159、5階層
俺たちは4階層の階層魔法陣の前まで来ていた。
毎日のように通っていたこともあり、最短距離で殆ど時間をかけずにやってこれた。
「ここから先は未知の領域だ……皆、気を付けろよ」
改めてそう言い気を引き締める。
皆も硬い表情をしていて緊張ぶりがうかがえた。
「俺からいく」
高鳴る鼓動を落ち着かせながら階層魔法陣へと足を踏み入れる。
1,2、3……。
一瞬にして目の前の風景が変わる。
「ここは?」
そこは何の変哲もないただの部屋だった。
いつもと変わらない風景に少し気が抜ける。
皆も続々とこの部屋へ転送してきた。
「特に変わった様子はないわね」
サリサがぽつりとつぶやいた。
「まあドアの向こうに行ってみない事には分からないが、今のところはそうだな」
「考えたところでしかたあるまい。早速行ってみるのだ!」
レヴィアはそういうとドアに手をかけ、一気に開いた。
「な、なんなのだここは!?」
扉の向こうに広がっていた風景……それは地上そのものであった。
地面には草が生え、上を見上げると青い空があった。遠くに見えるのは湖か。ここは広々とした丘の上のようで風景を遠くまで見渡せる場所だった。おかげで一目でどういう場所なのかが分かった。
だがここは紛れもないダンジョンの内部だ。そう認識させてくれるのはこの場所に場違いだと思われるほど無機質な四角い箱……5階層へと転移してきた部屋が後ろにあったからである。
「ここは地上……ではないのよね?」
「後ろの箱がそう告げているな」
「そう……そうよね」
サリサは信じられないと言う風に周りを見渡す。
「我には分かる。これはまがい物だ。その証拠に草の匂いもしなければ風も吹いていないではないか」
「確かににゃ。自然な風景というにはあまりにもいびつにゃ」
鼻に敏感なレヴィアとジェラがそう言った。
「でもこんなすごいものを再現できちゃうなんてダンジョンってすごいね!」
「マッピングのし甲斐がありますわ!」
リーリアとセレアは瞳をキラキラさせて興奮を抑えきれないようであった。
「そうとう広いようだ。食料はある程度持ってきているが日をまたぐ可能性もある。とりあえず帰還魔法陣と階層魔法陣を探そうか」
俺がそう言った次の瞬間、辺り一面に変化が起こった。
──数百の気配が一斉に現れた。
どうやらこの空間にモンスターが湧いたようだ。
「簡単にはいかないようだ。皆、覚悟はいいか!!?」
一同、「おー!」と気合をいれ、俺たちは前に進んだ。
しばらくなだらかな下り坂を下りていると一番近くにいたモンスターがこちらに気付き襲ってきた。
どうやら目視ではなく、モンスターにある一定以上近づくと気付くようだった。
「来るぞ!」
襲ってきたのは一体。
この場所にふさわしいと言える巨大な牛魔獣のようなモンスターだった。
その突進は凄まじく高速でかなりの距離があったと思っていたが一瞬にして縮めてしまった。
「レヴィア!」
「任せるのだ!」
前に躍り出たレヴィアは両手を前にだして構える。
牛モンスターの突進を受け止めるつもりだ。
「まずは力比べをさせてもらうぞ!」
バチイィィィィン!! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!
レヴィアの手の平が牛モンスターの角を捉える。
地面に轍をつくりながら押されていった。
「いぐぐぐぐ!!! なかなか力があるな!!!」
牛モンスターも負けるかとレヴィアを押し込んでいくが、徐々に速度は減速していった。
そしてついに、牛の突進はレヴィアの手によって止められた。
「では今度はこちらからいくぞ! はあぁぁぁぁぁあああ!!!」
角を掴みながら上空へと放り投げる。
牛モンスターはなすすべなく空中で足をバタバタさせるだけだった。
「我と戦えたことを誇りに思うがいい! ではさらばだ!」
レヴィアは手のひらに溜めた消滅の球を牛モンスターめがけて放った。
牛モンスターは悲鳴を上げる間も与えられずに跡形もなく消え去った。
「モンスターの強さはどうだ?」
「大したことはない、今までと同じくらいだろう」
「そうか」
どうやらダンジョンの構造が変わるパターンのようだ。
少し拍子抜けしたが安全という意味では良かった。
「いや……そうでもないのか?」
全体のモンスターの位置が変わっているようだった。
今いる場所を中心にモンスターが集まってきている。
「ねえベアル……もしかしてリンクしてる?」
「……そのようだな」
サリサの発言に皆の表情がこわばった。
特にシャロなんかは青ざめている。
「お父さんリンクって?」
「一体のモンスターと戦闘をすると、周辺のモンスターも襲ってくることをいうんだ」
俺がそう言うと、リーリアは人差し指を口に当てて少し考えた後こういった。
「つまり……大乱闘が始まるってこと?」
「大正解だ! 皆、覚悟を決めろよ!」




