160、暴れたりない
四方八方から襲い掛かってくるモンスターに対処するため、俺たちは円形に陣を組んだ。
幸いなことにモンスターには徒党を組むという脳は無く、バラバラに突撃をしかけてきた。
「戦闘を長引かせるな! もたもたしていると対処が間に合わなくなるぞ!」
突撃してきた牛モンスターを一撃で粉砕しながらそう言った。
俺の両脇には三人娘を配置してある。もし仕留め損なったとしてもフォローできるようにだ。
「そんなことを言ったって~! 僕のひ弱さを知ってるでしょ~」
シャロが泣き言を言いながら水球を連射する。牛モンスターはそれを器用にステップで躱していく。
距離はどんどん詰められ目前まで迫られた時、シャロは杖を構える。
「エクスプロージョンアタッ~ク」
気が抜けるような発声と共に杖が牛モンスターの脳天に直撃する。
すると牛の頭が炸裂し、機能を失った体は地面へと倒れ込んだ。
「よくやったぞシャロ」
「怖かったよ~ご褒美に頭撫でてよ~」
「ちょっとふざけないで! 次来るわよ!」
「えーナルリースが嫉妬してるー」
「そんなんじゃないわよ! ほらっ前を見なさい!」
ナルリースに叱責され頬を膨らませる。
シャロがこの一か月で身につけたのは少量の魔力でモンスターを倒すという技術だった。
最初に放った水球は速度を減少させる意味合いと杖で殴りやすい角度と位置にするための布石であった。そしてトドメの一撃は杖から放たれる一点集中型のエクスプロージョン。
もちろん魔力ガードなどをしっかりしていればダメージは受けないのだが、ダンジョンのモンスターはそこらへんが甘かったのだ。
そこに目を付けた俺がシャロに練習をさせて一人でもモンスターを倒せるように特訓させた。
シャロはもともと器用だったのですぐに習得でき、実戦に活かすことができたのだった。
「よし次はジェラだな!」
「まかせるにゃ!」
そんなことを言っている間も、俺は数匹の牛モンスターを仕留めていた。
俺の請け負う範囲は広い。というのも三人娘に一度に数匹の相手をさせるには荷が重いからだ。なので必然的に俺がかなりの数を倒すことになる。
ジェラは鋭い眼光で獲物を待つ。
手に持っているのはバトルアックスだ。
この一か月でハルバードからバトルアックスへと武器を変更していた。
ジェラ曰く、「ここのモンスターには突き攻撃は殆ど意味ないにゃ。だからもっと攻撃力のあるバトルアックスに変更したにゃ」とのことだ。
確かにここのモンスターには恐怖という概念が無い。だから突き刺して軽傷を与えたとしても平気で襲い掛かってくるのだ。
ならば一撃で行動を不能にさせる重厚な武器を選ぶのは良い選択だ。
「にゃあぁぁぁあぁぁ!!!」
気合をいれて牛モンスターと真っ向勝負をするジェラ。
魔力を込めたその一撃は見事に牛モンスターを真っ二つにした。
「にゃはは! やったにゃ!」
拳を上げて喜ぶジェラ。
それを見たシャロは羨ましそうに声を上げる。
「ジェラはいいな~、小細工しないで倒せるんだもん」
するとジェラは少しムッとしたような表情となった。
「あたしは火の魔法しか使えないから小細工したくてもできないにゃ! むしろ戦略の幅があるシャロのほうが羨ましいにゃ!」
「えーそうかなあ?」
「そうなのにゃ!」
「だ、か、ら! ふざけないでまじめにやりなさいって言ってるでしょ!」
口論となりそうだった二人をナルリースが止める。
二人ははーいと言いながらすぐに喧嘩をやめて次の獲物に向き直った。
ジェラは魔法が殆ど使えないが、それを補える戦闘センスがあった。
牛モンスターを倒した一撃も、タイミング、当てる場所、絶妙な力加減。これが全部一致しないとできない芸当だ。薪を割る要領と同じだが難易度が桁外れに違う。もし同じことをやれと言われれば俺はできないだろう。
ナルリースも言わずもがな、風魔法で牛モンスターを上空へ打ち上げると弓による技で急所を打ち抜いた。鮮やかで見事な早業である。
3人娘は成長した。これならば安心して見ていられる。
「さあ、残りは半分だ! 皆、気を抜くなよ?」
数十体目の牛モンスターを倒してそう言った。
俺の背後ではレヴィアとリーリアが我よ我よという感じでモンスターを奪い合うように倒している。むしろサリサやアナスタシアがやることが無いという感じで呆れていた。
リンクしたとはいえ所詮は百体程度。俺たちの敵ではなかった。
「歯ごたえが無いぞ! もっと強い敵はおらんのか!」
最後の一体をレヴィアが倒して吠えた。
不完全燃焼だったのだろう。中途半端に戦闘本能が刺激され無駄に魔力を放出し続けている。
俺がレヴィアに声をかけようと近づいた……その時だった。
丘の上から見えていた湖辺りから巨大な魔力が生まれた。
振り返りそちらの方を見て見ると、巨大な牛モンスターがそこにいた。
ボスのようなものだろうか?
おそらくだが、あいつを倒さなければ次の階層にはいけないのだろう。
「ふはは! 今度こそは我が貰うからな!!」
そう言うとレヴィアは物凄い勢いで駆けて行った。




