148、3人娘の力
「わあ! ここがSSS級ダンジョンなんだね! 素敵だね!」
ダンジョンの内装を見たリーリアが感嘆の声を上げる。
俺たちが最初に行った初心者ダンジョンとは比べ物にならないほど華やかで明るい。まさしくSSS級ダンジョンといった感じだ。
「ふふふ、すごいでしょ? このダンジョンは修行に役立つだけでなく、宝箱からとれるアクセサリーはどれもすごい効能を秘めているのよ!」
自慢げにそう言い放つのはサリサだ。
実際にここから得られる資金はかなり豊富である。
SSS級ダンジョン産のアクセサリーはどれも能力値が高い。このアクセサリーをもとめてやってくる冒険者は数知れず、ダンジョンに潜れないものはお金をためて買っていくのだ。
それ以外にもどこぞの資産家が見た目の美しさから買い求めることもあり、その多くは貴重な国の資金となっている。
「このダンジョンとこの辺の土地が豊かであるからこそ戦争が起こるんだけどな」
「……もう、せっかく明るい話にしようと思っていたのに!」
「リーリアは頭のいい子だから、しっかりとした知識を教えてあげたいんだよ」
サリサは唇を尖らせる。
「まあそんなことはいいではないか! 我は早く戦いたいぞ!」
「レヴィアは血の気が多いのね」
「それが生き甲斐であるからな」
「ふふ、存分に楽しめると思うわよ」
「それは楽しみだ!」
「──さあ、そろそろ陣形の確認をしようか」
俺の一声によって視線が集まる。
サリサが加わったことにより新しく陣形を考えなければいけない。
1階は強い敵がいないため、この階でいろいろと試すのもいいだろう。
とりあえずオーソドックスな陣形を考えた。
「アナスタシアが盾役の前衛だ。アタッカーはレヴィアとジェラ。中衛にリーリアとサリサ。後衛がナルリースとシャロだ。特にサリサはこのパーティーには慣れていないから最初は皆の戦いを見ながら動いてくれ」
「わかったわ」
ちなみに俺は基本戦わないで指示を行う。
本当に危険な時のみ動く予定だ。
セレアも戦えないので俺と見ているだけである。
「ではいくぞ」
─
ぶっちゃけ1階は余裕だった。
サンダードラゴンやオークキングなどの敵がでたものの、俺たちの敵ではなかった。
そもそもがソロの力で倒せるような敵ばかりなので出現したとたんに誰かが一撃で葬る。
それでは練習にならんと俺がいうとしぶしぶ攻撃を受け流したりして連携を組もうとするが、アナスタシアの力ですべての攻撃を防いでしまうために、ただただ戦闘が長引くだけであった。
「……本当に強いわねこの子達」
「だろ?」
もはやサリサもすることがなく、アナスタシア、レヴィア、ジェラ、リーリアの誰が倒すか争奪戦を只々見ているだけであった。
「特にレヴィアとリーリア……あとはちょっと癪だけど勇者が強いわね」
「わかるのか?」
「わかるわよ! この子達がいればこのダンジョンを攻略できるんじゃないかしら……もちろんあなたもね」
「当然するさ。そのためにここにきたからな」
「あの……ベアルさん」
俺たちの会話に割って入ってきたのはナルリースだ。
「どうした?」
「次の敵は私とジェラとシャロでやらせてくれませんか?」
なるほど。
確かに今のままでは3人娘の実力を試せない。
今後のために戦ってみるのも悪くない。
「そうだな。やってみるか!」
「ありがとうございます!」
嬉しそうにシャロの元へと戻っていくナルリース。
「大丈夫なの?」
「あの3人か?」
「ええ……Aランク冒険者よね? 3人だけだと下手すると死んでしまうのではないかしら」
「あいつらならここのモンスターは大丈夫だ」
「……そう、あなたがいうのならいいのだけど……」
サリサの眼には3人娘は格下に見えるだろう。
だがあいつらのよいところは連携の良さだ。
それはSランク冒険者にも引けを取らないと俺は思っている。
丁度いい機会だし、格上の相手とやるのもいいのかもしれない。
俺たちは部屋をどんどん移動する。
そしてついにモンスターが現れた。
「リビングアーマーだにゃ!? しかも白金にゃ!!」
ジェラが叫ぶ。
白金はリビングアーマーで2番目に強いやつだ。
俺が前に戦った金色とは一線を画す。
「ベアル! これは一旦皆でやるべきよ!」
サリサが鞭を取り出し臨戦態勢を取る。
だがそれを俺が手で制した。
「まて、大丈夫だ。見てろ」
「でも──」
「ジェラはとりあえず引き付けて! シャロはフォロー! 私は沼を作るわ!」
「了解!」「わかったにゃ!」
俺達がもめている間にナルリースが指示を出す。
ジェラがハルバードを構えてリビングアーマーに飛び込んだ。
ガキンッ!
リビングアーマーの剣とハルバードが交差する。
だがそれもつかの間、流れるようなさばきと速度でリビングアーマーの剣がジェラを追い詰めていく。
「石球よ! いっちゃえぇぇ!!」
ジェラが戦っている間に作り出した数十個のストーンボールがリビングアーマーを襲う。
シャロの掛け声と共に大きく後退したジェラは服を脱ぎ捨てると獣人化した。
ストーンボールはリビングアーマーに致命的なダメージは与えられなかったがジェラが獣人化する時間を稼ぐことができた。
再び立ち向かっていくジェラのスピードはリビングアーマーと互角になっていた。
だがスピードは同じでも防御力は格段にリビングアーマーが勝っていた。
強力な一撃を放つが致命傷にはならず、そのスキをついて攻撃されるために必殺技を放つことができない。
シャロも魔法で応戦するがそもそも白金リビングアーマーには魔法が効きにくい。その時点でシャロには足止め程度しかできなかった。
「こっちきて!!!」
ナルリースが突然叫ぶ。
するとナルリースの周りには見たこともないようなドロドロの沼が出来上がっていた。
それは赤く煮えたぎっていて足を踏み入れた途端に溶けてしまいそうなほど高熱の沼だった。
「あれは溶岩ね!」
「なるほど、考えたな」
俺もサリサも感心する。
ナルリースが叫んだの同時にシャロが巨大なストーンウォールをジェラとリビングアーマーの間に出現させる。
リビングアーマーが破壊している間にシャロはジェラを抱えてナルリースの元へと飛んで逃げた。
リビングアーマーが走る。
溶岩に足を踏み入れ鎧ごと燃え上がるが構わずに走り抜けようとしていた。
「シャロ!!!」
「ほいさ! ウォーターボール!!!」
巨大な水球がリビングアーマーに直撃する。
だがその程度ではリビングアーマーは……止まった。
正確には溶岩が固まり一瞬足を取られて動けなくなった。
その瞬間を見逃すジェラではなかった。
「はあああぁぁぁぁぁ!!!! 火炎代伐採スペシャルにゃああぁぁぁぁぁ!!!!」
大きく振りかざしたハルバードがリビングアーマーの脳天を直撃した。
すると大きな音を立て顔の部分が吹き飛んだ。
しかしまだリビングアーマーは倒れない。
剣をジェラに向けて切りつける。
シュッ!
そこには既に誰もいなかった。
ジェラもバカではない。
倒しきれなかった時点で引いていたのだ。
「美味しい所は任せるにゃ!」
ジェラはリビングアーマーの頭上を見ている。
そこには飛んでいるナルリースがいた。
「外は硬くても中はどうかしら!! エクスプロージョン!!!」
リビングアーマーの首が吹き飛んだ部分には大きな穴が開いていた。
ナルリースはそこから内部にエクスプロージョンを放り込む。
すると今までの硬さが嘘のように粉々に吹き飛ぶのであった。
「やったわね!」
「いえ~い」
「ばっちりにゃ!」
互いにピースをして笑いあう3人娘。
「……なるほどね。確かにこれならなんとかなりそうね」
「だろ?」
サリサもこの戦いっぷりをみて異論はないようだ。
かくいう俺も内心ドキドキしていたためホッとしたのであった。




