164、おや? 岩石ナマズの様子が……
俺たちは交代で火炎犬を駆逐していった。
強さランク的にはAランク程度のモンスターなのだが、数が尋常ではなかった。
合計で2000体は超えていたと思う。
次から次へとやってくるので倒すのに手間取っていたら数の暴力であっという間に押しつぶされてしまうだろう。
それが分かっているので、襲い掛かってくる火炎犬を一撃で葬り次に備えるのだ。
永遠に続くかと思われた襲撃はついに終わりがやってきた。
後続がばったりと途絶え、犬の遠吠えも聞こえなくなる。
「やっと終わったねお父さん!」
「ああ、あとは岩石ナマズだけだが……」
俺が氷の床の下にしばらく閉じ込めている間、かなりの数が集結していた。
足元を見ると、隙間が見つからない程うじゃうじゃと蠢いている。
「うぅ、気持ち悪いね」
「だな……さてどうするか」
「無視する?」
このまま放置して階層魔法陣や帰還魔法陣を探すのもいいだろう。
だがもし、何らかの罠で俺がいなくなったとき大変なことになってしまう。
ならば今倒すのが最適ではないのかと考えた。
「いや、倒してしまおう。それにどの道、今日はこの階層で終わりにして帰還しようと思っているんだ」
「そうなの?」
リーリアはまだ大丈夫だよとアピールをする。
だが俺は首を横に振った。
「魔力的には大丈夫でもここは体に負担が大きい。氷で暑さはカバーしているがそれでも相当な無理をしているはずだ。きっと今日の夜にでも疲れがどっと来るぞ」
「そうなんだ!」
俺の言うことだからかリーリアは納得する。
そこにサリサがやってきた。
「そうなのよ……この歳になると結構くるのよね~」
腰を抑え、うーんと伸ばしながらそう答える。
「そうだな。サリサはこの中で一番年上だからな。無理はできん」
「……なんかちょっと含みを感じる言い方だけど、この階層で帰還するっていうのは賛成だわ」
サリサに横目で睨まれる。
正確に言えばレヴィアの方が年上なのだが、肉体的にいえばサリサが一番年上なので間違ってはいない。
──そんな会話をしていた時だった。
突然、マグマの中で魔力が一点に集中しだした。
よく見て見ると何か塊のようなものがモコモコとつなぎ合わさって少しずつ大きくなっている。
「何が起こっているの!!?」
サリサが叫ぶ。
岩石ナマズが一か所に集結して合体し始めたのだ。
「ほう! そんなこともできるのか面白い!!」
俺は氷の床の強度をあえて弱くした。
このままマグマの中に抑えることも可能だったのだが、その成長した姿を見て見たかったからだ。
岩石ナマズはどんどん膨らみ氷の床を破壊する。それでも合体は止まらずにどんどん膨らんでいった。
「いったいどこまで大きくなるというのだ!?」
同じようにワクワクしているレヴィアが言った。
現時点で合体している岩石ナマズはSランクを超えているだろう。
それなのにまだまだ岩石ナマズはいっぱいいる。
終わりの見えない合体に皆が注目していた。
特に俺とレヴィアは物足りなさも相まって、期待値が岩石ナマズのように膨れ上がるのだった。
「ちょっと待て! 感心して見ている場合か!!? 倒せぬほど強くなったらどうするんだ!」
さすがに危機を感じたのかアナスタシアがそう叫び剣を構え突撃した。
「ウォータースラッシュ!」
ガキンッ!
音を立てて剣が折れる。
巨大化した岩石ナマズにダメージどころか傷をつけることすら敵わなかった。
「あああぁぁ! 私の剣が!!!」
ショックを受けたのか呆然と折れた剣を見つめていた。
岩石ナマズはそんなアナスタシアには目もくれず、ひたすら合体に集中する。
「お姉ちゃん下がって! もう!」
見かねたリーリアがアナスタシアを引きずり下がらせる。
既にアナスタシアの居た場所は岩石ナマズの体が占拠していた。
それほどまでに巨大化していて、その大きさはまだまだ上限には達していないようだ。張り付くように岩石ナマズが次々とくっついていく。
この場所が広い空洞のような場所で良かったと思う。そうでなければ大きくなり過ぎた岩石ナマズは身動きが取れなくなってしまっただろう。
いや……こういうことがあるからあえてダンジョンを広くしてあるのかもしれない。
このダンジョンを作った人がいるのならばそういうことも計算しているのだろうと俺は思った。
「うーむ……さすがにヤバくなってきた……か?」
さすがのレヴィアも表情に余裕がなくなってきた。
岩石ナマズの魔力は単純にプラスされているようだ。
それに加えて魔力操作も上達しているのが先ほどのアナスタシアの攻撃で分かった。
傷がつかないということは体の強度もそうだが魔力操作が上手くなっているという証拠だ。岩石ナマズのモンスターとしてのレベルが上がっているのが分かる。
「ちょっとベアル……こうなると私でもきついわよ」
サリサがそう言って顔をしかめた。
「そうだな……単純に魔力量でいえばオルトロスに匹敵するかもしれないな」
「オルトロスってリーリアが倒したっていう?」
「ああ、そうだ。まあオルトロスより強いことはあり得ないがな」
「……オルトロスってやつはこんな魔力を持ってさらに戦闘センスもあったっていうの? ……恐怖でしかないわね」
自身を超える魔力をもつ敵を目の前にしてそのヤバさを実感するサリサ。
「ていうかそろそろ合体が終わるぞ! みんな気を付けるのだ!!」
レヴィアがそう叫んですぐ、最後の巨大岩石ナマズがくっつき合体が終わった。
「みんな散れ! 三人娘は俺の後ろに来い!」
俺がそう言ったのと同時に巨大岩石ナマズは口から燃え盛る火炎のブレスを放った。
四方に散る皆を追うように、ブレスはジグザグに角度を付けながら追っていく。
リーリアはブレスを回避すると、素早く巨大岩石ナマズの背中に飛び乗った。
「はああぁぁぁぁぁ! パワーウォータースラッシュ!!」
リーリアの渾身の一撃が巨大岩石ナマズの背中を深く抉った。
さすがの巨大岩石ナマズもこの一撃は応えた様で、かなりの岩石が削れボロボロと崩れ落ちた。
だが瞬時にその部分がモコモコと盛り上がり修復された。
「こいつ! 超再生を持ってるのか!」
レヴィアが不快な表情を浮かべそう叫んだ。
超再生はリヴァイアサンも持っていた能力だ。傷口が瞬時に回復するというとても厄介な能力である。
「もっと強力な一撃を与えないと致命的なダメージを与えられないよ!」
リーリアは暴れ狂う巨大岩石ナマズの背中から飛び降りると皆に向かってそう叫ぶ。
「そいつは厄介だな」
「おぬし笑っているのか?」
「ふっ、リヴァイアサンと最初に戦った時の事を思い出してな」
「我と?」
「ああ」
どんな強力な魔法をぶち込んでも何度でも復活してきたリヴァイアサン。
俺はあの時、心の底から戦闘を楽しんだものだ。
「ちょっとベアル! にやにやしてないで! これどうするのよ!」
サリサの叫びで我に返る。
皆は一斉に攻撃を繰り出してはいるが巨大岩石ナマズの超再生の前に苦戦を強いられていた。
「セレアソードが使えれば!」
唯一倒せるとすればリーリアのセレアソードしかない。
だが強化されたセレアソードはダンジョンを破壊する可能性があるとセレアに言われたので使用を禁じられていたのだ。
「我がやるしかないのか……」
精霊ディーネを召喚し続けているのでレヴィアも魔力が満タンではない。
この状態で消滅球を放っても防がれ続ければ先にレヴィアのほうが魔力が尽きてしまうだろう。
レヴィアもそれが分かっているので意気揚々と前に出ることができなかった。
つまり、皆にこいつを倒す決め手がなかったのだ。
────ならば、俺がやるしかないだろう。
……ああ、そうだ。
せっかくだしこの機会にあれを皆に見せておこうか。
俺は息を思い切り吸って叫んだ。
「今から新魔法を試す! すぐに俺の後ろへ集合してくれ!」
いい魔法の実験台が見つかった。
俺はワクワクが止まらなかった。




