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147、サリサと話そう



 その場で過去のことやサリサの現状を詳しく説明した。

 途中アナスタシアは大粒の涙を流しながら、「そんな過去があったんだな」と言って泣いていた。

 リーリアは黙って聞いていたが、途中俺が辛そうに話していたら手をつないでくれた。

 全部話終わるとリーリアが、「お父さんかがんで」と言った。

 疑問が浮かんだが指示通りにすると、リーリアが俺の頭ごとギュッと包み込むように抱きしめた。


「そっか……自分が原因だと思っちゃったんだね……今まで辛かったね、苦しかったね、でも心配しなくて大丈夫だからね。私はお父さんの味方だよ? 今までお父さんが頑張ってきたことも知ってるし、レヴィアやナルリースに対しても真剣に悩んで結婚したことも知ってる。だから安心していいからね」


 俺に言葉はなかった。

 温かい胸に抱かれて、気がつくと涙を流していた。

 ああ、俺はこの言葉を待っていたのか。

 リーリアに肯定されたことで心の傷が熱を帯びたように熱くなり、それが温かさとなって体に溶け込んでいく。

 俺はこの時、真の意味での封印が解かれたのだった。





「リーリア……ありがとう」


 すっかりと元気を取り戻した俺はリーリアの頭を撫でて言った。

 リーリアは、「どういたしまして」と笑う。

 ……本当に愛おしい娘である。

 この子だけは何がっても絶対に守ろう。

 俺は改めてそう決意した。


「はあ……私には付け入るスキがなかったぞ。ところでこれからどうするんだ?」


 後ろから声をかけられてビックリしたが、そういえばアナスタシアの存在を忘れていた。

 すっかり情けない姿を見られてしまったな。

 

「腹をくくった。すべてを皆に話し、サリサにもすべてを告げよう。それでもし激昂されたら仕方がない。魔族大陸にまだダンジョンはあるし、ドラゴン大陸にもSSS級ダンジョンがあるというのを聞いたことがあるからそこにいくのもいい。とにかくもうくよくよするのは無しだ」

「ふふふ、いい目をするようになったな……いや、先ほどは活を入れるために殴ってやろうかと思ったがその必要はなくなったな」

「ああ、もう大丈夫だ」

「それでこそベアルだ」


 


 宿に戻り、すぐに皆を一か所に集めた。

 そして過去の事やサリサのことを話す。

  

「────という訳なんだ。明日サリサにもすべてを話そうと思っている」


 今度はなよなよせずにはきはきと語ったせいか、皆に反対意見もなくその場は収まった。

 俺が思っている以上に俺に対しての評価は下がらなかったようだった。

 話し合いが終わった後、レヴィアにそれとなく聞いてみたが、「別におぬしのことだから遊びまわっていたんだろうとは思っておった。唯一可哀そうなのはファミルというやつだがおぬしが気に病むことではない」と言い切った。

 今度はナルリースに改めて聞いてみたが、「そうですね……まあベアルさんの女好きはよく分かりましたから何も言いません。ただ、サリサさんも可哀そうだとは思います。私としては……複雑なんですけどね」と苦笑いをした。

 


 次の日、俺は全員を引き連れてサリサの待つ入口へと向かう。

 一人で行こうと思ったがそれは却下された。

 全員がサリサに興味を持っていたし、単純に一人で行かせるのが不安だったのだろう。

 それに実際にその姿を見せることにより説得力も増す。

 全員で行かない手はなかった。


 サリサの待つ入口へと辿り着く。

 すでにサリサはしかめっ面になっていて、全員の顔を見渡していた。

 俺は一歩前に踏み出す。


「待たせたな」

「どういうことよ」

「実は俺の仲間は二人だけじゃなかったんだ」

「そうみたいね!! しかも全員女じゃない!!!」

「それは偶然だ」

「そんなわけないでしょ!!!」


 いや、確かにリーリアのこともあって男は嫌だなと思っていた。だから必然的に女だらけになったというのは認めるしかない。

 まあそんなことを言っても仕方ないので言葉は飲み込んだ。


「今日はお前に話があってきたんだ」

「……話? ダンジョンの許可が欲しいってやつ?」

「違う……いや、それは欲しいが、今日はその話ではない」

「……わかったわ。聞こうじゃない」


 俺たちは場所を移した。

 サリサの泊っている宿だ。

 魔王ということもあり、一人なのにとても豪華な部屋だった。

 全員が入っても空間に余裕があった。


「ふう~ん……改めてじっくり見ると皆さんかわいい子ばかりね」

「まあな」

「……正直じゃない」

「事実だからしょうがない」

「……ふぅん」

「なんか含みがある言い方だな」

「別に何でもないわよ」

 

 丸いテーブルを囲いながら会話をしている。

 椅子は4つしかないので座っているのは俺、サリサ、ナルリース、レヴィアだ。

 リーリアとアナスタシアはベッドの上に、ジェラとシャロは部屋の扉の前に立っている。セレアは端っこの方で微笑んでいる。


「それで……話って何?」

「俺がどういう風にこの300年間生きてきたのか、どうやってこの仲間と出会ったのか聞いてほしいんだ」

「それは是非聞きたいわ」


 俺は魔王となってからどうなったのか、島に封印されてどういう生活をしていたのか、リーリアが島に流れ着いてからのことを事細かく話した。

 サリサは真剣に聞いていた。

 そして話題は化物カオスのこととなり、俺たちがなぜ旅をしているのかを語る。

 サリサは驚いていた。そしてカオスの事について詳しく聞いてきた。

 俺はカオスの恐ろしさ、カオスから産まれたエルサリオス、オルトロス、ケツァルについても話した。

 魔獣が人を喰らうことで人魔獣となってしまうことも。

 サリサは俺の話をすべて信じてくれたようだった。


「それで10か月後に封印が解けるカオスを倒すために特訓をしようというのね」

「ああ」

「でも一つ気になることがあるわ……あなたってそんなに正義感溢れる人だったかしら? どっちかというと強い相手と戦いたいから戦うって感じだったわよね」

「ああ……それはだな」


 まだ結婚のことについては伝えていなかった。

 俺がカオスと戦う動機として話さなくてはいけないことだ。

 

「実は俺、この二人と結婚しているんだ」

 

 室内は沈黙で支配される。

 サリサの顔が心なしか引きつっている。

 

「えっとごめんなさい……今なんて言ったのかしら? ちょっと意味が分からなかったのでもう一度言ってくれないかしら」


 サリサのこめかみがピクピクと動いていて、体からじわりじわり魔力があふれ出して部屋中に広がった。シャロはガクガクと震えてジェラに抱きついていた。


「俺はレヴィアとナルリース、二人と結婚をしているし愛している」


 サリサはギギギと音が鳴りそうなほどゆっくりとリーリアの方を向いた。

 リーリアはこくりと頷く。

 

「……へえ……聞き間違いじゃなかったんだ。結婚しちゃってたんだ…………まあそうよね……世界を救うために戦っているんだもの……恋愛だって普通にしちゃうわよね……私はベアルの大変な時に近くにいなかったのだから仕方ないわよね」


 大粒の涙を流すサリサは今にも崩れてしまいそうだった。

 

「……ダンジョンに入る許可は出しておくわ。私はもう南デルパシロ王国に帰ることにするわ……カオスを倒す手伝いができなくてごめんなさいね」


 サリサはそう言うと部屋から出るためにドアへと向かう。

 その足取りは危なっかしくふらふらとしていた。

 当然ながら俺はそんなサリサを帰すつもりはない。


「待て! 話はまだ終わってない!」

「何よ! もう私は何も聞きたくないわ!」

「俺はお前も妻にしたいと思っているんだ!」

「……へ?」


 振り返ったサリサはきょとんとしていた。

 俺の隣に座っているレヴィアとナルリースも驚いている。

 このことは事前に何も言ってなかった。

 ていうか今決めた。

 ダンジョンに入れるという目的は達成したが、昔愛した女が泣いているのを見てこのまま帰すなんてことはできなかった。

 皆、すまない。自分勝手な俺を許してほしい。

 

「とりあえず一旦座って話そう」

「うん……」


 サリサはこくりと頷くとそろそろと席に戻った。

 それを確認すると俺は口を開いた。

 そもそも他人に興味のない俺がここまでになった理由。

 それはリーリアの存在に他ならない。

 俺がリーリアにどれだけ救われたのかと熱弁する。

 あまりに熱く語りすぎて、最終的にはサリサの表情があきれ顔になっていた。


「俺は愛する者たちのためにこの世界を守りたいんだ。リーリアは当然のこと、俺の子供たちが平和に遊んでいるの未来を見たいと思っている」

「もうわかったわよ……本当にあなたは変わったわね。それもこれも全部リーリアちゃんのおかげってことね」

「そういうことだ」

「ちょっと悔しいって思ってしまうわね」

「なんだよそれ」

「本当に愛されてるんだなってわかるもの」

「当然だ」

「ふふ、あなたにとってリーリアちゃんがどれほど大切な存在かわかったわ」


 そういうと立ち上がりリーリアの方へと向かう。

 

「リーリアちゃん……私とも仲良くしてくれる?」

「うん! 私もサリサさんと仲良くしたい!」

「うぅ……可愛い!!」


 サリサはリーリアを抱きしめる。

 リーリアもまんざらでもなく嬉しそうにしていた。


「おい……リーリアは私の妹だぞ! あまりくっつくな!」

「……あなたとは仲良くできそうにないわね」

「私もそう思っていたところだ」


 サリサとアナスタシアは視線を交わしバチバチとやりあっていた。


「ふう、まあいいわ。そ、それより話の続きなのだけど……」


 席に戻ってくるともじもじと体を震わせながら何やら言いにくそうに口ごもっていた。


「トイレか?」

「違うわよ失礼ね!! 私を妻にしてくれるって言ってたでしょ!!!」

「くっくっく、わるい、冗談だ」

「もうっ!!!」


 こんなやり取りも久しぶりだ。

 サリサは何も変わっていなかった。気のいい性格もそのままだ。

 むしろ昔の感情が蘇り愛おしいと思い始めていた。

 だが問題はそこではなかった。

 サリサもそれを感じているらしく、レヴィアとナルリースのほうをちらちらと様子を窺っていた。


「あなたたちは大丈夫なの? 私とベアルが結婚することに関して」


 サリサはこういう時は物怖じしないで、聞かなければならないと思った時は素直に聞く。

 最初に口を開いたのはレヴィアだった。


「我は今の環境に満足しておる。あとは子供が出来ればいうことなしなのだが」


 レヴィアはそう言うとちらりと俺を見る。

 ……頑張ってはいるがいかんせん魔族は子供ができにくい。

 人間はすぐにできるというのを聞いたことがあるが、それは寿命が短いからだ。

 魔族は数百年と生きる。なので自然の流れとしてそうなったのだろう。

 

「ふうん……そうなのね……ではあなたはどうなのかしら?」


 今度はナルリースの方を見て問いかける。

  

「私は……気持ちの整理ができてません」

「ではダメ……なのかしら?」

「いえ……そういうことではないのです。サリサさんの気持ちも分かりますし、ベアルさんが妻にしたいという気持ちも分かります。ただ、まだ心が追いつかなくて……」

「そう……そうよね」


 サリサは一旦視線を下すと考えていた。

 数秒の後、顔を上げるとこう言った。


「それじゃあ今から皆でダンジョン攻略をしましょう!」

 

 


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