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16、熱いバトル


 それからはリーリアと一緒に大海原の旅を楽しんだ。

 リヴァイアサンの進む速度は本当に速くて、次の日には着くとの事だった。


 うむ、これだけ快適なら食材とかも買いに頻繁にいけそうだな。そのためにも今回の買い物を無事に済ませる事。それが重要だ。

 食事の時間と寝る時間以外は基本ビジョンを使っていた。

 到着場所は港町から少し離れた海岸にすることにした。というのも町にリヴァイアサンが現われたら大変なことになるからだ。

 大パニックで買い物どころではないだろう。それほどまでにリヴァイアサンという魔獣は強大で船乗りからは恐れられている存在なのだ。



 そしてついに中央大陸。港町フォレストエッジの近くの海岸にたどり着いた。


「ありがとリヴァちゃん、約束どおり三日後にまたよろしくね!」

「うむ、楽しんでくるがよい」


 初めての町ということで二泊三日にすることにした。

 当初はすぐ帰る予定だったがビジョンの魔法が便利すぎて、これならもう少し滞在しても大丈夫だろうとの判断だ。


 ここから一時間も歩けばフォレストエッジに着くだろう。

 リーリアは早速歩き出した。

 

『うう、なんか知らない植物もあるし道も固いね』


 砂浜を抜けて街道に抜けるとそんな感想をもらした。


『これは街道といってな、人々が町から町へ移動している時に使っている道だ。道が人や馬、馬車などで踏み固まれているんだ』

『ふえー……あ、お父さん! あれは?』

『ああ、あれはな……』


 リーリアの好奇心は絶えない。

 そのすべてに丁寧に答える。町までの時間は退屈しないですみそうだ。



 

 その瞬間は突然訪れた。

 油断していた訳ではない。

 相手のスピードが速すぎただけだ。


 咄嗟に右に飛ぶリーリア。

 体勢が悪くそのまま転がる。そして衝撃が地面越しに伝わった。

 今までリーリアがいた場所には黒い獣がいた。

 目が赤く光り、全身の毛は逆立っている。


『リーリア!』

『うん!』


 転がったまま、たんっと手で地面を弾いて空中に飛ぶ。


「ウインド!」

「ストーンランス!」


 空中に浮かび、発動した石槍は一直線に黒い獣へと向かっていく。

 しかし稲妻のようにジグザグに進み狙いを定めさせない。

 そして跳躍。リーリアにせまる。


「ウォーターウォール!」


 目の前に水壁が出現する。

 だが黒い獣はかまわずその水壁に突撃する。


 瞬間。


 黒い獣は空高く飛ばされた。


 そしてリーリアは拳を突き出すように天に上げる。

 刹那、黒い獣は石槍につらぬかれた。



 ■



『お、お父さん……』


 リーリアの手足は震えていた。

 初めての実戦だ。怖くて当然だろう。


『これが実戦ってやつなんだね、なんだか……少し怖いって思った』

『そうだな……だがよくやったぞ』

『今までも魚魔獣や鳥魔獣なんかとも戦ったことあったけど、隣にはいつもお父さんがいた……私は安全な場所で戦ってたんだね』


 大きく「ふぅ」と何度も深呼吸をして落ち着かせる。


『私は少し浮かれてたかもしれない。いつ死んじゃってもおかしくないところにいるんだね』

『ああ、この魔物より強い魔物は沢山いる。油断は禁物だ』

『うん!』


 まさか俺も最初に出会う魔獣がここまで強いやつだとは思わなかった。

 この黒い魔獣は始めて見たが、一般的な魔獣の中でスピードは類を見ないほどだ。本当に無事でよかったと思う。


 しかし初戦闘という最初の関門は突破した。

 リーリアは硬直することなく、しっかりと反応し戦って見せた。突然の襲撃にもかかわらずだ。

 この辺の魔獣には負けないように育てたつもりだったが、実際の戦闘は訓練とは違う。なので初戦だけが不安だった。

 だがこれならもう大丈夫だろう。

 

 

 リーリアは倒した魔獣に近づき、そっと魔物の顔を覗いた。

 驚き、そして笑顔が咲いた。


『お父さん!! これ猫! 猫の魔獣!!! お父さんが絵に描いてくれたやつ! わー! 本物ってこんな感じなんだね!』


 うん。


 無邪気になれるのはリーリアの良いところだね。

 まあ趣味の絵が役に立ったようで嬉しいんだけどな。



『ところでお父さん、これどうする?』


 つんつんと倒れた魔物をつつく。

 うーん、毛皮とか売れそうだけど、どうしたものか。

 石のナイフを魔法で作成すれば剥ぐ事は可能だが、リーリアに獣を剥いだ経験はない。

 食べる選択肢もあるが、うーむ……そこまで無理して食べる事もないか。


『まあ、持っていっても邪魔になるから道の横にどけておくか』

『はーい』


 リーリアはいそいそと獣を草むらに隠した。


 そんな事をしていたら後方の方から何かの気配を感じた。

 俺とリーリアは緊張した面持ちで精神を研ぎ澄ます。


 すると微かに声が聞こえた。女の声か?


『お父さん……誰かくるね』

『そうだな、女のようだが』

『うん……どうしよう』


 知らない間にかなり近くまで接近されたようだ。

 魔獣を倒して油断していたとはいえ、相手もなかなかやり手のようだ。


『仕方ない、今更遠ざかっても遅いだろう。ここで待つ』

『大丈夫?』

『ああ、多分冒険者だろう』

『そんなことまで分かっちゃうんだ』

『ただの推測さ、とりあえず最初は様子見だ』

『うん、わかった』


 声のした方向を見てると怪しいので反対方向を向いておく。

 大人しく待っていると、気配がどんどん近づいてきた。

 そしてついに声がかかる。


「おーい! お前、大丈夫かにゃ?」


 リーリアは今気がつきましたという風に恐る恐る後ろを振り返る。

 すると陽気に手を振っている獣人族の女が見えた。

 褐色の健康的な肌に、露出の高い鎧。燃えるようなショートの赤い髪は元気の塊のようだ。


 獣人どころか他人を見たことがないリーリアはどうすればいいのかわからず固まってしまっていた。


「こらっ! そんな大声だしたからびっくりしちゃってるじゃない!」


 獣人女の肩を掴みながらそう言う女はどうやらエルフのようだ。

 絹のような白い肌に、金のさらさらとした髪。鎧の露出は高めだが、その控えめな体の線がエルフを象徴している。


「だってこのまま近づいても怖いだろうしにゃー……だったらさっさと声かけたほうがいいに決まってるにゃ」

「だからって声がでかすぎるのよ! 私は耳がいいんだからキーンってしちゃったじゃない!!」

「うっさいにゃあ……だったら綿でも詰めとけにゃ」

「はあ? あんたはその口にトマトでもぶちこんであげましょうか!?」

「トマトだけはやめるにゃ!!」


 なにやら言い争いをしてしまった。

 仲がいい……のか?


「はぁはぁ、二人とも速いよぉ……ってまた喧嘩してるのぉ? やめなよ小さな子の前でみっともない」

 

 間の抜けた声で遅れて登場したのは魔族だと思われる女性。

 ローブの上からも分かるほどスタイルは良く、セミロングで少しぼさぼさとしている青い髪は、のんびりとした声によく似合う。


「そうだったわ、ジェラと言い争いしてる場合じゃなかったわ」


 ふぅと一息つくとエルフの女がつかつかと足早にこちらに近づいてきた。


「こんにちは、あなた大丈夫だった? 実はBランク相当の魔獣がこっちに逃げてきたのだけれど……」

「うん、そこにいるよ」


 リーリアは草むらを指差した。

 予想しなかった返答なのか、三人は「えっ?」と指の方向に視線を向ける。

 だが草が邪魔をしてその姿は見えない。


 無言のまま代表してエルフの女が草をかきわける。

 そして──


「あっ! 本当にいたわ……でも死んでる」

「まじかにゃ!?」

「えぇ」


 獣人の女と魔族の女もそれを確認しにいった。

 

「本当だにゃ」

「見事に倒されてるねぇ」

 

 しばらく倒された魔獣を見ていた三人だったが、なにやら小声で、「この魔獣で間違いないわ」「シャロがしくじったからにゃ」「ああ、ごめんってばぁ」などと聞こえてきた。

 エルフの女はこちらに近づくと、やさしい笑みを浮かべ膝に手をつきこちらに目線を合わせてきた。


「ねえ、あなたこれを倒したのってあなた?」

 

『うむ、我が娘が倒したぞ』

『……お父さん?』


 ああ、そうだった。俺を見ていると錯覚しそうになるが、実際はリーリアを見ている。

 しかし近距離で見るエルフは美人だなあ。いい目の保養である。


 するとリーリアは、ハッとしてエルフの女性から距離を取った。


「にゃはは! 怖がられてにゃんの! にゃははははは!」

「えっ! ち、ちがうわよね???」


 大笑いの獣人と戸惑うエルフ。何故かニヤニヤしている魔族。


「あ……うん、これはちがくて……近くてびっくりしちゃって、ごめんなさい」


 ぺこリ


 リーリアは素直に謝った。

 

「い、いいのよ……私こそ急に近づいてごめんなさいね」


 戸惑いから立ち直り、そう言いながらも今度は距離を取っていた。


「でぇ~結局この魔獣を倒したのはキミなのぉ?」


 なんとなく気まずくなりそうな空気を察して話題を戻す魔族の女。

 すると真剣な顔になる面々。


「……うん」


 頷きながら一言。


「……こんな子供が信じられないにゃ」

「でも他に誰もいないし……そうだわ、ちょっと質問いいかしら?」


 どうやら疑われているらしい。

 まあその気持ちもわかるけどな。

 リーリアは年齢にしては強すぎる。

 育てたのは俺だけどな!


「うん、いいけど」


 リーリアは少し怖がっているようだ。

 それもそうだ。

 この三人は疑っている。この魔獣を倒したのがリーリアではない誰かだと思っている。


「この魔獣はナニ・・で倒したのかしら?」


 なるほどな。

 死体の状況から何で倒したのか推測したのか。


『言ってやれリーリア』

『わかった』


「ストーンランスでお腹をつらぬいたけど」


 その答えを聞いて驚く三人。

 そして笑顔がこぼれるが、すぐに申し訳なさそうな顔になった。


「疑ってごめんなさい。でも本当にあなたみたいな子供が"黒いかまいたち"を……」

「黒いかまいたち?」


 はてなマークを浮かべるリーリアにエルフの女は説明してくれた。


 "黒いかまいたち"はここから離れた場所に住む魔獣で、スピードがかなり速く倒すのが厄介な魔獣である。

 魔力や肉体の防御力は低いけれど、その稲妻のような速さで首を刈り取るその姿から、"黒いかまいたち"と呼ばれるようになったとか。


 すると様子を窺っていた獣人の女が、ずいっと前に出てきた。


「そうだにゃ! 実はあたしたちは冒険者で、その"黒いかまいたち"の討伐の依頼を受けてたにゃ! でもちょこっとしくじって逃がしてしまったところ、お前が倒したにゃ!」


 そう言ってリーリアの肩を叩く。


「しかし強いのにゃあ……本当に倒したのかにゃ? 実は見てただけだったりしないかにゃ? それでストーンランスで倒した事が分かったんじゃないのかにゃ?」

「ちょっとジェラ!!!」


 再び疑う獣人の女を咎めようとするエルフの女。

 これにはさすがのリーリアも少しムッとした。


「倒したよ。弱かったもん」

「ほぉ、そうかにゃ。でもその証拠がないにゃあ~」


 獣人の女と視線が交差する。バチバチって感じだな。


「あ~あ、まーたジェラの悪い癖がはじまっちゃったよぉ。しかも小さな女の子に絡んでさぁみっともない」

「お前が逃がした所為でこうなったにゃ!」

「あなたが言わないで頂戴よ……それにあおらないで止めてよ」


 間髪いれずに突っ込まれるが、どこ吹く風の魔族の女。

 

「よくわからないけど、あんな弱い魔獣を逃がしちゃうなんて今までよく生きてこれたね!」

「ほぉ……いうじゃにゃいか」


 獣人の女の空気が変わった。

 高まる魔力そして手に持つハルバードから伝わる強者の気配。


「ちょっとまってよ! ジェラ! 大人気ないわよ! ああもう!」


『リーリア。この女強いぞ』

『……うん、びりびり感じる』


 ジェラは後ろを向き歩き始めた。ある一定の距離が開いたところで、腰を深く落としハルバードを構える。

 リーリアも魔力を高めて備えた。


「ほう……やるようだにゃ。ちょっと実力を見てやろうじゃにゃいか。本当に倒したのかにゃ」


 その様子を見ていたエルフの女は、


「はあ……仕方ないわね。回復魔法は私が使えるから思う存分やってやってね。もちろんお互い死なない程度にね」


 そう言ってリーリアに向けてごめんねと手を合わせる。

 コクリと頷くリーリア。


「ところでお前、武器はないのかにゃ?」

「うん、もってないよ。あとリーリア」

「……武器なしで倒したのかにゃ!? なるほど……リーリアか、良い名前だにゃ」

「お父さんがつけてくれたから当然!」

「……ふっ、そうか、あたしはジェラにゃ」

「ジェラ」

「そうだにゃ! それが──お前を倒すにゃだ!!!」


 一足にて地を這うような低い体勢からの突きが襲ってくる。


 ──速い!


 最小限の動作でそれを避けると、バックステップで距離を取る。

 だがジェラはそれを許すまいと距離を縮め、今度は上段からの振り下ろし。

 

「ウインドシールド!」


 風圧で斧の軌道をずらした。

 そしてバランスを崩しているジェラの腹に手を当てる。


「ウォーターボール!!」


 ドォン!


 衝撃によってジェラは飛ばされた。

 その体は街道を転がり、弾き飛ばされて木に激突した。

 

「ストーンボール!」


 巨大な石球を作りそれを瞬時に細かく分散させる。

 

「ていっ!!!」


 手を振り下ろすと数百にも及ぶ石球が飛んでいく。

 

 ズガガガガガガッ!


 木をえぐり、崩れ落ちる。

 だが、そこに人型の何かが残った。


 ハルバードを構え、不動のまま立つ獣人。

 

「にゃははは! リーリア! お前強いにゃ! これなら魔獣を倒したのも頷けるにゃ!」

「もうやめるの?」

「まさかっ! これからが楽しくなるにゃ!!」


 魔力を高め斧を構えなおす。

 斧に魔力が伝わり赤く光る。


「ふっ!」


 消えたかと思うほど速い移動。

 だがリーリアにはその動きは見えている。

 

「ウォーターウォール!」

「ストーンランス!」


 ジェラの進路に水壁を設置した。

 黒い魔獣に使った戦法と同じだ。


 石槍はなんなくかわされるが想定済みだ。

 ジェラはそのまままっすぐ水壁に突進した。


「!!!」


 予想に反して水壁を通過し、リーリアに迫る。

 そして一薙ぎ。

 

「くっ!」


 咄嗟に後ろに跳んだが、腹部には一筋の赤い線が見える。

 ジェラはここが攻め時とさらに連続で斬撃を繰り出す。

 リーリアはその小さい体を左右に振り、紙一重でかわしていく。

 だがジェラも焦らない。

 斬撃のさなかでも蹴りなど不意をつく攻撃を随所にはさみ隙を与えない。


「くっ!」


 手をひねると先ほどの石槍が戻ってくる。

 だがそれはジェラの一連の連撃により壊された。

 しかしほんのわずか、熟練のもの同士だけがわかる一瞬の間ができる。

 リーリアの練っていた魔力を発動する。


「フレア!!」


 爆発。


 リーリアとジェラの間に爆発が襲う。

 互いに吹き飛ばされるが、ジェラの方がダメージが深刻だ。

 リーリアはウインドシールドで防いでいる。


「にゃ……火の上級までつかえるにゃんて!!!」


 タフなやつだ。

 ダメージを被いながらもまだまだいけるようだ。

 立ち上がり再び斧を構える。


「にゃはは! やはり普通にやっても当たらないにゃ! こうなったら奥の手にゃ!!」

「そうだね、そろそろ決着つけよ!」


 なんとなく分かった。

 ジェラは完全に楽しんでいた。

 リーリアもまた魔獣とは違ったドキドキを感じていた。


 ジェラの構えが変わる。振りかぶるように両手で斧を持つ。

 だがその魔力は尋常ではない。先ほどよりも赤く光る。

 リーリアもその魔力を感じとったのか魔力を高め備えた。


「いくにゃ……死ぬにゃよ! ────火炎大伐採!」


 その一振りは大地を揺るがす。

 いや、空気が震えてるのか。

 リーリアを衝撃波と炎が襲う。

 衝撃波を押さえる手は血しぶきが舞い、全身を炎が焼く。

 

「くぅぅぅううう!!!!!!」


 全身を走る痛みに泣きそうだが、歯を食いしばって耐える。

 

「はねかえせええぇぇぇぇぇ!!!」


 手から巨大な炎が生まれる。

 全てをのみこむような巨大な火炎球。

 だがまだ押し負ける。


「たあああああああああ!!!!!!」


 ゴゴゴゴゴォォォォオ!!


 火炎球五連発。

 それも巨大な火炎球を。

 技をも吸収し、すさまじい熱量となりジェラへと跳ね返っていく。


「にゃ!!!」


 ジェラはその膨大な熱量の火炎球を斧で受け止めようとした。

 だが──


「にぎゃああああああ!!!!!」


 ゴオォォォォッォ!!!!


 防ぎきれずジェラは炎に飲み込まれてしまった。



 

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