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171、最悪なタイミング



「お父さんが止まった……」


 リーリアは皆を待つ間、指輪に魔力を送りベアルの位置を確認していた。


「何かあったのかな?」


 ベアルの位置はかなり遠い。

 あの短期間でそんなに進めるなんてさすがはお父さんと感心する一方、急に止まって動かなくなってしまったのが非常に気になった。

 だがリーリアは持ち場を離れるわけにはいかない。

 今この瞬間にセレアやジェラ、シャロが現れたときに誰もいなかったら困るからだ。

 先ほど合流したのはレヴィアだったが事情を話すとすぐに行動を移し、ベアルとは反対側に移動しながら探索し続けていた。

 レヴィアは魔獣の時ほど鼻が利かないが、それでも普通の人よりは全然利く方であり、こんな時はかなり頼りになる存在だ。


「次だれだろ」


 指輪に魔力を流すと誰かがかなり近くまできている。


「さて、そろそろ……あっ!」

「リーリアじゃない!」


 角からひょっこり顔を覗かせたのはナルリースだった。


「ふう、助かったわ……えっとベアルさんは?」

「お父さんは他の人を探しに行ったよ」

「そうだったのね」

「でも……なんかお父さんの動きが止まったんだよね」

「誰か見つかったんじゃないかしら?」

「そうだといいんだけど……」


 二人とも不思議には思っていたが全然不安には思っていなかった。

 そもそもベアルがモンスターにやられるなど微塵も思っていないからだ。

 それよりも他の仲間を探すことに意識を持っていった。


「ナルリースがここで待っててくれない? 私も探しに行ってくるよ」

「わかったわ、気を付けてね」

「うん」


 方角はわからないのだが、仮にベアルが西、レヴィアが東だとすると、リーリアは南を選んだ。ナルリースが北側からきたからである。

 あと一人の指輪の持ち主であるサリサはかなり遠いが南東のほうにいる。

 ならばとリーリアは南西の方角に進むことにした。


 まるで迷路のような道をナルリースの位置を頼りに進んでいく。

 途中ゴーレムと遭遇するが、九星剣で一太刀くらわせると、いとも簡単に崩れ去りあっけなく倒せてしまった。

 ゴーレムの強さを確認したリーリアは心底ほっとした。

 この程度ならばジェラやシャロも生き延びることができるだろう。

 

「だとしたら7階層って何が難しいのかな?」


 ふと、そんな疑問がわいた。

 5階層からはリンクモンスターがいて、6階層はその数がさらに増した。

 しかし7階層はそういった気配がない。

 たまに通路に行く手を塞ぐようにしてゴーレムが配置されているくらいだ。

 時々ベアルの位置を確認するがあれから全く動いていない。

 リーリアはいろいろ考えては見るが、まるでこの迷路のように出口が全く見えない思考がグルグルと頭を駆け巡っていた。


「とにかく今は探索をしよう」


 自分にそう言い聞かせるとリーリアはさらに速度を増してダンジョン内を駆け巡った。



 ─



 しばらくしてナルリースの元へと戻ったリーリア。

 そこにはベアルとシャロ以外の全員が集まっていた。


「おお、リーリア! 無事なようでなによりだ! さあお姉ちゃんの胸へ飛び込んでおいで」


 両手を広げるアナスタシアをスルーして、ナルリースの元へと向かう。

 

「シャロはいなかった?」

「ええ、サリサとジェラが一緒に。レヴィアがセレアを連れてきたわ」

「そっか」

「お、お姉ちゃんは一人でここにきたんだぞ?」


 リーリアの服を控えめに引っ張りながら寂しそうにそう言うアナスタシア。

 

「うんそうなんだ。それでお父さんのことなんだけど……」


 軽く流されたアナスタシアはがっくりとしゃがみ込み完全にいじけてしまった。

 皆はそれを不憫に思いながらも誰もフォローをしようとはしなかった。


「ずっと止まってるけど何があったと思う?」

「それだ! 我もずっと気になっておったのだ!」

「それなんだけど……私ずっと確認をしていたのだけど途中数分の間ベアルさんの反応が途切れたときありませんでした?」

「そうなの?」


 リーリアはずっと確認していたわけではなかった。

 方向が分からなくなりそうなときに指輪に魔力を送り位置を確認していて、次に確認した時にはベアルの反応はあった。なのでほんの数分の間だろう。


「どちらにせよ確認しに行かないといけないわね……皆で一緒に行きましょう」


 サリサの提案に反対するものはいなかった。


 リーリアははやる気持ちが抑えきれずに先頭を歩く。

 意図せずに歩幅が広くなっている。妙な胸騒ぎがして仕方がなかった。

 そんなリーリアの肩を掴むものがいた。

 

「リーリア……落ち着くのだ。気持ちは分かるが今は目の前の事に集中しろ」

「え……? あっ!」


 角を曲がった先に気配がある。

 どうやらモンスターがいるようだ。

 こんなことにも気付けないくらいリーリアは焦っていたのだ。


「今は休んでおれ」


 レヴィアはそう言うと一瞬にして飛び出していった。

 壁を蹴る様に角を曲がるとゴーレムの倒される音が聞こえた。


「さあくるのだ」


 角を曲がると見事に粉砕されたゴーレムがいた。


「今度は我が先頭を歩こう」

「……うん」


 リーリアは自身の頬をパンパンと叩き活を入れ直した。




 ゆっくりと慎重に着々とベアルの元へと近づく一行。

 あともう少しというところでレヴィアがピタリと足を止めた。


「レヴィアどうしたの?」

「……臭う」


 鼻をひくつかせて辺りを窺うように嗅ぎまわる。


「ジェラもこの臭い分かるか?」

「……確かに、かすかにだけど臭うにゃ」


 リーリアはもちろん他の皆もそんな臭いはわからなかった。

 どうやら元魔獣や獣人にしか察知できない臭いのようだ。


「……む、これはあまり嗅いではいけないようだな」

「そうだにゃ……なんだか意識が飛びそうになるにゃ」

「風魔法で防ぎながら進むのだ」


 レヴィアがそういってストームの魔法を発動させた。

 微弱な風が追い風となって常に流れ続ける。

 

「これで臭いを吹き飛ばしながら進もう」

 

 さらにゆっくりと歩を進める一行。

 長い通路の角を曲がった時、またレヴィアの足が止まった。


「……この横から臭いの発生地がありそうだの」


 視線の先にあるものは壁だった。

 サリサがその壁をコンコンと叩く。


「中は空洞のようね……どこかに仕掛けがあるはずだから探しましょ」


 皆で探したので仕掛けはすぐに見つかった。

 視線で合図をするとその仕掛けを発動させる。

 すると壁は一瞬にして消え、新しい道が現れた。


「む……臭いのだ」

「強烈だにゃ!」


 顔をしかめるレヴィアとジェラ。

 だがリーリアたちにはまったく分からない臭いだった。


「全然わからない……ということはお父さんもわからなかった?」

「きっとそうにゃ」

「うむ、ここからは何があるかわからない。用心するのだ」


 ストームの魔法をさらに強く発動させながらゆっくりと進む。

 そこは長い長い通路だった。

 何かあると思いながら進む道のりは数分なのにとても長く感じた。


「扉があるぞ」


 通路を塞ぐように扉があった。

 用心しながら進み扉の前までやってきた。

 ──すると。


「しっ! 中から声がきこえる……」


 耳を澄ます一行。

 次の瞬間──


「べーさんそこ気持ちいい!」


 シャロの一段と高い、なまめかしい声が聞こえた。

 

 一瞬にして場が凍った。

 一行が気まずい雰囲気のなか静まりかえっていると、さらに高い声でシャロが叫ぶ。


「いっ────」

「────子供は聞いちゃダメよ」


 サリサが咄嗟にリーリアの耳を塞いだ。

 だがリーリアには今のがなんなのか分かっていた。

 そもそも当の本人からそういう知識は植え付けられていたからだ。

 むしろ元気そうで良かったと安堵する。

 

 リーリアは安心したせいか周りを見る余裕ができた。

 横をみると真っ赤になって自分で耳を塞いでいるアナスタシアがいた。なにか一人でぶつぶつと呟いているようだが耳を塞がれているので何を言っているのかはわからない。

 次にリーリアの耳を塞いでいるサリサを見たが特に表情はなく深くため息をついているようだった。

 次にナルリースを見たが、安心したような嫉妬しているような表情をしていてるが、手は自身の服をギュッと握っていたので嫉妬心のほうが強そうだった。

 最後にレヴィアを見たが、前にいたために表情は分からなかった……が、全身をわなわなと震わせていたのできっと怒っているだろう。


 リーリアの耳を抑えていた手が離れた。

 辺りはシーンと静まり返っていた。

 皆も踏み込んでいいのか少し躊躇しているようだった。

 すると、また中から声が聞こえてくる。


「ちょ、ちょっとまって! 僕まだ──」


 その瞬間レヴィアが勢いよく扉を開け放った。

 タイミング的にはばっちりだったようで、中の二人は驚いたようにこちらを見ている。

 当然裸だったのだがそんなことは気にしていられない。むしろ最中じゃないだけ良いといえる。


「お、おぬしら……何をやっているのだぁぁぁぁっぁあああ!!!!!!」



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