようになるんだ」

「わ、わかった! やってみる!」


 アナスタシアは再び剣を構えると、「それじゃよろしく頼む」と一言いった。

 俺も、「ああ」と返事をするとアナスタシアはモンスターの群れに突っ込んでいった。



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