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156、初耳



「はっ!」


 高速で放たれたウインドボールはモンスターへと命中し、はるか遠くまで飛び、べちゃりと音を立て壁に4つ目のシミを残した。

 ふうと声をもらし振り返りながら笑いかけてくるのはナルリースだ。

 

「もう余裕だな」

「はい! ベアルさんが根気よく教えてくれたおかげです」

「いや、お前の才能だよ」


 この一か月でナルリースはかなり強くなった。

 パーティーメンバーの中で誰が一番伸びたかと聞かれたら迷わずナルリースと答えるだろう。

 基礎の魔力操作をこれでもかというくらい叩き込み、毎日モンスターをひたすら倒すことによって基礎魔力を上げた。

 その結果がこれである。


「ぶー、ずるいよナルリースは~! 僕もベーさんにみっちり教えてほしかったのにぃ」


 唇を突き出して文句をいうシャロ。

 実際この一か月で実力差がある程度開いてしまったからだ。


「し、仕方ないでしょ……その……特訓の時間は夜の時間帯でもあったんだから……」

「僕も混ぜてって言ったのに~」

「そ、そんなのダメに決まってるじゃない!」

「えー? なんでぇ?」

「それは……」

「なんでなの~?」


 恥ずかしそうにうつむくナルリースをニヤニヤ顔で問い詰めるシャロ。

 もはや見慣れた光景だ。


「も、もう! 何してるか分かってるんでしょ! からかわないで!」

「えー? 僕わかんないよぉ」

「五月蠅いわねバカ!」

「わ~ナルリースが殴ったー!」

「今日はもう許さないわよ!」


 遠目で二人はじゃれ合うようにして追いかけっこをしている。

 そんな風景を眺めて、「ああ、平和だなあ」と思うのであった。


「まったく仕方ないにゃあ」


 俺の横へとやってくるジェラ。じゃれ合いに参加することもあるが今日は混ざりそこなったようだ。


「でもシャロの言うことも分からないでもないにゃ。ナルリースの成長スピードが上がったのはダンナと結婚してからだからにゃ」

「まあ、そうだな」

「……あたしとシャロにはその秘密特訓をしてくれないにゃ?」


 そう言って俺を見るジェラはいつもより真剣な眼差しだった。それはジェラが純粋に強くなりたがっている証拠でもあった。

 俺はジェラの瞳を覗き込む。

 そこにはちょっとした焦りのようなものも混じっていた。

 俺はその焦りがなんなのか実は分かっているのだ。

 

「そろそろ魔素の限界値なんだろ?」

「……やっぱり分かっていたのにゃ」


 魔素は魔力を貯めておく人の持っている器官のようなものである。

 つまりそれは魔力がそれ以上成長しなくなるということ。

 決められた大きさのコップに水を入れても満タンになればこぼれてしまうように、人は生まれたときに魔素の大きさは決まっていた。

 シャロやジェラは才能はあるほうだが、それでもリーリアやナルリースから比べると見劣ってしまうのだ。

 二人はこの一か月、伸び悩んでいる。魔力がこれ以上増えないとなると他の事で強くなるしかない。だが、この世界で魔力量は絶対的な基準となる。これが伸びないのであれば、即ち、成長の限界でもあるのだ。


「シャロも分かってるにゃ。でも離れたくないからもがいているのにゃ。もちろんそれはナルリースも感じているからああやるしかないのにゃ」


 向ける視線の先にはくすぐりあって笑っている二人がいた。

 ……こればかりはどうすることもできない問題である。

 だからせめて行けるところまでは皆で行こうと考えている。


「……そんなことで悩んでいたのですか?」


 不思議そうに首を傾げるのはセレアだ。

 ここ最近はマッピングの作業もなくなってしまったので宿でゆっくりしていたことが多かったのだが、今日は、「お父様と散歩がしたいです!」と俺にべったりと付いてきていた。

 ていうか今、「そんなこと」って言ったか?


「どういうことだ?」

「確かに人は魔素の大きさは決まっていますが、大きくすることも可能なのです」

「本当にゃ!?」


 ジェラが本当に大声でそういうものだから、何事かとナルリースとシャロもこちらへとやってきた。


「どうしたの?」

「なになに~面白いこと?」

「セレアが魔素は大きくできると言ったにゃ」


 それを聞いた二人も目を見開いて驚いた。


「ええ、本当ですわ! その為のダンジョンでもあると思ってましたけど」

「その言い方だとこのダンジョンに目的のモンスター、あるいはアイテムがあるということだな?」


 俺の質問にセレアはこくりと頷いた。


「どちらも正解といったところです……例えばリーリアが倒したガーディアンは魔素も大きくしてくれて魔力も引き上げてくれる存在なのですよ。アイテムでもそういった秘宝はあるのです。……ふふふ、わたくしがお父様に教えて差し上げるっていうのも面白い話です」

「俺も知らないことはあるさ」


 しかしなるほどな。リーリアがガーディアンを倒した時、不思議な力が働いていたと思っていたがそういう効果もあったのか。


「ただあなた達ではガーディアンを倒すのは難しいと思います。なのでアイテムを探した方がいいと思いますわ」


 三人娘はやる気に満ちた表情をしていた。

 もしかしたら脱落するかもと思われていた矢先の朗報だ。喜ばない訳が無かった。

 

「あ……ちなみにですけど。お父様の体液にも少しですがその効果がありますよ」


 セレアの一言にその場が凍り付く。


 え? 今なんて言った?


 シャロとジェラの瞳がギラリと光った気がした。


「いやあ……僕おかしいと思ってたんだよねぇ……正直僕たちとナルリースの差はそこまでないような気がしていたからさ~」

「そうだにゃ……なるほどにゃあ……ダンナの体液にそんな秘密があったにゃんてにゃあ……」


 瞳がさらにギラギラと光り出す。

 ゆっくり、ゆっくりと俺に近づいてくる二人。


「ちょ、ちょっと二人とも! ダメよ!」

「──ナルリースは黙ってるにゃ!」

「──僕にもよこせぇ~!!」


 止めようとするナルリースを振り切って俺に飛び掛かる二人。

 俺はそんな二人と軽くあしらいながらため息をつく。


「おいセレア! あまり変なことを言わないでくれ」

「ふふふ、でも本当の事ですわ」

「ナルリースは『セレアの種』の影響で魔素が拡大してるだけだろ?」

「さすがお父様! それもありますね」

「それもじゃない! それだけだ! ──ということだから二人とも! 真に受けるな!」


 ピンピンと二人にデコピンをする。

「ったぁ!」「いにゃぁぁ」と額を抑えてのたうち回る二人。

 

「そうよ二人とも! べ、別に私とベアルさんが夜イチャイチャしてるからって、つ、強くなったんじゃないんだからね?」

「……説得力ないし」

「これが既婚者の余裕ってやつにゃ」

        

 まあ何がともあれ三人娘の目標は決まった。

 俺もこいつらのことは家族だと思っているから見捨てるつもりはないしまだ時間はあるのだ。


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