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173、記憶



 俺は先ほどの少女が気になっていた。

 あの少女を見たときからとてつもない頭痛と喪失感が自身を襲っている。

 そのせいなのか体の自由が利かない。

 四肢をもがれたかのようにまったく動けない状態だ。

 俺の上にまたがり腰を振っているシャロがうっとおしく思い始めた。

 心とは反対に体は反応してしまっているから、まるで俺の体ではないように思えた。

 なのに俺の体はシャロを愛し続けている。


 ……何かがおかしい。


 一度感じた疑問は、疑惑となるのに時間はかからなかった。

 疑い出すと何もかもが信じられなくなる。

 俺は瞳を閉じ、瞑想するかのように意識を深く深く沈めることにした。

 イメージとしては深い海を潜るような感じだ。

 きっとそこに答えがあると信じて潜水を開始する。


 潜り始めるとすぐにシャロとの出会いである島からフォレストエッジの町、ドラゴン領、人間大陸、魔族大陸。順を追って記憶の断片があった。

 深く潜れば潜るほど記憶のパーツが所々おかしいことに気がつく。

 確かにシャロと二人で巡っていたはずなのだが、何故そうなったのかが分からない矛盾した記憶が点々とあった。

 まるできりばりされた地図を見せられているかのように無理やりくっついているのだ。

 しかもかなり重要である島から出た経緯や世界最強決定戦で戦った相手などの記憶がなかった。

 記憶力は比較的いいはずの俺がこんなことになるのは絶対にありえない。

 

 ここで俺は少女の事を考える。


 ……あの少女は一体何者なのだろう。

 一目見たときからこんなにも衝撃を受けたのだ。どこかでみたことがあるはずだ。

 だが、この記憶のパーツの中に少女の姿は見つからなかった。

 おかしい……ならばなぜこんなにも衝撃を受けたんだ?


 ……そういえば少女の攻撃を防いだ後に何か言っていた気がする。

 少女はなんて言っていた?

 近くで聞いたはずなのにまったく記憶に残っていない。

 思い出せ思い出せ思い出せ!

 俺は少女の剣を掴んで持ち上げた。

 そのとき少女の顔をじっくりと見たはずだ。

 何故か気になって髪から首元まで……。

 ……そういえば首に何かを付けていたな。

 確か…………魚のネックレスだったきがする。

 少女は魚が好きなのだろうか?

 いや、もっと大事な何かがあったはずだ!

 

 ────くそっ!


 何か重大なことを思いだしそうなのに思い出せない。

 もっと……もっと深く潜るんだ。

 きっと俺の記憶の根幹たる部分に少女がいるはずなんだ!


 俺はさらに深く記憶の海を潜っていく。

 これ以上深く潜るとなると、俺の300年間の島生活をみることになるから正直見たくはない。

 だがそんなことよりも少女の事が気になって仕方なかったのだ。

 俺は意を決して潜り始めた。

 

 俺にとっては辛くて長い時間が続く。

 ひたすら心を無にしてただひたすらに進んでいった。

 無限の時間が続くかと思われたがようやく終わりがやってきた。

 そして封印される瞬間へと場面は切り替わる。

 あまり見たくない場面ではあるが今となってはいい想い出だ。

 そこからさらに潜り、戦争や世界最強決定戦やダンジョン攻略など懐かしい場面を振り返りながらも進んでいった。

 どこまで潜ればいいのだろう。

 ついには俺の子供時代までさかのぼってしまった。

 育ての親であるオリアスとの生活。

 本当に懐かしい記憶だ。

 そして最後にオリアスとの出会い──そこで記憶が暗転する。


 ──────思い出した!!!!!


 記憶の深海部分にリーリアを島で拾って育てたところから今までの記憶、すべてがあった。

 シャロとのことは表面上だけ塗りつぶされた幻の記憶だったのだ。

 すべてを思い出した今、先ほどリーリアやナルリースが喋っていたことが頭にすんなりと入ってきた。

 なるほど……そういうことだったのか。

 今すぐ戻ってシャロの体から偽物を追い出さなければならない。


 ……ん?


 ふと記憶の底に穴が開いてるのが見つかった。

 俺は妙にそこが気になった。

 興味本位という部分もあっただろうが、見なくてはいけないという謎の使命感のようなものがあった。

 穴に近づき顔を突っ込んでみる。


 ────な、なんだここは!!?


 そこは俺の体に収まるには大きすぎる無限の空間が広がっていた。

 例えるなら俺の住んでいる世界、セレアの星よりも大きいのではないだろうか。

 ……これは無理だ。

 莫大な量の記憶がそこにはあった。

 もしこれを全部たどろうものならさらに数百年……いや、数千年単位の時間がかかるだろう。

 今はその時ではない。

 なにより俺は早くリーリアに会いたかった。


 俺は後ろ髪をひかれながらも浮上をすることにした。



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