157、サリサと……
今日はサリサと行動を共にしていた。
サリサもナルリースと比べると劇的に変わってるわけではないが魔力は格段に上がっている。
俺はサリサの戦闘を見ながら、手元では複合魔法の新たな試みをしていた。というのも最強の魔法がスーパーノヴァということに限界を感じていたからだった。
もちろん魔力を注ぎ込めば範囲はどんどん広がっていく。だが瞬間的な威力はほとんど変わらないのだ。スーパーノヴァではカオスにダメージを与えることは難しいと考えている。
……となればさらに強力な魔法を創るしかない。
もとはといえばスーパーノヴァも自分で考えた。
だが先人に使っていた者がいたらしくて俺のオリジナルとはならなかった。
古い文献にスーパーノヴァという魔法が載っていた時は非常に悔しかったのを今でも鮮明に覚えている。
「ベアル……何やってるのよ?」
サリサは俺の手元を覗き込むと、魔法をこねくり回しているのを見て苦笑いをした。
「本当によく事故らないわね」
「慣れればそう難しいことではないさ」
「いや、慣れる前に普通は死ぬわよ!?」
俺は指先程度のスーパーノヴァを発動させては他の複合魔法と融合させては消滅させてを繰り返していた。
魔力を上手くコントロールすれば誘爆を防ぐことは容易だ。
「指先で最強魔法をコントロールできる人なんてベアルだけなんだからね……」
もはや驚きを通り越して呆れてしまったようだ。
「先に進むか?」
「いえ、少しだけ休憩するわ……ちょっと見てていい?」
「それは構わんが面白いか?」
「面白いわね……それに勉強になるわ」
サリサは少し前かがみとなって俺の手元をじっと見ている。
戦闘後ということで汗をかいているのか髪が少し乱れ頬に張り付いていて、頬を伝う汗がしたたり落ち、胸の谷間へと吸い込まれた。
……ううむ、逆にこれでは俺が集中できないんだが。
だがサリサはそんな俺の様子を見透かしたかのように顔を上げるとジト目で見つめてくる。
「魔力操作止まってるわよ……あとね、男の人の視線ってすぐに分かるのよ?」
「そうなのか?」
「そうよ! 特に私は美人で胸も大きいからよくそういう視線に敏感になったわ」
「自分でいうのな」
「だって事実だもの」
ふふんと胸を張り手を腰に当てる。
「……確かに事実だな。サリサを好いている部下も多いだろう?」
「そうね、何度も求婚されたりもしたけど……そもそも私より弱い男なんかに興味はなかったから恋愛感情も生まれなかったわ」
「…………なるほどな」
「なによその間は!」
「いや、サリサが強かったおかげでこうしてまた俺と一緒にいてくれるのだと思うと嬉しくてな」
俺がそう言うとサリサは目を丸くして驚いた。
「どうしたんだ?」
「い、いえ……あなたがそんな正直に言ってくれるなんて思わなかったから」
「俺も変わったんだ」
「そうみたいね……うん……いいことだと思うわ」
そんな会話のあと俺たちはどちらともなく自然に寄り添って休んでいた。
しばしの休憩をすると再びモンスター討伐へと向かう。
サリサの実力はなだらかであるが確実に伸びていた。
持久力が増し、攻撃力も上がっている。
正確無比な一撃とそれに付随する瞬発的な威力がかみ合わさって4体同時に仕留めて見せた。
その仕草は優雅な舞いのようにも見えるのがなお美しい。
サリサは歴代の魔王の中でもかなりの人気だということが最近わかった。
ダンジョン施設内の宿に泊まっているのだが、どこから聞いたのか頻繁に来客が訪れる。
それは魔王サリサを一目見たいという者から、手合わせしたいという者、さらには付き合って欲しいと告白する者まで様々だ。
サリサは面倒くさがらずに全ての事に返事をした。
少し前に俺が、「面倒くさくないか?」と聞いてみたがサリサは、「私を慕ってくれてるのは純粋に嬉しいわ……まあちょっと面倒に感じることもあるけど無下にはできないわ」とのことだった。
見た目が美しいとか実力があることもそうだが、こういう誠実な態度が魔王として人気を確立した理由なのだろう。
そんなサリサは来るべく戦争のために実力をつけている。
俺は関係ないと言ってくれているのだが俺はそれでいいとは思っていない。
国として発表をしていないとはいえ、サリサは俺の妻である。
わざわざ北デルパシロ王国の魔王と一騎打ちさせる必要もない。
相手がどんな魔王かわからないが、もしサリサより実力が上だというのなら俺が戦うことも視野にいれている。
サリサは嫌がるかもしれないが、今はサリサを失うことのほうが怖ろしいのだ。
もしその時がくれば……批判も承知で倒してしまおうと思っていた。
「はっ!」
サリサがまた一瞬でモンスターを倒す。
もう見慣れた光景であった。
「そろそろここのモンスターにも飽きてきたわね」
「ああ、そのことなんだがそろそろ5階層に向かおうかと思っている」
「本当!?」
「ああ、十分に強くなったからな。きっと大丈夫だろう」
俺がそう言うとサリサは嬉しそうな顔をした後に、少し不思議そうな表情をした。
「でもなんですぐに5階層に行かなかったの? まあ、安全のためっていうのはわかるけど……でもあなたとレヴィアがいたら万が一にも死者がでることはないとおもうの」
「俺としても確実なことは言えないんだが……なんとなく5階層はやばいきがしているんだ。これは俺の感であって確証は全くないんだけどな」
「……そうなのね。まああなたの感って昔から結構当たるものね。それにここは訓練の場としては最高だし」
サリサはそう言うとそれ以上は聞かなかった。
実際訓練の場としてはこれ以上ないくらい適した場所であった。
虫モンスターは攻撃力は高いけれど防御力は脆く生命力もそれほどないため、攻撃さえ避けられれば一撃で倒せるものばかりであった。
簡単に倒せる割に魔力を多く持っており、数を倒した時の恩恵は大きい。
まさしく修行の場として設けられたような階層だったのだ。
もしかしたら5階層のほうが効率がいい場所なのかもしれないが、何故か俺の中で心を揺らすようなざわめきがあった。
5階層は注意しなくてはいけない場所なのだと。
「そういえばシャロから聞いたわよ」
少し考え込んでいたらサリサがそう言ってからかうような視線を向けてきた。
「あなたの体液って魔素を大きくできるみたいね」
「ったくアイツは……」
俺は頭を抱えた。
「あれはセレアがからかって──」
「うふふ、今日私だったわよね? 期待していいのかしら?」
そう言って覗き込んでくるサリサはとても魅力的だった。
「……善処しよう」
俺はその魅力には逆らえなかった。




