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17、友達



 現在、エルフの女に手の傷と全身の火傷を回復魔法で治してもらっている。

 ジェラは魔族の女に水をぶっ掛けられ、エルフの女に治療された。今は眠っている。


 回復魔法をかけてもらっている間に自己紹介された。

 エルフの女はナルリースといい、魔族の女はシャーロットというらしい。

 3人ともBランクの冒険者でパーティー名は"妖精の輪舞曲フェアリーロンド"。かまいたちが街道に現われたからその退治のために依頼を受けたらしい。

 安全を期す為に慎重に倒そうとしたところミスをしてしまったようだ。

 ナルリースはリーリアに謝った。

 本当にごめんなさいと。

 

 疑った事については理由があった。

 そもそもナルリース達はリーリアが強いって事に気がついたらしい。

 リーリアは魔力探索を広範囲に広げていたので、ナルリースがその範囲に入ったときに、その範囲の広さに強いと確信したんだとか。

 しかし実際に現場に着いたときにいたのは小さな子供だった。

 この子で間違いないとは思いつつも、疑わずにはいられなかったとか。

 それで質問をして確信を得て3人とも納得したんだが、ジェラは強い者と戦うのが趣味というヤバイ性格をしているので暴走したらしい。


「私もね、あなたの実力に興味があって……それで強く止められなかったの、本当にごめんなさいね」


 本当に身勝手だと思う反面、俺としては実力の近い者と戦える経験は大事だと考えているので問題はなかった。

 リーリアもどうやら同じ意見だったようで、


「大丈夫。私も楽しかった」


 そう言ってこの一件は収束となった。

 

 

 ■



 ジェラがやっと目覚めた。


「……あれ? あたし生きてたにゃ?」


 仰向けに寝転びながら額に手を当てて呆然としていた。

 

「はあ、あなた跳ね返された事考えてもっと魔力残しておきなさいよ。咄嗟にシャーロットが防いでくれたのよ。それでもあの威力だから死んだかと思ったわ」

「本当にやばかったんだよ~」

「…………あれを正面から受けて跳ね返されるとは思ってなかったにゃ……」


 リーリアはそんなジェラに近寄り手をとった。


「ジェラ! すごく強かったよ! 私、武器の技を見たの初めてだったんだけど、想像以上にすごかった! ジェラ強いよ!!」

「うぅ……リーリアのその言葉が骨身に沁みるにゃ」

「それに楽しかったよ」

「……リーリア!」


 ひし


 上半身を起こしてリーリアに抱きつく。そしてわしゃわしゃと頭やら背中やらを撫でられる。

 

「あたしこそごめんにゃ! 疑ったふりして本当は戦ってみたかっただけだったんにゃ! すごい魔力を秘めてる気がして……うわああんいい子だにゃー!」


 どうしたらいいかわからず、そのまま成すがままされるがままのリーリア。

 ナルリースとシャーロットはやれやれと肩をすくめるが、優しい表情をしていた。

 

「獣人の間では強い者は受け入れるにゃ。どんな事情があってリーリアみたいな子供が一人でいるのかは知らにゃいがもう友達にゃ」

「えっ、友達?」

「そうにゃ。あたしたちは互いに全力で戦った! だから友達だにゃ」

「……友達」


 にへらと笑う。

 

 ああ、いいなあ。

 俺は昔を思い出す。

 死闘をしたあとに芽生える友情というものほど美しいものはない。

 俺は感慨に浸る。


「あはは! 可愛いにゃー!」


 ジェラはリーリアに抱きつき、その豊満な胸が押し付けられる。


 …………しまった。感慨に浸ってる場合じゃない。

 くっ……感覚を共有できないだと!?

 なんてことだ。

 俺は絶望に打ちひしがれる。


『……お父さん、なにか変な事考えてる?』

『………………何の事だかわからないな』

『ふうん、なんか沈黙が長いけど、それならいい。なんでもない』


 危なかった。絶望してる場合じゃなかった。

 今後は気をつけないといけない。



「ところでリーリアは何歳なのぉ? 実は20歳ってことはない…よねぇ」

「8才だよ」

「「「8才!!?」」」


 声が見事にはもった。


「その歳でその実力だなんて」

「え、あたし8才に負けたにゃ?」

「あはは~今日のご飯なににしよ~」


 驚き、戸惑い、現実逃避。反応はさまざまだが。


「それは才能なのかしら? それとも師匠がすごいの?」

「もちろんお父さんがめちゃくちゃ強いよ! 私なんて足元にも及ばないよ」


 何がもちろんなのかは分からないが、えっへんと腰に手を当てて胸を張るリーリア。

 

「そんなすごい人がいるのね……会ってご指導を受けて見たいわ」

「うーん、僕も魔法を扱うものとして興味があるかも~」

「足元にも及ばないのかにゃ……戦ってみたいにゃ」


 どうやらモテモテになりそうな予感である。最後はヤバイやつの考えだが……いや、300年前の俺もそうだったか。なんか親近感が湧くなあ。


『リーリア。もしあれなら島に────』


「お父さんは誰にも会わないよ! それに誰にもいけない場所にいるんだもん! だから会えないし、もし会っても他人のこと嫌いだから倒されちゃうかもしれないよ! だから無理だよ!!」


 …………あ。


「そ、そうなのね。それなら仕方ないわね」

「へ、へえぇ~」

「必死だにゃ」


 どうやらモテモテ作戦の道は閉ざされたようである。

 残念だが俺の天使がそう言うなら仕方ない。

 …………本当に残念だけどな!




 その後、リーリアはこの冒険者たちと他愛もない会話などをした。

 仲良くなりその会話の流れで自分の生い立ちについて話すこととなった。

 それはそうだろう。街道を少女が一人で歩くなんて誰がどう見ても不自然だ。話題にならないほうがおかしかった。

 リーリアは語った。魔族に拾われて育てられたこと。その魔族に感謝していること。買い物を頼まれたこと。自分の身くらいは守れる事を。だがその魔族が島に封印されていることだけは話さなかった。


「なるほどにゃー、確かにその強さなら安心できるけどにゃあ」


 ジェラはうんうんと納得したようだ。しかしナルリースは少し怒っているようで、


「だからってこんな子供に一人で行かせるなんてどういう了見なのかしら!」

「まあまあ、リーリアちゃんの前だよお」

「あっ……ごめんなさい。リーリアの恩人の悪口を言うつもりはなかったの」


 慌てるナルリース。どうやら物事をはっきり言うタイプらしい。

 こういうタイプは好きだ。


『ふ、正直な女だな。好感がもてるぞ』


「ううん、大丈夫。お父さんは気にしてないから」

「気にしてない……?」

「あ、細かいことは気にしない人だから大丈夫……ってこと」

「そ、そう?」


 ついつい口を滑らせるが慌てて訂正していた。

 あぶないあぶない。俺が見ていることは内緒だ。


「でもそれならあたし達と行く方向は同じだにゃ、これからは歩きながら話しすにゃ」

「それもそうね! 一緒にいきましょう」

「そうだねえ」

「うん」


 歩き出そうとしたリーリアに、「あ、待って」というとナルリースは近くに放置してあった黒いかまいたちの耳を切った。

 リーリアが不思議そうに眺めていたら、それに気付きナルリースが説明してくれた。


「倒したって証拠にこうやって耳を切り落とすのよ。まあ全部持っていってもいいんだけど、さすがに邪魔になるしね……素材となるのが毛皮しかないんだけど、それも質が悪くて安いのよ」

「お肉も不味いんだよぉ」

 

 とシャーロット。


「シャロ、お願い」

「あいよぉ、ファイアーボール」


 黒いかまいたちは火炎球に焼かれて消滅する。


「残しておくとここに魔獣が寄ってきちゃうから消しておかないとね」


 なるほど、さすがはBランク冒険者。

 俺はまったく気にした事がなかったな……。


「あ、それとこの黒いかまいたちの討伐報酬はリーリアに受け取ってもらう事にするけど、二人は文句ないわよね?」


 ナルリースは有無を言わさない物言いでそう言った。

 

「あたしはリーリアと戦えたから満足にゃ」

「そもそも僕のせいでリーリアちゃんが戦うことになっちゃったからね~僕にはなにもいえないよぉ」

「決定ね、そういうことだからリーリア。町についたら一緒に冒険者ギルドに来てくれるかしら?」


 リーリアはなんだか良くわからないようだ。


『魔獣を倒したのがリーリアだから報酬をもらえるようだぞ、まあもらえるものはもらっておこう』

『わかった』


 コクンと頷いた。




 一行はフォレストエッジへと歩き出す。

 移動中は主に獣人のジェラが、終始リーリアに質問をしてきた。

 どうやらジェラも孤児らしい。しかも奴隷として売られて、クソみたいな主人から逃げてきたとか。

 なのでリーリアに強い思いができたようで常に隣を歩いていた。


「リーリアは素直で可愛いにゃあ、きっと拾ってくれた魔族が素晴らしい大人なんだろうにゃ」

「うん! ジェラはわかってる! お父さんはすごい人だよ!」


 なんて褒められるものだから恥ずかしいことこの上ない。

 リーリアも裏表のないジェラに心を許してきていた。


「そうみたいね……しかもリーリアをここまで強く育て上げて。魔法の先生としてもすごいのでしょうね」

「うん! お父さんは強いよ! 教え方も上手いし! それにね────」


 あまりの熱量にナルリースはたじたじとなり、「そ、そうなのね」と相槌を打っている。

 

「でも、そんなに強い人なら何か伝説でも残してそうだけどねえ。冒険者でSランクだったとか」

「……それは」


 まさか魔王だったなんて言えない。

 リーリアも言いたいけど言えない葛藤に苦しんでいる。


『俺は冒険者もやってたぞ』

『ほんとう!? お父さん』

『ああ、言う必要がなくて言ってなかったが』

『そうだったんだ! ランクはいくつだったの?』

『俺はな、SSランクだ』

『SS!?』


「ん? リーリアどうかしたにゃ?」


 変な顔していたところをジェラに見られたらしい。

 だがSSというランクがどうしても気になったリーリアは、


「SSランクってどんな人がいるの?」

「え?」


 三人ともぽかーんとしていた。

 

「ランクはSまでよね?」

「そうだにゃSSなんて聞いた事ないにゃ」

「うーん、僕も聞いた事ないなぁ」


 あれ? 俺のいない300年の間になにがあったんだ?

 ううむ。


『お父さん?』

『ああ、すまん300年前はSSランクがあったんだが……』

『なくなっちゃったのかな?』

『そう考えるのが妥当だろうな』



 

 そんな話をしていたら港町フォレストエッジに続く橋の前へと到着していた。

 港町フォレストエッジは海と川に囲まれた町で森に隣接している。その森は中央大陸最大といわれる大森林、その中にはエルフの王国があった。

 このフォレストエッジもエルフ王国の領地内にある。


 妖精の輪舞曲フェアリーロンドの面々の故郷でもあった。

  

 俺たちがたどり着いたのは日も高くなってきた頃。大きな川に橋が架かっていて、その先に町の検問所があった。

 数人並んでいるようだったがすぐに俺たちの番となった。


「おお、これはこれは妖精の輪舞曲フェアリーロンドの皆さん! おかえりなさい!」

「ええ、ただいま」


 ナルリースは営業スマイルで接している。

 そのスマイルを向けられた若い検問兵は、でれでれとした顔でナルリースを見ている。こんな美人に微笑みかけられたらそうなるのも仕方ない。

 どうやらこの町では有名人らしいな。

 

「ええと、3人で300ゴールドです」

「いえ、4人よ」

「「えっ!」」


 検問兵はハッとこちらを見るとリーリアと目が合った。

 リーリアも驚いていた。そのせいで検問兵と声がかぶってしまった。


「えっと、その子供も?」

「そうよ、訳あって今は一緒に行動してるの。だから4人」

「冒険者以外の方ですと、500ゴールドいただいてるのですが……」

「わかってるわ」


 すっとお金出し検問兵に渡す。


「銀貨が、ええと……はい! 確かに800ゴールドです!」


 ぴしっと背筋を伸ばすとすぐに手続きを終わらせた。


「ありがとう」


 ナルリースはそう言って通過する。3人もそれに続く。


「あの……ありがとう。実は今はお金もってなくて……でもお金できたら払うから」


 これは俺のミスだろう。

 検問のことをすっかり失念してしまった。

 リーリアは申し訳なさそうにしている。すまんリーリア。


「ふふ、いいのよ。これも何かの縁だわ。だから私のおごりよ」

「う……ありがとうナルリース」


 ぺこりとしっかりと頭を下げてお礼を言う。


「いいのにゃ。子供は子供らしくおごられるのにゃ。っていうかこのお金は三人のお金だからナルリースばかりかっこつけてずるいのにゃ」

「そうだよぉ、ナルリースずるーい」

「あ、あなたたち……別に今言わなくても……」


 恥ずかしそうに頬を染めるナルリース。


「ジェラもシャーロットもありがとう」


 ぺこり


「あーやっぱりいい子なのにゃー!」


 がしっとリーリアを抱きしめるジェラ。

 その力に逃れる事ができないリーリアだったがどこか嬉しそうだ。


 

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