176、元通り
皆が帰ってきた夕食時に今回のことを詳しく話すことにした。
リーリアの手前話したくなかったが、信頼を失いたくはないので正直に話した。
「融合したの~!?」
この話に一番驚いていたのはシャロ自身だった。
「ああ、シャーリと融合したお前は神力という新しい力が発揮できるようになったらしい」
「へえ~僕にそんな……」
両手をグーパーさせているがまったく実感はなさそうだった。
「融合ってことはまだ死んでないってこと?」
リーリアが冷たい表情でそう言った。
せっかく上がった機嫌がまた下り坂だ。
俺は慌てて弁明する。
「融合してしまったからもう表には出て来ない。ちゃんと言質は取ったからな」
ここだけは嘘をついた。
たまに夜の相手をしなくてはいけないなんて、リーリアの前では口が裂けても言えなかったのだ。
「ふーん……そうなんだ」
納得はしてないようだが理解はしてくれたようである。
「そ、そんなことよりもだ……シャロに子供ができたというのは本当なのか?」
レヴィアが立ち上がりテーブルに手をつくと、わなわなと震えながら前のめりになる。
俺はコクリを頷く。
するとレヴィアは脱力したように席に座った。
「シャロに先を越されたのだ……」
「僕としても全然実感はないんだけどぉ~」
「記憶はまったくないのか?」
「うん、全然……べーさんは記憶あるんだっけ?」
「うっすらとだがある」
「え~やだ~エッチ~」
「…………」
記憶の海に潜っているときも現実の自分が何をしているのかは分かっていた。感覚は伝わっていたからだ。
だが4日間も過ぎている実感はなかったので曖昧な記憶だった。
「悔しいけど仕方ないわね……それよりそのキノコっていうのは?」
サリサも瞳を輝かせる。
俺は取ってきたキノコをテーブルに並べた。
「これが一時的に神力を宿らせてくれるというキノコですか……地味ですね」
ナルリースがそう言うのも無理はない。
ぶっちゃけ見た目はどこにでも売ってそうな普通の見た目をしているからだ。
「じゃあ早速我がいただくのだ」
「いえ、私が先よ」
「ずるいです! 私も!」
3人の妻たちは我先にとキノコを奪い合おうとする。
だがその3人を退けてすべてのキノコを奪うものがいた。
「これはダメですわ。本当に力が強いものですから一回で子供ができてしまいますよ?」
意外にもセレアだった。
険しい表情をしてちょっと怒ったような感じでもある。
「ならば余計によいではないか! セレア、それをよこすのだ!」
「ダメです! 皆さんカオスとの戦いが迫っていることを忘れてませんか?」
「「「あ」」」
約8か月後にはカオスと戦うことになる。
さすがに身重の状態で戦う訳にはいかない。
「シャロはもう仕方ありませんが、他の方はタイミングを見て使ってくださいね」
「「「………………」」」
妻たちは納得のいかなそうな表情をしているが反論もない。
だが一人だけずるいという視線がシャロに突き刺さった。
「あはは~大丈夫だよ~僕が責任をもって元気な赤ちゃんを産むからね」
「「「納得いかない」」」
─
翌日、俺たちは再びダンジョンの中へと入った。
皆の気力はすっかり回復していたし、リーリアに至っては暴れたいという欲求が体からにじみ出ていた。
「はああぁぁぁぁぁ!!!!」
最後の牛モンスターを一刀両断すると、さすがに疲れたのか、「ふぅ」と大きな息を吐いた。
今の居場所は5階層。ここまでの敵をすべてリーリアが倒しているのだが、まだまだ魔力に余力は残っていた。
「リーリア、満足したか? さすがに次の階層からはおぬし一人では無理なことは分かっているだろう?」
レヴィアがそう言うとリーリアはコクンと頷く。
「うん、満足したからもう大丈夫。みんなありがとう」
「うんうん、いいんだよぉ。ストレスは発散しないといけないよねえ」
「シャロに言われるとシャロのせいじゃないって分かってるけど……ちょっとイラっとするね」
「あはは~そうだね~。でも僕の中で話を聞いてるだろうからしっかりと怒っておくね。こら~」
「あはは! ……はあ、もう気が抜けちゃうよ」
リーリアとシャロはもともと仲がいい。
シャーリの事は許してはいないが、だからといってシャロを憎むのは筋違いであるのをリーリアは分かっている。
なので今はすっかり元の関係へと戻っていた。
「シャロは無理しちゃダメだよ? お腹に赤ちゃんがいるんだから」
「まだ大丈夫だよ~でもありがとうね」
そういって優しくリーリアの頭を撫でるシャロ。
今ではすっかり身長も同じくらいになったので撫でるのも大変そうである。
「では6階層はみんなで戦うとするか」
俺の提案に一同は賛成する。
魔法で速攻片付けてもいいのだが、ここは久しぶりの共闘を楽しむとしよう。
「──ああ、それと試して見たいことがあるんだ」
6階層に着くとまず俺が奥に通じる一つの通路を石壁で封じた。これで『火炎犬』が入ってこれなくなった。
残るはマグマの中を自由に行き来できる『岩石ナマズ』だ。
レヴィアがウンディーネを召喚し足場を作って手分けして戦った。
皆も手慣れてきてるだけあって一撃で仕留めていき、あっという間にすべての岩石ナマズを倒しきった。
「さて、では次は火炎犬だが」
「お父さんもしかして……」
「ああ」
大量の岩石ナマズを同じ場所に止めると合体して強くなった。
ならば火炎犬も合体するのではないかと考えたのだ。
「……どうやら予感は当たったようだぞ」
「えっ?」
次の瞬間、俺の張った石壁が破壊された。
そこにいたのは巨大な火炎犬。基本的には大きくなっただけだが、炎の色が赤から青へと変化していた。
「これは面白い」
巨大火炎犬は巨大岩石ナマズよりも強力な魔力を秘めているようだった。
きっと一匹も倒さずに道を封鎖したのがよかったのだろう。
「おいベアル! こいつはかなりやばいのではないか!!?」
レヴィアがそんなことをいうのは珍しい。
それもそのはずで、このモンスターは元気なときのレヴィアの魔力を超越していたからだ。
「ああ、だがこれくらいでなければ新しい魔法……いや神力を試せないだろう?」
「なにっ!? おぬしはもう神力を操れるようになったのか!?」
「操れるようになったというか……以前から自然と使っていたんだがな」
「そうなのか?」
「そうだ──おっと!」
様子を見ていた巨大火炎犬が急に走り出してきた。
俺は飛び出すと奴の顔面に強烈なかかと落としを叩きつけた。
巨大火炎犬は「きゃうん」と可愛らしい声を発し大きく後退した。
「まあ見てろ! 今から使う魔法は神力を持つものにしか扱えない超究極の魔法だ」
「超究極の魔法──ベアル! あなたここであれを使うの!?」
「サリサ、何か知っているのか?」
レヴィアがサリサに尋ねる。
「ええ、丁度私と行動しているときに魔法が完成したっていうから見せてもらったのよ……ハイパーノヴァでもかなり驚いたのだけれどもその先があったの……正直言ってあの時は死んだと思ったわ」
「その魔法とはなんなのだ?」
「それは──ウルトラノヴァよ」




