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153、サリサの友達



 九星剣の威力は凄まじいものがあった。

 モンスターとの戦いでは相手の武器を粉砕し、鎧を紙切れのように切り裂いた。

 そのためリビングアーマーのような敵は相手にならず、まともにやり合えそうなのはスピードを売りにしている獣のモンスターだけだったが、それさえもリーリアの速度には追いつけない。

 俺も九星剣を扱うことができるが辞退した。剣の技量は初級程度だしリーリアが扱えばその力を何倍にも引き出せるからだ。

 例えば剣の初級技スラッシュでもパワースラッシュ並みの威力となるし、オーラブレードを使用して薙ぎ払おうものならSランクモンスターでさえ一網打尽できるのだ。


 実際にリーリアに敵はいなかった。

 剣の腕ももちろんだが魔力、力、速度、すべてにおいて一段階上へと上がっていた。Sランクモンスター3体を一人で相手にしたのだが、的確な読みに無駄のない動きであっという間に3体の急所を突き倒してみせた。


「うむむ……これはやばいかもしれん」


 レヴィアも思わず額から汗を流すほどにリーリアの動きは洗練されていた。

 もはや3階層は楽勝ムードになり怒涛の勢いで攻略していく。そして4階層への階層魔法陣と帰還魔法陣の部屋へと辿り着いた。


(そろそろいい時間か……)


 日の光が届かない場所なので正確な時間は分からないが、冒険者は時間を感覚である程度計ることができる。

 俺の体内時計が示す時間は夕刻となっていた。


「今日は帰るぞ」

「それがいいわね」


 すぐ賛同したのはサリサだった。

 もともと本格的に攻略しにきたわけではなく、親睦を深めるために入ったのだ。

 それが予想以上に順調だったのでここまできたのであって帰るには十分な結果だった。

 皆も同じことを思っていたようで帰還することに賛成する。

 これからは毎日通うことになるから無理をすることもないのだと。




 帰還するとまずは鑑定屋に向かった。

 サリサが贔屓にいている店があるというので紹介してもらうことになった。鑑定は信頼が第一であるためこの申し出は助かった。新たに信頼できる店を探すとなると時間がかかる。今はその時間さえも惜しい。

 店に入るとそこは質素な部屋だった。

 カウンターの奥に一人、眼鏡の女が座っている。


「いらっしゃ──あらっサリサさまじゃないですか! また何か良い物でもゲットしたのですか? すごく嬉しそうですね」


 サリサの顔を見た眼鏡の女店主は嬉しそうに顔を緩める。そこには魔王として畏敬の念というよりは敬愛といった感じの表情だった。


「ふふ、そうなの! わかる?」

「ええ、そんなに嬉しそうなサリサ様は久しぶりです」

「そうかしら? っとまずは仲間を紹介していいかしら?」

「あっ気がつかずにすみません! 私は鑑定士のクララと申します」


 立ち上がりぺこりと挨拶するクララ。


「では順に紹介するわね、まずは──」


 仲間を順に紹介していき最後に俺の番となった。


「こちらが私の夫となったベアルよ」

「夫のベアルだよろしく」

「わわわわわ……あ、あなたが!!」


 クララはわなわなと震えていた。

 そしてカウンターから身を乗り出して俺の手を握った。


「サリサ様をよろしくお願いします!!」


 そう言いながら頭を下げた。

 俺はいきなりの事で正直戸惑ったがそれを表面には出さず、「ああ、任せろ」と答えた。

 クララは安心したように顔を上げると、その瞳からは涙がこぼれていた。

 どうやらサリサとクララは深い絆で結ばれた仲であるようだ。


「ちょっとクララ……恥ずかしいじゃない」


 そういうサリサの瞳にも涙が浮かぶ。


「だって……サリサ様……これで戦争だって……」

「馬鹿っ! それは言わない約束でしょ」

「……う……でも」

「いいの……私は魔王でもあるのだから」


 二人の間に一瞬沈黙が流れた。

 俺はその間をぬって割り込むことにした。


「近々戦争があるんだってことは聞いた。北の魔王とその軍勢は強いのか?」


 サリサはバツが悪そうに頬をかきながら視線を落とす。


「そうね……でもあなた達は気にしないでいいわ。これは魔王である私とこの国の問題なんだから。それにカオスのほうが大事でしょ。今はどちらにしろダンジョンに潜って鍛えるしかないんだからね」

「いや、しかし──」

「いいの! クララ! この腕輪を鑑定してもらえるかしら?」


 この話は終わりとばかりに鑑定品の腕輪をクララに差し出した。

 クララも気まずそうに腕輪を鑑定しだした。


「はい……えっと……大きい宝石が一つですか……しかもこの色は……」


 独り言を言いながらまずは腕輪全体を見渡している。


「ではいきます! 『鑑定』──ってなっ、なんですかこれ! これはどこで手に入れたんですか!?」

「2階層よ」

「なるほど……さすがです! ちなみにこれ……売ると1億ゴールドくらいになりそうです」

「本当!? すごいじゃない!」

「で、効果はどうなってるんだ?」


 クララはごくりと生唾を飲むとずれ落ちそうになった眼鏡を直しながら言った。

 

「風魔法強化+500です」

「ほう!」

「そ、それは……すごいのかしら?」


 俺たちはいまいちピンとこなかった。

 500というのはアクセサリーでは聞いたことのない数字だったが魔法強化がいかほどのものかよくわからなかった。


「魔法強化は鑑定したことあるのですが500という数値は初めてです。ただ魔力の少ない冒険者には重宝される品ですね」


 どうやら俺にはあまり関係のない品のようだった。

 ナルリースやシャロあたりがつけたら効果があるのだろうか?

 どちらにしろ明日試してみるのがいいだろう。


「とりあえず使ってみることにする。鑑定助かった」


 鑑定料を支払うと俺たちは宿に向かうことにした。

 店を出る際、クララから手招きされたので近寄る。


「あの……サリサ様は本当にあなたに会えることをずっと夢見ていたんです。なのでその……」


 最後の言葉がなんていえばいいのか分からないようだったが、意志は十分に伝わった。

 俺はクララの頭にポンっと手を置いた。


「サリサのことは任せろ。絶対幸せにするから」

「あ……はい!」


 クララは満面の笑みとなり、「ありがとうございます」と深々とお辞儀をした。




 今日からは施設内の宿にお世話になることにした。

 サリサが泊まっていた宿で一部屋1万ゴールドと大変にお高いが、アクセサリーが一個でもでればおつりがくる。そもそも俺たちはお金には困っていなかった。

 しかし今、俺たちは大変な問題に直面していた。


 ──誰が俺と一緒の部屋で寝るか……である。


「今日一日親睦を深めたとはいえ私はまだあなた達とそこまで仲がいいわけではないからベアルと一緒でいいわ」


 こう主張するのはサリサだ。

 もちろんこれには反対するものがいる。


「何を言っておる! おぬしは一人で泊まればよかろう! 今日はローテーションで我と寝る日って決まっておるのだ!!」


 レヴィアが何を言ってるんだと反論した。

 確かに今日はレヴィアと一緒に寝る日であった。

 これは揉めないように取り決めていた事だった。


「じゃあ私が今日でレヴィアが明日でいいじゃない! 私だって妻となるんだしその権利はあるはずよ!」

「だが我は今日を楽しみにしてたのだ! そんなこと言うならおぬしが明日でいいだろう!!」

「私はずっとベアルの事を待っていたのよ! 昨日だって本当は一緒に寝たかったのに!」

「でも順番は順番なのだ! 今日は譲れん!」

「なによ!」

「なんなのだ!」


 どうやら話し合いでは決まりそうにないようだ。

 レヴィアとサリサの間には既に険悪なモードが漂っている。

 二人を止めようとに出ようとしたが、その前にリーリアが割って入った。


「ケンカはダメ! ちゃんと話し合いで決めて! もしできないって言うなら今日は私がお父さんと一緒に寝ます!」

「ぬっ! ズルいぞリーリア!」

「えっ! リーリアちゃんも一緒に寝てるの!?」

「うん、寝てるよ? お父さんもそれでいい?」

「そうだな。今日はリーリアと寝よう。二人は明日までにどうするか決めてくれ」


 二人ともグヌヌと何かを言いたげにしてるが、互いに明日は譲れんと思ったのかズカズカと宿を出て行った。

 ……きっと街の外でバトルをするに違いない。結果は起きてからのお楽しみというやつだ。

 まあ、正直疲れていたから助かった。 

 リーリアとなら余計なことはせずにぐっすりと寝られる。


「お父さんも今日はいろいろあって疲れたもんね」

「……お前というやつは」


 リーリアは俺に気を使ってくれたようだ。

 俺は少し乱暴にリーリアの頭を撫でた。


「俺は大丈夫だよ」

「うん……そっか。ならいいの!」


 強がって見せたがリーリアにはばれているだろう。本当にリーリアには敵わないな。

 その日はリーリアに抱きつかれながら泥のように眠った。

 そして翌朝。


 何故か肩を組んで宿屋のロビーで会話をしている二人がいた。レヴィアとサリサだ。

 どうやら二人とも上機嫌のようで互いの事を褒め称えていた。

 

「いやぁ~レヴィアの消滅の魔力には驚かされたわ!」

「なに、おぬしの必殺には正直度肝を抜かされたぞ!」

「でも結局上手く凌がれちゃったじゃないの」

「我に消滅を使わせたのはベアル以外ではおぬしが始めてたぞ!」

「あらそうなの?」

「うむ! こんなに心躍ったのは久しぶりだ!」

「うふふ! 嬉しいこといってくれるじゃない」


 互いにライバルと認め合ったことで仲良くなったようだ。

 徹夜のテンションと言えなくもないが。


「おお、ベアルよ! 今日は二人で一緒におぬしと寝ようと思うぞ!」

「そうね! そういうのもありかもって思わされたわ!」


 ……体力は十分に保存しておいた方がよさそうである。



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